近頃よく会うてごわい言葉 永井玲衣がほぐす「迷惑をかけなければ」

有料記事カルチャー・対話

哲学者・永井玲衣=寄稿
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Re:Ron連載「問いでつながる」第3回

 再会というものは多くの場合うれしいものだが、あまりに巡り合うとなると、戸惑いをおぼえることもある。相手はひとではない。言葉である。あるいは一定の思想といってもいい。とりわけ学生の口からこぼれることが多く、それははっきりと発音される。

 「他人に迷惑をかけなければ、いいと思う」

 この言葉には先週も会ったし、先月も会った。あっちでも会ったし、ここでもまた会うことになった。自由とは何かというような大きく抽象的なテーマについて話しているときも、表現のあり方について話しているときも、具体的な時事問題について話しているときも、「迷惑をかけなければ」というフレーズがたびたび顔を出す。

 戸惑いをおぼえる理由はふたつある。ひとつは、地域を問わず、特に中学や高校で巡り合うこと。もうひとつは、それがまるでこの世の真理のごとく提起されること。これが結論であり、疑いようのない正解なのだと持ち出されることだ。

 そのたびごとにわたしは、またお前かと座りなおす。集中しなければならない。こいつはなかなかてごわいのをわたしは知っている。小さく無害なように見えて、するりと身体に入り込み、内側から食い破る力を持っている。気をつけなければならない。

 迷惑をかけなければよい、という判断は、迷惑をかけることは悪い、という前提を持っている。たしかに「迷惑」という言葉は、「申し訳ありません」という謝罪の言葉とセットである。だが一方で、わたしたちは毎日のように「ご迷惑をおかけして」という響きを聞き取っている。耳元にずっと、乗っかっている。

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    平尾剛
    (スポーツ教育学者・元ラグビー日本代表)
    2023年10月30日22時44分 投稿
    【視点】

    心がズキズキする記事である。思い当たる節がありすぎて。 つい先日も、家族でスーパーで買い物に行ったとき、レジの方の態度がいささか無愛想で、こちらの問いかけに対してまるで機械のような返答の仕方をふと「不快」に感じた。妻も私も当然のように

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    中川文如
    (朝日新聞コンテンツ編成本部次長)
    2023年10月10日11時30分 投稿
    【視点】

    「ご迷惑をおかけして恐縮です」 「ご迷惑をおかけして申し訳ないのですが、よろしくお願いいたします」 仕事のメールで、そんなフレーズを頻繁に使ってしまう不肖・私です。迷惑を解きほぐす永井玲衣さんの論考を拝読し、パチンと頰をたたかれ気持ちに

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対話を通じて「論」を深め合う。論考やインタビューなど様々な言葉を通して世界を広げる。そんな場をRe:Ronはめざします。[もっと見る]