遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

2024年に読んだおすすめ本 ベスト6


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2024年に読んだおすすめ本 ベスト6(読了順)

「成瀬は天下を取りにいく」宮島未奈
「パッキパキ北京」綿矢りさ
「みどりいせき」大田ステファニー歓人
「あなたの燃える左手で」朝比奈秋
「ともぐい」河﨑秋子
「地雷グリコ」青崎有吾

 

2018年から続けている「私の読んだおすすめ本ベスト6」ですが、2024年のベストは上の6冊としました。

「成瀬は天下を取りにいく」「みどりいせき」「地雷グリコ」で出会った主人公の女子高生3人がことのほか魅力的でした。

2023年に私の読んだ本は以下の通りです。(読了順) 
年々読書量が減っていて、翻訳やノンフィクション・エッセイに手が回らないことになってきました。月2冊のペースで読めたらと毎年思いますが2024年は全く実現しませんでした。
そんな数少ない読了本の中で私のベスト6に入れるのに苦慮した名作揃いです。どの本も、ぜひお勧めしたい1冊です。

「エレクトリック」千葉雅也
「墨のゆらめき」三浦しをん
「成瀬は天下を取りにいく」宮島未奈
「八月の御所グラウンド」万城目 学
「パッキパキ北京」    綿矢りさ
「君が手にするはずだった黄金について」小川哲
「隆明だもの」ハルノ宵子
「みどりいせき」大田ステファニー歓人
「成瀬は信じた道をいく」宮島未奈
「あなたの燃える左手で」朝比奈秋
「ツミデミック」一穂ミチ
「ともぐい」河﨑秋子
「地雷グリコ」青崎有吾


【過去の私のベスト6】
◆2023年に読んだおすすめ本ベスト6(読了順)
「N/A」 年森瑛
「植物少女」 朝比奈秋
「地図と拳」 小川哲
「木挽町のあだ討ち」 永井紗耶子
「それは誠」 乗代雄介
「ハンチバック」 市川沙央

◆2022年に読んだおすすめ本ベスト6(読了順)
「ザリガニの鳴くところ」ディーリア・オーエンズ
「正欲」朝井リョウ
「ミトンとふびん」吉本ばなな
「同志少女よ、敵を撃て」 逢坂冬馬
「ミシンと金魚」 永井みみ
「おいしいごはんが食べられますように」 高瀬隼子

◆2021年に読んだおすすめ本ベスト6
〇ノンフィクション(読了順)
「海をあげる」 上間陽子
「自分で名付ける」 松田青子

〇フィクション(読了順)
「パチンコ (上・下)」 ミン・ジン リー
「JR上野駅公園口」 柳美里
「泡」 松家仁之
「テスカトリポカ」 佐藤究

◆2020年に読んだおすすめ本ベスト6
〇ノンフィクション(読了順)
「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」 ブレイディ みかこ
「あやうく一生懸命生きるところだった」 ハ・ワン
「猫を棄てる 父親について語るとき」 村上 春樹

〇フィクション(読了順)
「黄金列車」 佐藤亜紀
「こちらあみ子 」 今村夏子
「首里の馬」 高山羽根子

◆2019年に読んだおすすめ本ベスト6
〇ノンフィクション(読了順)
「箱根0区を駆ける者たち」 佐藤俊
「私が食べた本」 村田沙耶香
「ウチら棺桶まで永遠のランウェイ」 kemio

〇フィクション(読了順)
「地球星人」 村田沙耶香
「夢見る帝国図書館」 中島京子
「土に贖う」 河崎秋子

◆2018年に読んだおすすめ本ベスト6
〇ノンフィクション(読了順)
「SHOE DOG(シュードッグ)」 フィル・ナイト
「24歳の僕が、オバマ大統領のスピーチライターに?!」 デビッド・リット
「牛を屠る」 佐川光晴

〇フィクション(読了順)
「百年泥」 石井遊佳
「コンビニ人間」 村田沙耶香
「TIMELESS」 朝吹真理子

以上

 

【読書メーターで私が書いたベスト6の感想・レビュー】
「成瀬は天下を取りにいく」宮島未奈
主人公の成瀬あかりは10万人に1人いるかいないかくらいの変人で、めったにお目にかかれない愛すべき人物と本書で出会える。本書はライトな感覚でスイスイ読むのに適しているが、成瀬が本書の中で吐くセリフは、私たち読み手にもビンビン届くありがたい言葉であることに気付くと、「そうか、成瀬みたいな生き方・考え方がいいな」と哲学的要素を感じながらも読める。この「幸福小説」、中学生や高校生のみならず、その両親や祖父母にも楽しめる小説で、もちろんのこと、滋賀県内にとどまらない全国区の小説でもある。

「パッキパキ北京」綿矢りさ
主人公のアヤメの夫の赴任先は厳寒期のコロナまみれの北京。川も湖もパッキパキに凍っていても平気で遊び歩くアヤメは、本作の後半から熱く語り始める。それは日本に残してきた不特定多数の悩める者たちに届けているように感じられる。魯迅の「阿Q正伝」の主人公阿Qが繰り広げたバカげた「精神勝利法」は、いまとなっては図太く生き抜くいい方法なんじゃないかとアヤメはつぶやく。そして、この世の鬼や死神や変態や屑が持つ偏見は絶対なくならないから、「回線切って風呂入って生きろ」とあっけらかんと教えてくれるのだった。

「みどりいせき」大田ステファニー歓人
春という女子高生とかつてバッテリーを組んでいた僕は、偶然にも春の属する危険なグループの一員になってしまう。あぶない少年少女たちの会話や「みどりい」シノギが、この世のものとは思えない。本文の文体も、脈絡が不思議な雰囲気でフワフワするが、ことばの選択や組み立て方が巧みでカッコよい。部分的に、咳が「せき」になったと気付いた後の展開ににんまりしたりする。春は、マウンド上の投手のようにシノギに全力を注入できる、まだ高1なのに。あの優等生「成瀬あかり」と対極にいる春。でも二人、ともに「ももい」くて愛おしいのだった。

「あなたの燃える左手で」朝比奈秋
ハンガリーに住む日本人アサトは現地で左手を失った後、他人の手を移植される。手を喪失すると酷い幻肢痛に襲われ、手を移植すると他人を体内に抱える違和感にさいなまれる。医師である著者によって移植手術の周辺の未知の世界を知ることができ、ファンタジー小説のように楽しめる。一方、ウクライナ人のアサトの妻は、生まれ育ったクリミアをロシアに石もて追われ、「領土」という現実世界のシリアスな問題が読み手に重くのしかかる。夫婦が喪失した「左手」と「クリミア」の重さの差異について、島国育ちの能天気さを少し思い知るのだった。

「ともぐい」河﨑秋子
「土に贖う」以来5年ぶりの河﨑秋子、北海道の自然と人たちの物語が、著者の永遠のテーマ。日露戦争開戦前夜の道東、熊が棲む森や海辺の白糖の町が小説舞台で、そこに暮らす人々のお話。主人公は原始の森に住む猟師で、賢い猟犬と鉄砲1丁をたよりに清廉な日々を送る。熊や小動物や鳥といった自然の恵みのほかに、近代化とともに本性を隠した面倒臭い人間たちが主人公の周辺を立ちまわる。それらの人物造形が凄くて素晴らしくて、豊富な語彙で紡がれる大胆かつ繊細な筆致の物語に、生身の人間の業を見ることができる。また此処に戻ってきたい。

「地雷グリコ」青崎有吾
アンニュイな女子高生真兎(まと)が、5編の短編で5種類のゲームに挑戦する。ジャンケンのような一般的なゲームに特殊な制約条件を付けただけで、ミステリの謎解きのような仕上がりになる。いつも一緒の同級生の鉱田が、まるでワトソンのように真兎のゲームの成り行きと結果を忠実に綴ってくれて、ホームズに夢中になった頃に連れ戻してくれる。ユーモアがあって声を出して笑う場面もあり、血の流れない楽しい「イカゲーム(ネトフリドラマ)」のようでもあった。本作の視覚的楽しさをアニメなどで再確認したい。山本周五郎賞など受賞。