SCE解散へ これから何が起こるのか考える

2月24日、衝撃的なニュースが流れました。SCE解散です。

「ソニー、SCEのネットワーク部門を吸収合併」
ソニーは2月24日、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)のネットワーク部門を4月1日付けで吸収合併すると発表した。ネットワーク事業の強化が目的と説明している。
まずSCEをSNEプラットフォームという名称に変更。ゲーム機やソフトの開発、販売部門については「株式会社ソニー・コンピュータエンタテインメント」という商号の新会社に承継する。その後、SNEプラットフォームをソニーが吸収合併する。
現SCEはソニーの100%子会社。2009年3月時点で104億7200万円の債務超過に陥っている。今回の再編はこの債務の解消も狙ったものとみられる。
http://japan.cnet.com/news/biz/story/0,2000056020,20409284,00.htm

PS3が発売されてから、SCEはずっと赤字でした。今回の吸収合併で、遂に赤字が資産を全て食い込み、債務超過に陥ったことが明らかになったわけです。
赤字と債務超過では、全く意味が違います。
赤字  = 収入 < 支出
債務超過= 全ての資産 < 全ての負債

在庫として積んであるPSPやPS3でさえ、棚卸資産として資産に数えますから、たとえ倉庫で眠る全てのPSPやPS3を売ったとしても、債務の方が多いのです。それどころか、保有する株券、不動産、机や椅子に至るまで一切合財を売ったとしても、なお債務が超過する状況です。
まさに「倒産状態」であると言えます。「ソニーのゲーム事業は破綻した」と言わざるを得ません。
通常、ここまでの事態になる前に改善策を講じます。要するにPS3を諦め、PS4にチェンジする。もしくはPSPからPSP2にチェンジする。さらには利益の出るPS2.5的なものを時限的に投入する。
現在のビジネスモデルで利益が出ていないわけですから、どこかで見切りを付けて利益の出る形に方向転換するわけです。しかしそれができずにSCEは債務超過に陥ってしまいました。
いや実はやろうとはしていたのです。2009年のSCEの足跡をもう一度分析してみましょう。



2009年のSCEの戦いを振り返る
実は2009年は、SCEにとって一番ソフトを出した年でした。任天堂やマイクロソフトのように数百万本の看板ソフトを抱える状況に対抗して、なんとか打開しようと試みていたことは確かなのです。

PS3
Demon’s Souls                16.6万
アンチャーテッド 黄金刀と消えた船団        9.7万
KILLZONE2                    7.8万
アンチャーテッド エル・ドラドの秘宝(廉価版)  3.9万
INFAMOUS 〜悪名高き男〜          2.9万
ラチェット&クランク FUTURE2           2.0万
The Last Guy                     0.4万
トロともりもり                     0.4万
白騎士物語-古の鼓動-EX Edition       0.4万
 
PSP
グランツーリスモ                 24.8万
ぼくのなつやすみ4 瀬戸内少年探偵団   12.8万
BLEACH 〜ヒート・ザ・ソウル6〜         9.0万
みんなのGOLFポータブル2 (廉価版)     7.2万
みんなのスッキリ                  3.8万
遠隔操作-真実への23日間-          2.1万
レジスタンス〜報復の刻〜           2.0万
サルゲッチュ ピポザル戦記           1.6万
銃声とダイヤモンド                0.8万

(数字は全てファミ通)

全体を見渡すと、つくり込みが甘かったりバグがあったりと、急いで出した雰囲気のソフトが多いことがわかります。
また、ハード的にも動きの多かった年でした。同梱版の多さは例年に負けないほどですし、なにより低価格な新バージョン投入はかなりPS3の台数を稼いだことは事実です。
そしてFF13、龍が如く3、バイオハザード5、テイルズ オブ ヴェスペリア、ワールドサッカー ウイニングイレブン2010、機動戦士ガンダム戦記、BAYONETTA、鉄拳6、ストリートファイターIV、プロ野球スピリッツ6、アサシン クリードII、ロロナのアトリエ 〜アーランドの錬金術師〜、NINJA GAIDEN Σ2、塊魂TRIBUTE、428〜封鎖された渋谷で〜などなど。
様々なジャンルのサードソフトのナンバリングタイトルが発売されました。
他にもPSPgoの投入など、手を打てるところは打ちつくしたという2009年でした。その結果はどうだったでしょうか?

ソニー2009年販売見通し(2009年5月時点)              2010年2月時点
PS2ハード:500万台                           → 700万台 (差+200)
PSPハード:1,500万台                          →1,000万台 (差-500)
PS3ハード:1,300万台                          →1,300万台 (差 0)
PS2+PSP+PS3 パッケージソフト:2億4千万本            →2億本
(ネットワーク売上については、前年度比3倍の約500億円を見込んでいます。)

   2009年2月時点                             202010年2月時点
PS2ソフト:7,220万本                         →3,080万本 (差-4,140)
PSPソフト: 3,910万本                         →3,620万本 (差-290)
PS3ソフト: 8,480万本                         →8,630万本 (差+150)

PS2が世界中でピークアウトし、ソフトは4000万本も減少しました。黒字の源泉が減ったことにより、PS3の赤字が決壊を起こし、去年に比べて赤字が増えると言う最悪の事態の原因となりました。そして止めを刺したのがPSPです。2008年、モンハン効果で急速に伸びたため、ハード切換えのタイミングを完全に逸し、PSPgoでは需要を全く掘り起こせませんでした。
ソフト的にはモンハンで立ち上がった市場があるはずなのに、去年よりソフト売上は低下。2009年に最も売れたソフトは「ファンタシースターポータブル2」の55.4万本というハーフミリオンを超えるのがやっと、という体たらくです。2010年早々に発売された「キングダム ハーツ バース バイスリープ」ですら、69.9万本でストップ。ミリオンなんて夢のまた夢と言う世界です。
つまりSCEにとっては、やるべきことはやり、そして玉砕した2009年だったのです。おそらく去年の段階で、2009年中に業績改善が無ければ、解散であるとソニー本体から言い渡されていたのでしょう。FF13という最大の弾が投入された結果を受けて、今回の大鉈が振るわれたのです。



今後のSCEはどうなるのか?
株式市場における適宜開示情報で、これからSCEがどうなるのか出ています。

「グループ事業再編に伴う子会社の吸収合併(簡易合併・略式合併)に関するお知らせ」
1 当社100%子会社である株式会社ソニー・コンピュータエンタテインメントにつき、商号を株式会社SNEプラットフォーム(以下「SNEP」)に変更した上で、主に家庭用/携帯用ゲーム機およびソフトウェアの企画・開発・製造・販売事業を新設分割の方法により設立される新会社(商号を株式会社ソニー・コンピュータエンタテインメントとする)に承継させる。
2 SNEP(主にネットワーク事業に関するプラットフォームやサービスの企画・開発・運用事業に従事)を当社が吸収合併する。
合併方式:当社を存続会社とする吸収合併方式で、SNEP は解散します。
https://www.release.tdnet.info/inbs/140120100224029598.pdf

これはつまり、どういうことになるのでしょうか?

現行   名称変更   事業分割 新会社 結果 業務
SCE → SNEプラットフォーム → ネットワーク事業 ソニー本体へ吸収 SNEプラットフォーム消滅 ソニーがネットワークを運営、その他現在の負債を引受
      → ゲーム事業 新SCE 独立会社 PS3やPSPの在庫を資産として、事業開始

なぜこんなややこしいことをするのかと言うと、現状の債務超過をソニー本体が吸収するためには、どこか一部分の事業を持っていかないとできないからですね。ついでに管理費のかかるネットワークをソニー本体で見ましょうということになります。
見た目は、「良かった良かった、負債が消えてSCEは楽になった」と感じます。しかし単に資本注入するだけなら、開示情報を取らない楽な方法がたくさんあります。
しかしソニー本体は、そういう方法を取りませんでした。これは、PS3撤退を飛び越えて、ゲーム市場撤退を選択したとしか思えません。
なにしろ負債が消えたとはいえ、在庫のPS3は売れば売るほど赤字が広がる逆ザヤ状態が解消していません。世界累計で3000万台を突破しているのにも関わらずです。どう考えてもビジネスモデルが破綻しています。このPS3を売っていくと、新SCEは資産が自動的に目減りしていきます。
次にPSPです。おそらくPSP2にかかったであろう開発費は、ソニーが面倒を見てくれる形になりますので、これを発売してPS3の逆ザヤで減っていく資産を稼ぐ必要があります。問題は、DSとiPhoneの存在です。今年登場が囁かれるDS2は、性能的にかなり伸びる可能性があり、PSP2の高性能というアドバンテージが危うくなる可能性があります。そしてiPhoneはPSPgoのアクションでは傷一つ付けることができませんでした。特にDS2と発売がぶつかった場合、受ける傷は大変なものとなります。
最後にピークアウト著しいPS2です。予想より大きく減退していることはわかっていますが、どうすることもできません。黒字の低下がPS3の逆ザヤ解消とどっちが早いか競争している状況です。
おまけでPS4なのですが、債務超過が判明した段階で開発費投入は困難ですから、考慮する余地がありません。
 
結局、新SCEはPSP2にかかってると言えます。これで業績が上向けば良し。そうでなかったら、資産はゼロとなりそのまま終了になると思われます。
もちろん、新機種はいつまで経っても発売されずに、静かにフェードアウトしていく可能性もありますが、私は前者ではないかと思います。4月から始まる新会社の事業内容について、3月末までに方向性を開示する必要がありますので、続報に注目したいと思います。