OECD対日経済審査報告書2008年版に関する報道の偏向について

OECDから対日経済審査報告書2008年版なるものが出た。で、その内容について、殆どの新聞社は、財政健全化、歳出削減、税制見直し(消費税上げ・法人税下げ)、であると報道している。

でもねえ。OECDはご丁寧に要旨の日本語版(PDF)を作ってくれているんだけど、これ見ると全然印象が違うんですよ。

提言の項目を順番に挙げてみると以下の通り。

  • デフレの完全な終息の確保
  • 財政再建の推進
  • 包括的な税制改革の実施
  • サービス部門の生産性向上
  • 労働市場における二極化拡大への対処と労働参加の推進

で、筆頭に挙げられている「デフレの完全な終息の確保」の内容はこんな感じ。

日本銀行は、2006年に導入した新たな金融政策の枠組みに基づいて政策金利を2度引き上げた後、2007年初頭以降は適切に金利を据え置いている。インフレ率がはっきりとプラスを示し、デフレ再来の可能性が姿を消し、景気拡大に水を差すリスクを回避できるまで、さらなる利上げは是認されえないであろう。デフレに対する十分な緩衝が必要である点を考えると、日本銀行政策委員会は現在0%という物価安定の理解の下限を引き上げるべきである。

更に、後のセクションではこの内容がより詳しく述べられていて、その内容は以下の通り。

金融政策はどうすれば持続的な景気拡大を支えられるか?

成長率の鈍化、景気の先行き不透明感の増大、根強いデフレを考えると、2007年2月以降日本銀行が短期政策金利を1/2%に据え置いているのは賢明な処置である。2006年に導入した新たな金融政策の枠組みに基づき、日銀は物価安定のもとで持続的成長を実現するべく政策金利の水準を設定している。この枠組みの一環として、日本銀行政策委員会は中長期的な物価安定の理解は0〜2%であると公表し、初めてインフレ率の幅を明示した。また、長期的に景気と物価に大きな影響を与えると予想されるリスク要因も分析している。

インフレ率がはっきりとプラスを示してデフレ再来の可能性が姿を消すまで、日本銀行は短期政策金利を引き上げるべきではない。日本銀行の見通しでは2008年度の消費者物価指数上昇率を0.4%としているが、これまでインフレ率が常に予測値を下回ってきた点を考えても、利上げを正当化するには不十分な水準である。インフレ率がはっきりとプラスになるまで金利を据え置くことで景気拡大を支え、ネガティブショックにより日本経済が再びデフレに陥るリスクを低減できると考えられる。また、0%という下限はデフレに近すぎ安堵できないため、デフレに対する十分な緩衝を設けるため、日本銀行政策委員会は物価安定の理解を見直し、インフレ幅の下限を引き上げるべきである。政策委員会委員による物価安定の理解を公表したことは金融政策の透明性を高めたが、インフレ幅が毎年見直されるということは、中期的な市場における期待形成に対する指針としての有用性を減じている。なお、金融政策には、経済成長とインフレに影響を及ぼす財政再建の進展も考慮に入れた舵取りが求められる。

要するにOECDは、日本の一番の問題はデフレであり、その解決のためには金融政策が重要だ、って書いてるわけですよ。財政再建だの税制改革だのは2番目以降の問題なんです。

しかも、

「これまでインフレ率が常に予測値を下回ってきた点を考えても」

とか、

「0%という下限はデフレに近すぎ安堵できないため、デフレに対する十分な緩衝を設けるため、日本銀行政策委員会は物価安定の理解を見直し、インフレ幅の下限を引き上げるべき」

とか、

「インフレ幅が毎年見直されるということは、中期的な市場における期待形成に対する指針としての有用性を減じている」

とかを見ると、日銀のこれまでの政策を決して評価していないのが明らかな論調なわけです。

しかしながら、後の引用を見ればわかるとおり、本件の報道で金融政策に触れているのは時事と(なんと!)朝日のみ。日経、読売、毎日、産経は、最初に書いたとおり、財政再建、税制改革、サービス部門の生産性向上、空港の民営化について触れているけど、金融政策のキの字もない。時事と朝日にしても金融政策はオマケ程度の扱い。何なんですかねこれは。

僕は「マスゴミ」という言葉は大嫌いなんだけど、こういう報道を見ると、彼等はそう呼ばれても致し方ない状況を自ら作り出していると思わざるを得ませんよ。まさに高度に発達した無能は陰謀と区別がつかないことであるなあ。

ってまあその程度の読者を彼等が想定しているということで、マスコミにしても政治にしても、悪いところはすべて自分自身に返ってくるのが民主主義の趣深いところであります。南無南無。



以下各社の報道をクリップ。

OECD、税制見直し日本に勧告・消費税上げ、法人税は下げ

経済協力開発機構(OECD)は7日発表した日本への政策勧告で、高齢化による歳出圧力の高まりや財政再建に対処するには税制の抜本見直しが必要だと強調した。消費税率を上げる一方、法人税率は実質的に引き下げるよう提案。個人への所得課税では、所得が控除上限額に満たない納税者に税金を還付する仕組みが必要だと指摘した。

政策勧告はすべての加盟国に対し定期的に実施しているもので、日本向けは2006年7月以来。今回は、日本が公的債務残高が国内総生産(GDP)の1.8倍に達するなど、世界最悪の財政状況にあると指摘。持続的な経済成長を続けながら財政を立て直すには歳出削減だけでは不十分で、税制の思い切ったテコ入れが重要だと強調した。

日経
http://www.nikkei.co.jp/news/main/20080407AT2M0500N07042008.html

OECD:「更なる歳出削減必要」 08年対日審査報告書

経済協力開発機構(OECD)は7日、08年の対日経済審査報告書を発表した。財政健全化について「11年に基礎的財政収支を黒字化する中期目標を達成するには更なる歳出削減が必要」と指摘。公共投資の効率化、削減を求めたほか、消費税(現行5%)引き上げの必要性を強調した。

日本の公共投資は国内総生産(GDP)比で07年に4%に低下しているが、OECD諸国平均(3%)より高い。道路や橋は一度造れば維持更新費用がかかるが、報告書は「人口減少の中、利用が少ない社会インフラは閉鎖する計画を作るべきだ」と指摘した。

また、OECD諸国と比べ労働生産性が低いとされるサービス産業の競争力強化のため、空港発着枠配分へのオークション制度導入などの規制改革を求めた。

東京都内で会見したグリアOECD事務総長は「日本では高齢化が進み、公的債務が膨らんでおり、課題に立ち向かわなければいけない」と述べた。【尾村洋介】

毎日新聞 2008年4月7日 18時37分
http://mainichi.jp/select/biz/news/20080408k0000m020030000c.html

消費税率の引き上げ提言、OECDが報告書

経済協力開発機構(OECD)は7日、日本の取るべき政策として「財政健全化のために税収増が必要」と指摘したうえで、現在5%の消費税率を引き上げるよう求めた。

日本への政策提言や経済の現状分析をまとめた「対日経済審査報告書」に盛り込んだ。

報告書では、「日本の財政改革は進ちょくしている」と一定の評価をした。その一方で、2011年度に基礎的財政収支を黒字化するという政府目標は、歳出削減だけでは達成できず、歳入増加策が不可欠と指摘した。具体的な歳入の増加幅について、「今後数年間で対国内総生産(GDP)比6%程度(約30兆円)の追加的な歳入が必要」と踏み込んだ。

増税が経済成長に与えるマイナスの影響については、「税収構造を直接税から間接税に転換することで最小化できる」とした。そのうえで、「OECD諸国で最低の消費税率の引き上げが必要」と指摘した。

税制面ではほかに、給与所得控除の縮小、法人税の課税対象企業の拡大などを提言した。

(2008年4月7日14時05分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20080407-OYT1T00394.htm

「歳出削減努力足りぬ」OECDが日本に注文 消費税率引き上げも

2008.4.7 13:31

経済協力開発機構(OECD)は7日、2008年の「対日経済審査報告書」を公表し、平成23年度までに基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化目指した政府目標に対し、「達成には健全化のペースをさらに加速させる必要がある」と注文をつけた。財政健全化に向けて「今後数年間で国内総生産(GDP)比6%程度の追加歳入が必要」と指摘。消費税率の引き上げを求めるなどこれまで以上に日本の財政健全化の取り組みの遅れを批判した。

報告書は5年間で11兆〜14兆円の歳出削減を目指した政府の目標に対し、「計画は野心的なものとはいえない」との見方を示し、国家公務員だけでなく、地方公務員や政府機関の人件費削減を求めたほか、社会保障費の抑制を求めた。

また、税制改革の必要性に触れ、OECD諸国の中で最も低い消費税率の引き上げとともに法人課税の課税ベースの拡大と税率の引き下げを促した。

また、日本の潜在成長率を押し上げる上で、「サービス分野の生産性向上が鍵を握る」と分析。規制改革や市場開放を強く求めた。

特に、航空分野では、空港発着枠での市場メカニズムの活用や航空会社による航空券販売の自由化、空港の民営化を求めた。

産経
http://sankei.jp.msn.com/economy/finance/080407/fnc0804071331007-n1.htm

08─09年の日本の実質成長率は1.5─2.0%=OECD経済見通し

2008年04月07日13時35分

[東京 7日 ロイター] 経済協力開発機構(OECD)は7日、加盟国の経済見通しを発表した。日本経済については2008年から09年まで引き続き設備投資と輸出がけん引役となり、1.5─2.0%程度の成長が続くとの見通しを示した。

設備投資は、企業の収益が高水準を維持していることや、設備稼働率も高い水準にあるため、年間2.4─2.8%程度の伸びとなる見通し。輸出も引き続き強い伸びを示すと予想。米景気の減速にもかかわらずアジア向け輸出の高い伸びに支えられるが、為替相場がこれまでよりやや円高傾向となっているため、伸び率はやや鈍化して7%台となる見通し。

一方、家計部門は引き続き不振が続くとみられている。07年は企業部門の拡大は賃金を通じて家計部門に十分浸透してこなかったと指摘、国内総生産に占める雇用者報酬比率は1990年以来の低水準にある。08、09年の家計消費はこれまでよりやや低い1.1─1.3%程度の伸びにとどまる見通し。ただ、パートの正規雇用化や団塊世代の引退者数がピークを打つことなどから、賃金下落圧力は徐々に緩和する方向にあると分析している。

OECDは、07年半ばから08年半ばまでの日本経済について、改正建築基準法に伴う建築着工の遅れや賃金の弱含みといったマイナス要因が影響して成長率が低下するが、その後は緩やかに持ち直すと見ている。しかし、こうした見通しへのリスクは以前より大きくなっているとも指摘。国際金融市場の混乱から世界経済の需要が減退して日本からの輸出も鈍化する可能性があること、また円相場が円高にふれていることも輸出に影響しかねないと指摘。さらに、期待された08年の賃金引上げの動きも鈍いことが個人消費に悪影響を及ぼす可能性にも言及。また改正建築基準法に伴う手続きが迅速に正常化するのかという点も不透明だとしている。

日本経済の課題としてOECDは、デフレ懸念がまだ残っている上、経済活動に対する実質金利がまだやや高めだと指摘。ショックが起きた場合に実質金利が上昇して景気に悪影響が及ばないように、金融政策には十分な余裕が必要だとの認識を示した。

日銀は「金利正常化」を目指す姿勢を示しているが、サブプライムローン(信用度の低い借り手向け住宅ローン) 問題に端を発した国際金融市場の混乱や世界経済の減速懸念などがあり、金融政策にとって適切なパスは不透明だと指摘した。

また財政政策に関しては、少子高齢化社会の到来の中で、財政の持続可能性を確保すべきだとした。

朝日
http://www.asahi.com/business/reuters/RTR200804070043.html

2008/04/07-13:09

公共投資削減を要望=利上げをけん制−OECD対日審査

経済協力開発機構(OECD)は7日、日本経済の現状やマクロ経済政策などを評価した2008年の対日審査報告書を発表した。日本の財政改革について「進ちょくはしているが、政府の中期財政目標の達成にはさらに歳出削減が必要だ」とし、特に公共投資に関し一段の切り込みを求めた。また、税収増のため消費税率の引き上げを改めて促した。

マクロ経済については、堅調なアジア向け輸出や企業収益の拡大を背景に「09年まで1.5〜2%の経済成長が続く」と予想。一方、金融市場混乱による世界経済の不確実性や賃金回復の遅れなどのリスクに注意を促した。

日銀の金融政策に対しては「インフレ率が確実にプラスになり、デフレへ後戻りするリスクが無視できるようになるまで、利上げは行うべきでない」とした。

時事
http://www.jiji.com/jc/c?g=eco_30&k=2008040700339