無条件降伏が残した米国の「不幸」 日本研究の大家が語る歴史の因果

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シアトル=青山直篤
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 トランプ前政権下の日米交渉を取材し、トランプ米前大統領の主張が一面で真理を突いていると思うことがあった。日本が米国にあまりに依存してきた点だ。真珠湾攻撃から80年の冬。日本研究の大家ケネス・パイルさんに、いびつな関係の起源を尋ねた。

 Kenneth B. Pyle ワシントン大学名誉教授。1936年生まれ。ジョンズ・ホプキンス大学で博士号を取り、60~70年代に日本に滞在。明治日本の研究から出発し、より最近の日本の動きにも関心を広げてきた。米国を代表する日本研究者として99年に勲三等旭日中綬章、2008年に国際交流基金賞を受ける。主著に「欧化と国粋」「アメリカの世紀と日本」があり、現在、広島についての本を執筆中。

いびつな日米関係の始まり

 2018年3月22日、トランプ氏は、制裁関税による「貿易戦争」の幕開けを告げた演説で、日本にも言及した。

 「日本の安倍首相などとも話す。きっと笑っている。『こんなに長く米国(の甘さ)に付け込めていたのが信じられない』と。その時代はもう終わった」

 まず、米国が安全保障や貿易で「同盟国に食い物にされてきた」と被害者の立場にたつ。その上で自動車関税などの「脅し」を突きつけて譲歩を迫る。トランプ流交渉術の基本型だ。

 もちろん、米国は被害者どころか、在日米軍基地などを通じて多大な戦略的利益を得てきた。ただ、日本が安全保障や経済の面で米国に深く依存していることも否定できない事実で、トランプ氏はそこを突いた。何がこの構造を生んだのだろう。

 「戦後日米関係を理解する上で最も決定的な要素は(日米開戦時の米大統領)ルーズベルトの『無条件降伏』政策でした」。60年以上、日本の近代について研究してきたパイルさんはそんな結論に達したという。

 第2次世界大戦でドイツや日本に求めた無条件降伏は、米国の対外戦争で前例のない極端な政策だった。敵国政府との講和交渉を拒み、存在の抹消そのものを目的とする。「ヒトラーとナチズムの悪には妥協できなかったでしょうが、日本とは妥協できたはず。1944年7月のサイパン島陥落後は、日米とも日本の敗戦を認識していた。それでも戦い続けたのです」

 なぜ無条件降伏を追求したの…

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この記事を書いた人
青山直篤
国際報道部次長|米州・国連担当
専門・関心分野
国際政治・経済、グローバル化と民主主義、日米関係、歴史と文学