小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「なぜBBCだけが伝えられるのか」(光文社新書)、既刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)など。


by polimediauk

「米国の圧力で」グアンタナモ拷問の証拠開示されず?

 キューバにあるグアンタナモ米基地収容所にテロ容疑者として拘束されている元英住民の男性が拷問にあったことの証拠を公開すれば、米国は英国との諜報情報共有を停止し、英国民が重大な安全保障上の危険にさらされかねないー。

 男性の弁護士からの証拠開示請求を審理していた英高等法院の判事2人は、4日、情報公開は「大きな公益にかなう」としながらも、米国からの「圧力」を非公開の理由とする判断を示した。ミリバンド英外相は「米国からの圧力はなかった」とこれを否定している。

http://news.bbc.co.uk/1/hi/uk_politics/7870896.stm

 男性はビンヤン・モハメド容疑者(30歳)だ。4年間、グアンタナモ基地のテロ容疑者収容所に拘束されている。

 拷問の証拠は、英諜報機関MI5が関わっていたことも示すという。公開されれば、英国自体が決まりの悪い思いをする。

 今晩はずっとテレビやラジオでその後のニュースを追っていたが(BBCテレビ「ニューズナイト」をウェブでご覧いただきたい)、米英との間でのこの問題に関する溝は深いようだ。グアンタナモ収容所はオバマ大統領が1年以内に閉鎖すると発表しているが、ある調査によれば、なんと国民の50%が閉鎖に反対しているというのだ。まだまだ9・11テロのショックから抜け切れないのかどうか。それとも米国から見たら英国が弱腰に見えるだろうか?

 北アイルランドのカトリック系住民とプロテスタント系住民の溝、あるいはイスラエルとパレスチナの溝にも似て、1つの問題に関して見方がずい分違う。

 「国家の安全保障のため」ということで、何でもシークレットになっていては、ブッシュ前政権下で行われたさまざまなこと(拷問、秘密の刑務所)の検証が出来ない。

 私自身がグアンタナモの件に格別の思いを抱くのは、英国人・居住者が拘束されていた、という要素がある。隣人あるいは知人だったかもしれないのだ。他人事には思えない。9・11テロの余波で人権侵害の事象もたくさん発生した。最後は「安全保障の・・」という理由でドアが閉じられてしまう。

ベリタ グアンタナモ記事(無料)
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=200902040542123

追記:つじつまの会わない話

 この件は、ミリバンド外相が、裁判所には「公開したら米国から諜報情報の共有をしないと言われた」というようなことを言っておいて、かつ、昨日のテレビでは「米国からそのような圧力はかかっていない」と支離滅裂発言をしていました。議会でも「オバマ政権に、公開してもいいかどうか、聞いてみたら?」と野党議員に言われ、「聞かない。ロビー活動をしたくないから」と返答。容疑者の弁護団は、「米国の圧力がない」というのが本当なら、公開してもいということだ・・・として、改めて公開請求に取り掛かっているようです。また、この容疑者がアルカイダなのかどうか、私には分からないのです。しかし、4年も閉じ込めておく必要があったのかどうか?不思議なことばかりです。この件は、ブッシュ政権の遺産です。これをどうにかしないと、本当に次の時代に進めないのです。・・・というか、これが英国では大きなテーマの一つになると思っています。

by polimediauk | 2009-02-05 08:26 | 政治とメディア