LINEのマルハラ、漫画が影響? 句読点研究の調査と異質な出版社
LINEの文章で若者が文末の句点「。」に圧力を感じるという「マルハラスメント」が話題となっている。「今時の若者は…」「正しい日本語は…」といった反論も飛び交うが、句読点や符号を研究する筑波大の岩崎拓也助教は「学生もメールやX(旧ツイッター)などでは普通に句読点を使っている。LINEなどのチャットツールは漫画のような吹き出しで文章を表示しているのが要因では」と話す。
漫画では、吹き出しでの囲みが文章の区切りを意味するため、吹き出し内の文字には句読点を使わないのが一般的だ。文末には「!」「!?」や「…」を多用し、長文の時は改行を入れたり吹き出しを複数に分けたりする。これは若者のLINE文章と共通する点が多い。
実際、岩崎助教が少年漫画誌での句読点の使われ方を調べたところ、「週刊少年ジャンプ」(2023年2号)では掲載21作品中で句点を使用したのは1作品で4回のみ。読点は使用例がなかった。「週刊少年マガジン」(同年2・3合併号)も掲載26作品中で句点は1作品38回、読点は1作品12回と大半のマンガで句読点を使っていなかった。
例外的だったのは「週刊少年サンデー」(同年2・3合併号)で、掲載25作品中で句点は24作品996回、読点は24作品474回と圧倒的な数で使われていた。
版元の小学館は、小学生向けの学習雑誌から創業した歴史を持つ。月刊誌「小学一年生」の明石修一編集長は「句読点について社内で明文化されたルールがあるわけではないが、先輩から引き継がれてきた。漫画も国語的な読み物として、句読点の使い方を学んでもらう狙いで続いてきたのだろう」と話す。
その一方で「エンタメ作品として見た場合、漫画は会話劇なので、句読点があると作品の流れやスピード感を損なう場合があると感じる」とも。このため「LINEの会話型のやりとりは漫画に近いので、句読点がない方がなじむという人たちの感覚も分かる」と話す。
ルールがあるわけではないので、情緒的な会話の流れを大事にする少女漫画では句読点を使わないことが多いなど、作品によって使用の使い分けがなされているという。
岩崎助教、明石編集長とも、句読点を使わない文化には理解を示す一方で、「ハラスメント」との捉え方には違和感を示す。
岩崎助教は「区切りを示す符号が、必要ないのになぜあるのかと深読みされ感情を示す符号に誤読されてしまった世代間ギャップの問題にすぎない。使ってはいけないという考えにまでなるのは少し怖い」。
明石編集長は「句読点の成り立ちは文を読みやすくするという配慮から。思いやり由来だった用法がハラスメントとなるのは国語文化の観点から考えると疑問に思う」と話す。