BBCで幹部辞任 英王室「王冠事件」で
明日の英各紙の1面に、BBCの話が出ることが確実だ。
7月に発覚した、「王冠事件」に関する調査報告書が発表され、BBC1(NHKの第1放送のような)というチャンネルのコントローラー〔放映内容の管理をする〕が、辞任となったからだ。
王冠事件とは、エリザベス女王の一日を紹介する番組の予告ビデオを巡る事件だ。女王が著名女流写真家に写真を撮ってもらおうとしている場面があった。写真家は、女王に「王冠を取られたほうが・・・」と提言する。この後直ぐに、女王が廊下を文句を言いながら急ぎ足で歩く場面がつながっていた。まるで写真家に気分を害することを言われて、女王が怒って部屋を出て行ったかのように見えた。
しかし、実は、急いで廊下を歩く場面は、写真撮影の場面の前に撮られていたものだった。制作会社が、「女王が怒って部屋を出て行った」という印象を与えることを承知で、むしろその方が制作会社の作品を海外の顧客にマーケティングする際の「売り」になると思って、時系列を逆に編集していた。しかし、制作会社の説明では、「元々BBCに渡るはずのないビデオ」で、あくまで海外の販促だった。
BBCは、このビデオを、制作会社RDFから受け取り(ビデオ編集の会社の手を経て)、秋の放映作品の目玉として、7月、メディアに紹介した。報告書によると、BBC側が、この時点で、制作会社の方で時系列を逆にしていた、と知っていたふしはない。しかしそれでも、この場面が「売り」になると思っていたのは確かで、BBCのコントローラーで今回辞任したピーター・フィンチャム氏は、この場面を特に目玉として売り込んでいた。翌日の新聞はこのビデオを中心に秋の番組を紹介した・・・・。
BBC関係者が、時系列を逆にした部分があったことにようやく気づいた後でも、これを発表するのに時間がかかり、新聞や他のメディアがどんどん「女王が怒った」という文脈の報道を作っていった。時系列逆のビデオを制作したのは独立制作会社だということの発表にも時間がかかってしまった。また、BBCのトップが現状を知らされたのも、BBC関係社内での「発覚」の翌日だった。
メディア・アナリストのスティーブ・ヒューレット氏が「ニューズナイト」(5日夜)に語ったところによると、王室のクリップであること、その中で女王が怒って部屋を出て行ったという場面を見ただけで、「赤信号がともるべきだった」。私も実際、そう思う。
BBCの報告書やBBC内の記者の報道ではなかなか出てこない視点なのだが、今回のような(王室や他の注目度の高いトピックを扱ったもの+センセーショナルな視点がある)ビデオ・クリップを見て、何かを気づかないのはおかしいのではないかと思うのだ。つまり、「あれ、これは何かあるな」と実際は何かを気づいていたんだけれども、「視聴率が取れそうだから、いいや」と思ったのではないかな、と。これは推測でしかない。しかし、ヒューレット氏も同じことを思っているような気がする。
BBCのテレビ部門のトップの女性で、経営陣の中ではNO2の人物が本当は辞めるべきではなかったのか、という声もある。彼女もビデオを見ていたが、「おかしい」と気づかなかった、「この部分を検証するべき」と思わなかったからだ。これは番組内のガーディアンの記者が言っていた。「BBCはNO2を守ろうとしている。ゆくゆくはトップの社長職も危なくなるからだ」。
BBCで起きた、最近のおかしなエピソードを2つ、明日以降、紹介したい。(ヤントブ事件、ブラウン事件)