五輪の経済効果、強気の試算32兆円のはずが 都の再検証は「未定」
東京五輪・パラリンピックで期待された「経済波及効果」は、どれだけもたらされたのか。東京都は32兆円と試算して恩恵を強調してきたが、閉幕後の検証は「未定」だという。想定外だったコロナ禍の影響も踏まえ、改めて示し直すべきだとの声が出ている。
経済波及効果とは、総務省のホームページによると「国や地域に経済的なプラスがどのくらいあるかをシミュレートし、金額で示したもの」。大会が閉幕して10日以上がすぎた。経済的なプラスについて街の実感はどうか。
東京・銀座。アルバイト帰りの大学生の女性(22)は「五輪中も閑散としていた。ホテルが次々オープンしたけど、大丈夫かな」。苦い顔で見渡した銀座の街に、訪日客があふれていた頃のにぎわいはない。
銀座から直線で4キロほど。有明アリーナなどの競技会場が集中した江東区のベイエリアのそばに、旅館「Ryokan 結々(ゆゆ) Tokyo」はある。代表の古里彰康さん(53)は「五輪の経済効果はゼロですね」とぼやく。
2019年10月に開業。場所の決め手は経済効果への期待だった。「有明の4会場に15分圏内」を触れ込みに、大会客や、その後のにぎわいにかけた。しかし、コロナ禍で大会は原則無観客となり、関係の予約もすべてキャンセルに。「国が音頭をとった観光政策に協力したという思いもある。国のせいとは言わないが、乗せられた面はある」
そんな本音は胸にしまい、感染対策を万全にして客足が戻るまでしのぐ考えだが、来夏に始まる「コロナ融資」の返済に耐えられるか、不安は残る。
「直接的な需要」と「将来にわたる経済への好影響」
そもそも五輪の経済効果はどれくらいだとみられてきたのか。
三菱総合研究所は14年に11兆円、みずほフィナンシャルグループは17年に30兆円と試算するなど、恩恵への期待は膨らんでいた。
副次的な影響の推計方法や期間の取り方など、とらえ方により幅があるが、注目されたのが都による17年の試算だ。その額32兆円。大会開催への賛否があるなか、恩恵を強調するような強気な数字は、二つの要素から構成されていた。
ひとつは「直接的な需要」だ。建設費や運営費、観客の消費などがこれに当たる。工事では建設業者だけでなく、コンクリート業者などの売り上げも増えるという「風が吹けば桶屋(おけや)が儲(もう)かる」の理屈を積み上げ、関連産業への波及も合わせ5・2兆円とされた。
もうひとつが「将来にわたる経済への好影響」で、「レガシー効果」と呼ばれる。27・1兆円を見込み、うち約20兆円は、選手村の後利用や観光需要、「国際ビジネス拠点の形成」などによるものと試算された。
だが「予期しようのないコロナ禍で、状況は一変した」(政府関係者)。
大和総研の神田慶司氏は「仕方がないことだが、レガシー効果は想定の2~3割にとどまる可能性がある」と指摘し、最大の要因は訪日客が来なくなったことだとする。実際、19年の訪日旅行者は過去最多の3188万人で、20年には4千万人に達し、消費額は8兆円になると期待されていたが、泡と消え、回復は見通せていない。
都「どれくらいの効果があるか把握しようがない」
開催が1年延期され、競技会場が原則無観客となった影響を織り込んだ経済効果は結局どうだったのか。
都の担当者は取材に対し、「…
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- 【視点】
そもそも五輪の経済波及効果は長期的にみた時に、どうなのでしょうか。 夏季と冬季の違いはありますが、一例として、1998年長野冬季五輪後の長野の暮らしをみてみます。 まず、1997年に北陸新幹線が長野まで開通したことや道路が整備され
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