小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「なぜBBCだけが伝えられるのか」(光文社新書)、既刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)など。


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電話盗聴疑惑の件が再燃 英下院の報告書で

 マードックのニューズ社の傘下にあるタブロイド日曜紙「ニューズ・オブ・ザ・ワールド」(NOW)が、著名人の電話を盗聴して情報を得ていた・スクープ記事を書いていたとする事件(数年前、王室担当ジャーナリストと私立探偵が有罪になったが、これ以外にも、大規模に行われていた疑惑が出ている)が、再燃している。

 NOW紙側は、盗聴が該当記者と探偵による単独の事件だったと主張しているが、下院のメディア問題小委員会が24日、報告書を発表し、同紙による盗聴が「産業」的な規模で行われていた、と指摘した。NOW紙の編集長や経営陣が知らずにこれが行われていたとすれば、「集団的な健忘症にかかっていた」と言わざるを得ない、とした。

 詳細はガーディアンのサイトにある。

 http://www.guardian.co.uk/media/2010/feb/24/phone-hacking-scandal-mps-report

 委員会はまた、2006年に盗聴疑惑を調査したロンドン警視庁が王室問題担当記者にのみ捜査の焦点をあてたことを批判した。
 
 報告書の結論は、ガーディアンにとっては朗報だった。同紙は、NOWにおける電話盗聴などの「闇の芸術」が幅広く、社内全体で行われていた、「数千人規模」の著名人の電話盗聴が行われていたと昨年、報道していたからだ。

 ガーディアンの報道後、下院小委員会(上記)で聞き取り調査が行われ、この様子はテレビでも放映された。召喚されて質問に答えた人物の中には、NOW紙の元編集長アンディー・コールソン氏がいた。同氏は現在、野党保守党のコミュニケーション部門の責任者である。最初の盗聴疑惑勃発時、引責辞任している。

 昨年秋、メディアの自主監督団体PCCが、盗聴が広範に行われていたとするガーディアンの報道の信ぴょう性に疑問を呈した。ガーディアンはもちろん反論したが、打撃になったのは確かだった。

 下院の報告書は、PCCは「骨がない」として批判しているようで、ガーディアンにとっては、万々歳のような評価となった。(ガーディアンのサイトには関連ビデオや記事がたくさん載っている。)

 保守党にとっては、面白くないニュースである。コールソン氏の将来と関連付けてほしくない話題である。同氏はキャメロン保守党党首のメディア戦略に欠かせない存在と言われている。

 コールソン自身が下院小委員会の先の公聴会で認めたように、同氏が編集長時代のNOW紙では、「スクープにはお金を払う」体制が敷かれ、コールソン氏はスクープ集めのために記者にはっぱをかけていたようだ。

 編集部内で電話盗聴を含む手法が使われていた場合、編集長が全く知らなかったというのは(コールソン氏の説明)、信じがたいー例えば探偵一人使うのにも、お金が払われるわけだから。ガーディアンの言うほどに大規模だったかどうかは別としても、かなり普通のこととして行われていたのかもしれない。

 しかし、ニュースネタにお金を払うとか、私立探偵を使うとか、そういう裏の手をはたしてガーディアンは全く使っていないのかな?となると、何だか怪しいなあという気もするのであるー。(ただの推測だが。)ガーディアンは調査報道に定評があるが、BBCの報道などを見ると、放送局で調査報道のためにおとり取材がずいぶんとあるようだ。どこのメディアも法律違反ぎりぎりの手法を多かれ少なかれ、使っているということはないのかな、と思うわけである。

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ご関心のある方はー関連の過去記事

電話盗聴疑惑、英新聞界を揺るがす (上) ガーディアンとニューズ社の対決の顛末

http://ukmedia.exblog.jp/12238230

その(下)
http://ukmedia.exblog.jp/12250665

by polimediauk | 2010-02-25 16:37 | 新聞業界