先日、韓国の合計特殊出生率(2023年)が過去最低の0.72を記録し、日本で大きなニュースとして報道された。この比率は一人の女性が生涯に出生する子どもの数を示す。日本は2022年で1・26である。これ自体が過去最低で、23年はさらに低下すると予想されている。日本と韓国ほど低い数字ではないが、欧州各国も同様に出生率低下の悩みを抱えている。
経済協力開発機構(OECD)の人口動態統計(報告書「2023年 年金一覧」の一部)と、フィンランドの専門家の視点を紹介したい。同国は子どもを産む女性に手厚い保護を提供して出生率を上昇させた国の1つとして知られていたが、新たな困難に直面している。
OECDには欧州諸国を中心として日本、韓国、米国、メキシコ、オーストラリア、トルコ、イスラエル、チリ、コロンビア、コスタリカなど38カ国が加盟する。
統計によると、全加盟国の平均出生率(2022年)は1.59で、ほとんどの国で人口維持に必要な2.1を下回る数値となっている。例外は2.95を記録したイスラエルだけだ。
加盟国全体では1950年代末以降2.1を下回る少子化が続き、過去20年間は1.6近くで落ち着くようになった。
出生率低下の理由として、OECDは「生活様式の優先事項や家族形態の変化」とともに「雇用状況の不安」、「適切な住宅環境や育児ケアを得られないこと」をあげている。
また、「パートナーとの共同作業や育児の役割負担などの面で女性が望むことが変化していること」も関連しているという。出生や育児を女性だけではなく男性も担うべきとする考え方は、確かにかつては一般的ではなかった。
OECDはこの統計の中ではこれ以上詳述していないが、女性が出産・育児を男性と共有したいと思っていても、制度面や男性側の意識がついていっていないので、出産に二の足を踏む、という意味だろうか。
興味深いのは、これが特に当てはまる国として日本と韓国があげられていることだ。また、この2カ国の共通点として「結婚と母になることが同一化している」と説明がついている。
欧州の複数の国では結婚と母になることが、必ずしも同一ではなくなっている。
OECDによると、フランス、アイスランド、ノルウェー、スウェーデンでは未婚のカップルがもうけた子どもの誕生は全体の半数以上を占める。加盟国全体では3分の1である。筆者の住む英国でも、未婚のカップルで、子どもが生まれてからも結婚という形を取らずに生活している例が珍しくない。
欧州連合(EU)の政策を実行する欧州委員会が今年2月にまとめた統計によると、EU27か国(人口約4億4800万人)で2022年に生まれたのは388万人。
出生率は平均で1.46だが、国によって大きな差がある。最低はマルタの1.08で、最高はフランスの1.79。
出生率の変遷はOECD諸国の統計と似ており、EU加盟国の場合は1960年代半ばから2000年にかけて減少し、2010年までは伸びたものの、それ以降は少しずつ下落してきた。
最新の新生児数は1000人当たり8・7人に相当し、1970年は16・4人、1985年は12・8人、2000年は10・5人だった。EU域内では少ない数の子どもを持つ(2人よりは一人など)傾向が続いているという。
域内で第1子を産む女性の平均年齢は29・7歳で、最も若いのはブルガリア(26・6歳)で、最も高齢なのがイタリア(31・7歳)だった。この数字は次第に上昇傾向にある。
日本でも欧州でも少子化を防ぐための様々な取り組みが行われてきた。しかし、「なぜ少子化なのか」を考えてみたい。
先進国での出生率低下の大きな理由として頻繁に上げられるのが、子どもを産み育てる費用の家計への負担の大きさだ。特に、生活費高騰が続く欧州では躊躇する要因となる。若い世代の中には「子どもを産むことで人口を増やし、気候温暖化を悪化させたくない」と考える人もいると言われている。
女性の雇用市場への参加が進み、手厚い育児休暇制度や就学前の子どもへの充実したケアを提供して出生率をあげたフィンランドだが、2010年頃から出生率が下がり始めた。
2021年、フィンランド家族連盟人口研究所の調査ディレクター、アンナ・ロトキルチュ氏は出生率向上に向けた議題を政府に提出し、「短期的には1・6、長期的には1.8」を目標として提案した。
しかし低下は止まらず、2023年の数字は1・27。政府は目標を「2020年代末までに1・4」に変更した。
(上の画像はフィナンシャル・タイムズ記事のウェブサイトから、キャプチャー)
英フィナンシャル・タイムズ紙のインタビュー(1月29日付)の中で、ロトキルチェ氏は「これまでにない状況が生じている」と述べている。なぜこれほどまでに低下するのか「誰も本当のところは分からない」。 同氏によると、「経済的な事情や政府の家族政策が主たる原因ではない。(子どもを持つことについての)文化的、心理的、生物的、あるいは認識に関わる何かが起きている」。
例えば、子どもがいる家庭を作ることで「自分たちの独立性が犠牲になると考える」若者たちがいるという。「かつては子どもを持つことは成人になった証でもあった。今はすべてを達成して、最後に追加するものとして受け止められている」。
研究所が行った調査によると、40代半ば前後のフィンランド国民の中で「子どもが欲しくない」と答えた人は20人に一人だったが、30代半ばでは4人に一人にまで増えている。より若い年代では「子どもを産む」という選択肢がもはや自明のことではなくなってきたのかもしれない。
ロトキルチェ氏によると、出生率を上げたい時、政府は「経済を理由に子どもを産むように言ってはいけない」という。その代わり、将来について明るい希望を持てる環境づくりをするべきだ、と。そして、子どもを持つことについての社会の議論の論調が変われば、若者層も異なる見方をするようになるのではと期待する。
「子どもを持つこと」が「当たり前」だった時代から、今や私たちは「最初からその選択肢がないことを原点とする」時代に生きているのかもしれない。あくまでも人生の選択肢の一つとして捉える時代だ。
もしそうならば、全く新たな思考と出生率向上のための議論が必要になりそうだ。