中国の武器輸出 民主主義と地域の安定への脅威

2024/12/17
更新: 2024/12/18

論評

中国政権は、世界で最も抑圧的な政権のいくつかに武器輸出を増加させ、外交的影響力を強化している。しかし、世界の武器市場においては、米国が依然として圧倒的なリードを保っており、中国の主要な武器輸出国としての台頭は、制裁により抑制される可能性が高い。

中国共産党(中共)は、米政府が台湾に約20億ドル(約3千億円)相当の武器売却を決定したことに対し、強く反発している。このパッケージには、先進的なミサイルシステムやレーダーが含まれており、台湾が中国の脅威に対抗するための防衛能力を強化するものだ。中共は、この取引が主権を侵害し、米中関係を損ね、台湾海峡の平和を脅かすと非難した。また、中共外交部は台湾に対する領有権を守るため、「必要なあらゆる措置を講じる」と表明した。

一方で、米国が民主的に自治を行う台湾を支援する中、中国は世界有数の武器輸出国の一つとして台頭している。中国は、アフリカの制裁対象国やミャンマーなどに頻繁に武器を供給しており、その影響力を拡大している。

世界の武器取引に関する調査を行う研究機関、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、中国は2019~23年にかけて、世界の武器輸出の5.8%を占め、世界第4位の武器輸出国となった。これは大きな変化を示しているが、米国やフランスなどのリーダーにはまだ及ばない。それでも、中国の武器取引は経済的な目的にとどまらず、地政学的影響力を拡大するための政治的手段でもある。この戦略は、権威主義的な政権を支援し、不安定さを助長し、民主的価値観を損なうとして、世界的な懸念を引き起こしているという。

中国は、テロやクーデター、国境を越える脅威など、安全保障上の課題が深刻化する中、アフリカへの関与を強化し、経済的影響力とともに、主要な安全保障パートナーとしての地位を確立している。今年9月の中国・アフリカ協力フォーラム(FOCAC)首脳会議では、習近平は3年間で500億ドル(約7兆6982億円)の支援を提供すると約束。そのうち1億4千万ドルを安全保障対策に割り当て、6千人の軍人、1千人の法執行官、若手のアフリカ出身将校500人を中国で訓練する計画を示した。この軍事教育を中心とした戦略は、中国の統治モデルを広め、アフリカとの結びつきを強化する狙いがある。

パキスタンは、特に海軍分野において、中国製兵器の最大の受領国の一つとなっている。同国はまた中国の最大の購買国であり、8隻のハンゴール級潜水艦を発注している。これらは2022年から納品が始まり、2028年までにパキスタン国内での組み立てを含む形での納品が完了する予定だ。また、パキスタンは中国が輸出した中で最も先進的な艦船である054A/P型フリゲート艦4隻を受領。このフリゲート艦は、ミサイルシステムや対潜水艦能力を備えた多用途艦で、中国の先進的な造船技術を象徴している。他にも、マレーシアやタイなどが、フリゲート艦や沿岸任務艦など先進的な艦船を購入している。

米国の制裁は、パキスタンの弾道ミサイル計画を支援する中国企業にも適用されており、中国政府にさらなる圧力をかけている。これらの制裁により、パキスタンが中国の技術に依存するシャヒーン3やアバビールミサイルシステムの運用が難航し、ミサイル備蓄の弱体化を招いている。一方で、これによりインドの安全保障が強化され、ニューデリーが対中戦略に集中する余地が広がっている。同時に、制裁は中パ防衛協力全般を妨げるリスクもあり、パキスタンが中国寄りの姿勢を強める可能性もある。これは、中共の影響力を抑制しようとする米国の意図に反するものだ。中共は、パキスタンのミサイル計画を支援し、ミャンマーやアフリカの政権に武器を供給することで、地域の緊張を高め、人権侵害を助長している。米国にとって、中国軍需企業への制裁は、中共政府の影響力拡大に対抗する手段でありながら、民主主義と国際安全保障への取り組みを強化するチャンスともなっている。しかし、これらの制裁は中国製武器の品質への懸念や政治的批判と相まって、中国の武器輸出の成長をさらに鈍化させる可能性がある。

中共は、反政府勢力が支配領域を拡大し、中共の戦略的利益が脅かされる中、ミャンマーの紛争に関与を深めている。現在、反政府勢力はミャンマー国内の半分以上を掌握し、中国とミャンマー国境沿いの重要な貿易ルートもその支配下に入る。中国・ミャンマー間パイプラインや採掘プロジェクトといった投資を保護するため、中国はミャンマー政権との関係を強化。中共政府はFTC-2000G(JL-9輸出用軽戦闘攻撃機)戦闘機などの先進兵器を供給している。少数民族が住む地域への空爆が増加した。これらの武器が少数民族居住地への空爆に使用され、民間人や軍関係者に多大な被害をもたらしている。こうした行動は、ミャンマー国内での反中感情を助長した一方で、インド東部国境付近における中国の影響力を深める結果を招いている。

中共が進める戦略的プロジェクトには、「一帯一路」の一環であるチャウピュー深海港とミッソンダムが含まれる。これらのプロジェクトは、中国がインド洋へのアクセスを拡大する拠点となり、インドの地域的影響力を弱める要因となっている。一方、ミャンマーの不安定な状況は、インド北東部の開発に欠かせない「インド・ミャンマー・タイ三国間ハイウェイ」や「カラダン多目的輸送プロジェクト」といった重要な連結プロジェクトを脅かしている。これに対応するため、インドは軍事政権と少数民族双方と関係を維持する戦略を採用し、自国の利益を守ろうとしている。

中国の軍需産業は近代化を進め、低価格や柔軟な資金調達を武器に競争力を高めてきた。しかし、製品の品質に対する懸念や、人権問題を抱える政権への武器輸出に対する国際的な批判がその評判を損ねている。これらの課題に加え、激しい国際競争が影響し、中国の武器販売は伸び悩んでいる。

2023年には、ストックホルム国際平和研究所の「トップ100」企業に選ばれた中国企業9社が計1030億ドル(全世界の武器売上の16%)を売り上げたものの、業績はまちまちだった。中国航空工業集団や中国船舶集団は収益増を記録したが、中国兵器工業集団や中国航天科技集団は納品遅延や品質問題により大幅な減収を余儀なくされた。

米国は世界の武器市場で圧倒的な首位を維持しているが、中国は主要輸出国との競争に苦戦している。米国は中国の武器輸出拡大を阻止するため、中国の軍需企業に制裁を課し、中国がウクライナに武器を輸出した場合には追加制裁を科すと警告している。また、先端兵器製造に必要な高度なチップへのアクセスも制限している。

新たに発足するトランプ政権は、これらの措置をさらに強化し、追加の関税や制裁、輸出規制を導入する見込みだ。こうした措置は、中国が武器産業を支配しようとする試みや、軍事外交を通じて影響力を拡大する中共の動きを一層抑制することが期待されている。

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。
経済学者、中国経済アナリスト。上海体育学院を卒業後、上海交通大学でMBAを取得。20年以上アジアに滞在し、各種国際メディアに寄稿している。主な著作に『「一帯一路」を超える:中国のグローバル経済拡張』(Beyond the Belt and Road: China's Global Economic Expansion)や『A Short Course on the Chinese Economy』など。