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田舎の実家はどう処分する?解体の流れや方法、費用や不動産の活用方法を解説

いずれ相続する田舎の実家をどうする?固定資産税・維持費・解体費用などポイントを紹介!

親が高齢化し、育ってきた田舎の実家をどうしようと考えている方も多いのではないでしょうか?
田舎の実家の処分方法としては「売却する」「賃貸に出す」「寄付をする」「相続放棄」が方法としてありますが、のんびり構えていると後悔することになるかもしれません。
「家への対応は早め早めが肝心。手遅れになると実家が“負”の資産になってしまう」と、今回お話を伺ったNPO法人空家・空地管理センター理事の伊藤雅一さん。多くの方にいつかは訪れる田舎の実家の取り扱いについて、相続や活用方法を紹介します。

記事の目次

親が元気なうちに考えておきたい「実家の相続」問題

実家の扱いは早めに親と相談しよう。将来的に自分が住むかどうかが最初の判断基準に

自身が生まれ育った実家は誰しも思い入れがあるものです。ただなかなか考えが及ばないのが、親が住まなくなった実家の行く末。伊藤さんはそうした家が空き家になってしまうケースが多いといいます。
「空き家になってしまう多くの家は「親から相続した家」か「親が住んでいた家」。空き家になるきっかけは、親が病院や施設に入ったことがほとんどです。普通に考えれば、親が住まないこと自体は空き家になることと直接つながるわけでないのですが、問題はこの段階で親が家をどのようにするか判断できなくなっていることが多いこと。認知機能が衰え、認知症などになってしまうと、亡くなるまで家を売ったり貸したりできなくなってしまうんです」(伊藤さん)

認知症と診断されると、司法書士など有資格者がいても居住用の財産の登記変更は簡単にはできないといいます。
「「成年後見人制度」を使えば、認知症で判断能力がなくなってしまった人の財産を後見人が管理することができます。ただし後見人制度では認知症の方の不利になる財産処分はできないため、居住用の財産を売却するためには裁判所に手続きをして認可をもらうなど大きな手間がかかります。そうするうちに面倒で放置してしまうんですね。それが空き家になってしまう原因の1つなんです」(同)

そこで大切になってくるのが、親の判断能力がしっかりしているうちに実家の扱いを相談しておくことです。
売却するにせよ、将来住むにせよ、方針を明確にして、それに応じた準備を進めておくことが、「空き家化=負動産化を防ぐことになるのです」。

田舎の実家の処分は早めに親子で相談しよう

(画像/PIXTA)
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田舎の実家、自分は住まない場合。所有することのデメリットとは

【デメリット1】固定資産税がかかること

自身で住まなければ、空き家で誰もいないのだから放っておいてもいいだろうと思ってしまう人がいるかもしれませんが、実は大きな負担がかかることがあるので注意しましょう。

まず発生するのが、所有しているだけで支払いが発生する固定資産税です。
毎年5月末頃に土地・建物の評価に応じて支払わなくてはいけません。建物の評価額は築年数に比例します。

通常、木造住宅の場合は築27年で建物の評価額が下限に達するため、空き家になるような建物の場合は、建物分の課税額は低く、ほとんどが土地に対しての税金となります。
しかも現在は増え続ける空家への対策として、「空家等対策の推進に関する特別措置法」が施行されています。
通常、宅地上に建物が建っている場合、「住宅用地の特例」によって固定資産税や都市計画税が大幅に軽減されています(減額率は固定資産税で最大6分の1、都市計画税で最大3分の1)。
しかし管理されていない空き家が行政によって「特定空家」に指定された場合、この特例が解除され、固定資産税が最大で6倍になってしまいます。

この特定空家に指定される要件は、「倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態」「著しく衛生上有害となるおそれのある状態」などです。

相続した実家に住まず、しかも管理もせずに放置する場合はこの特定空家の指定を受けてしまう可能性があります。

■「特定空家に指定される空き家の条件」

○そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態
・部材の破損や基礎に不同沈下がある場合は、建物に著しい傾きが見られて倒壊する危険性があります。ほかにも基礎の破損や変形、基礎と土台のずれ、土台の腐食や破損によっても倒壊を招く危険性があると判断されます

○そのまま放置すれば著しく衛生上有害となるおそれのある状態
・建築物の破損が原因で、アスベストが飛散していたり、排水の流出による汚臭が発生している。またはゴミなどの放置や不法投棄が原因の汚臭や、多数のネズミなどが発生し、地域住民の日常生活に支障が出ている場合

○適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態
・景観法で制定されている既存のルールに著しく適合しない場合や、屋根、外壁などに汚物や落書きがあり、そのまま放置されていたり、立ち木などが建物の全面を覆う程度まで繁茂している場合

○その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態
・立ち木の倒壊や枝折れなどにより近隣道路や家屋の日常生活の妨げになっている、ほかにも空家に住みついた動物の鳴き声や糞尿などの衛生面、空き家への不法侵入などにより犯罪の温床になっているなどの治安面で不適切だと判断される場合

出典:国土交通省「特定空家等に対する措置」に関する適切な実施を図るために必要な指針から作成

「特定空家」に指定されると固定資産税が6倍になることも

(画像/PIXTA)

【デメリット2】維持管理費用が掛かること

次に考えられるデメリットが維持管理費です。
たとえ住む人がいないとはいえ、定期的な清掃は必要です。庭があるような大きな家ではすぐに雑草が成長し、たった1~2カ月放置しただけで生い茂った雑草の家になってしまうことも。
田舎の実家と今の住まいが離れていればいるほど、こうした維持管理で出向くことに手間がかかります。

民間や自治体では、こうした空き家を管理してくれるサービスを展開しているところもありますが、もちろん依頼する場合は費用が発生します。
利用するサービスによって異なりますが、月1500~3000円程度を見ておきましょう。

【デメリット3】近隣とのトラブルになることがある

人の住まなくなった家はすぐに劣化していきます。
維持管理を怠ると、住もうと思ったときにはとても住める状態ではなく、全面的な改修が必要になり、高額な負担を強いられることがあります。

また、誰も住まないまま放置しておくと、空き家特有のトラブルが発生することもあります。
犯罪の温床になったり、ゴミの投棄による悪臭、生い茂る雑草による景観の悪化、さらには建物倒壊による近隣への被害などです。

近隣住民とのトラブルの元になりますし、例えば自然災害により建物が倒壊して近隣に損害を与えた場合、建物が適切に管理されていなかったことが理由として認定されれば、賠償責任を追及されることもあります。

こうして、所有しながら放置しておくと、さまざまなデメリットが発生するリスクがあります。

空き家を放置するとトラブルの原因に

(画像/PIXTA)
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田舎の実家を更地にするべき?解体費用や流れを紹介

更地にすることのメリット・デメリットとは

前述の通り、費用からもさまざまなリスクの観点からも、空き家の維持管理は簡単ではありません。では田舎の家は建物を解体して、更地にしてしまったほうがいいのではと考える人もいるでしょう。
その場合におさえておきたいポイントを紹介します。

まずデメリットとして、建物を解体し、更地にすると税負担が増えることを覚えておきましょう。
建物を先に解体すると、固定資産税や都市計画税が高くなってしまいます。
なぜなら土地の上に建物が立っているときには、前述の「住宅用地の特例」により固定資産税が最大で6分の1、都市計画税も最大で3分の1になっているからです。

これは建物が立っていることが前提の制度のため、建物を解体した状態で土地を所有すると特例は解除。
固定資産税が最大で6倍(都市計画税は最大3倍)になります。

ただ、主に売却する際、更地にするとメリットとして働く場合があります。
買い手からすると、古くなり、住めないような家がついている土地では、解体費用がかさむからです。
先に更地にしておけば解体費用をほぼ考えなくてもよいということで、土地探しをしている人の需要に応えやすくなります。

もちろん、更地にせず建物付きで売却する際には、建物の状態によっては古い家を補修したり、自分の好きなように手をかけて住みたいという人のニーズに応えることができます。

更地にするメリット、デメリットは購入検討者のニーズによって異なるので、売却を依頼する不動産会社にどのようにするのがよいのか相談して進めてみましょう。

 

田舎の実家を更地にするイメージ

(画像/PIXTA)
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田舎の実家の解体費用目安

解体業者によって異なるので相見積もりを必ず依頼しよう

では、実際に更地にする際にどのくらいの費用がかかるのでしょうか。

依頼する解体業者や立地条件でさまざまですが、木造なら3万~5万円/坪、鉄骨造なら4万~6万円/坪、鉄筋コンクリート造や鉄骨鉄筋コンクリート造なら6万~8万円/坪などが目安になります。
もちろん、木造でも特に築年数が浅い場合は複雑な構造や頑健な構造を採用していたりする場合が多く、想定外にかかることもあります。

広さも比例して解体費用を上げる要素になります。

こちらも単純に広ければ広いほど解体する面積が増えるので、コストが上がっていきます。
さらに2階建てや3階建てなどの高さがあればあるほど壊す面積と手間が増えるので費用が割高になります。
同じく建物地下に構造体がある場合も解体費用が上がります。
特に地階があるだけで解体費用は倍以上になると考えておきましょう。

▼解体費用について関連記事を読む

「一戸建ての解体費用の相場は? 解体費用を安く抑えるコツと、更地にするメリット・デメリット」

田舎の実家を手放す方法は3つ。それぞれのメリット・デメリット

<1>売却する

欲しい人に売却することで手離す方法です。特に最近は田舎暮らし、古民家ブームがあるので、エリアや建物の状態によっては人気の物件になるかもしれません。
また売却価格によっては大きな現金収入になり、例えば親の介護費用などをねん出できるかも知れません。
とはいえ、築年数がそれなりに経過している場合、建物の劣化が進んでいるので、売却時には売買契約書を取り交わし、しっかりと契約書上で契約不適合責任について合意をしながら進めていくことが大切です。

特に見逃しがちなのが地中埋設物です。建物内外について知っている不具合についてはすべて売買契約書に記載し、売却後のトラブルを回避することが重要になります。

もちろん売却が進まなければ固定資産税や維持管理費などが積み重なっていくことになります。

売却先を探すには不動産会社に相談するのがスムーズですが、空き家バンクなど自治体、民間で空き家の情報紹介とマッチングを行っている機関に相談するのも手です。

メリット:売却による現金収入を見込める

デメリット:売れなければいつまでも固定費用がかかる

<2>賃貸に出す

売却ではなく賃貸に出して家賃収入を得る方法です。
収入によっては税金や管理費用を賄いつつ、愛着のある実家を自分や子ども世代の資産として残すことができます。
賃貸ニーズに応えるには、建物の設備や構造をチェックする必要があります。
古い家では設備が古くなったり、必要な耐震基準を満たしていないこともあるので、リフォームや補強工事などが必要になることがあります。

もちろん、売却と同様、たとえリフォームをしても必ず借り手がつくわけではありません。
その場合、各種費用に加えてリフォーム費用の分も負担が増えることになります。

また古民家ニーズを満たす歴史ある家の場合、どの程度リフォームをするのか、あえてそのまま残すのかなどのジャッジも大切です。古民家再生などのノウハウをもつ不動産会社に相談してみましょう。

メリット:家賃収入でコスト負担を減らしつつ、資産を残せる

デメリット:建物の状態によっては大がかりなリフォーム費用がかかる場合も

<3>寄付する

賃貸や売却が難しい場合は、自治体に寄付(譲渡)することで固定資産税や管理費用などの負担を減らせます。
また先述した特定空家になりそうな家の場合、後々のトラブル回避にもつながるでしょう。
問題は寄付を受け付けてくれるハードルが高いことです。
主な寄付先である自治体によって寄付が受け入れられる規定が異なりますが、多くの場合、建物やその土地を活用できることが前提条件です。
例えば公園や開発用途にできるような広い敷地をもっていたり、その街の歴史遺産になるような建物であったりとなかなか敷居は高いですが、寄付を考えている人は、一度自治体担当者に相談してみましょう。

メリット:寄付(譲渡)することで税金や固定費負担から解放される

デメリット:寄付を受け付けるハードルが高い

田舎の実家の相続は、相続放棄という選択肢もある

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家族、親族に影響を与えるので判断は慎重に

そもそも田舎には帰らない、そして実家の活用も考えていないとなった場合、相続放棄という選択肢もあります。
相続放棄とは、民法で認められている相続の権利をなかったことにする手続きのことです。
相続する財産、つまり田舎の家そのものを放棄すれば、当然固定資産税や都市計画税などの税負担はなくなり、管理の手間もかからなくなります。

一見、良さそうに聞こえがちですが、判断は慎重に行う必要があります。

まず、相続放棄とは財産すべての相続権を放棄することを意味します。「親の家は相続しないが、預貯金に限っては相続したい」などということは認められません。

また、自身の相続放棄によって故人の兄弟姉妹などに相続する順位が移行し、親族間で混乱を招いてしまうことが挙げられます。
結果、親族間の折り合いが悪くなり、家族内トラブルにもつながりかねません。
もちろん半面で相続放棄したほうがいいケースもありますので、事前にどのような事態になるのか、専門家に相談してクリアにしておきましょう。

田舎の実家を相続放棄するイメージ

(画像/PIXTA)

POINT:相続放棄の申告期限は3カ月

相続放棄は、亡くなった人の財産について相続する権利を放棄することです。
財産は一切相続しない分、故人の資産や借金など相続しなくてもよくなります。

この相続放棄をするには、関係者に意思表示するだけでは効力がありません。
期限までに家庭裁判所で手続きする必要があります。
相続放棄ができる期限は、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3カ月以内です。
(民法第915条)。

また、相続放棄に必要な書類等も決まっているので、弁護士や司法書士などに相談して、しっかりそろえておきましょう。

ちなみに3カ月の期限が切れた後も、故人に借金があることが判明したなど、相当の理由があれば、期限を過ぎてからでも相続放棄が認められることがあります。

ただし、もちろん期限後の相続放棄は、理由を述べた上申書を家庭裁判所に提出するなど、手続きが煩雑になり、相続放棄が認められないこともあります。こちらも弁護士や司法書士など相続放棄に詳しい専門家に相談してみましょう。

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▼「マンションを相続放棄したい。相続放棄の手続きや知っておきたい注意点を解説」

 

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大切なのは早め早めに実家の行く末、家族の未来を話し合うこと

田舎の実家の相続は、さまざまな側面から考える必要があります。
大切なのは、「家族が元気でしっかりしているうちに、きちんと話し合っておくこと」だといいます。
「早め早めにエンディングノートというか、未来日記を家族間で共有することで、いざというときにストレスなく、みなさんが幸せに過ごせます。実家という心のよりどころが負の遺産にならないよう、準備をすすめておきましょう」(伊藤さん)

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まとめ

  • 田舎の実家は放置するとリスクが増大
  • 活用方法は、売却する・賃貸に出す・寄付するの3つある
  • 相続放棄の判断は慎重に。期限も気を付ける

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●構成・取材・文/山口俊介
●取材協力
NPO法人空家・空地管理センター 理事 伊藤 雅一さん

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