トビゲリ・ヴァーサス・アムニジア #5
(あらすじ:ザイバツ・シャドーギルドによって捕えられ、キョート城に幽閉されたドラゴン・ユカノ。彼女はニンジャスレイヤーの師であったドラゴン・ゲンドーソーの孫娘と思われていたが、ザイバツニンジャのパラゴンは、彼女の正体が実は数千年の時を生きる神話級リアルニンジャであることを告げた)
2012-06-30 21:13:34(しかしユカノに江戸時代や平安時代の記憶は無い。またドラゴン・ゲンドーソーと死別した際に彼女は一時的に記憶喪失となっており、何とか回復した現在も、未だ自分の正体が覚束ない様子である。だが気丈な彼女は流されるままの人生から脱却を図るべく、行動を起こすことに決めたのだ)
2012-06-30 21:15:53(ザイバツはユカノを利用し、何らかの儀式を執り行うつもりだ。詳細は不明だが、その先にはヘル・オン・アースが待つという。ニンジャスレイヤーたちとの秘密の通信手段を得たユカノは、虜囚の身に甘んじつつ、作戦決行の時を待った。彼女の役割はキョート城の電算機室にウィルスを蔓延させる事……)
2012-06-30 21:16:39(作戦決行前夜、ユカノは不思議な夢を見る。同じくホウリュウ・テンプルに捕らわれていたアラクニッドが、彼女のローカル・コトダマ空間に侵入したのだ。彼はキョジツテンカンホーを破らぬ限りニンジャスレイヤー達に勝ち目は無いことをユカノに告げ、謎めいた血文字を残して去っていったのだった…)
2012-06-30 21:20:12「銀の……鍵……!」ユカノは地下座敷牢で目覚めた。額に滲む汗。小さく鋭く息を吐き、目をかっと見開いて即座に覚醒する。壁に掛けられた電子丸窓は穏やかな夜の竹林を映し出し、電子合成された風流な鈴虫の泣き声と共に、外界の時刻が夜であることを告げていた。 1
2012-06-30 21:27:22素早くかつ静かに身を起こし、ユカノはモーターチビの通信機能を起動させる。ヌンヌンヌン……正十二面体デヴァイスが浮遊し、ホログラフィ映像を映し出す。その先には、傷だらけのニンジャスレイヤーとディテクティヴ。「こちらの準備は整った」「ナンシー=サンが別の場所にスタンバイしている」 2
2012-06-30 21:34:12「こちらも動けます」とユカノ。「チビにはウィルスを転送済みだ」とガンドー。「1時間後にナンシー=サンが経済攻撃を開始する」とフジキド。通信猶予時間を示す「満」の漢字が、早々と赤に染まり始める。「不吉な夢を見ました」とユカノ。危険を冒してでもそれを伝えねばならぬ気がしたからだ。 3
2012-06-30 21:45:42「夢?だが猶予時間がヤバイぜ」とガンドー。それを遮るユカノの声。「地下座敷牢の奥底にいるアラクニッドが私に告げました。ロードのキョジツテンカンホー・ジツを破らぬ限り……」ユカノの心臓が重く鼓動する。フジキドが死ぬ。「……勝ち目は、ないと。打破するための手掛かりは……銀の鍵」 4
2012-06-30 21:54:58「銀の鍵?」「そうです、それ以上は解りません」ユカノは至極真面目な顔で言う。「オイオイ、クイズ番組か?そりゃ一体、どういう……」包帯で片眼を隠したガンドーが大袈裟なジェスチャーを作る。「銀の鍵」フジキドはその運命的な単語を復唱し、首から下げたオマモリに自然と手を伸ばしていた。 5
2012-06-30 22:02:16ザリザリザリ……通信にノイズが混じる。ホログラフィ映像がスライスされたサシミのように左右にぶれる。ユカノの心臓が、また重く鼓動した。次の通信機会は不明。今生の別れやも知れぬ。事実が覚悟を迫る。「フジキド」ユカノは小さく微笑みながら言った。「どうした」ニンジャスレイヤーが返す。 6
2012-06-30 22:10:29ユカノはたちの悪いデジャヴを感じ、小さく深呼吸した。これまで何回も、あるいは何十回も、このような別離をループしてきたのではないかという予感。「御爺様のことを覚えていますか」「無論だ」「今度、聞かせてください」「ああ」「私がまた記憶を亡くしたら、私が何者か伝えにきてくださいね」 7
2012-06-30 22:16:25フジキドが返そうとした時、モーターチイサイに搭載された物理ファイアウォールが破られて煙を吐き、危険回避プログラムが作動して回線は自動切断された。ユカノは満足そうな顔を作り、作戦決行までしばしの間、地下座敷牢でザゼンを行う。ゲンドーソーの教えと、ブラックヘイズの言葉を反芻する。 8
2012-06-30 22:33:36暫くしてユカノは、誇り高きドラゴン・ニンジャクランの最後の末裔として立ち上がった。瀟洒な和服を脱ぎ、タンスから取り出した簡素なニンジャ装束を纏う。それはシンプルで好ましかった。鏡の前に立ち、錆び付いたカラテを取り戻すように手短に準備運動を行う。精神と肉体のゼン平衡を確かめる。 9
2012-06-30 22:49:53ユカノは座敷牢の頑丈な鉄格子を挑戦的に見据えた。生憎、それを破壊するほどのカラテは無い。だが、この地下座敷牢がサンシタ侵入不可の聖域であり、常時監視下に置かれているわけではないことが、彼女にとっては不幸中の幸いであった。そして敵はユカノの決断力と実行力を見くびっていたのだ。 10
2012-06-30 23:39:25それは幸運な発見でもあった。ユカノはチャブに置かれた横笛を吹く。鼠が一匹現れ、名残惜しそうに鳴いた。ユカノは「不如帰」と書かれたショドーに歩み寄り、横にずらす。土壁に現れたのは、彼女の手で掘り広げられた鼠穴!「着いてきなさい」と、ユカノはどこか楽しげにモーターチビに命じた。 11
2012-06-30 23:52:19ナムアミダブツ!カケジクを偽装手段に用いるとは、何と大胆かつ狡猾な作戦!これぞドラゴン・ドージョーの最後の末裔に相応しい、リアルニンジャの知恵であった。かつて江戸時代にも、捕獲され座敷牢に投獄されたリアルニンジャの多くが、この伝統的手段を用いて実際忽然と姿を消したのである。 12
2012-06-30 23:59:54「悟り」と書かれたスピリチュアル・カケジクがずれ、隣の座敷牢のトコノマへとユカノが姿を現した。江戸時代に放棄されたそこは、ひどく荒廃し、梁からは数百年前の古い蜘蛛の巣が気怠げに垂れ下がっている。ユカノは錆び果てた鉄格子を難なく外し、「立入禁止」と書かれた立札の横を抜けた。 13
2012-07-01 14:32:07座敷牢とは、貴族を幽閉するために平安時代に考案された無慈悲かつ風流なプリズンシステムである。トコノマやトイレやシャワーなどを備えた広い高床式タタミ部屋が虜囚にあてがわれ、実際快適ではあるのだが、周囲を頑丈な木や鉄の格子で囲われており、アニマルめいた屈辱感を味わわされるのだ。 14
2012-07-01 14:39:39ユカノは薄暗い無人コリドーを進む。「順路」という威圧的なショドーが左向きの矢印とともに貼られ、地上への脱出路を示していた。一方、右を見やればさらなる暗黒。厳重に守られた鉄格子の前に「禁止な」と書かれた札が立ち、木製の柵と赤いロープ。その先にはアラクニッドの階層へと至る階段。 15
2012-07-01 14:48:38直にアラクニッドに会えば、さらなる手掛かりを得られるやもしれぬが、作戦決行まで残り時間は少なく、ユカノには鉄格子を破壊する手段もない。物理錠を外すためのニンジャツールも手元に無く、またこの鉄格子は最新のUNIX複合型であり、厄介そうだ。ユカノは中腰姿勢のまま左手に進んだ。 16
2012-07-01 14:58:03地下ダンジョンを流れる微かな風を探りながら、ユカノはリアルニンジャの足取りで注意深く前進した。壁には強化樹脂で作られた長大な年表がボルト留められ、さながらピラミッド回廊めいて、キョート城の建造から近代までの歴史を物語っている。モーターチビは不安げに彼女の前後を飛びまわった。 17
2012-07-01 15:06:40T字路でユカノは敵の気配に気付いた。先には同様のコリドーが続き、左手に曲がれば地上階へと続くハシゴがある。ハシゴの左右には赤漆塗りの戦闘的ブッダ像が聳え立ち、その前にはマシンガンを構えたクローンヤクザ2体が警備に当たっていた。ユカノはチビを手招きし、秘密のコマンドを送る。 18
2012-07-01 15:20:08難病(全身性エリテマトーデスと抗リン脂質抗体症候群)を発症してしまい、現在活動休止中です。(2016 年春~) ニンジャヘッズ(ニンジャスレイヤー中毒者)です。 人々の日々の生活クオリティを向上させるために、サイバーパンク・ニンジャ活劇小説「ニンジャスレイヤー」の普及活動を行っています。