霞が関ランチに「桜田門外の変」 撤退相次ぎ先輩に「お先にどうぞ」

角詠之 矢島大輔
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 東京・霞が関の中央官庁に入っていた飲食店の撤退が相次いでいる。定食屋がなくなり「桜田門外の変」とささやかれることも。午後も続く激務に備え、ランチを楽しみにしている官僚は少なくないのに、霞が関で一体なにが起きているのか。

 昼食タイムは正午から午後1時が基本で、歩いて遠くまで行く時間はない。法務省では皇居を一望できる好ロケーションにあった食堂が今年1月いっぱいで営業を終えた。

 「昔は和洋中の飲食店がそろってランチが楽しみだったのに、ついに弁当か……」

 50代の経済産業省の官僚は嘆く。三つあった食堂のうち一つは2023年3月までに閉店し、職員の共有スペースになる予定だ。ほか二つの食堂も設備更新のため25年3月末で契約がいったん終了する可能性がある(うち一つは3月~5月の大型連休ごろまでに閉店予定)。かつてスターバックスがあった喫茶スペースも業態が変わり、23年11月から珈琲も出る弁当屋になった。

 二つの食堂の22年度の利用者は月に計約2800人。経産省の担当者は「職員からも食堂を充実させてほしい、という声は寄せられている」と頭を悩ませる。

警視庁も総務省外務省

 警視庁でも食堂内の定食屋がなくなり、弁当売り場に。捜査関係者らの間で「桜田門外の変」と嘆かれた。

 警視庁のお隣で、警察庁や総務省が入る合同庁舎2号館でも、洋食の食堂が23年3月いっぱいで撤退。2度の公募を経ても埋まっていない。過去にはマクドナルドも入っていたファストフードのスペースは22年7月から空いている。

 外務省でも23年3月いっぱいでカフェが撤退した。

「暗がりランチ」に嫌気も

 ランチの選択肢は少なくなる一方で、庁舎内の食堂やコンビニには行列ができ、先輩に会ったら「お先にどうぞ」と頭を下げないといけない若手もいる。国土交通省のある官僚は「昼休みくらい自由にさせてあげたいが」とため息をつく。

 食堂不足の対策として週に数回、キッチンカーを入れ、弁当販売をする省庁も多い。ただ、省エネのため、昼休みは部屋の電気を落とす部署も多く、「暗がりランチ」に嫌気が差す職員もいる。

国有財産が無駄に」と指摘も

 「夜遅くまで働くこともあり、栄養は大事だ。おいしいものを食べて午後の仕事に備えたい」と話す別の官僚は、「国有財産を無駄にしている」とも指摘する。合同庁舎の飲食店の賃料は一般会計に入るため、空きスペースが多いと収入が減ってしまうためだ。

 財務省の担当者によると、霞が関の店舗は周辺の賃料に比べると安いという。まれなケースだが庁舎側の理由で契約を打ち切る可能性があり、3割ほどは値引かれているという。

撤退相次ぐ理由とは

 なぜ、ここまで撤退が相次いでいるのか。

 主な理由として挙がるのはセキュリティーの強化だ。以前は誰でも入れる庁舎が多かったがいまは受け付けが必要なため、客は庁舎で働く職員しかいない。土日はほとんど職員がいないため、平日しか稼げない。

 ほかにも、電気や水道代を店側が負担することになった▽出前文化の衰退▽関係者の会議で喫茶店のコーヒーよりもペットボトルのお茶を出すことが増えた――などの理由も聞こえてくる。

「勝ち組」省庁は……

 一方でランチ「勝ち組」の省庁も。文部科学省の官僚は「正直困ったことがない」と話す。同省は、官民のオフィスが入る33階建てと38階建てのツインビル「霞が関コモンゲート」内にあり、約10の飲食店を擁する。立地も虎ノ門がすぐ近く、徒歩数分の距離に飲食店街が広がっている。

 評判が良いのが一般客の利用も可能な農林水産省の食堂だ。食料自給率アップや被災地支援で、東北の食材を使うことを食堂に求めている。クジラ料理が食べられる食堂も入る。「国民にも職員にも、良さを発信できる場になればと思っております」と担当者は話している。

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この記事を書いた人
角詠之
東京社会部|国土交通省担当
専門・関心分野
運輸行政、事件事故、高校野球
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    辻田真佐憲
    (評論家・近現代史研究者)
    2024年3月14日11時19分 投稿
    【視点】

    霞が関や永田町は食べるところが本当に少ないですね。国会に隣接する国会図書館は調査のためによく行きますが、食事はもっぱら館内の食堂やレストランです。もし外に出て食べるとなると、かなりの距離を歩かないといけません。いちいち入退館のために荷物をロ

    …続きを読む