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 「2020年に民族大移動が顕在化する。顧客が本当の意味でIT業界のライバルになる」

 野村総合研究所(NRI)の未来創発センター長である桑津浩太郎研究理事はIT業界にとって聞き捨てならないことを語る。民族大移動とはITサービス企業に所属する若手エンジニアがこぞって顧客へ、すなわちユーザー企業へ転職することを指す。

 実際、金融や電力、通信など一部の大手ユーザー企業が数百人単位でIT技術者を採用し始めているという。

 理由はずばりデジタルトランスフォーメーション(DX)。米国企業のようにエンジニアを自前で抱え、DXのためのシステムを内製する大転換だ。

 「ユーザー企業の経営者はDX時代の生産性向上やビジネスモデルの変革を考えている。だが、国内のSIer(システムインテグレータ)はその要求を満たせていない」(桑津センター長)。それならば、と内製に向かう大手ユーザー企業が出てきたわけだ。

 桑津センター長は別の言い方もする。「経営者は大手SIerが得意としてきたストライクゾーンに球を投げなくなってきた」。ユーザー企業の現有システムを作ってきたSIerはバッターボックスに立たせてもらってはいるが待ち構えたところに球がこない。経営者は暴投しているのではなく、投げるコースをDXに変え始めている。

 一方、「リフト&シフト」こそ多くの顧客が望む手法だと考える国内SIerもいる。まず現有システムをクラウドに移行し(リフト)、DX時代にふさわしい機能を付加する(シフト)やり方だ。そうであるなら現有システムを作ってきたSIerが引き続き必要とされる。