英ハロッズの元オーナー、アルファイド氏に大規模性加害疑惑 250人以上の元女性従業員が被害を訴える
(「英国ニュースダイジェスト」掲載の筆者コラムに補足しました。)
ロンドンの超有名百貨店といえば、真っ先に名前が挙がるのがハロッズです。ここの元オーナー、モハメド・アルファイド氏が長年にわたって何人もの女性従業員に性的暴行を加えていた疑惑が報道されています。
同氏は昨年8月、94歳で亡くなりましたが、今年9月末、英BBCが調査報道番組「パノラマ」の枠で「アルファイド ハロッズの捕食者」を放送し、20人以上の元従業員がアルファイド氏からレイプを含む性的暴行を受けたことを暴露しました。
日本の芸能事務所大手、旧ジャニーズ事務所の創業者である故ジャニー喜多川氏による性加害、BBC番組司会者の故ジミー・サヴィルによる性的虐待事件をほうふつとさせますね。
BBCの番組が暴露したこと
エジプト出身の実業家で富豪のアルファイド氏がハロッズを買収し、会長に就任したのは1985年です。
BBCの調べによると、同氏は何十年にもわたって所有者兼会長という立場を利用し、ハロッズの女性従業員らにレイプを含む性的な関係を強要したそうです。女性の中には未成年者もいました。
番組はアルファイド氏が特定の女性従業員に目を付け、パーク・アベニューにあった同氏の邸宅に「かばんを運ぶ」などの用事で向かわせ、邸宅内で性加害行為に及んだと報道しました。しかもその前には医師にデリケートな部分を含む「身体検査」をしてもらい、その女性が性病に感染していないかどうかを確認していたそうです。アルファイド氏の邸宅に行くように女性たちに指示を出したのは同氏の個人秘書たちでした。
アルファイド氏は警備員らに囲まれて移動するのが常でしたので、女性たちの行き来を警備員らは見ていましたが、警戒の声を上げることはありませんでした。加害行為が組織的に行われていたといえるのではないでしょうか。
米雑誌が報道していたが・・・
1995年、米雑誌「ヴァニティ・フェア」がアルファイド氏による人種差別的言動や性的な不正行為を暴露する記事を出すと、アルファイド氏側は名誉棄損で訴えます。
このころには同氏の息子ドディ氏がダイアナ元皇太子妃と親しくなり、父親として鼻高々の様子がドラマ「ザ・クラウン」で描かれていましたね。
1997年、アルファイド氏はサッカーのフラムFCを買収し、知名度がさらに上がるなか、同年5月、「ヴァニティ・フェア」誌の親会社コンデ・ナスト社と和解に合意します。
8月末、ドディ氏とダイアナ元妃がパリで交通事故で亡くなると、「悲しみに打ちひしがれた父親」として人々の同情を誘いました。
アルファイド氏は2010年にハロッズを、13年にはフラムFCを巨額で売却します。
その前後にはアルファイド氏の性加害について元従業員らがメディアに話し、これが記事化されるあるいは番組化されたことがあります。ロンドン警視庁が検察に数回、相談したそうですが、訴追には至りませんでした。
「親がどこに住んでいるか知っているぞ」
BBCによると、元従業員らがアルファイド氏の加害行為を生前に告発することができなかったのは、解雇を恐れ、同氏の影響力の大きさにちゅうちょしたからでした。そして、最も大きな要素は恐怖心でした。「電話を盗聴している」と告げられ、ほかの女性たちと被害について話すことははばかられました。
「ヴァニティ・フェア」誌に体験を語った女性はアルファイドの警備員から電話をもらい、女性がもしメディアに暴露を続けるなら、「親がどこに住んでいるか、こちらは知っている」と言われ、凍り付くような思いをしたそうです。
ハロッズはアルファイド氏からカタール投資庁に売却されています。新所有者は昨年7月から、犠牲者として申し出た人に補償金を支払ってきましたが、BBCの番組放送後、新たに声を上げる元従業員が続々と出てきました。
ハロッズはBBCに対し、10月中旬時点で約250人の元女性従業員と補償の話を進めていると述べています。旧ハロッズで加害行為に協力した人物の責任が問われるべきではないでしょうか。当時のことを知っていた人、見て見ぬふりをしていた人がたくさんいたのではないでしょうか。
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Mohamed Al Fayed(モハメド・アルファイド)
1929年、エジプトのアレキサンドリア生まれ。貿易会社経営などで富を増やした。1979年、仏リッツ・ホテルを手中にし、85年ハロッズを買収。英国籍取得を試みるも実現せず。97年、息子ドディ氏がダイアナ元妃とパリで亡くなると、2人は王室を指すと思われる「エスタブリッシュメント」に殺害されたと主張した。2023年、老衰で死亡。