【日時】2023.12.9.(土) 19:00〜
【会場】サントリーホール
【出演】スタニスラフ・ブーニン(Pf.)
【曲目】
《第Ⅰ部》
①ショパン : ノックターン 第5番 嬰へ長調 作品15-2
②ショパン :ポロネーズ 第1番 嬰ハ短調 作品 26-1
(曲について)
ノクターン (夜想曲)は、アイルランドのピアニスト・作曲家ジョン・フィ ルドが創始したカテゴリー。静かな伴奏の上に叙情的な旋律が重ねられていく の音楽であるが、フレデリック・ショパン (1810~1849) はその情感を自ら 創作に採り入れ、比類ない芸術的高みに結実する21曲を遺した。作品15は3曲で括られており、第2曲は1832年に書かれた。パリでの生活基 が確立しつつあった翌年に出版され、ショパンの弟子F.ヒラーに献呈された。 ヘ長調、ラルゲットでみずみずしく、清冽な抒情が湛えられている。
一方、ポロネーズ1 番は、既にワルシャワ時代からポロネーズを手がけてきている作者がはじめて公表した形式作品であり、ポロネーズの舞踊性は失われているものの、後年の英雄ポロネーズ・幻想ポロネーズに比べると序奏や終止がなく、漠然とした形であるが、中間部の美しい二重奏など作曲技法の発達が著しい曲となっている。
③ショパン プレリュード 第15番 変ニ長調 作品28-15 「雨だれ」
この曲は、余りにも有名で、ショパンが、ジョルジュ・サンドの家族ともども、マジョルカ島に保養に行った時、雨が降っている憂鬱な気分(これは自分の体調に依るものが多分大であったかもしれない)を、表現したとされます。
④ショパン 3つのマズルカ 作品50-1~3
⑤ショパン ポロネーズ 第7番 変イ長調 作品61 「幻想」
《20分の休憩》
《第Ⅱ部》
⑥シューマン 色とりどりの小品 作品 99より
(当日出演者が以下の14曲から8~10曲を選定し演奏します。)
第1曲3つの小品 その1 急速でなく、親しみをもって
第2曲3つの小品その2 きわめて急速に
第3曲3つの小品 その3 新鮮に
第4曲5つの音楽帳 その1 かなりゆるやかに
第5曲5つの音楽帳 その2 急速に
第6曲5つの音楽帳 その3 かなりゆるやかに
第7曲5つの音楽帳 その4 きわめてゆるやかに
第8曲5つの音楽帳 その5 ゆるやかに
第9曲ノヴェレッテ生き生きと
第10曲前奏曲 精力的に
第11曲行進曲 きわめて持続的に
第12曲夕べの音楽 メヌエットのテンポで
第13曲 スケルツォ 生き生きと
第14曲速い行進曲 きわめてはっきりと
⑦メンデルスゾーン:無言歌集 第1巻より「甘い思い出」作品19-1
【演奏の模様】
今日のブーニンの演奏は、去る12/7(日)の川口市リリア・ホールでのリサイタルと、プログラム曲からアンコール曲まで全く同じで、演奏の模様も九分九厘同じと言っても良いでしょう。敢えて言えば、さらに力強さが増えたと思われます。これら沢山の演奏曲を、かくも判で押した様に安定的に、同じく弾けるものです。これも才能の一つなのでしょう。従って、文末に、リリアでの【演奏の模様】を抜粋再掲しておきました。
最後のアンコール曲を弾き終わると、会場からは大きな拍手と、正面上段からはブラボーの声も飛びました。
この演奏会ツアーは1月始めまで続き、次回以降は次のニ公演を残すのみとなりました。
<山口公演>
日程:2023年12月23日(土)
会場:宇部市渡辺翁記念会館
お問合せ: 宇部市文化創造財団 0836-35-3355
<大阪公演>
日程:2024年1月8日(月・祝)
会場:ザ・シンフォニーホール
お問合せ:ABC インフォメーション 06-6453-6000
//////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////2023.12.3.(日)HUKKATS Roc.スタニスラフ・ブーニンリサイタル(at リリアホール)(抜粋再掲)
【演奏の模様】
注目の演奏は、ショパンから。
①ショパン ノクターン 第5番 嬰へ長調 作品15-2
②ショパン ポロネーズ 第1番 嬰ハ短調 作品 26-1
③ショパン プレリュード 第15番 変ニ長調 作品28-15 「雨だれ」
以上三曲は、ショパンの代名詞みたいな有名曲で、ブーニンはある時はしなやかに、ある箇所では力を籠めて弾いていました。
①は、かなりスローな演奏でしたが、②では、テンポの速い箇所ともども音は明るく、しっかりとした打鍵で、③の単調リズムの強弱のコントロールも良く表現されていました。
④ショパン 3つのマズルカ 作品50-1~3
ブーニンは、再開コンサート以来、マズルカを好んで演奏してきており、想像するに、おそらくマズルカのリズムの変化に富んだ表現が気に入っているのでしょう。リズミカルなパッセッジを弾いた後、反発で右腕と手を上に挙げる仕草(これをブーニンrepulsionと呼んて良いかも知れない)、癖なのでしょうが、それにより拍子を取っているのでしょう、見ていても小気味いい。
⑤ショパン ポロネーズ 第7番 変イ長調 作品61 「幻想」
随分と力演でした。あーここまで、回復してきたのだなと、再開コンサートでは見られなかった力強さが、頼もしく感じました。
⑥シューマン 色とりどりの小品 作品 99より
これらの曲は、再開コンサート以来お馴染みの曲達で、若い時から親しんできた曲だそうです。家でも自分が音楽の心に触れたい時弾いていた模様。
確かにシューマンは素晴らしくロマンティックな曲も有り、力強い大曲もありますが、悩みが尽きない憂鬱な心の影を反映する曲も多いのです。シューマン自体色々悩みがつきない人生だったのでしょうから。それだけにブーニンにはこれらの曲達が、心の琴線に触れるところがあったのでしょう。
第1曲から第3曲までを一つのグループに、第4曲から第8曲までを二つ目のグループとして括り、第9曲から第14曲まではそれぞれ単独曲として弾いていた様に思えるのも同じでした。概ね心から音を紡いで旋律を編み上げていたその具合が一層強力になった感がしました。
➆メンデレスゾーン『無言歌集第1巻』より〈甘い思い出〉作品19-1
これは、将に弾きながら鼻歌で、若しくは心の中で歌いつつ表現豊かな演奏とする曲なのでしょう。グールドを思い出してしまいます。バッハの曲だって無言歌の様に歌いながら弾くのですから。もっとも、ノンレガート奏法だから、歌の本性からは程遠いかな?
ブーニンは、この曲をしなやかにスマートに、颯爽と弾き済ましました。
全ての曲を弾き終わり、ピアノから立ち上がったブーニンは、心持ち疲れた様に見えました。それはそうでしょう。ピアニストにとって、超難関の大曲はなかったにせよ、大病を長年に渡って患い、杖をつき片足を引きずって歩く不自由な体で、良くここまで回復され多くの曲を弾いたのですから。物凄いことだと感心しました。今日の演奏の裏には、きっと血の滲む様な練習とリハビリがあったことでょう。前回の演奏会でのトークでも、過去のNHKの番組でも、ブーニンを支えて来られた奥さまがあっての、現在のブーニンだということを、あらためて認識させられました。
会場からの大きな拍手に応えてアンコール演奏がありました。
《アンコール曲》ショパン『マズルカOp.67-4』イ短調
その後も続く拍手にブーニンは、もうおしまいですと言わんばかりに、舞台に数歩歩み出て来て挨拶し、聴衆もブーニンの不自由な体(主に足?)を慮って、すぐ拍手を止めました。