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完成まで7年!押井守も呆れた『ももへの手紙』ネタバレ映画感想

■あらすじ『11歳の宮浦もも(声:美山加恋)の父は“ももへ”とだけ書かれた手紙を遺し、天国に旅立ってしまった。仲直りできないまま父を亡くしたももは、悲しい想いを抱えたまま、母いく子(声:優香)と瀬戸内の汐島に移り住む。慣れない生活に戸惑うももだったが、ある日、不思議な妖怪“見守り組”のイワ(声:西田敏行)、カワ(声:山寺宏一)、マメ(声:チョー)と出会う。しかし愛嬌たっぷりの彼らには、実は大切な使命があったのだった……。『人狼 JIN-ROH』で世界の注目を集めた沖浦啓之監督が、約12年ぶりに手掛けたハートフル・ファンタジー・アニメーション!』


※この記事はネタバレしてます。未見の方はご注意ください。



というわけで、本日はTV初放送となる『ももへの手紙』のレビューを書いてみます。ネタバレ全開なので観てない人はご注意を。にしても、凄い時間帯に放送するんだな〜。どうせならもう少し見やすい時間にやればいいのに(^_^;)

さて、初監督作品の『人狼 JIN-ROH』が高い評価を受け、世界中の映画ファンから注目を集めた沖浦啓之さんでしたが、その後は監督業から遠ざかり、ようやく第2作目を作ったと思ったら、なんと前作から12年も経ってました、という『ももへの手紙』。完成までに要した期間はなんと7年!周防正行監督よりも寡作だよね(笑)。

しかも、ガチガチにシリアスだった『人狼 JIN-ROH』とは大きく方向性が異なり、コミカルでハートフルな”ほのぼのファンタジー”という、完全に正反対な作風になっていたことにも驚きました。

人狼 JIN-ROH

沖浦さんの初監督作品にして物凄い力作!観てない人はぜひご覧ください!

おまけに、キャラクターデザインと作画監督が安藤雅司、美術監督が大野広司というジブリでお馴染みのスタッフが参加しているせいか、全体的なビジュアルがジブリっぽいイメージになっています(だんだん細田守監督と趣向が似てきたなあw)。

で、まず良かった点から書くと、やはり作画はいいですね。というか、参加してるスタッフがめちゃくちゃ凄い!井上俊之、安藤雅司、本田雄、西尾鉄也、大平晋也、黄瀬和哉、吉成曜など、業界屈指の凄腕アニメーターが集結しただけあって、実に多彩で面白い動きを見せてくれます。

特に水の動きや人物の芝居が物凄く細かい!監督の沖浦啓之自身が優れたアニメーターなので、人一倍動きにこだわっているからこそ、ここまで見事なアニメーションに仕上がったのでしょう(普通はこんなに手間は掛けられないよ)。とにかく、作画に関しては文句なしの完成度でした。

それから声優も良かったです。主人公の宮浦ももを演じている美山加恋ちゃんは、TVドラマ『僕と彼女と彼女の生きる道』で小柳徹郎(草なぎ剛)の娘・凛を演じて話題になりました。「演技が上手い人でも声優の仕事は難しい」と言われていますが、加恋ちゃんは劇場版『NARUTO』や洋画の吹替え経験があるせいか、本作でも非常に安定した演技を披露しています。

また、ももの母親:宮浦いく子を演じた優香さんもべらぼうに上手い!最初に声だけ聞いた時は本職の声優だと思っていたので、全く気付かなかったんですよ。でも、後でキャストを見て「あっ!優香だったのか!」と分かってビックリ仰天。

本業じゃないのにここまで完璧にアフレコできるのが本当に素晴らしいというか、剛力彩芽さんも少しは見習って欲しいというか(笑)。あと、西田敏行はいつも通りの西田さんで、収録現場では台本に書いてない台詞をガンガン入れていたそうです(面白い台詞はほとんどアドリブらしい)。

そんなわけで、映像やキャラクターは非常に魅力的で大満足なんですけど、その反面、ストーリー展開には色々不満がありまして…。まず、この内容で2時間は長すぎます。途中の間延びしたシーンや不要なシーンを削っていけば、1時間半ぐらいで十分収まるんじゃないでしょうか。

特に、3匹の妖怪が猪の子供を盗んで追いかけまわされる場面のグダグダ感は尋常じゃありません。あの半分ぐらいの描写でも多すぎるし、そもそもあのシーンって必要なの?丸ごとカットしても(作画的には見どころですが)ストーリーには影響ないと思うんだけど。

それからクライマックス、母親を助けるために嵐の中を走りだす場面は確かに感動的ではありました。しかし途中で彼女を止めに来た郵便局員さんが「よし分かった!」とか言って、ももをバイクに乗せて橋を渡ろうとするんですよ。いやいや、ちょっと待てと。おっさんだけがバイクで医者を呼びに行けばいいじゃない!何で彼女を後ろに乗せる必要があるんだよ?

そもそもお母さんの病気も、「今すぐ何とかしなければ死ぬ」ってほどの緊急事態じゃないんですよね(もしそうなら、周りの大人達がもっと本気で助けようとしてるはず)。つまり、ももが必死になって行動するためには、状況的にもっと彼女が追い詰められていなければならないハズなんです。

例えば、「お母さんが事故に遭って今すぐ手術しないと命が危ない!」とか。そこまで切羽詰まった事態なら、ももが嵐の中を危険を冒して走り出す場面にも説得力が生まれるし、共感もできるでしょう。

しかしこの場面では、「慌て者の娘とオッチョコチョイな郵便局員が無駄にアタフタして意味なく危険を冒しているだけ」というシチュエーションにしか見えません(だいたい、あの暴風雨の中どうやって医者を連れて帰って来たの?)。

そして最後のシーン、祭りの送り船が帰ってきて、父親から本物の手紙が届いてしまうくだりも、まあ泣けるっちゃ泣けるんですが、あまりにもストレートすぎるのではないかと。死んだお父さんが文章で心情を語ってしまったら、観客に考えさせる余地がなくなり、もうそれが”正解”になっちゃうわけですよ。

それって、状況を全てセリフで説明してしまう”ダメな感動ドラマの典型”じゃないですか?例えば、無くしたと思っていた父親との想い出の品が偶然出てくるだけでも十分にドラマを表現できるし、その方が不自然さが少ないような気がするんですよねえ。

というわけで、映像的には細部まで丁寧に作り込まれていて、沖浦監督のこだわりや思い入れの強さがヒシヒシと伝わってくるような”いい映画”である一方、ストーリー的には満足度が低いという印象を受けました。

また、劇場公開の成績の方も決して芳しいとは言えず、あまり世間に注目されることもなく、興行的には残念な結果に終わったようです。7年もかけて作ったのにもったいない!なお、この件に関して沖浦監督の師匠(?)の押井守監督は次のように述べていました。

たぶん、作画でアニメーションを作る時代はもう終わったんだよ。本田雄とか井上俊之とかさ、素晴らしいアニメーターが何人いれば映画できるのって。彼らを何年拘束すれば1本できるんだって話でさ。作画だけで映画を作ったら、5年かかってもできないよ。僕に言わせると、3年以上かかる映画は映画じゃないよ。どんなに凄いものを作ったとしても、5年も6年もかかったら、それはもう映画じゃない。伝統工芸だよ。沖浦みたいに、それでもいいという奴はいるんだろうけど、僕はそう思わないです。

僕は監督であるだけじゃなくて、企画者でもあるから。5年とか10年経ったらさ、そもそも企画として成立しないもの。映画っていうのは時代と並走して初めて映画なんだからさ。時代性を捨ててもいいというのなら、それは伝統工芸なんだよ。それは商売じゃない。経済行為でないなら、つまり社会行為じゃないんですよ。社会性を持たない映画は、もう映画じゃないんですよ。
(「スカイ・クロラ 絵コンテ集」のインタビューより)

う〜ん、なかなか厳しいコメントですね。まあ確かに、完成まで7年もかかった本作は、当然製作費もそれなりにかかっているわけで、ただでさえ回収リスクが高いのに、内容的にも大ヒットを狙えるような派手さも無く、ビジネスの面で考えると”成立してない”のかもしれません。娯楽作品というよりも芸術作品に近いというか、押井さんの言うように「伝統工芸」みたいな存在になっているのかも…。

ちなみに、高畑勲監督の『かぐや姫の物語』も完成までに8年かかっていますが、実際の作画期間は2011年1月17日から2013年10月30日までで約2年10カ月だそうです。

それに対して『ももへの手紙』の作画は、2007年2月末から2011年の3月初頭までなので丸4年もかかっているのですよ。なんと『かぐや姫の物語』よりも長かったのか!それはかかりすぎやろ〜(^_^;)

ただ、フルCGアニメが勢いを増し、手描きアニメが減少し続けている昨今の状況を考えると、本作のように「凄腕アニメーターたちがじっくり取り組んだ作品」も存続していって欲しいんですけどね。

確かに最近のCGアニメはセルアニメと遜色ないぐらいのクオリティになっていますが、いくら良く出来ていてもCGはCGですから。手描きアニメにはCGに出せない”味”があるので、是非とも頑張っていただきたいと思います。


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