[特別インタビュー]世界最大級のCGM「ウィキペディア」の仕掛け人ジミー・ウェールズ

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特別インタビュー

ジミー・ウェールズ(Jimmy Wales)
世界最大級のCGM「ウィキペディア」の仕掛け人

共同作業ツール「ウィキ」(Wiki)を利用してつくられた、インターネット上の百科事典「ウィキペディア」(Wikipedia)は、英語ですでに142万項目以上の語句が掲載され、ドイツ語、フランス語、日本語、中国語など約150か国語のバージョンがある。内容をユーザーが自由に作成/編集できるため、その正確性に疑問を持たれることもあるが、多くの人々の貢献によって成長を続けている。

ユーザー参加型システムの成功例として語られることも多いウィキペディアについて、その可能性や課題、コミュニティの活動などを、創設者であるジミー・ウェールズ氏に聞いた。

瀧口範子(Noriko Takiguchi)
写真:Rick English

利用ガイドライン自体もコミュニティでつくり出す

Jimmy Wales

●瀧口 ウィキペディアは、開始からたった6年足らずでこれだけ大きなプラットフォームに拡大したわけですが、この成功の裏にはコミュニティをどう運営していくかという方法論があったと思います。ウィキペディアのサイトを見ると、ユーザー間の意見の不一致を調整するたくさんのガイドラインやルールが掲載されていますね。

●ウェールズ ガイドラインやルールは、いくつかの基本原則を除いて徐々に確立していったものです。しかも、コミュニティ自身によって時間をかけて常に変更やアップデートが加えられています。

●瀧口 ガイドラインやルールもウィキでつくられるオープンなものですね。

●ウェールズ ほとんどはそうです。ただし、新しいユーザーがいきなり現れてルールをすっかり書き換えようとしても、それはうまくいきません。コミュニティがそのページをいつも見ていて、どんな小さな更新もキャッチするからです。もちろん誰かが加えた変更の中にコミュニティのみなが一瞬にして優れた英知を見い出したら、それは認められるでしょう。しかしたいていは、変更までにはかなりの時間とやりとりがあります。

●瀧口 ガイドラインやルールの中で、特に重要だと思われるのはなんですか。

●ウェールズ 「中立性」は創設した当初に私がつくったポリシーですが、これはコミュニティを建設するためには重要な要素です。意見の異なる幅広い人々が共同作業を進めることを可能にするからです。ウィキペディアが開放されたものになったのは、このポリシーがあったからです。もう1つは、「ルールなんか無視してしまえ」というルールです。これもかなり初期につくられたものです。よく誤解されるのですが、その真意は、善意と思慮深い気持ちを持ってウィキペディアにやってきた新しいユーザーなら、ここでのルールが何なのかを自然に感じられるようにすべきだということです。そもそもルールは、「そういうことはやるな。ほら、ここにみんなが長い間話し合ってつくったルールがあるぞ」と、指し示す場合にだけ必要だということです。

●瀧口 意見の不一致があった場合、ユーザーはまずその語句からリンクされた「トーク」ページで話し合い、それでだめなら他のユーザーが介入したり、広くサーベイを行ったりし、それでもなお結論が出ない場合は「調停委員会」が発動しますね。これは最後の手段ですか。

●ウェールズ そうです。特定のユーザーのふるまいや議論が仲裁などでもうまく解決できず、もっと強硬な手段が必要になった場合、それを報告するページがあります。報告があると委員会の15人のメンバーにメールが入り、難しいケースをこのメーリングリストで話し合うことになります。私自身が関わっているのは、この部分です。私の立場は委員会へのアドバイザーですが、調停委員会自体も結論が出せずにいるようなもっとも興味深いケースには、特に関わりたいと考えています。創設以来、いろいろなケースに遭遇してきたので、その古い知恵を伝授することができますから。

細かいルールづくりは自然発生的に行われる

●瀧口 そもそもルールは最初にきっちり決まっているよりも、学習プロセスとして発展していく方がいいのでしょうか。

●ウェールズ そう思います。幼稚園のような基本的な原則、つまり「お互いに親切にしましょう」とか「相手を尊敬しましょう」といった非常にシンプルなことは最初に定めるべきです。それ以上に細かいものをつくると、かえって争いの種を蒔くようなことになってしまいます。おもしろい例は「3回戻し」ルールで、ユーザーたち自身が「僕は3回戻しルールでやる」とか「私は1回」「私は0回」と、自分たちで言い出してできたものです。「戻し」というのは前のバージョンに戻すことで、誰かが入れた編集を意味のないものだと決めつける行為です。たいていのユーザーは誠意を持って編集し、変更を加えています。ですから、もしその変更が気に入らないのなら、元に戻してそれを無効にするのではなく、さらに変更を加えればいいのです。そうして編集を加えた人の行為を尊重すべきなのです。

Wikipedia
インターネット上のフリー百科事典「ウィキペディア」は、ユーザーの手によって多くの言語版が公開されている(画像は日本語版)。
http://ja.wikipedia.org/

戻し自体よりもタチが悪いのは「戻し合戦」です。戻しを2人の間で永遠にやり合う。コミュニティにとってこれは何の役にも立ちませんから、そうした争いは「トークページ」に行って、両者が納得するような表現は何かを話し合ってもらいます。特に重要な語句になると、相手の我慢の緒が切れるまで挑戦を挑むようなユーザーも出てきますから、あるところで「3回戻したら、もう十分だろう」と言うようになったのです。


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