HUKKATS hyoro Roc

綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

新国劇オペラ『シモン・ボッカネグラ』最終日鑑賞

Introduction(主催者)
海洋国家ジェノヴァに渦巻く恩讐と愛
相克と赦しの物語

 ヴェルディ中期にあたる43歳で作曲し、24年後の大幅改訂で一躍成功を収めた『シモン・ボッカネグラ』が新国立劇場初登場。14世紀に実在した初代ジェノヴァ総督シモン・ボッカネグラを題材とし、平民派と貴族派の争いに、父娘や恋人の愛が入り組むドラマが力強い音楽で一気に展開します。フィエスコの沈痛なアリア「引き裂かれた父の心は」、アメーリアのロマンツァ「暁に星と海はほほえみ」、シモンとアメーリアの二重唱、ガブリエーレのアリア「わが心に炎が燃える」、シモンのモノローグ「慰めてくれ、海のそよ風よ」、そして緊迫した重唱や多彩な合唱と聴きどころも満載です。元海賊で名総督となるシモン(バリトン)、貴族階級で厳格な性格の宿敵フィエスコ(バス)をはじめ、ヴェルディならではの男声低音キャラクターの魅力が凝縮され、上演には盤石の歌手陣を必要とする作品でもあります。
演出にあたるのは、長年オランダ国立オペラを率い、18年からはエクサン・プロヴァンス音楽祭総監督を務める、現代オペラ界屈指の演出家ピエール・オーディ。現代アートのアニッシュ・カプーアとのコラボレーションです。指揮にはイタリア・オペラへも情熱を注ぐ大野和士自らが当たります。シモンにヴェルディ・バリトンとして世界を飛び回るロベルト・フロンターリ、フィエスコにはミラノ・スカラ座をはじめ著名劇場でバスの諸役を務めるリッカルド・ザネッラート、パオロに実力派シモーネ・アルベルギーニと重厚な布陣。アメーリアにスター・ソプラノとして日本でもファンの多いイリーナ・ルング、そして恋人ガブリエーレには輝かしい声が持ち味のルチアーノ・ガンチが待望の登場を果たします。
本プロダクションはフィンランド国立歌劇場及びテアトロ・レアルとの共同制作で、新国立劇場での初演後にヘルシンキ、マドリードでの上演が予定されています。

【共同制作】フィンランド国立歌劇場、テアトロ・レアル

【公演期間】2023年11月15日[水]~11月26日[日]
【予定上演時間】約2時間50分(プロローグ・第1幕85分 休憩25分 第2・3幕60分)

【鑑賞日時】最終日。2023.11.26.(日)14時〜

【会場】初台・NNTTオペラパレス

【美 術】アニッシュ・カプーア
【衣 裳】ヴォイチェフ・ジエジッツ
【照 明】ジャン・カルマン
【舞台監督】髙橋尚史

【出演・歌手】

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シモン・ボッカネグラ:ロベルト・フロンターリ
アメーリア(マリア・ボッカネグラ):イリーナ・ルング
ヤコポ・フィエスコ:リッカルド・ザネッラート
ガブリエーレ・アドルノ:ルチアーノ・ガンチ
パオロ・アルビアーニ:シモーネ・アルベルギーニ
ピエトロ:須藤慎吾
隊長:村上敏明
侍女:鈴木涼子

【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団

【指揮】大野和士

【合 唱】新国立劇場合唱団
【合唱指揮】冨平恭平

【粗筋】

◯プロローグ

ジェノヴァの平民派パオロはシモン・ボッカネグラを総督に就かせ貴族派から権力を奪おうと画策する。シモンも貴族の娘マリアとの結婚の許しを得るため、総督立候補を決意する。しかし父フィエスコに幽閉されていたマリアは既に病死していた。結婚の許しを請うシモンに、フィエスコは娘の死を隠し、娘とシモンの間に生まれた子を渡すよう要求するが、子は行方不明であった。フィエスコと決裂したまま、シモンは恋人の亡骸と対面する。



◯第1幕

 25年後。シモンの娘マリアは孤児としてグリマルディ家に拾われアメーリア・グリマルディとなり、アンドレーアと名乗るフィエスコに養育されていた。アメーリアの恋人ガブリエーレはアンドレーアに、たとえ孤児の出であっても彼女と結婚したいと伝える。総督シモンはアメーリアの身の上を聞くうち彼女こそ行方不明の娘と気づき、父娘は再会を果たす。パオロもアメーリアとの結婚を望むがシモンに断られ、彼女の誘拐を決意する。ガブリエーレがアメーリア誘拐の実行犯を殺害して暴動を起こし、アンドレーアと共に議会に引き立てられる。ガブリエーレはシモンこそ首謀者と糾弾し切り掛かるが、逃げてきたアメーリアが制する。シモンは皆を諫めて二人を捕える。シモンに真犯人を呪うよう命じられたパオロは、恐れおののきながら自らを呪う。 

 

◯第2幕

 パオロはシモンを恨んで彼の水に毒を盛り、アンドレーアにシモン殺害をけしかけ拒絶される。次いでガブリエーレにアメーリアが総督に弄ばれていると吹き込み、シモン殺害を唆す。アメーリアは激高するガブリエーレを隠し、シモンに恋人の赦免を懇願する。水を飲んだシモンの意識が薄らぐ。ガブリエーレが襲いかかるが、シモンにアメーリアは実の娘だと明かされ謝罪する。ガブリエーレは蜂起した貴族派の平定に向かう。


◯第3幕

 ジェノヴァに平和が戻り、反乱に加わったパオロは捕えられる。遠く婚礼の合唱が聞こえ、瀕死のシモンは海を懐かしむ。フィエスコが訪れると、シモンはついに和解の日が来たと喜び、アメーリアこそフィエスコの孫娘であることを伝える。シモンはガブリエーレを後継者と言い残し息絶える。

 

【上演の模様】

NNTTのオペラは出来れば初日を見に行きたい気持ちはあるのですが、今回はオペラ以外の海外オーケストラ来日公演等、自分の優先度が高い公演が続いたので、「シモン・ボッカネグラ」は最終日を観ることになりました。この日はオペラパレスの公演が終了した後、ベルリンフィル常任指揮者が指揮をする演奏会を聴くため、急ぎサントリーホールに向かいました。

オペラパレスの最終日は、いつも見る初日の公演より少ない観客だったでしょうか?余り好評で無かったのかな?尚、一番最近では、一昨年コロナ禍最全盛期に、ミラノ・スカラ座が世界に向けて配信した『シモン・ボッカネグラ』の映像を見たのが最後ですので、その時の記録を文末に再掲しました。この時のタイトルロールは、ドミンゴが歌っていました。

さて今回のタイトルロールは、ロベルト・フロンターリ、世界の主要歌劇場で、多くの歌劇のタイトルロールを歌ってきたキャリアがあります。今年4月のNNTTオペラ『リゴレット』でも主役を張っていました。その時の歌唱についてはその時の記録 「NNTTオペラ/ヴェルディ『リゴレット』初日鑑賞に記しましたので詳細は割愛しますが、声質はやや癖のある歌声のバリトンで、一幕ではやや本調子には思えなかったものが尻上がりに調子を上げて来た記憶が有ります。

今回のタイトルロール、フロンターリはプロローグの独唱も、第一幕のアメーリアが自分の娘であることを知って歌うアメーリア役ルングとの重唱も、これは素晴らしいという歌声からは離れていました。それが二幕の、自分の恋人アメリーアの父親が総督シモンだと分かったガブリエーレ達三人で歌う斉唱ではない自分の思いをそれぞれ歌う三重唱『あなたが彼女の父上・・・・』では、毒を飲まされた体でシモンは『(独り言)救うため差し伸べねばならぬのか、この手を敵に向かって?そうだ  平和がこのリグニア(hukkats注)に輝くように、古くからの憎しみが静まるように、イタリアの兄弟愛の祭壇となすのだ。私の墓を』と、これまでにないしっかりとしたバリトンで歌ったのでした。もうすっかり本調子を出してきています。三楽章ではさらに声量も声の強さも有る堂々とした世界のバリトンに戻っていました。

リグニア(hukkats注)とは、イタリア半島のジェノヴァ前面海域とコルシカ島北端とフランスのイタリア国境海岸前面で囲まれる範囲内の海域を差し、ナポレオンが作ったリグニア共和国とは別物。時代が全然異なる。

民衆派の総督の実の娘で、且つ貴族派の育ての親アンドレア(=フィエスコ)の養子アメーリアのソプラノの歌声は、やはりプロローグや第一幕では清楚な綺麗さを持つ声質なのですが、声量が無くやや耕地の籠る管が有り、大ホールでのオペラには向いていないのでは?オラトリオ歌手か歌曲歌手向きではと思った程でした。それが、主役のロベルト・フロンターリとあたかも申し合わせたかのように、尻上がりに調子を上げ、二幕辺りからのエンジン吹かしは益々強くなり上記の三重唱では観客からの声援もかなりの部分アメーリアが寄与したと思える程でした。

他方、アメーリアの恋人ガブリエーレ・アドルノ役ルチアーノ・ガンチは、プロフィールからだと、ローマ生まれのイタリア人、恐らく30歳代中頃の伸び盛りのテノールと見ました。第一幕からかなりのエンジンがかかっていて、急速な加速度でスピードを上げるBMWの如く、快調に飛ばしていました。

二幕第5場でアメーリアと総督の関係を疑い気が狂わんばかりに嫉妬して歌うアリア『地獄よ!ここにアメーリアをあの年寄りが愛しているとは!』と歌う場では、『この炎をやつ(=シモン)の全ての血をもってしても消せないだろう!・・・』と激高して歌う箇所を、朗々と張り上げる歌声をさらに力を入れてホール全体に響かせ、歌い終わった後は万来の拍手と歓声を受けていました。この勢いは三楽章に於いても失速することなく、ゴールに向かって疾走、ラリーの勝者になったとも言えるでしょう。まだまだ粗削りで少しバランスが揺らぐ箇所も有りましたがそれは些細な事、これからの大成が見込める世界のダークホースかも知れません。その他の役柄の歌手も特性と癖、長所、短所があって、聴く人の好みによっては色々毀誉褒貶があるかも知れませんが、ここでの記録では割愛します。

以下にNNTTのH.P.や ぶらあぼON LINEにあった画像を拝借し転載しました。

 

実は、昨年春の『東京春音楽祭』で、ムーティ指揮のオーケストラ演奏がなされる直前に、ムーティーのトークが有り、その中で彼は、以下の記録に記した様な趣旨のことを語っていました。

ムーティは❝若い人の力❞に希望を託していることを話していました。それはそうです、どんな分野でも若い人は希望の星です。日本のクラシック楽壇では若いアーティストが順調に伸びて来ていると思われますが、大災害、コロナ禍や戦乱、紛争が絶えない今日この頃です。それらを防ぐ手立て、防げないまでも被害を減殺する手立ては、我々大人に課せられた責務だと思います。ムーティのトークはウクライナ問題(というかむしろロシア問題ですね)にも触れていました。ヴェルディのオペラ『シモン・ボッカネグラ』の名を挙げていました。数多くある音楽の中でこのオペラを例に挙げたのは、ムーティが同じイタリア人だからヴェルディを贔屓にした訳ではなく、このオペラのシモン・ボッカネグラ(ジェノヴァ総督役)のアリアに、将に現在のウクライナで起きている悲劇と同じことを止めようとして歌う箇所があるからです。オペラに詳しいムーティならではの例えです。以下に参考までその一節を引用(抜粋)しました。ここで総督とは、シモン・ボッカネグラのことです。

《オペラ、シモン・ボッカネグラ第一幕より》

第10場

(総督の宮殿の議会場の中 総督は総督席に座っている 片側には12人の貴族出身の議員 もう片側には12人の平民出身の議員 別のところに座っているのは4人の海運執政官と軍司令官 パオロとピエトロは平民側の席の一番後ろに座っている)


【総督】
代議員諸君 ダッタンの王が君たちに申し入れてきた
和平条約と豊かな贈り物を 
その上で言っている 黒海を
われらリグリアの船に開放すると
同意するか?

【全員】
しよう

【総督】
もうひとつ決議がある
一層の寛大さを私は望むぞ

【幾人か】
お話しください

【総督】
かのリエンツィの上にとどろいたのと同じ声が
栄光とその後の死の予言を
今ジェノヴァにとどろかせている - ここにメッセージがある

(文書を示して)

ソルガの隠者からの ヴェネツィアとの
和平の求めなのだが...

【パオロ】 
(さえぎって)
奴の詩に乗せられないようにしましょう
アヴィニョンのブロンドの娘のことばかり歌ってる奴の

【全員】 
(怒り狂って)
ヴェネツィアと戦争だ!

【総督】
そのような凶悪な叫びが
イタリアの二つの海岸の間で振り上げることになる カインの
血まみれの棍棒を!- アドリア海とリグニア海は
共通の祖国を持っているのではないか

【全員】
われらの祖国はジェノヴァだ

(遠くで騒動)

【ピエトロ】
何の叫びだ!

【幾人か】
どこから聞こえてくる叫びなのか?

【パオロ】
(ジャンプしてバルコニーに駆けつけた後)
フィエスキ広場からだ

【全員】 
(立ち上がって)
暴動だ!

【パオロ】
(ずっと窓際に立って、彼にピエトロが近づく)
群衆が逃げ惑っているぞ

【総督】
聞け

(騒音が大きくなる)

【パオロ】
何を言ってるのか聴き取れない ...

【声】
(舞台裏から)
死を!

【パオロ】
(ピエトロに)
あの男か?

【総督】
(それを聞いてバルコニーに近づき)
誰なのだ?

【ピエトロ】
ご覧ください

【総督】
(見ながら)
何と!ガブリエーレ・アドルノではないか
民衆に襲われているのは...彼の隣で
グェルフィの者が戦っておるな 我が許に伝令を寄こせ

【ピエトロ】
(そっと)
パオロよ 逃げないと捕まるぞ

【総督】 
(パオロが逃げようとするのを見て)
海運執政官たちよ
扉を守っってくれ!逃げようとする者は
裏切り者だ

(パオロは戸惑って立ち止まる)

【声】 
(広場で)
貴族どもに死を!

【貴族の議員たち】 
(自らの剣を抜いて)
武器を!

【声】 
(広場で)
平民万歳!

【平民の議員たち】
(自らの剣を抜いて)
万歳!

【総督】
何?諸君らもか?
諸君らもここで!混乱を引き起こすか?

【声】 
(広場で)
総督に死を

【総督】
(誇らしげに力強く立ち上がる そこに伝令がやってくる)
総督に死だと?いいだろう -
伝令よ 開くのだ
この宮殿の扉を そして群衆に告げるがいい
貴族にも平民にも 私は恐れてはいないと
脅しを聞いてやろう ここで待っておるぞ...
剣をしまえ

(議員たちは従う)

【声】 
(広場で)
武器だ!破壊だ!
家に火をつけろ!
投石器だ!
処刑台だ!

(遠くでトランペットの音 誰もが注意深く聴く 沈黙)


【総督】
伝令のトランペットだ...
語りかけているな...
皆 静まったぞ....

【声】
万歳!
総督万歳!

【総督】
群衆が来たな!


第11場

(なだれ込んでくる平民の集団 議員など たくさんの女たちや子供たち 総督 パオロ ピエトロ ずっと貴族側と平民側に別れている議員たち ガブリエーレ・アドルノとフィエスコが平民たちに捕まって連れて来られる)

【民衆】
復讐だ!復讐だ!
凶悪な殺人者の血を撒き散らせ!

【総督】 
(皮肉に)
これが民衆の声なのか?
遠くでは嵐の雷鳴のようであったが 近くでは
女と子供の叫びではないか アドルノよ
なぜ剣を振るう?

 

<中略>

 

【アメーリア】
心地よく幸せな夕暮れ時に
私はひとりで海岸を歩いておりますと
三人の誘拐犯が私を取り囲み 
私を船に連れ込んだのです

【民衆】
恐ろしい!

【アメーリア】
抑えつけられた悲鳴も役には立たず...
私は気絶して 再び目を開けたときには
ロレンツォの部屋の中にいる自分を見たのです....

【全員】
ロレンツォだと!

【アメーリア】
私はその悪人に囚われてしまったことを知りました!
でも彼は臆病者だということを知っておりましたので
総督は 私は言いました この陰謀を知ることになるでしょうと
もし私をすぐに自由にしなければ
恐怖に動転して 彼は私に扉を開けてくれました...
大胆なこの脅迫が自分を救ったのです...

【全員】
当然だ 悪漢が死んだのは

【アメーリア】
ですがここに一番の悪人がそしらぬ顔をしているのです

【全員】
いったい誰だ?

【アメーリア】
(人々の一団の後ろにいるパオロを見つめて)
私の言葉を聞いて...青ざめるのが見えました
その男の唇が

【総督とガブリエーレ】
それは誰なのだ?

【平民たち】
貴族だ

【貴族たち】
平民だ

【平民たち】
剣を下せ!

【アメーリア】
恐ろしい叫び声!

【貴族たち】
斧を下せ!

【アメーリア】
お慈悲を!

【総督】
(力強く)
兄弟殺しよ!
平民たちよ!貴族たちよ!引き継ぐ者たちよ
恐ろしい歴史を!
憎しみの相続者よ
スピノーラとドーリアの
幸せに諸君を招いているというのに
この広い海の王国が
諸君はこの兄弟の地で
互いの心を引き裂き合っているのだ
諸君のために私は泣こう 穏やかな
諸君の丘の上の光のもとで
そこでは空しく芽吹いているのだ
オリーブの枝が
私は泣こう 偽りの
諸君の花の祭のために
そして私は叫ぼう 平和を!と
そして叫ぼう 愛を!と

 

即ち下線部 「共通の祖先をもつ」「兄弟の地」とはジェノヴァとヴェネチアを指し、現在ウクライナと戦争しているロシアとを対比させたものです。ウクライナとロシアは歴史的に見て、もともとは兄弟の様な関係だったというではないですか。戦争により兄弟が血を流す必要はないという事を、ムーティは言いたかったのでしょう。

/////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////(2021.1.15.HUKKATS Roc.再掲)

 

ミラノ・スカラ座オペラ(配信)ヴェルディ『シモン・ボッカネグラ』

 

イタリアのコロナ禍の被害は大きく、海外遠征コンサートはもとよりイタリア国内でも、観客を前にした音楽演奏は出来ない状態が続いているのか、ミラノ・スカラ座は、無観客による演奏会を配信で世界に発信する試みを続けています。昨年12月のオープニングは無観客のガラコンサートをU-tubeで配信しました。錚々たる歌手を揃えていました。今回は有料配信で、1月、2月、3月と以下の様にオペラを世界に届けると発表されました。

◎ミラノ・スカラ座より『シモン・ボッカネグラ』、『カルメン』、『ランスへの旅』をstreaming+」にて配信

 今回、ミラノ・スカラ座から、3つの名作オペラを、2021年1月・2月・3月と続けて配信することが決定した。ラインナップは『シモン・ボッカネグラ』、『カルメン』、『ランスへの旅』。タイトルを聞いただけで胸が高鳴るオペラ通の方にも、気軽に楽しんでみたい舞台好きの方にも、イタリア・オペラの最高峰であるスカラ座の粋を味わうことができ、きっと満足できる3作品となっている。                問答無用の名手プラシド・ドミンゴが、海の男であり政治家、そして娘の父であるタイトルロールを演じる『シモン・ボッカネグラ』。40年前の初来日公演では、初めて本場のオペラを目の当たりにした人々を鳥肌モノの感動で射抜いた演目(改訂版の初演も240年前にスカラ座で行われた)。
『カルメン』ではヨナス・カウフマンとアーウィン・シュロットが、その魅力を存分に見せつける。数々の名アリアを美麗な出演陣で堪能する、激動の愛憎劇の結末は……。
そして、よくこれだけ揃えられた! と感嘆の声をあげたくなる歌手陣が出演する『ランスへの旅』。難易度が高いと言われる曲ばかりだが、これでもかとご機嫌に繰り広げられるロッシーニの愉悦は、思わずイタリア・オペラに陶酔してしまうだろう。本配信で3作品を自宅でゆっくりと楽しもう。
 


1月はヴェルディのオペラ『シモン・ボッカネラ』の配信です。       このオペラは1857年に完成、伊ヴェネツィアのフェニーチェ劇場で初演されましが、失敗に終わりました。しかし24年後にヴェルディは改訂版を完成、1881年3月、ミラノ・スカラ座で初演され、今度は大成功でした。ヴェルディは68歳となっていました。

 今回このオペラが、スカラ座で以下の配役とスカラ座管弦楽団・合唱団の演奏で行われたものを有料配信されたので、その映像を見ました。(いつの演奏かは、e-プラスは通知せず。明記して欲しいものです。字幕があるかどうかも事前に連絡無し)

【配信日時】2021.1.15.(日本時間)0:00~

【配信方法】e-プラス有料STREEMING

【 会  場 】ミラノ・スカラ座

【 演  奏 】オーケストラ:スカラ座管弦楽団 合唱:同合唱団

【 指  揮 】ダニエル・バレンボエム

【 出  演 】

シモン・ボッカネグラ…プラシド・ドミンゴ(バリトン)
アメーリア・グリマルディ(マリア・ボッカネグラ)…アニヤ・ハルテロス(ソプラノ)
ヤーコボ・フィエスコ…フェルッチオ・フルラネット(バス)
ガブリエーレ・アドルノ…ファビオ・サルトーリ(テノール)
パオロ・アルビアーニ…マッシモ・カバレッティ(バス)
射手隊長…アントネッロ・チェロン(テノール)
ピエートロ…エルネスト・パナリエッロ(バリトン)
アメーリアの侍女…アリサ・ツィノフエーワ(メゾ・ソプラノ)

 

【登場人物】

  • シモン・ボッカネグラ (バリトン) もとは後世でいう私椋船船長だが、平民派の後押しによりジェノヴァ共和国の初代総督になる。
  • マリア・ボッカネグラ(ソプラノ) シモンの娘。本編ではアメーリア・グリマルディと名乗っている。
  • ヤーコポ・フィエスコ (バス) もとジェノヴァ貴族でシモンの政敵。本編ではアンドレーア・グリマルディと名乗り、アメーリアを養育する。
  • ガブリエーレ・アドルノ (テノール) 貴族派の幹部でアメーリア(マリア)の恋人。
  • パオロ・アルビアーニ (バス) 平民派のもと金糸職工で、のちジェノヴァ共和国の廷臣。シモンの腹心の部下。
  • ピエトロ (バリトン) 平民派。パオロとともに共和国の廷臣となる。
  • 射手隊長(テノール)
  • 侍女(メゾソプラノ)

このオペラは、イタリア、ジェノヴァを舞台とした全3幕のオペラですが、その前に第1場から第5場より成る結構長いプロローグが置かれています。各幕の概要はネット情報を引用して置きます。 

 

【プロローグ】

サン・ロレンツォ教会の広場とフィエスコの館の前

平民派のパオロとピエトロは、私掠船船長のシモンをジェノヴァ総督に担ぎ出そうと相談する。呼び出されたシモンには政治的野心はなく、パオロたちの申し出を聞いて躊躇する。しかし、シモンの恋人であるマリアは政敵フィエスコの娘であり、マリアはフィエスコによって館に幽閉されていた。自分が総督になれば、フィエスコもマリアとの結婚を許すかもしれないと考えたシモンは、総督選挙への出馬を決意する。

館からうちひしがれた姿のフィエスコが現れる(アリア「哀れな父親の苦悩する心は」)。シモンはフィエスコの館を訪ね、和解とマリアとの結婚の許しを請う。フィエスコとシモンの二重唱。しかし、フィエスコはシモンとマリアの娘を自分によこせと迫る。娘が行方知れずであることをシモンが語ると、フィエスコは、自分の孫が戻るまで和解しないといって立ち去る。いつもは閉じられている館の扉が開いており、シモンはマリアに会いたい一心で館の中に入るが、そこで病死したマリアを見いだす。愕然として広場に出てくるシモンを、民衆が「シモン万歳!」と歓呼の声で迎える。

【第1幕】

第1場

プロローグから25年後。ジェノヴァ近郊のグリマルディ伯爵邸

アメーリアが登場(ロマンツァ「暁に星と海は微笑み」)。彼女のもとへ恋人のガブリエーレがやってくる。アメーリアとガブリエーレの二重唱。アメーリアはシモンとマリアの行方知れずになっていた娘で、グリマルディ家に拾われていた。このことを知らないフィエスコは、アンドレーアと名乗ってアメーリアを養育していた。シモンはジェノヴァ総督となり、腹心のパオロとアメーリアとの結婚話を進めるために、グリマルディ家を訪れようとしていた。これを知ったガブリエーレとアメーリアはすぐに結婚しようと愛を誓い合う。アンドレーアが現れ、アメーリアが孤児であることをガブリエーレに語るが、ガブリエーレはそれでもアメーリアを妻にしたいという。アメーリア、ガブリエーレ、アンドレーアの三重唱。

シモンの到着が告げられ、アンドレーアとガブリエーレはその場を去る。シモンはアメーリアに、パオロと結婚すれば、追放されたグリマルディの一族を赦免するという。アメーリアは、自分には心に決めた相手がいること、財産目当てのパオロとは結婚しないと拒絶し、そもそも自分はグリマルディ家の娘ではないと身の上を明かす。話を聞くうちに、シモンはアメーリアが自分の娘であることに気づく。二人は抱き合い、25年ぶりの再会を喜ぶ。シモンとアメーリアの二重唱。

娘の意を汲んだシモンはパオロとの結婚話を破談にする。しかし、この通告を受けたパオロは逆上してシモンを恨み、ピエトロと組んでアメーリアの略奪を企む。

第2場

ジェノヴァ共和国の議会場

議会でシモンがヴェネツィア共和国との和平の重要性を説いていると、突然外で争乱が起こる。民衆に追われたガブリエーレとフィエスコが議会場に駆け込んでくる。シモンは民衆を制止するが、ガブリエーレは、アメーリアが誘拐され、その首謀者こそシモンだと糾弾して斬りかかる。助け出されたアメーリアが2人の間に割って入り、黒幕が別にいることを告げる。貴族派と平民派は互いに罵り合うが、シモンは同胞同士のいさかいを止めるよう説く。シモンは騒動の原因となったガブリエーレとフィエスコを牢に入れると、パオロに対し、この部屋に卑劣な裏切り者がいること、自分はそれが誰なのか知っていること、パオロを証人としてそのならず者を呪え、と迫る。パオロは青ざめ、震えながら自分で自分を呪う。

【第2幕】

総督の部屋

シモンを深く恨んだパオロは、シモンの水差しに毒を盛る。さらに、捕らえられていたアンドレーアとガブリエーレを牢から出す条件として、2人にシモンの暗殺を持ちかける。フィエスコは拒絶して再び牢に戻されるがガブリエーレはシモンがアメーリアとお楽しみ中だとパオロから吹き込まれ、激怒する(アリア「わが心に炎が燃える」)。面会にやってきたアメーリアにガブリエーレは怒りをぶちまける。そこへシモンがやってきたため、ガブリエーレはバルコニーの物陰に隠れる。アメーリアはガブリエーレの赦免を嘆願し、シモンは寛大な措置を約束する。 疲れたシモンは水差しの水を飲み、眠気を催す。ガブリエーレがシモンを殺そうとして近づき、剣を抜く。戻ってきたアメーリアがそれを見つけて止める。シモンは目を覚まし、自分がアメーリアの父親であることを明かす。ガブリエーレはシモンに謝罪する(シモン、アメーリア、ガブリエーレによる三重唱「あなたは彼女の父上!」)。そのとき再び外で騒ぎが起こり、ガブリエーレはシモンのために、争乱を沈静化させようと出て行く。

【第3幕】

総督の部屋

争乱が鎮圧され、フィエスコが釈放される。反逆罪で捕らえられたパオロは、処刑場に引き立てられながら、シモンの体に毒が回っていることをフィエスコに告げる。遠く教会からアメーリアとガブリエーレの婚礼の合唱が総督の部屋まで響いてくる。 毒によって衰弱したシモンは、海を懐かしむ(モノローグ「慰めてくれ、海のそよ風よ!」)。フィエスコがシモンの前に現れる。シモンはフィエスコに、アメーリアこそが自分の娘であり、フィエスコの孫だと告げ、ついに二人は和解する。シモンとフィエスコの二重唱「わしは、神の御声に涙を流す」。そこへ結婚式を終えたアメーリアとガブリエーレが登場、シモンはフィエスコがアメーリアの祖父であることを明かす。シモン、フィエスコ、アメーリア、ガブリエーレによる四重唱「偉大なる神よ」。シモンは残された者たちの平和を祈り、ガブリエーレを次の総督に任命して息絶える。

 

【映像を観た感想】

 プロローグの最初の辺りでは、ドミンゴの歌い振りに比し、パウロやフィエスコ役 のバリトン、バスがずっしりと声量も有り、圧倒していました。でもシモンがマリアの死体に気が付き叫び歌う箇所は声量も歌う雰囲気も驚きと悲しさ一杯表現できていました、それに続く女声合唱も緊迫さがよく出ていた。7場は省略ですか?

 第1幕1場のアメーリアのアリアは曲も綺麗でソプラノが良く声が出て、幸先よい出だしでした。高い声も出ていました。

 続いて恋人の遠く歌う声が聞こえて、喜び叫ぶアメ-リアの高く響く叫び歌も良し。近づいて歌う恋人ガブリエーレのテノール声はいいのですが、アメーリアの恋人役にしては若干不似合いに見えました。第一太り過ぎです。歌声は非常にいいのですが。

 第5場でフィエスコのバスとガブリエーレのテノールが歌い交わす場面では、バスの声がいいですね。テノールは大変声質も良いのですが、まじかで比べられるとバスに軍配が上がります。バスは ‘あなたの声は清らかな魅力に満ちている’ と歌うテノールの歌詞そのものでした。

 第7場でアメーリアが自分の生い立ちを歌うアリアは曲もいいし、ソプラノは見事な表現力で歌っていました。 父娘と判明した後の二重唱はソプラノがドミンゴを凌駕していました。ハープの音が心地良し。

 シモンにフィエスコが  ‛総督にしてやった恩は忘れたか’  と言うのはどういうことでしょう?選挙で選ばれたのではなかったですか?

 第10場の争乱、混乱の場は合唱が盛り上げていました。

許婚者がシモンを殺そうとするのをアメーリアが間に入って止め、歌う歌がいいですね。

 次に反乱の混乱した場面で、ドミンゴが ‛丘に咲くオリーブもむなしいではないか、兄弟殺し合いは止めよう’ とただすアリアは、これにアメーリアの歌声と合唱が加わりアメーリアの  ‛和解を祖国への愛で呼び戻して’ と歌うところが説得力がありますね。同じメロディーでシモンも合唱も盛り上がっていました。

 

 次に第2幕です。スタートから既に1時間半弱経っています。一体何時に終わるのだろう?明日はいつもの時間に起きれないかも知れません。

 冒頭から、シモンを殺そうとするパオロの憎悪に満ちた歌い振りと、牢に繋がれているフィエスコの会話の歌は迫真がありました。次の第5場のガブリエルのアリアはいい歌で、嘆き叫ぶ様子がよく出ていましたが、若干上擦るところがあったと感じました。

  第6場で青い服に着替えたアメリー7アがやって来て ’秘密を明かせない’ と歌い、それに対し  ’打ち明けてくれ’  と懇願するガブリエーレに なかなか承諾しないアメーリア、この辺からは会話のやり取りを歌う謂わばレスタティーヴォ的歌のやり取りです。

 第7場にシモンが登場、アメーリアは父に許婚者の許しを請いますが、シモンは  ‛反乱党の連判状に名を連ねている’ と、すぐには許しを認めません。結局ガブリエーレが悔い改めるなら結婚を許すと軟化します。この辺はありふれたドラマの筋書きといった感じがしました。

 そして第8場でついに毒入りの水を飲んでしまうシモン。‘苦い’と言っています。‘眠い’とも言って寝てしまう。パウロが入れた毒でした。

 次の9場でガブリエーレがシモンを殺そうとしますが、アメーリアがシモンの娘だと分かったガブリエーレはすぐに冷静になってシモンに謝り、死を与えて下さいと歌い、アメーリアが歌う‛天国の母よ父に憐れみを’という懇願のアリア、またシモンとガブリエルとの三重唱は、互いにしっとりと反省と許容の雰囲気が出ていて、特にソプラノの歌声が光っていました。

 いよいよ最後の第3幕です。

せわしない前奏曲に合わせて合唱は‛総督万歳’と歌います。捕縛されたパウロが、‛シモンに毒薬を飲ませた。俺より先に墓場に行くだろう’

と歌い叫びますが、遠くの結婚式の歌声が聞こえると、自分がアメーリアを誘拐したことを漏らしてしまう。アメーリアの祖父のフィエスコが断罪し驚き悲しむのでした。

 毒は遅効性なのかまだ死にきれないシモンが大きな玉座に座り、海賊時代の海を思いだしながら歌うアリアはそれ程いい曲とは思えません。フィエスコが現れてシモンに語り掛ける歌はバスらしい迫力のある歌声でした。歌そのものはそれ程良い歌とは思えなかったですが。

 第3場で、アメーリアがかって行不明となったマリアの子だと知ったフィエスコは

最後に敵であったシモンを許すのですが、如何せん毒が回って来たシモンはついに

アメーリアの花嫁姿を前に横たわるのでした。でも歌はまだしっかりと歌っています。 最後の力を振り絞り立ち上がったシモンは、ガブリエルを後継の総督にすると宣言し、崩れ落ち息絶えるのでした。最後の力を振り絞って立ち上がって死ぬのは同じヴェルディの『椿姫』のヴィオレッタもそうでしたね。

最後の場面でのドミンゴの詠唱は、少し力強さが出過ぎではないかと思われる程の迫真力がありました。死に瀕しているにしては、元気過ぎると思うのですが、別に瀕死自体を表現しなくともいいのかも知れません。

 終了は2時半近くでした。

 

総じて、流石スカラ座の綺羅星の如き歌手陣皆見事な歌唱力でした。主役のドミンゴの歌を喰う場面もかなりありました。 

 

 ところで、東京においては緊急事態宣言後も、各種コンサートが行われている状況です。来週末は、新国劇で「トスカ」、再来週は、東京文化会館で「ラ・ボエーム」の予定もあり、以前からチケットを購入していましたが、相変わらずの感染状況なので、とても聴きに行けません。各会場に電話したら、チケット販売済みなので予定通りの座席配置で実施するという回答でした