「No.1調査しませんか」は景表法違反なの? 広告主が知っておきたい不当な「No.1表示」の実態
近年、商品やサービスを不当に「満足度No.1」などと宣伝する「No.1表示」に対して、行政処分が相次いでいる。景品表示法違反として摘発された広告主は、消費者庁によって社名が公表され、企業やブランドの信頼失墜へとつながる。
そもそも「No.1調査」なんて調査サービスはありません。安価な金額(30~40万)で、「No.1調査」の営業をかけられたら疑う必要があります。
仮に、不当表示を行った場合、現行法ではペナルティの対象は広告主に限定されており、不公正な調査を実施した調査会社や広告表現を立案した広告代理店は罰せられません(JMRA:一ノ瀬氏・小林氏)
不当な「No.1表示」を防ぐために、広告主が知っておくべき正しい知識とは何か。日本マーケティング・リサーチ協会(JMRA)の広告表示問題専門委員会委員長である一ノ瀬裕幸氏、同じくJMRAの事務局長の小林恵一氏にお話を伺った。
日本人は「No.1」に弱い? JMRAに聞きに行ってみた
2024年9月26日、消費者庁は「No.1表示に関する実態調査報告書」を発表した。その背景には、2022年にJMRAが「非公正な『No.1調査』への抗議状」という声明を出したことがあるが、そもそもJMRAとはどのような組織なのだろうか。
JMRAは、1975年に設立されたマーケティング・リサーチ業の団体。日本のマーケティング・リサーチ専門会社が集まり、マーケティング・リサーチの健全な発展と普及、倫理の確立を目指す。
非営利徹底型の一般社団法人(経済産業省 文化創造産業課所管)として、また「市場・世論・社会調査業(日本標準産業分類:3923)」の国際的な品質管理基準である「ISO(JIS Y) 20252」の国内審議団体として、マーケティング・リサーチ業界の健全な発展に努めている。
(JMRAホームページ参照:https://www.jmra-net.or.jp/aboutus/jmra/)
マーケティングリサーチとは、さまざまな商品やサービスに関して、消費者が必要としているものを正しく届けられているかをチェックすることです。効果検証をして、調査に落とし込み、施策を練り直す。そういった企業のPDCAサイクルに、マーケティングリサーチが組み込まれています(小林氏)
本来、マーケティングリサーチはPDCAにおける「Check(チェック)」の役割を担うものだが、「No.1表示」はその調査結果自体を広告・宣伝に利用しようとするものだと小林氏は語る。
日本人って「No.1」という言葉に弱いんです。諸外国と比べてみても、「No.1」の表記がこれだけ購買行動に影響する国は、日本だけなんですよ(小林氏)
消費者庁の調査によると、新商品を購入する際に「No.1」という表示がどの程度意思決定に影響するかについて、約5割の人が「かなり影響する」または「やや影響する」と回答したという。
合理的な根拠のないイメージ調査による「No.1表示」が氾濫
年々増加している。「非公正な『No.1調査』への抗議状」の公表に至った背景には、そうした怪しげな広告表示がインターネット上に蔓延り、日本広告審査機構(JARO)やJMRAに多くの疑問や苦情が寄せられるようになったという経緯があった。
オンライン調査が従来と比べて安価に利用できるようになったことで、正確なスクリーニングや絞り込みをしない“調査会社もどき”が増え、合理的な根拠のない「満足度No.1」などの広告表示が目立つようになりました(一ノ瀬氏)
そうして2019年以降、「イメージ調査」を根拠とした「No.1」広告は優良誤認を与える不当表示であるとして、埼玉県や消費者庁から措置命令が出されるようになった。
イメージ調査
調査対象の商品・サービスや競合商品のウェブサイトを見た際の印象(イメージ)に基づき、「顧客満足度が高いと思うものを選んでください」などといったアンケートをする調査。売上額などの客観的な指標がなく、調査結果は恣意的かつ安易なものとなる可能性が高い。
No.1調査の典型的な例として、必ず選択肢の1番上にクライアント(広告主)が表示されるようにして、回答を誘導するという手口があります。そういった場合、競合他社は数行下に配置し、有名な企業はスクロールしないと見られないような場所に置かれることが多いです。
調査対象者の多くは謝礼のインセンティブを目的に回答しており、1つ1つの項目を確認しようとはしません。調査内容に関連の薄い人々が対象者になっていることもあります。そうなると、人はとりあえず1番上にある選択肢を選ぶという行動をとることが多いのです。これは心理学的にも証明されていることです(一ノ瀬氏)
真っ当な調査会社であれば、選択肢はランダムに配置され、スクリーニングによって実購入顧客の絞り込みも行われる。費用としては100万〜300万ほどかかるのが一般的だ。しかし、悪質な調査会社では「No.1」に見せかけるためのフォーマットがすでにできあがっているので、わずか30万〜40万程度で発注できてしまう。
このような悪質な企業に騙されやすいのは、主に地方の広告主や中堅・中小企業です。首都圏の大企業はNo.1調査の勧誘をされても、コンプライアンス上実施できないことも多いです。一方で、「安価な調査費用で、自社のNo.1を見つけてくれるならぜひ調査したい」という地方や中小企業は狙われやすく、被害が拡大しています(小林氏)
「顧客満足度No.1」は景表法違反? 消費者庁が報告書を発表
では、今回消費者庁が発表した「No.1表示に関する実態調査報告書」は、どのような内容なのだろうか。一ノ瀬氏によると、この報告書では「顧客満足度No.1」や「コストパフォーマンスが良い」などの表示が合理的な根拠に基づいていない場合、「景品表示法に違反するおそれがあるということ」が改めて明確に示されたという。
「違反するおそれがある」=「限りなく黒に近い」とご理解いただければと思います(一ノ瀬氏)
この調査により明らかになったことは、主に以下の3点だ。
「No.1表示」は消費者の主観的評価に基づくものが多い
No.1表示では、「顧客満足度」「品質満足度」「コスパ満足度」など、商品に満足したことを示すフレーズが最も多い。また、高評価%表示では「医師の○%が推奨」といった、専門家が商品を勧めていることを示すものが最多で、いずれも根拠としては不十分な場合が多い。「No.1表示」「高評価%表示」が購入の意思決定に与える影響は大きい
消費者1,000人に対するウェブアンケート調査によると、新商品等を購入する際にNo.1表示が「かなり」または「やや」影響すると答えた人は、合計で約5割に達した。広告主側の認識不足
No.1表示の目的や経緯について、広告主にヒアリングを実施したところ、「他社もやっているから」「調査会社の説明を鵜呑みにしていた」などの理由が多く挙げられた。調査内容を自ら確認することなく、法的に問題がないものと結論づけてしまっている。
そして、「No.1」や「高評価%」の表示を行う場合、景品表示法に抵触せずに「合理的な根拠である」と認められるには、以下の4点を満たすことが必要だ。
比較対象となる商品、サービスが適切に選定されていること
「No.1」を訴求する以上、原則として、主要な競合商品・サービスを比較対象とする必要がある。調査対象者が適切に選定されていること
表示内容から認識される調査対象者を正しく選定する必要がある。調査が公平な方法で実施されていること
恣意的な調査とならないように注意する必要がある。表示内容と調査結果が適切に対応していること
消費者庁が問題視しているのは、たとえばその商品・サービスを利用したことがない人を含めてウェブサイトを閲覧させ、「イメージ」だけを聴取して「満足度No.1」などをうたうといったものです。
高評価表示についても同様です。「医師の90%が推奨する」などの表記は、実際に医師の診療科と一致しているなど、商品・サービスを評価するに当たって必要な専門的知見と対応していなければなりません(一ノ瀬氏)
これらの事例については、すでに多数の措置命令が出されており、違法であることが明確にされているという。
実際に行政処分を受けて社会的信用を失い、倒産してしまったというケースもあります。一方で、処分を受けたにもかかわらず、社名や代表者、電話番号だけを変え、同様の事業を繰り返す企業もあり、問題は深刻化しています(一ノ瀬氏)
調査会社に丸投げは危険! 広告主に課される3つのペナルティ
では、不当表示を行った広告主に対しては、景品表示法上どのようなペナルティが与えられるのだろうか。一ノ瀬氏、小林氏によると、以下のように3段階に分けて行政処分や刑事罰が下されるという。
措置命令
違反行為を止めるよう命じる(強制力あり)とともに、消費者に対して発信した誤情報を正すための訂正広告を行うことが求められる。課徴金の納付命令
不当表示によって広告主が不当な利益を得たと認定された場合には、課徴金の支払いが命じられることがある(違反期間中の売上高の最大3%。過去10年以内に同種の課徴金納付命令を受けている場合には最大4.5%)。刑事罰
さらに悪質な場合は刑事罰が科される(法人の場合、最悪3億円以下の罰金)。
これらの違反情報は一般に公表されるため、前述の通り、企業の信用失墜やブランド価値の毀損につながると一ノ瀬氏は指摘する。
なお、現行法ではペナルティの対象は広告主に限定されており、不公正な調査を実施した調査会社や広告表現を立案した広告代理店は罰せられません。広告主には、こうした業務委託先に対する管理監督責任があると定められています。そのため、私たちも広告主に対して繰り返し注意喚起を行っています(一ノ瀬氏)
しかし、今回の調査によると、15社中14社の広告主が「調査会社に調査を丸投げしており、質問内容等は一切確認していなかった」という報告が上がっています(小林氏)
景表法違反にならないために? 正しい広告表示のポイント
こうした不当なNo.1表示が行われる背景には、「競合もやっているから」「見劣りしないために」といった広告主側の動機がある。悪質な調査会社やコンサルティング会社は、そのような広告主に対し、安価なプランで勧誘や提案を持ちかけてくる。
では、信頼できる調査会社や広告会社を選ぶにはどうすればよいか。重要なのは、まずJMRAなどの信頼性のある団体に所属しているかを確認することだ。加えて、景品表示法に基づく正しい「No.1表示」のポイントとして、以下の2つが挙げられた。
①「30~40万円」は安すぎ! 費用内訳を精査する
前述の通り、正規の「ランキング調査」によって明確な根拠のある「No.1」の結果を出すためには、少なくとも100万円単位の費用がかかる。数万人単位のスクリーニング調査を実施し、数百人単位の商品・サービス利用者に本調査をかけた上で、統計的に有意な値であるかの検証を行わなければならない。
したがって、「30~40万円」程度の費用提示を受けた際には必ず疑ってかかり、その費用内訳を精査することが必要だ。「法律に則ってやっています」とのセールストークに惑わされず、裏を取ることをおすすめすると一ノ瀬氏は語る。
②「No.1調査をしませんか」「No.1が取れなかったら全額返金」に要注意
また、「No.1調査をしませんか」「No.1が取れなかったら費用はいただきません」といった勧誘に、安易に乗らないことも重要だ。中には、「弊社は調査結果を提供するだけで、その結果については責任を負いません」といった逃げ道を最初から用意し、契約書に盛り込んでいる企業も存在する。
そもそも「No.1調査」なんて調査サービスはありません。「真っ当なランキング調査を実施した上で、その結果が1位だったら、マーケティング活動の勲章としてお祝いしましょう、宣伝にも使わせてもらいましょう」というのが本筋であるということをご理解ください(一ノ瀬氏)
公正なマーケティングリサーチの実現に向けて
不当表示を行ってしまった広告主は大きなダメージを受けるが、消費者にとっても問題は深刻だ。「誤った商品選択を促されることで不利益を被るだけでなく、“真っ当な調査の価値”が損なわれてしまう」と一ノ瀬氏は警鐘を鳴らす。
消費者における「No.1表示」の懸念点
市場調査そのものへの不信感
本来、市場調査は消費者の声を新商品の開発や既存商品の改良に活かし、より良い消費生活に貢献するためのものだ。しかし、不当なNo.1表示によって「調査なんていい加減なものだ」「調査結果を信用できない」という不信感が生まれると、健全な企業活動が成り立たなくなってしまう。公正なランキング調査への回答を妨げる
悪質なイメージ調査は、質問項目が少なく、手軽に回答できるものがほとんどだ。謝礼ポイント目当ての簡単なアンケートに慣れてしまった調査対象者は、本来あるべき公正かつ詳細な調査に対して拒否反応を示してしまう。
最後に、「景表法違反に対する責任は全て広告主が負うことになっている」と再度強調した。
不当表示をしてしまい、社会的制裁を受けた後になって「騙された」と嘆いても、誰も助けてはくれません。まずは信用のおける調査会社や広告会社を選定するとともに、管理・監督の仕組みを社内に作っておくことが大切です。中小企業でそれだけのコンプライアンス体制を整備できない場合には、経営者の方が必ず最終確認を行うことをおすすめします(一ノ瀬氏)
繰り返しますが、“No.1調査”と営業をかけられたら、まずは疑ってください。重要なのは、きちんとした調査を行って、商品の改善や開発に落とし込み、消費者にベネフィットとして還元すること。そうした努力の結果として「No.1」があります。「No.1調査」という安易な言葉に踊らされず、本質を見極めてほしいです(小林氏)
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