ONE OK ROCKは本当にアメリカで成功できるのか?

ONE OK ROCK8枚目のオリジナルアルバム『Ambitions』が日本では1月11日に、米国では1月13日にリリースされた。2016年はBABYMETAL『METAL RESISTANCE』がBillboardのアルバムチャート39位にランクインし、宇多田ヒカル『Fantôme』が米国のiTunesアルバムチャートで最高位6位を記録して話題になったが、2017年に米国市場での活躍を期待されているのが、このONE OK ROCKである。

ここではそんなONE OK ROCKの海外戦略について、私見を交えて解説したい。なお、本稿はONE OK ROCKを知らないビジネスマンでも読める内容を目指して書いている。そのため、音楽ファンなら当然知っている基本から説明しているが、ご了承いただきたい。

また、全体は約2万字を越える。以下に本エントリーの目次を記載しておくので、気になった個所から読んでいただいて構わない。通して読みたい方はブックマークをおすすめする。

  • ONE OK ROCKとは
  • 海外市場における競合
  • 本当に世界基準なのか?
  • 海外進出における2つの戦略軸
  • 今は古い「エモ」という音楽
  • エモバンドの生存戦略
  • 成功シナリオ1:カテゴリースター
  • 成功シナリオ2:ロックスター
  • 『Ambitions』のチャートアクション
  • 『Ambitions』の次の展開

※本文中に登場する順位の表記は、特に記述があるものを除き、全てBillboardのアルバムチャートもしくはシングルチャートの数字である。 

※公開後、データや事実の誤りをご指摘いただいたので、一部加筆修正している。今後も随時更新される予定である。

ONE OK ROCKとは

まずONE OK ROCKをほとんど知らない方のために基本情報をお伝えしておこう。

ONE OK ROCKは、特に10代、20代の若者に絶大な人気を誇る日本の4人組ロックバンドである。読み方は「ワンオクロック」、略称は「ワンオク」である。新作『Ambitions』は発売初週で23.8万枚を売り上げて、ぶっちぎりの1位を獲得している。この数字は宇多田ヒカル『Fantôme』の25.3万枚に匹敵する数字であり、彼らが宇多田ヒカルと肩を並べる国民的バンドであることを証明している。また、昨年10月に音楽ストリーミングサービスSpotifyが日本上陸を果たしたが、そのSpotifyで2016年にもっとも再生された日本人アーティストがONE OK ROCKである。こういった事実からも、彼らのただならぬ人気はうかがえるだろう。

ONE OK ROCKをよく知らない人への説明で語られがちなのは、ヴォーカリストであるTakaが、著名歌手である森進一・森昌子の長男であり、ジャニーズのアイドルグループNEWSの元メンバーであったということだろう。Taka以外のメンバーも、幼少からダンスチームへの所属経験があるなど、彼らはある種、芸能界のエリート集団ともいえる。一方、彼らが主戦場とするオルタナティブ・ロック(後述)の世界では、この経歴は必ずしも有利には働かない。「親の七光り」「元アイドルのミーハーバンド」などという偏見に繋がるからだ。これを払拭するのは、活動初期の彼らの課題の一つだったと推測される。

ONE OK ROCKにおけるメディア戦略の大きな特徴に、地上波テレビに露出しないことがあげられる。これだけの人気を誇りながら、紅白出演歴は当然なく、音楽番組への出演歴もほとんどない。2017年1月にNHKで彼らの特集が組まれたことは一つの事件としてファンに受け止められたが、地上波で彼らの姿を見るのはそれくらい珍しいことである。このようなメディア戦略を取っているが故に、テレビ以外で音楽を知ることがない層には、彼らはあまり馴染みがないアーティストだろう。

地上波テレビに出ないミュージシャンは珍しくはない。またこれは選択的な戦略ではなく、過去の所属事務所との関係に起因する制約という噂もある。真相は不明だが、少なくとも著名人二世、著名グループ在籍歴という経歴を最大限活かせる地上波を活用せず、彼らは現在の地位を確立した。これはプロフィールからの文脈構築ではなく、ミュージシャンとしてより本質的な「音楽の力」で勝負してきたことを意味している。

近年の彼らは海外志向が非常に強い。スタジオアルバムは海外のエンジニアを起用し、海外でレコーディングを行っている。新作『Ambitions』では海外のソングライターが作曲面でも積極的に関与している。海外でのライブ活動は2012年頃から行われており、前作『35xxxv』は米国でもリリースされた。Fall Out Boy、Panic! At The Disco、Paramoreといったトップアーティストを輩出したエモ/ポップパンクの名門レーベルFueled by Ramenからリリースされた最新作『Ambitions』は、本格的な海外進出のキッカケになりえる作品として期待が高まっている。 

海外市場における競合

音楽メディアなどでONE OK ROCKが語られるとき「世界基準」という言葉が添えられることが多い。これは彼らの実力が世界レベルであることを示すためである。

ただ、日本の音楽メディアはビジネス構造上、アーティストに批判的なことが書けない。どんなアーティストのどんな作品も「最高傑作」であり、常に言葉を尽くして大絶賛するのが音楽メディアである。レコード会社やアーティストと円満な関係を築かなければ、飯の種である情報を得られなくなるからだ。それ故に音楽メディアの情報には公平性・信憑性が乏しく、常にバイアスが強くかかっていて、客観的な評価基準にはしにくい。つまり、「本当にONE OK ROCKは『世界基準』なのか?」という疑念は、音楽メディアの情報だけでは拭えないわけである。

そこで、音楽業界、アーティスト、レコード会社とは利害関係も縁もまったくなく、特にONE OK ROCKのファンというわけでもない、一介の音楽ブロガーに過ぎない私の評価を、客観情報の一つとしてここで提示しておこうと思う。

おそらく「世界基準」というのは「ロックバンドの質」を指してのことだろう。そして「ロックバンドの質」とは、多くの場合は「作品の質」(アルバムや曲の質)と「ライブの質」によって決定されると考えられる。

つまり、ONE OK ROCKが本当に「世界基準」かどうかを推し量るためには、米国市場で主戦場となるカテゴリにおける競合と比べた、楽曲やライブの質の比較がなされなくてはならない。競合を知り、競合と比較するというのは、マーケティング的に言えば外部要因分析の一種である。米国の市場特性を把握するためのこういったリサーチが前提にないまま「世界基準」などと言ってしまうわけにはいかない。

ONE OK ROCKの音楽は、一般的にセグメントされた最も大きな音楽ジャンルでいえばロックである。そしてそこからもう一つブレイクダウンしたサブジャンルでいえば、オルタナティブ・ロックである。

オルタナティブ・ロックとは元々、メインストリームとは対極にある、より自由な解釈のアンダーグラウンドなロックを指している。オルタナティブ・ロックに属する代表的なサブジャンルはパンクだが、音楽性としてはオルタナティブ・ロックの範疇にありながら、絶大なる人気を誇ってメインストリームを形成し、商業的に巨大な成功を収めているアーティストも数多く存在している。U2、Nirvana、Oasis、Radiohead、Green Day、Red Hot Chilli Peppers、Coldplayなどは、商業的に成功してメインストリームを形成している(形成した)オルタナティブ・ロックの代表例である。

しかしこうなると「オルタナティブ」の定義はかなり曖昧になり、それ故に、オルタナティブ・ロックを音楽を普段聴かない人に説明するのはなかなか難しい。事実上「パンクの影響を受けたロック」くらいの意味合いしかないからである。

オルタナティブ・ロックの定義がかなり曖昧なため、よりセグメントされたサブジャンル内で、ONE OK ROCKを客観的に評価する必要がある。それが、ポストハードコア、エモ、ポップパンクといった、パンクから派生したサブジャンルである。

これらはロックシーンの中でそれなりに浸透しているジャンル名であり、ある種の共通した音楽スタイルを表す。ポストハードコア、エモ、ポップパンクと併記するのは、それぞれかなり近接・重複したサブジャンルであり、特にONE OK ROCKはこれらサブジャンルに共通する要素を複数兼ね備えていて、一つに絞りにくいためである。より正確にいえば、ポストハードコアの中ではポップであり、ポップパンクの中ではハードなのがONE OK ROCKの音楽性である。(ちなみに「エモ」に関しては、ONE OK ROCKの音楽を語るうえで重要であるが、意見が分かれる表現でもあるため、ここでは言及せず後述する)

このONE OK ROCKと似たような音楽的方向性を持った海外アーティストを、有名無名・新旧を問わず列挙すると、以下のようになる。

ポストハードコア系(スクリーモを含む)
Asking Alexandria、blessthefall、Bring Me The Horizon、Bullet For My Valentine、The Color Motal、Crown The Empire、A Day To Remember、Emarosa、Escape The Fate、Finch、Glamour Of The Kill、Hands Like Houses、I See Stars、Issues、Madina Lake、Memphis May Fire、My Chemical Romance、Pierce The Veil、Red Jumpsuits Apparatus、Saosin、A Skilit Drive、Silverstein、Sleeping With Sirens、Story Of The Year、The Used、We came As Romance

ポップパンク系(エモ、パンクを含む)
5 Seconds Of Summer、The Academy Is…、Acceptance、The Afters、Against The Current、Alkaline Trio、All American Rejects、All Time Low、Aloha From Hell、The Ataris、Blink-182、The Cab、Cartel、Cobra Starship、Dashboard Confessional、Every Avenue、Everyday Sunday、Fall Out Boy、Fenix-TX、Forever The Sickest Kids、From Down To Fall、The Get Up Kids、Gob、Good Charlotte、Green Day、Hey Monday、Jack’s Mannequin、Jimmy Eat World、Matchbook Romance、Mayday Parade、Melody Fall、Motion City Soundtrack、Nevertheless、New Found Glory、The Offspring、Panic At The Disco、Paramore、Plain White T’s、Quietdrive、Rise Against、Simple Plan、The Starting Line、Something Corporate、Sugarcult、Sum41、Weezer、The Vamps、Walk The Moon、Waking Ashland、We The Kings、Yellowcard、You Me At Six

オルタナティブ・ロック系(オルタナ・メタルを含む)
30 Seconds To Mars、Anberlin、Dead By April、Feeder、Hoobastank、Incubus、Linkin Park、Lostprophets、Papa Roach、Taking Back Sunday、Zebrahead

世界中に数多くのアーティストが存在するジャンルであるため、抜け漏れは相当数あるはずだが、ざっと思いつくところでこのあたりである。これらのアーティストを一通り聴き、「好き・嫌い」「応援したい・応援したくない」といった個人的な感情を排除し、総合的・包括的・客観的に比較してはじめて、ONE OK ROCKが本当に「世界基準」であるかどうかが判断できる。

本当に世界基準なのか?

私自身は聴いている音楽の95%以上が洋楽である。中でもポストハードコア、エモ、ポップパンクは好んでいるジャンルの一つであり、当然上記アーティストはすべて聴いている。(もちろん多少の好き嫌いはあるが)

その上で、ONE OK ROCKの実力の客観的な評価だが、結論からいうと、間違いなく「世界基準」である。「世界基準」という言い方だと「業界内平均」というようにも受け取れるが、平均を大きく上回った、かなり質が高い音楽を彼らは提供している。

人気アーティストの宿命だが、ONE OK ROCKにもアンチは多い。若い年齢層に絶大な人気を誇るアーティストだからこそ攻撃対象になることもある。あるいは「二世」「元ジャニーズ」といった来歴から来る偏見や嫌悪感で彼らを否定している層もいるだろう。口の悪いアンチファンがネット上で彼らのことを「洋楽のパクり」「洋楽の劣化コピー」などと揶揄しているのを見たこともある。

ONE OK ROCKは日本のアーティストなので、これまでリリースした作品のメロディやサウンドは当然日本市場に最適化されたものだ。洋楽を好むリスナーからはその点で好まれない可能性はある。しかしこのような個人的趣味を別にしたときに、ONE OK ROCKの音楽に決定的な弱点を指摘できる人はいるだろうか。おそらくアンチでもあっても、かなり難しいのではないだろうか。

「洋楽の劣化コピー」という批判に関しては、完全に的外れである。ジャンルが明確に絞り込まれているので、雰囲気が似てしまうのは当たり前である。ONE OK ROCKでなくとも、上記で列挙したアーティスト同士での似通った楽曲は多数存在する。「同じジャンルに属する」とはそういうことである。

その上で、明らかに模倣したような楽曲がONE OK ROCKにあるかというと、上記アーティストを一通り聞いている私でも思い当たらない。ポストハードコア、エモ、ポップパンクにカテゴライズされる楽曲はこの世に数百万と存在し、探せば酷似する楽曲はあるかもしれない。例えば彼らの人気曲”NO SCARED”は、Papa Roachの”…To Be Loved”に似ていると指摘するブログも存在する。しかしこのような展開の曲は無数に存在し、メロディやコード進行を模倣したようなものではない。そもそも、彼らは海外アーティストの曲をパクる必要などまったくないだろう。なぜならONE OK ROCKの作曲チームの能力は、同系の平均的なアーティストを大きく上回っているからである。

ポストハードコア、エモ、ポップパンク系アーティストが陥る作曲面での問題に、似た曲ばかり作ってしまう点が挙げられる。音楽的な方向性が絞り込まれすぎているがゆえに、楽曲の幅を出すことが難しく、作曲能力の乏しいアーティストは、つい金太郎飴的な曲作りをしてしまう。

しかしONE OK ROCKはこうした楽曲の金太郎飴化を巧みに回避している。似た方向性の楽曲こそあれど、同じ曲ばかりという印象は少ない(もちろん興味のない人が聴けば同じような曲ばかりに聴こえるだろうが)。曲作りがあまりにも巧みなため、私はかつて「すべて外部ライターが作っているのでは?」と勘ぐってしまったほどである。この曲作りの巧みさはONE OK ROCKが確かに「世界基準」であり、海外の同系バンドより優れている点の一つだろう。この器用さがあれば、海外の同系バンドと勝負できる楽曲を生み出すことは十分に可能だろう。(実のところ、作曲能力があった上で、どの方向性に落とし込むか、という判断が一番難しいのだが)

また、ONE OK ROCKはライブパフォーマンスの素晴らしさが語られることも多いが、確かにライブの質に関しても、同系の海外バンドを上回っている。

「ライブがいい」という評価には、二つの評価軸が存在する。一つは、楽器の演奏レベル、もう一つはパッケージング能力に対してである。

Takaは確かに上手いヴォーカリストだが、メンバー全員が超絶技巧派というタイプではない。しかし、元々ポストハードコアやポップパンクは超絶技巧を求められるようなジャンルではなく、その中で彼らの演奏技術は十分高いレベルにあるともいえる。

しかしそのことよりも彼らが評価されるべきは、ライブのパッケージング能力だ。これは、安定したバンドアンサンブル、ライブの流れの生み出し方、セットリストの組み方など、ライブを一つのショウとしてまとめる力である。演奏技術が高くともパッケージング能力が低いバンドのライブは退屈であり、逆に高い演奏技術がなくともパッケージング能力が高いアーティストのライブは、時を忘れるほど魅了される。ONE OK ROCKはこのパッケージング能力がかなり高い。彼らのライブをこれまで5度観ているが、パフォーマンスも非常に安定している。

彼らはLOUD PARK、OZZFEST、PUNK SPRING、SUMMER SONIC、FUJI ROCK FESTIVALなど、口うるさい洋楽ファンが集まるフェスに積極的に出演している。彼らにとってはアウェイと言えるそういった場でも「ワンオクのライブは結構いい」という評判を築いている。彼らのパッケージング能力が高いのは、ライブの叩き上げでキャリアを作ってきた彼らからすれば、当たり前のことだろう。

ちなみに、ライブや演奏力は海外アーティストの方が優れているという先入観がある人もいるかもしれない。しかし日本人の方が平均的に高水準で、海外アーティストは落差が大きいように個人的には感じる。

例えばONE OK ROCKの影響源でもあり、海外で大きな成功を収めているFall Out BoyやMy Chemical Romanceなどは、驚くほどライブが下手である。このようなアーティストでも成功できるのが米国市場の懐の深さだが、彼らと比べるとONE OK ROCKのライブはより素晴らしく感じるだろう。(注1:一つフォローしておくと、Fall Out BoyもMy Chemical Romanceも私が大好きなアーティストであり、今でもアルバムはよく聴いている/注2:私がFall Out Boysのライブを観たのは2009年。それからうまくなっている可能性はある)

またアルバム『The Reason』が最高位3位を記録、収録曲”Reason”も最高位2位を記録したHoobastankが2014年に来日した際のオープニングアクトはONE OK ROCKであったが、この時もONE OK ROCKが圧勝であった。逆にHoobastankはライブがひどすぎて、聴くに堪えられず、私は途中で帰ってしまった。(注:一つフォローしておくと、Hoobastankも私が好きなアーティストであり、今でもアルバムはよく聴いている。ただしライブは二度と行かないだろう) 

海外進出における2つの戦略軸

日本人アーティストが米国進出をする際には、2つの戦略的な方向性が存在する。それが同質化戦略と差別化戦略である。世界基準の実力を持つ彼らの戦略について、この2つの軸から可能性やリスクを考えてみたい。

同質化戦略とは、ターゲットとするカテゴリのアーティストと同質化する戦略である。これはフォロアーに成り下がるということではなく、そのカテゴリの標準的なフォーマットに従う戦略である。この戦略で分かりやすいのは、例えば歌詞を英語にすることである。その他、楽曲、音質、ビジュアルなども、同質化の対象となる。

同質化戦略を取り、米国で一定の成功を収めた日本人アーティストといえば、LOUDNESSがあげられる。彼らの『Thunder In The East』(84年)、『Lightning Strikes』(86年)はそれぞれ最高位72位、65位を記録している。これはBABYMETALが2016年に『METAL RESISTANCE』で39位を記録するまで破られなかった記録である。少ないセールスでチャート上位進出が可能な現在と異なる80年代において、2作連続で、しかも約半年もの間200位圏内に留まった彼らの偉大さは、数字以上のものがある。

LOUDNESSは米国でのより大きな成功を獲得するため、当時興隆を極めていたグラムメタルを意識した音楽性の調整を行った。その結果、高度なテクニックに裏打ちされた彼らの楽曲は、非英語圏出身とは思えないほど、徹底的に米国市場のトレンドに同質化したものだった。

日本人が米国進出する際にはこの同質化戦略を取ることが非常に多い。日本が誇る宇多田ヒカルの『EXODUS』(utada名義)、Dreams Come True『SING OR DIE』、久保田利伸『Sunshine, Moonlight』(名義:Toshi Kubota)のいずれも、米国進出にあたり全編英語詞の作品をリリースしている。また近年海外での評価が高まっているCrossfaithも海外メタルコアシーンと同質化する戦略を取っている。このように、有名・無名問わず、同質化戦略の例は非常に多い。

そしてONE OK ROCKもまた同質化戦略である。『Ambitions』インターナショナル盤は前作『35xxxv』同様、全曲英詞となっており、日本盤とは収録曲も異なる。

インターナショナル盤では収録が見送られた”20/20”や”Lost in Tonight”という楽曲は、いかにもONE OK ROCKらしい切ないメロディと適度な疾走感を伴った良曲で、日本人ファンは「なぜこんな曲を外すのか」と理解に苦しむかもしれない。しかし、日本人が好むこういうアニソンのようなクサメロ系の曲は、特に今の米国市場ではあまり受けない傾向がある。代わりに収録された”Jaded”や”Hard To Love”、”American Girls”といった曲は日本人ファンには随分淡白な曲に聴こえるかもしれない。しかし確かにこういった曲の方がより米国市場向けなのである。

「郷に入っては郷に従う」を地で行く同質化戦略はリスクを生む。それは没個性化である。日本では絶大な人気を誇りながら、宇多田ヒカルもDreams Come Trueも久保田利伸も、米国市場では振るわず敗退している。商業的成功は音楽性だけでは決まるわけではないが、徹底的な同質化が個性を奪い、個性豊かなアーティストが跋扈する市場の中でその存在を埋没させた可能性は否定できない。結局、同質化戦略はLOUDNESS以来成功者を生み出せていない。

一方で、日本人であることを最大限活かした戦略が差別化戦略である。代表的な成功者はBABYMETALである。彼女たちのアルバム『METAL RESISTANCE』は、多少のミックスや選曲の違いはあるものの、ほぼ日本語のまま海外で作品がリリースされている。また『UROBOROS』(08年)が最高位114位、『DUM SPIRO SPERO』(11年)が最高位135位を記録するなど、欧州はじめ海外で一定の成功を収めているDir en greyもまた、日本語を活かした楽曲のまま評価されている。

飽和状態で個性を出すことが難しい時代背景を考えると、日本ならではの特殊性を前面に押し出した差別化戦略の方が海外進出に有利かもしれない。その考えに従えば、ONE OK ROCKも英語ではなく日本語で歌うべきという発想になるだろう。実際Amazonのレビューなどにも、日本語を捨てたことで個性を失った、海外進出するなら日本語で行くべきだ、といった意見も見られる。しかしONE OK ROCKのような音楽性では日本語を使った差別化戦略は難しいというのが私の見解である。

「デフォルメされた世界観」を描くような音楽性であれば、差別化戦略は有効に機能する。BABYMETALが立脚するヘヴィメタルは、古くはKISS、90年代以降ならMarilyn MansonやSlipknotなど、シアトリカルな作風を受け入れる土壌ができているジャンルである。過剰に演出し「この世ならざる世界」を描くことが求められる(許される)ジャンルである。違和感のある日本語の響き、メタルと隔絶したアイドルヴォーカルも有利に働く。Dir en greyにおいても、ゴシックで耽美的な世界観に日本語の奇妙な音の響きは個性として機能しただろう。このことは日本語だけに限らない。英語圏で人気を誇るポストロックバンドSigur Rosは母国アイスランド語で歌っているが、天界から舞い降りたような世界観とアイスランド語は非常にマッチしている。2012年にヒットしたPsyの”江南スタイル”(最高位2位)はほぼ韓国語だったが、コミカルな世界観に韓国語の違和感ある響きがうまくマッチしていた。

一方、パンクやハードコア、一般的なロック、R&Bやヒップホップ、フォーク、カントリーのような音楽には「等身大の世界観」が求められる。言い換えれば「日常の延長線上の世界」「真顔で聴ける音」である。このようなジャンルでは、日本語特有の響きはマイナスに働くのではないか。例えば私たちは、Mr.Childrenと似た音楽性で同レベルのクオリティが伴った楽曲であったとしても、歌詞が中国語やフランス語であったなら、それを真面目には受け取りにくいだろう。

同じく日本語で歌われるパンクは、英語圏の人には「奇異な音」「滑稽な音」と受け取られるリスクが生じる。ONE OK ROCKが東洋風のオリエンタルなメロディを取り入れた風変わりなポストハードコア、ポップパンクという立ち位置なら日本語でいけるかもしれないが、彼らの音楽性はそうではない。やはり彼らには同質化戦略が妥当だ。 

余談だが、日本語をあまり意識しないで海外展開できる音楽も存在する。一つは歌がよく聴き取れないタイプの音楽である。シューゲイザーやインダストリアル、デスメタル、ブラックメタル、激しくスクリームするハードコア、デジタル加工が激しいハウスなどは日本語のままでも海外展開できる。

もう一つは歌がない音楽である。当たり前だが、歌がなければ日本語かどうか、日本人かどうかは関係ない。例えば、2016年の『Requiem For Hell』のみならず海外でのアルバムリリースが常態化し、世界各国で精力的にライブを行っている日本が誇るポストロックバンドMONOは歌のないインストゥルメンタル・バンドである。このような音楽性であれば、当然ながら言葉の壁に惑わされることなく海外展開を図ることができる。もちろんONE OK ROCKは歌が必須のバンドなので、このようなアーティストの海外戦略を参考にすることはできない。

今は古い「エモ」という音楽

同質化戦略以外に、彼らの音楽性にはもう一つのリスクが存在する。ONE OK ROCKが選択しているポップなポストハードコア、あるいはハードなポップパンク、一言でいうなればエモという音楽が、米国では10年前に流行った古い音楽という点である。これを解説するには、エモという分かりにくいジャンルの説明が必要になる。

エモは、パンクの一種である。そしてパンクは、先ほどの説明のようにオルタナティブ・ロックの一種である。そのパンクの源流は60年代後半まで遡る。

60年代中盤、The BeatlesやThe Rolling Stonesらの英国産ロックバンドによるいわゆるブリティッシュ・インヴェイジョンが世界を席巻すると、その影響を受けた米国のアマチュア・セミプロバンドが数多く登場した。彼らは自宅のガレージで演奏したことからガレージロックと呼ばれた。彼らの多くは素人に毛が生えたレベルの演奏力であり、楽曲もほとんどカバーで、商業的に成功することはなかったが、一部はサイケデリックロックの要素などを取り込みながら、米国のメインストリームに対するカウンターミュージックとして、アンダーグラウンドで一定の評価を得た。代表的なのはMC5、The Stooges、Ramones、The Velvet Undergroundであり、彼らが初期のUSパンクシーンを形成していった。

一方、ブリティッシュ・インヴェイジョンが終結した英国は70年代に入り、Led ZeppelinやBlack Sabbathなどのハードロック勢、あるいはPink FloydやKing Crimsonといったプログレッシブロック勢が台頭を始めた。共通するのは、テクニックを要する複雑で高度な音楽性である。そしてこのロックの高度化・複雑化に対するカウンターとして登場したのが、Sex PistolsやThe Clash、The Damnedなどに代表されるロンドンパンクである。彼らの主な影響源はUSパンクやガレージロックであり、演奏力を必要としないシンプルなロックンロールでシーンの流れを大きく変えた。

しかしこのロンドンパンクも寿命は短く、フォロアー続出で早々と定型化していった。この定型化したパンクに対するカウンターとして80年代初頭に登場したのが、ポストパンクやハードコアパンク(ハードコア)である。ポストパンクはパンクにポップスやフォーク、レゲエ、ダンスミュージックなどの異ジャンルの音楽を積極的にミックスした当時新種のパンクの総称である。代表的なのはJoy Division、New Order、Bauhaus、The Smiths、U2、Policeあたりである。

一方、ひたすら過激さを増し、スピードやアグレッション、メッセージの過激性を追求したのがハードコアである。この時期の代表的なハードコアバンドといえば、Discharge、G.B.H.などがあげられる。

速くて激しいハードコアも、1秒の曲を演奏するグラインドコアなどのサブジャンルを生み出しながら、やはりその表現は手詰まりになり、80年代後期には閉塞感が訪れた。そんな閉塞化したハードコアのカウンターとして80年代末に誕生したのが、エモーショナルハードコア、いわゆるエモである。エモはこのような成り立ちから、初期はポストハードコアと呼ばれることも多かった。

スピード重視でメロディの希薄なハードコアと対照的に、エモはハードコア由来のシンプルなギターサウンドを基本としながら、スピードを落とし、ディストーションを抑え、切ないメロディを大々的に導入していった。ハードコアとは異質な音を奏でながらも、エモ黎明期を支えたバンドの多くは元々ハードコアバンドであった。

このエモは90年代に入り、アンダーグラウンドシーンで活況を呈し、多くのアーティストを輩出していった。この時期のエモは「ハードコアへのカウンター」という側面が強く、幅広い音楽性を内包しており、また現在一般に言われるエモとは異質な音でもあった。90年代エモの代表的アーティストといえばFugazi、Sunny Day Real Estate、Texas Is The Reason、Jawbreaker、Braid、Mineral、American Football、At The Drive Inなどがあげられるが、彼らの名盤を現在のONE OK ROCKファンが聴いてもまったく異なる音楽に聴こえるだろうし、おそらくはあまり好きにはならないだろう。

ジャンルとして徐々に浸透しながら音楽性としてはある程度自由な解釈がなされていたエモに大きな転機が訪れた。それが当時エモシーンではトップの人気を誇っていたThe Get Up Kidsのアルバム『Something to Write Home About』(99年)と、同じくトップバンドであったJimmy Eat Worldの『Bleed American』(01年)である。より幅広い層へのアプローチを目指したこれら作品は、エモの裾野を広げることに確かに成功したが、一方でエモの音楽性を変質・固定化させることになった。これら作品が、ポップパンクを基本に、メロディの抒情性、ギターのヘヴィさを高め、やや疾走感を抑えたような音楽性だったためである。

特にJimmy Eat World『Bleed American』は、米国だけで100万枚を超えるセールスを記録したヒット作となった。本作の音楽性が、エモ=切ないメロディとややヘヴィなポップパンクという定義となり、00年代において「売れる音楽」として、エモが爆発的に浸透するキッカケとなった。

ONE OK ROCKが時に例えられるエモとは、つまりJimmy Eat World『Bleed American』以降のエモである。そして、00年代の変質化したエモはもはやポップパンクであるという考えの人には、ONE OK ROCKはエモではないということになる。この辺がエモという言葉を使うときにまとわりつく面倒くささである。

エモの商業的な成功とともに登場したサブジャンルにスクリーモがある。これは「スクリームするエモ」という意味で、エモにハードコアやメタルなどの要素を加えたよりヘヴィな音楽である。代表的なバンドにはThe Used、Finch、My Chemical Romanceなどが存在する。エモの衰退とともにスクリーモというジャンル名もあまり使われなくなり、現在はこのような方向性のバンドは、総じてポストハードコアと呼ばれることが多い。(前述のように、ポストハードコアとは本来はエモもスクリーモも内包するもう少し大きなくくりのジャンル名である)

ONE OK ROCKの過去作品では、エモやポップパンクにしてはやや激しい一面を垣間見せることがあるが、これはスクリーモの影響と考えられる。また、海外でONE OK ROCKと非常によく似た音楽性を志向しているアーティストは、スクリーモやポストハードコアにカテゴライズされていることも多い。

Jimmy Eat Worldが『Bleed American』で切り開いた00年代型エモは、2007年頃にピークを迎えた。

My Chemical Romance『The Black Parade』(06年)、Fall Out Boy『Infinity On High』(07年)両作は、全米チャート1位を獲得し、エモのみならず一般ロックファンにも幅広く受け入れられる大ヒット作となった。この頃はエモ系アーティストのメジャー契約が相次ぎ、エモ系のヒット作も多く登場した時期だ。ONE OK ROCKがアルバムをリリースしているFueled by Ramenは、この時期に一躍名を馳せたエモ系レーベルである。そしてこの後エモシーンは衰退期に入り、再びアンダーグラウンドに潜る。Fall Out Boyは2009年に無期限活動休止、My Chemical Romanceは2013年に解散を発表した。

エモ最盛期に活動していたバンドで、現在も活動しているバンドもいる。しかし当時の音楽性を保ったままのバンドの多くは、チャート上ではかなり苦戦している。これはエモのみならず、パンク全般でもいえることでもある。Sum41やGood Charlotteなど、当時それなりの知名度とセールスを記録したポップパンク系アーティストでさえ、近年発売されたアルバムはチャートの20位前後にランクインするのがやっとである。アルバムは年々売れなくなり、少ないセールスでも上位進出しやすくなっているのに、である。さらに知名度の低いアーティストでは、100位以内にも入らないことが珍しくない。

ポストハードコアとしてはポップで、ポップパンクとしてはハードなONE OK ROCKの音楽性もまた、00年代エモを色濃く引き継いだ音楽性である。問題はこのような音楽が既に時代遅れになっていることである。これはONE OK ROCKが米国攻略を目指すうえでのネガティブな要因の一つである。

エモバンドの生存戦略

エモブームが過ぎ去った後、当時の人気アーティストは皆セールス的に沈んでいるのか。実は、しぶとく活躍しているアーティストも存在する。彼らはどのような生存戦略を取ってきたのだろうか。

もっとも分かりやすいのはEDMへの接近である。EDMは2011~2014年頃の米国の音楽シーンを席巻し、今もその余波が続いているハウスミュージックの一形態である。余談だがハウスミュージックを下世話なまでにポップ方向に振り切ったEDMは、従来からのハウスファンに蛇蝎のごとく嫌われている。これは同じくセールスに振り切った00年代エモを嫌う90年代エモファンと同じ構図である。このような構図はジャンル、時代を問わずに発生するのが面白い。

それはさておき、EDMはロックではなくダンスミュージックだが、エモやポップパンクは歴史的に見てもダンスミュージックとの相性が良い。Panic! At The DiscoやThe Cab、Good Charlotteのように、ダンスの要素を取り入れたエモバンドやパンクバンドは、エモ後期に入るとしばしば見られた。人気EDMアーティストSkrillexがポストハードコアバンドFrom First to Lastのヴォーカリストであったのは有名な話である。Cash CashというポップパンクバンドはEDMブームに乗じて音楽性を一新し、完全なEDMアーティストに変貌している。

嗅覚の鋭いバンドは、エモのダンス化とEDMの興隆の流れを読み、自らの音楽性を変化させる生存戦略を取っていった。活動再開を宣言したFall Out Boyの復活作『Save Rock and Roll』(13年)は、パンクをベースにしつつエレクトロサウンドを大々的に導入している。オープニングの”Phoenix”はパワフルな疾走ナンバーであるが、それまでの彼らには見られない異質のビート感を伴っている。

元々ダンスミュージックの要素を取り入れ、Fall Out Boyの弟分としてエモ最盛期に登場したPanic! At The Discoは、メンバーチェンジなどの不安定な活動状況を跳ねのけながら、『Death of a Bachelor』(16年)で全米No1の座に復活し、現在もTOP100圏内に在位するロングセールスを記録している。本作もやはり、EDMの影響を強く受けたエレクトリックパンクである。

EDMの影響はさほどではないが、同じく00年代エモを代表する紅一点ヴォーカルを擁するParamoreの音楽性の変化も象徴的である。Green DayやMy Chemical Romanceを手掛けたロブ・カヴァロによるプロデュースで最高位2位を記録した『Brand New Eyes』(09年)の後、メンバー脱退などの混乱の末に復活した『Paramore』(13年)は、脱エモ化したポップロックであった。この頃、ヴォーカルのヘイリー・ウイリアムズは人気EDMアーティストZEDDの楽曲” Spectrum”に客演している。これも脱エモ化、EDMとの関連強化の一つといえる。

このようなEDMへの接近はパンクに限った話ではない。Coldplay、Maroon5、OneRepublic、Train、twenty one pilotsなど、10年代に入って商業的な成功を収めたロックバンドの多くがダンスやエレクトロを大々的に導入している。

実はこういったエレクトロ化の流れは、ONE OK ROCKの近作にも大いに影響を与えている。前作『35xxxv』あたりから、デジタル的なエフェクトやシンセが積極的に取り入れられている。海外のエレクトロ色の強いロックバンドと比べれば控えめであり、基本的な音楽性を変えるほどではないが、やはり意識せざるを得ない状況なのだろう。

ただ、このエレクトロパンク路線が2017年において有効なのか、というのは意見が分かれる。なぜならEDMは既に下り坂のジャンルだからである。例えばかつてEDMとの関連性を強めていたRihannaは最新作『ANTI』(16年)でアンビエントR&B路線に舵を切った。かつてはEDMに急接近していたLady Gagaもまた『Joanne』(16年)という生音を活かしたオーガニックなテイストのポップアルバムをリリースしている。

しかし、EDMが減速傾向にあるとはいえ、00年代のようなエモサウンドが復活する動きがあるわけでもない。2017年は支配的なジャンルが存在せず、踊り場的な状態であることから、方向性を見定めるのが難しい年ではないかと思う。

個人的には、『Ambitions』のインターナショナル盤を聴くと、このあたりの悩みが感じられる。『Ambitions』冒頭でダークな色調の重厚なナンバーを並べながら、All Time Lowのアレックス・ガスカースと共作した”Jaded”以降、比較的ポップでライトな曲が続く展開となる。様々な可能性に対応していると好意的に受け取ることもできるが、これを中途半端と受け取るリスナーもいるのではないだろうか。

このような危惧がある一方、ポジティブな要因も当然ある。それは米国の音楽シーンの多様性である。確かにエレクトロの少ないロックは売れない傾向はあるが、トレンドになびかなければ絶対に売れない、というわけでもない。例えば以下のような作品は、エレクトロ化せずとも最近のチャートで一定の成功を収めている。

  • All Time Low『Future Hearts』(15年/最高位2位)
  • Bring Me The Horizon『That's the Spirit』(15年/最高位2位)
  • Rise Against『The Black Market』(14年/最高位3位)
  • Papa Roach『F.E.A.R.』(16年/最高位15位)
  • Crown The Empire『Retrograde』(16年/最高位15位)
  • Issues『Headspace』(15年/最高位20位)

また英国のオルタナティブ・ロックバンドMuseのように、近年はダンス/エレクトロへの傾倒を強めていたが、ギターロック的な作風に原点回帰した『Drones』(15年)でキャリア最高となるチャート1位を獲得した例もある。

これらの作品がONE OK ROCKが米国市場を攻略するうえでのベンチマークとなりえるだろう。特にAll Time Low『Future Hearts』は、ONE OK ROCKの作品としては音が軽い『Ambitions』インターナショナル版の作風に比較的近く、彼らも強く意識しているのではないだろうか。

成功シナリオ1:カテゴリースター

申し分のない実力を持ちながら、同質化戦略のリスクと、エモに由来するリスクを抱えたONE OK ROCKだが、彼らの米国進出には2つの成功シナリオが考えられる。一つは「カテゴリースター」のシナリオ、もう一つは「ロックスター」のシナリオである。

市場をポストハードコア、エモ、ポップパンク周辺に絞り、その中でNo.1の地位を目指すのが「カテゴリースター」のシナリオである。

ここでの成功は、ポストハードコア、エモ、ポップパンクといったサブジャンルで、「今勢いのあるバンドといえば?」という質問に「ONE OK ROCK!」と返ってくるような立ち位置を米国市場で築くことである。ポストハードコア、エモ、ポップパンクが好きなリスナーには100%の認知を誇り、同系バンドからリスペクトされ、後続バンドはその影響を口にするような存在である。

このシナリオでも十分な成功だが、一般の日本人が想像するような成功ではない。ポストハードコア、エモ、ポップパンクを聴かないような一般的な音楽ファン、ロックファンにおける認知度は決して高くない存在である。

チャートアクションとしては、初登場でTOP40入りを果たす。認知度の高さによってはTOP10入りも可能である。ただし2週目以降はチャートを急降下する。これは作品の問題ではなく、特定のカテゴリに閉じた人気で、一般の音楽ファンに波及しないからである。

実はBABYMETALも、現時点ではこのタイプの成功である。『METAL RESISTANCE』は3週目でTOP200圏外に消えている。これは、彼女たちの人気がメタルファンを中心にしたカルト的な範疇に留まっていることを示している。つまり「米国で成功した」と日本では報道されていても、一般の米国人が知るほどの存在ではないということである。ただ、だからたいしたことない、というわけではない。BABYMETAL以外にこのレベルに到達したアーティストはいないわけで、これでも十分偉大な記録である。

チャートの話が出たついでに、チャートの見方に関する2つの注意点を伝えておきたい。

一つ目は、iTunesのチャートはあてにならない、ということである。

日本のメディアは米国のiTunesチャートにおける上位入りを「快挙」と報じる傾向があるが、米国市場における成功指標となるチャートはBillboardだけである。特にアルバムチャートは総合的なセールスだけで集計されており、ここでの上位ランク=米国での成功とほぼいえる。一方でiTunesのチャートはかなりイビツである。

音楽の販売は、CDやアナログなどのフィジカルと、ダウンロードやストリーミングなどのデジタルに大別される。近年はデジタルが主流なのは周知のとおりだが、さらに米国ではデジタルの多くがストリーミングに移行し、2016年はストリーミングによる売上がダウンロード販売を超えたとの報道もある。

iTunesとは、そんな斜陽なダウンロード販売の一プラットフォームに過ぎない。なにしろ、アップルがApple Musicに注力してダウンロード販売から撤退すると噂されるほどである。

このような衰退チャートであるiTunesを成功指標として扱うのはなぜ問題なのか。

まず、iTunesのチャートは日別で集計されている。この仕組みを利用すると、例えば海外アーティストの一斉発売日である金曜日を避け、日本人アーティストで一般的な水曜日に作品をリリースすることで、一時的に上位入りさせることが可能である。

さらに、ストリーミングが主流な市場特性を逆手にとり、ストリーミングで配信せずにiTunesでしか手に入らないようにすれば、ファンがそこに殺到し、数字が上乗せされ、iTunesだけ、ランキングが上位になることが起こり得る。

iTunesはダウンロード数を公表していないが、Billboardで公表されている販売数から、ダウンロード販売のシェア、その中でのiTunesのシェアと逆算していくと、水曜日などのリリースが少ない日なら、1日100~200ダウンロードでもTOP10入りを果たすことができると考えられる。

例えば、宇多田ヒカル『Fantôme』は水曜日にリリースされ、米国のiTunesアルバムチャートで「1日だけ」TOP6を記録し、日本でも大々的に報じられた。これを「宇多田ヒカルの音楽が海外でも通用した」と興奮気味に報道する音楽メディアや音楽ライターも少なくなかった。

宇多田ヒカルの新作が素晴らしくなかったとは言わないが、iTunesの記録だけを見て、「米国人の心を捉えた」と言い切ってしまうことはできないし、それだけを見て感傷的になる音楽メディアや音楽ライターは、音楽の専門家なのに基本的なチャートの数字の見方も分からないのか、と嘆かわしくもなる。

そもそも米国には40万人の在米邦人が存在する。かつて日本国内だけで800万枚も売り上げた宇多田ヒカルをもってすれば、日本人の購買力だけで上位入りさせることが可能ではないだろうか。

さらにいえば、iTunesはその国のクレジットカードがあれば、アカウントを作りダウンロードできる。つまり、日本にいる熱心なファンが米国名義のクレジットカードを使って組織的に購入してチャートを操作することも可能である。あるいはレコード会社がこのカラクリを悪用し、販促活動の一環として海外のiTunesで集中的にダウンロードし、チャート上位を達成、海外で活躍したかのように国内メディアに報道させ、日本国内での販売促進につなげる、というスキームを作ることも可能である。

ここまでしていると思っていないが、このようなことをやろうと思えばやれるiTunesというチャートの信頼性は極めて低く、成功の基準にはできない。iTunes「だけでしか」上位入りしない作品やアーティストは、iTunesの特殊性によって上位進出しているだけである。それは米国市場での本質的な成功(=米国の音楽ファンの心を音楽の力で揺さぶり、その名前を浸透させること)の証明にはならない。

さて、成功指標としてチャートを用いるにはもう一つ、「初登場のマジック」についても知っておく必要があるだろう。

作品が徐々に評価され、後からジワジワと売れるタイプの作品の場合、リリース後しばらくしてから最高位を記録することもある。しかし、初登場順位が最高位という作品の方が多いだろう。このようなチャートアクションをする作品は、チャートの順位と作品の質にあまり相関関係がないことが多い。初登場順位というのは、アルバムの全容を知らないで購入した人の数であり、それはそのアーティストの知名度や期待度に依存するからである。

例えばBABYMETAL『METAL RESISTANCE』は初登場39位を記録したが、これは『METAL RESISTANCE』に対する評価ではない。むしろ、デビュー作『BABYMETAL』(15年)とその後行われたライブ活動で高まった彼女たちへの評価が『METAL RESISTANCE』に対する期待となり、初登場順位に反映されたと考えるのが妥当である。

ちなみに『METAL RESISTANCE』や本作に伴うツアーに関する海外の評判を見る限り、彼女たちの次回作は『METAL RESISTANCE』の記録を超える可能性が高いと考えられる。個人的な予想では、TOP20入りも夢ではない。(余談だが、私はBABYMETALのファンではなく、それほど好きなわけでもない。ただし戦略的には非常に素晴らしいアーティストだと認めざるを得ない)

ONE OK ROCKの『Ambitions』およびそれに伴う活動の評価がチャート順位として現れるのは、次回作の初登場順位と思われる。つまり私たちが『Ambitions』に真の評価を下すには、次回作まで待つ必要があるということである。

成功シナリオ2:ロックスター

多くの日本人がイメージする「海外での成功」はおそらくこれだろう。ポストハードコア、エモ、ポップパンクを聴かない米国人でも、その多くがONE OK ROCKの存在を知るような状態である。「代表的な日本人アーティストといえば?」という質問には、高い確率で「ONE OK ROCK」という答えが返ってくる状態である。

大規模なロックフェスではヘッドライナー級の扱いを受け、ロック、ポップ問わず幅広いアーティストから注目される存在である。この段階になると日本市場より海外市場の方が優先度は高くなり、世界各国で2~3年かけてツアーを行い、アルバムリリースは3年から4年サイクルになるだろう。

一般ロックファンに広く認知されている存在であるため、ポストハードコア、エモ、ポップパンクとの関連性は重要でなくなる。ONE OK ROCKの知名度で音楽が売れるため、音楽性で多少大胆な変化やチャレンジを行っても、作品の質の高さを維持し、築き上げた文脈を維持すれば、一定の売上を記録することができる。

グラミー賞のアルバム部門やロック部門にもノミネートされる。その他、海外のロック系メディアの年間優秀作品などにも、頻繁に作品が名を連ねるようにもなる。チャートアクションとしては初登場でTOP5以内に入り、半年~1年以上在位する。カテゴリースターのように数週でTOP200圏外に消えることはない。

しかし、ONE OK ROCKがもしこのような成功を手に入れるとしたら、おそらく今の音楽性のままでは厳しいのではないかと思う。それは彼らのロックバンドとしての力量の問題ではなく、前述のように彼らが立脚しているジャンルの問題である。

ロックスターの多くは、まずはカテゴリースターになる。しかし、そこからロックスターに脱却するには条件がある。それはそのカテゴリに勢いがあり、音楽シーンを席巻するような盛り上がりを見せている、ということである。

Green Dayはメジャーデビューアルバム『Dookie』(94年/最高位2位)でポップパンクのカテゴリースターとなった。グランジブームが過ぎ去った90年代中盤、米国市場で初めてパンクが商業的な成功を収めた契機となった(70年代のUKパンクは米国では商業的に成功しなかった)。自ら切り開いたパンクブームに乗って良質な作品をリリースしながら、コンセプトアルバム『American Idiot』(04年/最高位1位)で彼らはパンクとの関連性に頼る必要がない、米国を代表するロックバンドの地位に上り詰めた。

Linkin Parkも現在はロックスターの地位を確立しているアーティストといえる。彼らは当時一大ブームとなっていたニューメタルにおける質の高いフォロアーとしてデビューを果たしている。デビュー作『Hybrid Theory』(00年/最高位2位)と2作目の『Meteora』(03年/最高位1位)で彼らはカテゴリースターの地位を不動にするが、ニューメタル自体は下火になる。続く3作目『Minutes to Midnight』(07年/最高位1位)は彼らの持ち味であったラップを封印し、より普遍的なロックに変貌した。これが彼らをニューメタルという「古い音楽」から決別させた。さらにJAY-Zと共作したEP『Collision Course』(04年/最高位1位)のようなジャンルを超える活動などにより、カテゴリに属さない普遍的なロックスターの地位を確立した。

ONE OK ROCKにおいても、カテゴリースターを経由してロックスターを目指すのが正攻法であると思う。しかし問題は、彼らが立脚するポストハードコア、エモ、ポップパンクが、商業的な勢いがないカテゴリである点だ。このような状況を考えると、ONE OK ROCKがロックスターになるためには、3つの選択をする必要があるだろう。

1つ目は、大規模な音楽性の変化である。2017年は支配的なトレンドが存在しないが、かといって00年代のようなエモサウンドが主流になるとは言いにくい。であれば一層、Panic! At The Discoを思わせる大胆なエレクトロパンクに音楽性を変更すべきではないか。彼らほどの力ある作曲チームであれば、方向性を変えても十分良質な楽曲を生み出せるだろう。

しかしこの路線には、日本のファンを大量に失うリスクがある。今までのONE OK ROCKとは異質な音楽に変化するためである。特に『Nicheシンドローム』以降に獲得したファンの多くからは不評をかうだろう。過去を捨てて未来に賭ける戦略だが、日本のファンを失い、米国でも売れない、という最悪のパターンに陥る可能性はある。

リスクを最小限に抑え、しかしできるだけ米国に照準を合わせるために、日本と米国でまったく異なる音楽性で活動するという選択肢も考えられる。『Ambitions』も日本盤とインターナショナル盤とで差別化して作品をリリースしているが、やるのならもっと徹底的に差別化して水平展開する、という考えである。これが二つ目の選択である。

日本にBorisというバンドがいる。商業的に目立った成績こそ出していないが、ドローン、ノイズ、ポストメタルなどのカルトな音楽シーンでは世界的に評価されているロックバンドである。かつての彼らは、バンド名が大文字「BORIS」名義のときと、小文字「boris」名義のときで音楽性を大きく変えていた。(BORISがヘヴィなオルタナティブ・ロック、borisは実験的なエクスペリメンタル・ロックである)

これをヒントにして、同名バンドでありながら日本国内ではJ-ROCK色の強いエモパンク路線、米国ではPanic! At The Discoのようなエレクトロパンク路線、という攻め方もできるのではないだろうか。

もし実践したなら、世界的にも画期的な取り組みとなるだろう。まったく異なる音楽性になるため、アルバム制作費やマーケティング予算は倍以上になる可能性はあるが、日本市場を気にせず、日本市場の人気も失わず、より徹底的に米国市場に照準を合わせることができる点で、理にかなってはいる。

さて、ここまで紹介した2つの選択は音楽性の変化を前提としていたが、最後は音楽性を変えない選択である。それは、音楽性ではなく、文脈構築で知名度をあげていく方法である。

例えば、Takaがテイラー・スウィフトと交際したら『Ambitions』の売上は大幅に伸びるだろう。馬鹿馬鹿しいかもしれないが、文脈で売るということはこういうことである。音楽と異なるところで話題になり、認知を広げ、音に耳を傾けさせる。そこで聴いた音楽が質の高いものであったなら、そこから音楽が評価される。

この世には優秀なミュージシャンは数多く存在する。しかし、商業的に成功するアーティストとそうでないアーティストに分かれる。その違いは才能ではなく、認知獲得の問題であることの方が圧倒的に多い。情報過多の現在、認知を獲得するというのは、非常に重要かつ困難な課題である。

もちろんアーティストならば、音楽の良さが口コミで広がる、という理想的なステップアップを描くだろうが、結局は思ったように認知が広がらず、キャリアを重ね、契約を終えてしまうことの方が圧倒的に多い。であるなら一層、音楽とは別軸から文脈を構築し、認知を一気に広げ、そこから音楽に向き合ってもらう、というのも一つの考え方である。

例えばOne Directionは、英国の人気番組『Xファクター』で勝ち残ったメンバーで構成、若者受けする端正なルックス、といった音楽以外の文脈が強く働き、世界的な人気を誇るアイドルグループになった。今となっては彼らの音楽が好きというファンも多いだろうが、文脈の力を借りなければ音楽に目を向けてもらうことは難しかっただろう。

ONE OK ROCKが、今のようなポストハードコア、エモ、ポップパンクの基本路線を堅持したまま、ロックスター並みの成功を手にするのであれば、文脈の力で認知にブーストをかけるのが必要条件になるだろう。

『Ambitions』のチャートアクション

ここまでONE OK ROCKの海外戦略の可能性やリスク、想定される成功シナリオの解説を行ってきたが、ここからはこれらを前提に『Ambitions』の実際のチャートアクションを見てみいきたい。

まず、2017年1月13日に米国のiTunesのロック部門のアルバムチャートで、『Ambitions』がNo.1を獲得したとオフィシャルアカウントがツイートし、メディアでも報じられはじめた。しかし前述のように、iTunesのチャートは成功指標にならない。しかもロック部門という限定的なセグメントである。ONE OK ROCKに次ぐ第2位が30年前のU2の名盤『The Joshua Tree』(88年)のリマスター盤であることからも、競争率が低い中での上位入りと推測される。

2017年1月25日、関係者なら誰もが待ちわびたであろうBillboardが更新された。記録は106位である。BABYMETALほどではなかったが、Dir en greyの記録は超えた。ONE OK ROCKと卑近な音楽性で似た成績を上げた作品としては、Takaも過去に共演したSimple Planの『Taking One for the Team』(16年/最高位94位)があげられる。つまり今の米国市場において、彼らはSimple Planより若干劣るくらいの立ち位置と言える。

実は私の事前予想では、120〜150位くらいと予想していたが、それは上回った。彼らの戦略は基本的にとても手堅く、これは、彼らとしても想定内の結果かもしれないが、もしかしたらもっと上を考えており、失望しているかもしれない。しかし、彼らは米国でまだ1作しか出しておらず、前述のような同質化戦略のリスク、ポストハードコア、エモ、ポップパンクという不利なジャンル特性を考えると、個人的にはかなり健闘したとも考えている。

2017年2月2日、翌週のチャートが公開されたが、『Ambitions』はチャート圏外に消えた。残念ながら初週のセールスを維持することはできず、瞬間風速的な売上であった可能性もある。今後セールスが伸び、チャートに復活することがなければ、『Ambitions』のチャート在位期間は1週のみ、ということになる。

『Ambitions』の次の展開

ここからは個人的見解の度合いを強めて、『Ambitions』の次の展開を予想してみたい。

上記のように、Billboardで106位、在位は1週のみ、というのは判断が難しい。健闘したともいえるが、うまくやればもっと上に行けた、もっと長く在位できた、と捉えることもできる。

『Ambitions』の真の評価はこれからだが、さらに上に行き、さらに長期間在位する可能性があったことを前提とし、今後の作品『Ambitions』の記録を超えて、TOP40、TOP20入りを果たし、長く売れるためにはどうすればいいだろうか。

『Ambitions』は確かに米国市場を見極めた手堅い作風だが、正直なところ、曖昧な印象も受けた。同質化戦略による没個性化にハマっている印象もある。ヘヴィなのかポップなのか、ハードなのかソフトなのか、ダークなのかライトなのか、ウエットなのかドライなのか、そのバランスを取ったともいえるが、的を絞り切れていないようにも感じた。この中途半端さが『Ambitions』をやや売りにくくしている一因ということはないだろうか。

昨年、Issuesの米国ツアーにCrown The EmpireとONE OK ROCKが帯同された。IssuesやCrown The Empireといった現ポストハードコア界隈で人気バンドと共演することはONE OK ROCKにとってチャンスである。彼らのライブの実力なら、海外ファンの関心を集めた可能性もあるだろう。

しかし、ライブで興味を持ったIssuesやCrown The Empireのファンが、本作『Ambitions』を聴いたとき、どう思っただろうか。いずれも、ポップな一面はあれど、メタルコアからの影響もあるヘヴィ級のサウンドを奏でるアーティストである。こういったアーティストを好むファンが『Ambitions』のようなライト級の音を好むだろうか。もし『Ambitions』のような作品を出すのなら、All Time Lowや5 Seconds of Summerのような「同じくらいの重量感」のポップパンクバンドとの共演をより強めていった方がよいのではないだろうか。なぜ『Ambitions』ような方向性のアルバムをリリースしながら、IssuesやCrown The Empireとツアーをしたのだろうか。

このあたりの軸のブレのようなものが、『Ambitions』という作品の曖昧さにも現れているように感じる。(もちろん、Issues、Crown The Empire、All Time Low、5 Seconds of Summerとの共演や反応を通じて、『Ambitions』の方向性を定めたとは思うのだが)

では、ONE OK ROCKは米国市場を攻略するうえで、今後どのように展開すればいいだろうか。ここからは私の個人的趣味と主観をさらに加速させるが、一洋楽ファンの戯言と思って軽く聞き流していただきたい。

まず、同質化戦略でカテゴリースターを目指すのは、現実的な選択肢だろう。米国市場で日本語で歌ったり、彼らがいまさらエレクトロパンクに変貌するのは無理がある。ポストハードコア、エモ、ポップパンクの範疇に入る音楽で英語で歌う、という『Ambitions』と同様の路線を継続するのが一番いいと、個人的にも思う。ただその中で、いかにONE OK ROCKの個性を際立たせるか、これが課題であろう。

『Ambitions』は、ヘヴィさとポップさのバランスを取るうえで、おそらくAll Time Low『Future Hearts』あたりをベンチマークにしていると考えられるが、私はTakaのパワフルかつエモーショナルなヴォーカルを活かすには、よりヘヴィな音像の方が合っていると思う。

そう考えると、ベンチマークとすべきはAll Time Low『Future Hearts』ではなく、Bring Me The Horizon『That's the Spirit』、もしくはCrown The Empire『Retrograde』であるべきではないか。いずれもヘヴィでありながらデジタルをうまく活用して近未来的な雰囲気を作り出しているポストハードコア作品であり、ONE OK ROCKのこれまでの作風とも大きな乖離はなく、Takaや他のメンバーの力も、この方向性なら十分に発揮できるのではないかと思う。

Bring Me The Horizon『That's the Spirit』やCrown The Empire『Retrograde』をベンチマークにするというのは、フォロアーを目指すわけではない。そこに個性を込めなければいけない。その個性とは、J-ROCKらしい「叙情的なメロディの洪水」が良いと私は思う。

前述の通り、米国市場では、叙情的なサウンドよりドライなサウンドの方が受ける傾向がある。確かに一般的にはそう言われている。しかし『Ambitions』はその定説を意識しすぎではないか。それによりONE OK ROCKの本来の魅力を失っていないか。

例えば欧州出身のDJが多いEDMでは、欧州らしい叙情的なメロディが大々的に使われた曲が多く、これらが米国でも受けている。また、80年代メタルの影響を色濃く受けたBlack Veil Bridesは、J-ROCKやアニソンにも通じる叙情的なクサメロが持ち味のメタルバンドだが、2014年リリースのセルフタイトル作は最高位10位を記録している。そしてもちろん、00年代のエモ最盛期には叙情的なメロディは比較的よく聴かれたものである。「叙情的なメロディは米国では受けない」と決めつけるのではなく、むしろJ-ROCKらしい「徹底的に叙情的なメロディ」を個性として打ち出して反応を見るテストをすべきではないだろうか。

そしてこの仮説を確かめるために、次のオリジナルアルバムの前に、日本でリリースした『人生×僕=』以前のアルバムからピックアップした人気曲を英詞に変えて再録したコンピレーションアルバムをリリースしてはどうだろうか。もちろんサウンドはBring Me The Horizon『That's the Spirit』やCrown The Empire『Retrograde』を意識したヘヴィでメタリックな音像でまとめる。収録曲はメロディがより際立つ以下の15曲をピックアップしてはどうだろう。

  1. The Biginning
  2. 完全感覚Dreamer
  3. Re:make
  4. Deeper Deeper
  5. 世間知らずの宇宙飛行士
  6. 現在Speaker
  7. Never Let This Go
  8. アンサイズニア
  9. Let’s Take It Somebody
  10. Liar
  11. Crock Strikes
  12. LOST AND FOUND
  13. 未完成交響曲
  14. キミシダイ列車
  15. 69

もちろん日本語タイトルは英語タイトルにすべて変更する。いわゆるA/Bテストのようなもので、J-ROCK色の強いこのコンピレーションアルバムをリリースし、米国市場での反応を『Ambitions』と比べた上で、次のオリジナルアルバムの方向性を探るのがよいのではないだろうか。

またその際には、レーベル変更も検討の余地があるだろう。Fueled by Ramenは確かに知名度の高いインディーズレーベルだが、ポップなバンドやエレクトロ風味のアーティストが多い。もしONE OK ROCKをハードでヘヴィな方向に持っていきたいのであれば、Rise RecordsやEpitagh Recordsの方がより適切な売り方を提案してくれるのではないだろうか。

一音楽ファンとしては、マニアックでカルトな人気を誇る日本人アーティストもいいが、やはり米国市場で巨大な成功を収める日本人アーティストが出てほしい。ONE OK ROCKはその可能性を手にしている数少ない存在だと思う。『Ambitions』に留まらず、米国での継続的な活動を通じて成功を勝ち取ってほしいと願うばかりである。