小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「なぜBBCだけが伝えられるのか」(光文社新書)、既刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)など。


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ブラウン英内閣改造:え、マンデルソンが?

 「ニュー・レーバー」と言えばこの人。元祖スピン・ドクターの一人、ピーター・マンデルソン(現在EUの通商担当委員)が英政権に戻ってくる。現在改造作業が続くブラウン内閣に、ビジネス大臣として入ることになったのだ。あっと驚きの人事である。ブラウン首相とマンデルソンは犬猿の仲と言われているからだ。

 労働党がまだ野党だったころ、マンデルソンはもともとはブラウンに近い人物だった。1994年、ジョン・スミス労働党首が死去すると、党首選への立候補を逡巡していたブラウンからブレアへと支持をスイッチ。マンデルソンからの支持が続くと思っていたらしいブラウンはこれを機にマンデルソンを嫌いになったと言われている。1997年、ブレア党首で労働党は総選挙に勝ち、18年間の在野生活を終わらせた。

 元ロンドン・ウイークエンドテレビ(今はITV1の一部)のプロデューサーだったマンデルソンは、「見せること」、プレゼンテーションに主眼を置いてニューレイバーを国民に印象付け、一部では「ダーク・アーツのプリンス」とも言われた。彼に関しては嘘か本当か見分けがつかないさまざまなエピソードが残っている。メディアを囲い込んで・抱きこんでのニューレイバーの戦略についても、これまでにかなりの本が書かれている。

 ブレア政権時代に2回内閣入りしているが、どちらの場合も最後まで職を全うせずに、辞職する羽目に陥っている。ブレアにはたいそう気に入られており、マンデルソンがメディアに出ても、歯の浮くようなブレア賞賛が多い(なので、私は思わずテレビのスイッチを切ってしまう)。前にロンドンの外国プレス協会にマンデルソンが来た。すらっとした長身の男性で、顔が青白く、ちょっと歌舞伎の女形みたいな感じもした。

 ブレアが辞任前にマンデルソンをEU委員としてブリュッセルに飛ばしたのは「最後の愛情」のようで、相思相愛だったとも言えよう。

 そんなマンデルソンがブラウン内閣に入るとは。よっぽど「国民に良い印象を与える」ことが緊急の課題となっているのだろうか。表向きは、「国際ビジネスの経験を内閣に」と言うのが理由のようだ。

 一体何が起きているのか?に関しては、BBCの政治記者ニック・ロビンソンのブログも参考になる。ロビンソン記者はブラウンへの単独取材も何度かしており、熱心なブラウン・ウオッチャーの一人だ。

http://www.bbc.co.uk/blogs/nickrobinson/

 彼の読みによれば、マンデルソンを内閣に入れるのは、ブラウンから、労働党内反乱勢力へのメッセージでもある。つまり、「かつての敵さえが、今はブラウンの味方なのだから。君もそろそろ支持に回ったら?」というメッセージを伝えたいのだそうだ。

 ニューレイバーを作ったブラウン、マンデルソン、ブレア(ブラウンは定期的にブレアと話す機会を作っているそうだ)、もう一人のスピンドクター、アリステア・キャンベルは、かつての対立を水に流し、また一緒に働くことができるようになった、とロビンソンは書いている。
by polimediauk | 2008-10-03 22:42 | 政治とメディア