ソニー迷走はいかにして起こったか

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  • author satomi
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ソニー迷走はいかにして起こったか

何よりもソニーはかつてのスピリットを失ってしまった。世界最高の家電メーカーと言うばかりで見せてもらってない気がします。

今月はじめのソニー特集からだいぶ間が開いてしまいましたが、以下にソニー迷走の3大要因に迫ってみたいと思います(辛口注意)。

要因その1 プロプライエタリのフォーマット

まずフォーマット。ソニーが最後に大ヒットさせたフォーマットは「Compact Disc」です。はいはい、みなさんも知ってますよね? あの真ん中に穴があってクルクル回るプラスティックの円盤です。ソニーがフィリップスと共同開発した、アレですよ~。

CDは普及に数年かかりました。でも、いったん広まったらソニーの懐にはお金がガッポガポ。プレイヤー販売だけじゃなく、CD自体を自社・他社向けに製造する方面からもガッポガポ舞い込んできたんですね。

今でもCDはソニーのビジネスでは侮れないパートを占めます。Sony DADCが世界各地の生産拠点でCDのみならずDVDやブルーレイ、PlayStationディスクまで製造を手がけているんですよ。

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これでソニーはスポイルされちゃったんです。そりゃそうです、フォーマットのお陰でガッポガポですから。こうしてソニーの中では新しいメディアのフォーマットと言えば「メディアそのもの売ることでお金儲けが見込めるもの」という認識が何十年も続きました。そして1980年代から1990年代を通してソニーは市場を他社と分け合いたがらない傾向を深めていきます。

ソニーはコンピュータ用の3.5インチのフロッピーディスク専用ドライブも開発します(ソニーの歴史年表参照)。これは空ディスクをいろ~んなメーカーさんが出してくれて広~く普及しました。

次に出たのがMiniDisc。これはそんなにうまくはいきませんでした...。

1998年フラッシュメモリー市場が熱くなり始めたちょうどその頃、ソニーはメモリースティックを出します。これが最終的には他メーカーの端末と互換性のない高価なフラッシュメモリーのフォーマットの一大ファミリーを形成することに!

そして忘れちゃならないのが、ブルーレイ vs. HD-DVD戦争。これは結局ソニーの勝ちでした。が、両陣営とも消費者向けメディア製造の市場を失いたくないがために戦いはいたずらに長引き、当の消費者はますますオンラインコンテンツへと流れていきました。

ざっと眺めてくると何が問題かわかりますよね? 毎度毎度ソニーはエンジニアの粋を極めたソリューションを作っては、これをがっしり囲い込んでるんです。その方が大きな利益を絞り出せますから。

でもソニーがフォーマット統制を求めれば求めるほど、新製品や改善版が出るたびにそれが買う側の重荷になっていったんですね。SONY製品一筋のカスタマーでも、プロプリエタリのフォーマットは頭に来る、せっかくSONY製品でハッピーなのに普通より高いソニー公認の空ディスク買わされる度に気分も台無しだ、ってよく言いますもんね...。

要因その2 コミットしたくない

ソニーには良いアイディアが唸るほどあります。どれかひとつに100%コミットすると外れたとき怖いので、ソニーは下手な鉄砲数撃ちゃ当たるじゃないけども、アレもコレもとりあえず出してみて、どれが当たるか見るというアプローチなんですね。

で、はち切れんばかりのアイディアが形になるなるなるなる。結果的にこんなすごいことになっちゃった。これ、ソニーの人だって「どうすんのよ」と思うことあると思うんですよ、たぶん。

で...例えば「ブラビアリンク」。ライバルはこれと似た機能を内蔵したテレビを出してますし、ソニーにも内蔵のあるんでしょうけど、このテレビに取付けて使うストリーミングメディアボックスは200ドルの別売で、PS3も別。これなんてPS3に内蔵しちゃった方が買い手も喜ぶと思うんですけどね...

あとは例えば「パーティー自動記念撮影のドック」(149ドル)なんてのもあります。みんな酔っ払ってどんちゃん騒ぎの最中に自分だけ撮影班なんてツマンナイ。このドックにカメラ取付けておけば顔認識とソニー独自のスマイルシャッターで浮かれる自分撮りも可能、というものです。いや~こういうドックを待っていた! なのに何故か対応機種はSONYのコンデジ2機種。どうして? どうしてSONYの全カメラに対応しないんでしょ?

任天堂にゲームでお株を奪われたソニーは、負けじとPS3向けにもWiiリモコンのクローンを開発しました。

ネットブックが流行ると、ソニーも性能的に大差ないネットブックを倍のお値段で出し、発売キャンペーンに何百万ドルか散財後は市場でフェードアウトするに任せました。

eインクリーダーはアマゾンのKindleより何年も前に世界初の製品をリリース! ―しましたが、日本だけ(今は日米逆)。最初は自分のコンテンツ取り込んで読むのも不可能に近かったし、オンラインライブラリとストアが充実したのは何年も経ってからです。フォレスターリサーチの推計によるとKindle参入前にソニーが売り上げた電子書籍リーダーはたったの約5万台、ですよ? ライバルがもっと優れた製品を出して初めてカスタマーもeインクリーダーに注目し始めたような次第です。それでも実店舗で買える電子書籍リーダーは実質ソニーだけなので、一番最近出た統計ではソニーの市場シェアは第2位となってますけどね。

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AppleがiPadを発表すると、ソニーもタブレット市場は「今後アクティブなプレーヤーとして関わっていきたい業域だ」と宣言。2011年にはソニーから美麗な黒いスレートが出て、また全くアップグレードしないのかと思うと今からため息です...。

先日はChumbyをベースにした卓上ネット端末「Dash」も出しましたよね。厚さ5インチかってぐらいの厚さ。電源に差し込んでおかなきゃならないのがなんとも~。

ソニーVaioも最高に美しくカラフルなノートとして一時君臨しましたが、ノートでもっと大手のHPにデザインですぐ追いつかれてしまいます。それでもソニーは「美麗」なノートとしてプレミアム価格で売ってますが。ガートナーのアナリストLeslie Fieringさんがこうガッツリ言ってましたよ。

ステイタス・クオがあまりにも長く続いたので、変化の兆候がよく見えなくなっている。今の路線を続けるなら着外馬からは抜け出せないだろう

今のソニーはこう思われてるんですね。市場のリーダーとして再び尊敬を勝ち得たいと願う、着外馬。

これではいけないので、ソニーには宿題として手始めに以下3つのスタンフォード大学経営大学院がまとめた研究報告をぜひ読んでもらいたいと思います。

・「Too Much Choice Can Hurt Brand Performance(選択肢が多過ぎるとブランドパフォーマンスに逆効果になるかもよ!)」

・「Asking Consumers to Compare May Have Unintended Results(消費者に比べさせると思わぬ結果を招くよ!)」

・「For Buyers, More Choice Means Better Quality(買い手から見たら選択肢が増えること、イコール質が上がることなんだからね!)」

一番最後のは鉄砲手当たり次第に撃ちまくるマーケティング計画のソニーを一瞬鼓舞させる内容にも読めますが...喜ぶのはまだ早い! その前にこちらの警告を読んでくださいね。

ある調査では消費者は例えば、あるひとつのカテゴリ - タイ料理- で幅広いメニューを提供するレストランに一番高い評価を与えた。ところが同じレストランでタイ料理だけじゃなく他のカテゴリのメニューも出してる風に演出したら、消費者の評価は下がったのである。

「場合によりますが、お互い関連ない選択肢が沢山あると消費者はそれだけで、そのブランドがその道一筋じゃないサインと受け取り、だったらそんなずば抜けて美味いワケがない、と思ってしまうんです」

要因その3 傲慢

現代ソニーの傲慢が一番良く分かるのがPlayStation 3でしょう。今の世代のゲームコンソールでは最後に出たんですが、競合他社のどこよりも高い値段で売り出したんですね。このとき当時のソニー・コンピュータエンタテイメント・アメリカ(SCEA)の平井一夫CEO(現グループCEO)が言った有名な言葉があります。

次世代は我々がスタートするまで始まらない。

平井社長と経営陣がこう鼻高々言った時もみんな目を白黒させましたが、そのソニーがその後3年間かつて支配したビデオゲーム市場で苦戦してると知った日には我々の目玉は回転のあまり頭蓋骨の後ろまでめり込んでしまったのでした。

なんでまたソニーは、こんなうぬぼれた顔を世界に晒すんでしょう? 理解不能です。何年も優勝してないチームが自分ひとりの妄想で啖呵切るとか、試合前に飛ばす下らない野次と考えると納得もいきますが。

ソニーの傲慢はマーケティングや広報にも現れてます。ソニーはいつも何かっていうとすぐビッグなパーティー、パーティーで、なんかのノートが出ると言ってはアホな発売記念イベント(ファッションショーとか)です。で、レビュー書いてもらうため報道に配る見本はライフスタイルマガジンには配っても技術系の媒体には配らない。ウォークマンで1回たまさかライフスタイルプロダクト当たったもんだから自分らの製品はスタイリッシュだって思ってるようですが、それは勘違い。ウォークマンはケバケバしてたりありきたりだったのだけど、そのルックスにも関わらずあの時代のスタイルを象徴するアイコンになったんです。

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僕の評価が厳し過ぎると思うなら、ギズが選ぶ過去10年のワーストガジェット50に編集部が独断と偏見で選ばせていただいた多くのソニー製品について考えてみてください。ほぼ全部ここで書いたことが2つ以上当てはまってると思いますよ。中には上の写真にある1900ドルの硬い真ちゅうでできたMiniDiscプレーヤー(短命に終わったQualiaラグジュアリーラインの主要アイテム)のように見事三冠、スリーストライクの製品もあります。

僕はソニーにはme-tooプロダクトを作る以上のことをやる図太さがあると信じてます。--彼等には市場を創出し、誰もが知ってる馴染みの製品として展開する能力がある。しかし正直な光の中で自分を穴の開くまで直視しない限り、ソニーはこれからも僕らに未来を運ぶ企業と言いつつ自分でさえ信じてない製品を僕らに売りつける会社を続け、きまりの悪い思いをすると思うのです。

-取材協力:Brian Barrett、Don Nguyen

Joel Johnson(原文/satomi)