「新聞研究」12月号よりーBBCのデジタルメディア戦略② オンデマンド広がる英国
ハイチの災害で、現地に救援物資・人が届かず、現地の人がイライラ(そして命を落としている)という報道が、チャンネル4のニュースで出ている。・・・というリポートはできているようなので、支援が届けられない無念さが出る。
空から食べ物や医療品を落としたらどうなのかー?知人によれば、「そんなことをしたら、暴動が起きる」。一刻も早く物資・人材が届くことを願う。BBCは、複数のチャリティー団体が参加するDECという支援サービスを通じてのハイチ募金を呼びかけている。(中東紛争ではDECは「中立ではない」として、一時放送を見送っていた。)
さて、ハイチとはいったいどんな国なのか?テレグラフに本を書いた人の話が載っていた。
Haiti: enslaved by its dark history
http://www.telegraph.co.uk/news/worldnews/centralamericaandthecaribbean/haiti/6992162/Haiti-enslaved-by-its-dark-history.html
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BBCの話の続きである。
「1人勝ち」BBCのメディア戦略の行方②
―オンデマンド広がる英国の現状
本題に入る前に、英放送業界とBBCの基本的な概要を記したい。
英国の放送業は公共サービスであるという基本原則に基づく。1920年代創設のBBC,民放ITV(1955年より放送開始)、非営利法人が運営するチャンネル4(1982年より)、民放ファイブ(1997年より)は公共サービス放送と見なされ、いずれも一定の時間の本数の「ニュース、時事、事実に基づいた番組、児童番組、ドキュメンタリー」を公共放送枠で放送することになっている。衛星放送には米メディア大手ニューズ社が主要株主となるBSkyB、ケーブルテレビサービスにはバージンン・メディアなどがある。
BBCは世界で約2万2000人、国内では約1万7000人の従業員がおり、BBCの存立、目的、企業統治、責任を女王の特許状(「ロイヤル・チャーター」)が定める。これに沿った業務の具体的な内容は政府担当相との間で合意する「協定書」が規定する。特許状はほぼ10年ごとに更新され、現在の有効期限は2016年末。テレビ・ライセンス料はカラーテレビの場合が年142・50ポンド(約2万1479円)だ。2008―2009年度のライセンス料収入は33億9600万ポンド(約5110億円)だった。ラジオ国際放送のワールドサービスへの政府交付金と商業活動の収入を合わせると、年間で約51億ポンドの収入が入る。
BBCのテレビ番組のコンテンツは、スポーツを除く国内の全テレビ番組の3分の2にあたる。毎週2200万人がアクセスするウェブサイトへの年間投資額約1億7700億ポンドに上る。これはテレビ(23億3600万ポンド)、ラジオ(5億8800万ポンド)に比べればはるかに少ないが、英誌「エコノミスト」によれば「国内の新聞社がウェブサイトにかける総額を超える」額だ。
BBCの元会長(ディレクター・ジェネラル)ジョン・バート氏(在任1992―2000年)の大きな貢献の1つとしてよく挙げられるのがインターネット推進策だ。1997年12月、現在のBBCのウェブサイトの前身を立ち上げた。後継の会長であるグレッグ・ダイク氏(2000―2004年)はテレビライセンス料支払い者が自由にBBCの過去のアーカイブにアクセスできるサービス「クリエイティブ・アーカイブ」の発案や、テレビ受信機の上にセットアップボックスを設置することで、無料で地上デジタル放送が受信できる「Freeview(フリービュー)」サービスの開始(2002年)への尽力で知られる。
近年のBBCのデジタル重視戦略は現在のマーク・トンプソン会長(2004年―)による。就就任早々から同会長は未来図の草稿を練ってきた。06年12月にはBBCの目的の1つを「画期的なデジタル放送業者となること」と宣言した。翌年の「創造的な未来」の事業計画の発表では、「BBCはテレビやラジオの放送業者と考えてはならない」と述べた。ほぼ同時期、新聞各紙も自分たちは「デジタル・コンテツ・プロバイダー」であると称するようになるが、「テレビ番組=テレビ受像機を通して見るもの」とする従来の考えを会長は打ち破った。新聞社幹部が「もはや新聞は紙媒体ではない」と述べるのに匹敵する。
07年1月、BBCに新たな特許状が与えられ、ライセンス料制度も維持されたが、インフレ率に数パーセントを上乗せする従来のライセンス料の値上げ方式は停止となった(注:。「放送業界の変化の予想は困難」として、具体的な値上げ率が設定されたのは最初の6年間のみとなった(注:2013年以降は未定ということになる)。同年10月、今後6年間の経営計画を発表したトンプソン会長は人員や制作番組本数の削減、自社所有不動産の処理などに加え、オンデマンドサービスや高品位テレビなどデジタル分野への投資増強を発表した。
トンプソン会長が推したBBCアイプレイヤーが市場に出るまでには時間がかかった。06年末にはチャンネル4が「過去7日間に放送された番組を視聴及びダウンロードできる」サービスとして「4OD(フォー・オー・デー)」の提供を開始した。民放最大手ITVもウェブサイトを通じて同様のサービスを07年5月、提供。試験版を経て本格的にBBCがアイプレイヤーを出したのは同年の12月になった。
クリスマスの時期と重なったこともあって好調に視聴・ダウンロード回数を伸ばした。特にアイプレイヤーが視聴者にとって身近になったのは2009年5月、ケーブルサービスのバージンメディアのサービスの1つとなってからだ。それ以前は利用者が番組を再視聴する場合、原則としてPCの画面を通じてであったが、これ以降はテレビのチャンネルの1つの選択肢となったため、通常の番組視聴のようにテレビ受信機を通じてサービスを受けることが可能になった。チャンネル4、ITV,ファイブのオンデマンド放送もバージンメディアやネットプロバイダーのティスカリ、BTビジョンなどを通じて視聴できる。
現在では、オンデマンド放送の提供者にはBBC,チャンネル4、ITV,ファイブ、スカイ(BskyB)、バージンメディア、BTビジョン、ティスカリ、動画・音楽配信サイトのアイチューンズがある。無料サービスが主だが、ファイブなど有料と無料の組み合わせ(例えば映画視聴、連続ものなど)の場合もある。BBCの場合は過去7日間の放送分の再視聴と30日間のダウンロードが可能だが、チャンネル4とITVは30日間の放送分の再視聴が対象となる。
各放送局は、ネットを通じて一部の番組を放送と同時配信もする。スカイは携帯電話アイフォーンで視聴でき、チャンネル4の番組再視聴は動画投稿サイト、ユーチューブでも利用できるなど、配信媒体の種類は広がっている。
オンデマンド放送は、BBCのアイプレイヤーの登場によって一気に一般化した。特許状によれば、BBCの存在目的の1つは「デジタル国家英国を築き上げるための信頼に足るガイド」となることだ。(つづく)