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『スチームボーイ』はなぜ大コケしたのか?

スチームボーイ

スチームボーイ

 

どうも、管理人のタイプ・あ~るです。

さて本日、BS12(トゥエルビ)の「日曜アニメ劇場」で大友克洋監督の劇場アニメ『スチームボーイ』が放送されます。

大友監督といえば、1988年に自身が描いた原作漫画『AKIRA』を自らの手でアニメ化し、日本だけでなく海外でも高い評価を受けました(むしろ海外の方が評価は高いかも?)。

その後、『老人Z』や『MEMORIES』、『スプリガン』、『メトロポリス』など様々な映像作品に関わり、『AKIRA』から約16年ぶりに満を持して手掛けた長編アニメが『スチームボーイ』なのです。

メトロポリス

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しかし、ファンの期待とは裏腹に興行面では非常に苦戦しました。

本作が公開された2004年は、宮崎駿監督の『ハウルの動く城』や押井守監督の『イノセンス』など大作アニメが揃い、さらに『スパイダーマン2』や『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』などハリウッドの話題作も多数公開されていたからです。

その結果、本作は総製作費24億円、総作画枚数18万枚、製作期間9年をかけた超大作映画にもかかわらず、日本国内の興行収入は11億6000万円にとどまり、大変な赤字を叩き出してしまいました。

ちなみに僕は公開時に映画館へ観に行ったんですけど、観客の反応も微妙でしたねぇ。観終わった後、「これはどう評価すればいいんだ…?」みたいなザワついた空気が漂ってましたから。

いや、映像的には良かったんですよ。さすが24億円の巨費をかけ、業界トップクラスのアニメーターを動員して作っただけあり、作画のクオリティは本当に「見事!」としか言いようがありません。

特に大友監督は「蒸気」の表現にこだわっていたらしく、デジタル技術を駆使した本作でも、「蒸気」のシーンは全てアニメーターに手描きで作画させたそうです(CGで作ろうとしたら上手くいかなかった模様)。

結果、実に素晴らしい蒸気が出来上がったのですが、”蒸気担当”に任命された橋本敬史さんは「3~4年ぐらい毎日毎日、蒸気ばかりを何万枚も描いていた」「精神的につらかった」とのこと(キツイw)。

まぁ、そんな感じで作画的には非常に見どころがあるんですよ(あと、ユニークなメカの描写とか)。なので、やはり失敗の主な原因は”内容”でしょうねぇ…。

『スチームボーイ』のあらすじは、「蒸気が漂う職場で働く少年(レイ)が、ある日、謎のアイテム(スチームボール)を手に入れ、それを狙う集団(オハラ財団)から襲撃される。アイテムには凄まじい力が秘められており、巨大な城(スチーム城)を空中に浮かせることも可能だった。果たして少年は敵の野望を阻止できるのか…?」という感じです。

このあらすじを見て、”とあるアニメ”を思い出した人もいるんじゃないでしょうか?そう、『天空の城ラピュタ』です(笑)。大友監督によると「19世紀のイギリスを舞台にしたオーソドックスな少年冒険活劇を作ろうとしたらこうなった」とのことですが…

この手のアニメはどうしても『ラピュタ』と比較されるのが避けられないし、そうなるとやはり”二番煎じ感”は否めません(なんせ『ラピュタ』は世間的に”名作”の評価が確定しているので)。

実際に観てみると、そこまで『ラピュタ』に酷似しているわけではないとは言え、あらすじを聞いた時点で観客は「『ラピュタ』っぽいアニメ」を期待しちゃうじゃないですか?

昔、庵野秀明さんが『ふしぎの海のナディア』を監督する際は、NHK側が出して来たプロットを見て「ラピュタじゃん!」とビックリし、「この方向ではどうやってもラピュタに勝てない」と考え、当初のシナリオや設定をガイナックス側で大幅に変更して『ナディア』を作ったそうです。

ふしぎの海のナディア

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それぐらい、『ラピュタ』っぽいアニメを作るのはリスクが高いわけですが、そもそも『ラピュタ』に似ているかどうか以前に「話があまり面白くない」んですよ、『スチームボーイ』は(苦笑)。映像の見た目とか、設定などは「正統派アドベンチャー」のように見えるけど、内容がとにかくつまらないっていう…。

しかも「これは酷い!」とか「金返せ!」みたいに怒りが湧いて来るほどのつまらなさではなく、普通に最後まで観れちゃうんだけど「映像の凄さしか印象に残らない」というレベルで、その中途半端な感じが余計に切なかったり…。

まぁ、「『AKIRA』のストーリーだってそんなに面白くないじゃん」「大友克洋が作るアニメってだいたいこんな感じだろう」と言われれば、確かにそうなのかもしれません。

ただ、『AKIRA』の場合は「あのバイクシーンがカッコよかった!」とか「芸能山城組の音楽が最高!」など、公開から30年以上経ってもいまだに話題になるぐらい「語りたくなる場面」が多いんですよ。

でも、『スチームボーイ』にはそういうのがほぼ無いんです。この差はいったい何なのか?どうしてこうなってしまったのでしょう?

まず、シナリオに関しては村井さだゆき氏が「脚本」としてクレジットされていますが、実際は大友監督がほとんどの内容を考え、村井さんが参加した時にはすでに第20稿を超えていたそうです。

つまり、「もっと良いシナリオにしよう」と推敲を重ね、何度も何度も修正を繰り返した結果、ストーリーが入り組み過ぎて収拾がつかなくなっていたらしい(以下、村井さんの証言より)。

伏線を張っているのに結果がなくなっていたり、結果だけ残って伏線がなくなっていたり…。紆余曲折の痕跡が見られました。大友さんとしては愛着があったりしてもう切れないところもある。バッサリ切るには他人の方がやりやすい。そのために僕が呼ばれたんです。でも、20稿とか見せられたらさすがにビビリますよ(笑)。これは険しい道になるんじゃないかって。
(文藝春秋「TITLE」2004年7月号より)

しかも、村井さんが加わった時点でAパートの絵コンテが完成していたので前半部分は修正できず、さらにクライマックスも決まっているので「いじらないで欲しい」と言われたそうです(結局、「手直しする余地はあまり無かった」とのこと)。

こうして推敲した結果、ゴチャゴチャしたエピソードが整理されて見やすくなった反面、主人公の行動原理や目的みたいなものが不明瞭なまま状況だけがどんどん進み、気付いたら終わってた…みたいな。

いや、確かに村井さんのおかげでストーリーは分かりやすくなってるんですよ(定番の冒険活劇としては)。ただ、「それが逆の効果として働いてしまったのでは?」という気がするんですよね。

例えば『千と千尋の神隠し』の場合、公開当時は「何がなんだかよく分からない」との批判も少なくありませんでした。

しかし「何だかよく分からないけどヘンなものを観た」という奇妙なインパクトが観客の心に強く刻み付けられ、それが大ヒットの一因になったとも考えられるわけです。

『スチームボーイ』はその逆で、分かりやすいストーリーであるが故に、観客の心に引っ掛かるものが何もなく、観終わった後はただ「虚無感」が残るのみ…そんな印象を受けましたねぇ。

まぁ、「映画が面白くない理由」は他にもあると思いますが、一番大きいのは「主人公や悪役などのキャラクターに魅力がない」という点でしょう。これに関しては大友監督自身も気付いていたようで、以下のように語っています。

悪人とかヒーローとか決められたキャラクターを作るのが難しいんですよ。決め付けることが出来なくて、いつも中途半端なキャラクターになってしまうんですが、これはしょうがないですね。悪人にしても、例えばテロリストは、やってることは酷いけど、動機を聞くと考えさせられるものがある。難しくなりましたね。
(『スチームボーイ』劇場パンフレットより)

主人公も大事ですが、こういう物語は「悪人をいかに魅力的に描けるか?」が非常に重要だと思います(敵が魅力的であればあるほど対立する主人公側も引き立つので)。

『天空の城ラピュタ』にはムスカというアニメ史に残るような名悪役が登場し、大いにドラマを盛り上げていましたが、『スチームボーイ』の悪役は圧倒的にキャラが弱いんですよね。そういう部分も影響してるんじゃないでしょうか。

あと、「主要キャストがほとんど俳優」という点も気になりました。レイ役の声優を務めた鈴木杏さんやスカーレット役の小西真奈美さんは割と良かったんですが、ロイド役の中村嘉葎雄さんはセリフが聞き取りにくかったなぁ。

ちなみに僕自身は、アニメや洋画の吹き替えに俳優を起用することに関して、それほど否定的ではありません。ただ、そういう人を起用するからには違和感が出ないようにやって欲しいんですよ。

本作の場合、ロバート役の児玉清さんやデイビット役の沢村一樹さんもちょっと微妙だし、アルフレッド役の寺島進さんも「ピッタリ合ってる」という感じじゃないし…。せめてメインのキャラには声優さんを使って欲しかったところです。

 

というわけで、色々と残念な点が多かった『スチームボーイ』ですが、大友克洋監督は映画の公開時に”続編の構想”を話してるんですよね。

恐らく、本作がヒットしていれば「登場人物たちのその後」を描くスピンオフドラマみたいなものを作るつもりだったのでしょう。どうやらスカーレットを主人公にした物語だったようですが…むしろそっちの方が観たかったかも(笑)。

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