The Spirit in the Bottle

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汝の敵、自分を愛せ 複製された男

 8月に入るとまた大作映画が続くのでおそらく比較的こじんまりした映画としてはしばらくこれが最後となるのではないだろうか、という作品。「ゴジラ*1トランスフォーマー ロストエイジ」、あと続編製作を最初に聞いた時はあんまり観る気は起きなかったのだけど公開が近づいてきたらなんだか無性に見たくなってきた「るろうに剣心 京都編」二部作。そういった大作が続くのでその小休止的な感じで。ジェイク・ギレンホール主演「複製された男」を観賞。

物語

 大学で講師を務めるアダムは恋人もいるがどこか悶々とした日々を送っている。あるとき同僚からとあるカナダ映画を薦められる。テスト採点のさなかふとその映画を見ると脇役のひとりとして自分そっくりの俳優を見つける。彼の名はダニエル・セントクレア。アダムは彼に興味がわき彼の所属する事務所に赴くが事務所の人間は彼がダニエルだと信じて疑わなかった。ダニエルの本名アンソニー・クレアと彼の住所を突き止めたアダムは彼に電話をする。やがて瓜二つな2人が出会うこととなるが…

 この世には自分とそっくりな人間が3人いる、などというけれどまあ本当にそっくりな人間とはまずお目にかかれない。僕はちょっと前はなんとなくジョン・レノンに似ていると言われてジョンというアダ名を頂いたことがあるけれどこれはまあ丸メガネをしていてちょっと雰囲気が似ていたという程度(学生時代の一時期は「メタルギアソリッド」のオタコンに似ているということでオタコンとも呼ばれていたよ)。それでもそっくりなどというには程遠く自分に瓜二つな人間が他にいるという状況は想像しにくい。双子ならまた別なんだろうけど。まあ僕の顔なんて凡庸極まりなく自分でもぼんやりとしか認識してないので仮に自分そっくりな人とすれ違っても気づかず通りすぎてしまうと思うのだけれど。
 監督は「プリズナーズ」のドゥニ・ヴィルヌーヴ。「プリズナーズ」はアメリカ進出第一弾で本作がその直前に撮ったカナダ映画ということらしい。本作撮影中にジェイク・ギレンホールは「プリズナーズ」出演を打診されたそうで両者にとっても記念的な作品であるのだろう。
 原作はポルトガルノーベル賞作家ジョゼ・サラマーゴの同名小説。とはいえこの邦題は少なくとも映画だけ観た限りちょっとおかしくて、確かにアダムとアンソニーは単にそっくりなだけでは説明の付かない、本人たちも知らない双子だったとしてもありえないぐらいそっくり(怪我の痕まで同じ)という描写はあれど映画の中では明確にその原因は語られない。映画の原題は「ENEMY」で、原作の英語原題は「THE DOUBLE」どちらも特にクローンであるとかは示していない。むしろ原因よりもそっくりな相手の属性を表現しているとも言える。ただ原作のポルトガル語原題は「O Homen Duplicado」でグーグル翻訳で「重複男性」と出てこれはほぼ邦題と同じだと思われるので原作の方はもしかしたら原因が描かれているのかもしれません(例によって読んでない)。
 原作者ジョゼ・サラマーゴの映画化作品ではブルース・バナー博士ことマーク・ラファロが主演した突然人々の目が見えなくなる世界を描いた「ブラインドネス」を観たことがあってこれはユアン・マクレガー主演の「パーフェクト・センス」を更に限定したシチュエーションで描写した作品だった。本作も主要登場人物は4人、内2人がそっくりで同一人物が演じているためほぼ3人で回している限定された世界の作品でこのへんが作者の個性なのかもしれない。

 原題の「ENEMY」は「敵」。そして原作の英語タイトルは「THE DOUBLE」はいわゆるドッペルゲンガー的な「分身」。この映画では自分のそっくりさんに興味を持った男がやがてその相手に生活を侵食される、まさに敵となっていく様子が描かれる。演じるのは共にジェイク・ギレンホールでおとなしくどこかオドオドしているアダムと俳優を努め大胆なアンソニーを見事に演じ分けている。まあ劇中の人物たちはそっくりな2人を見分けられない、ということになっているんんだけど観客は容易に分かるようになっているし(物語的にも今映っているギレンホールがどっちであるのか迷うような構成にはなっていないし、互いになりすましている時でも観客は混乱しないようになっている)、特にアダムの方はすぐばれるんだけど細かい所作が色々と考えさせられる部分があって興味深い(アダムがアンソニーの家に行って自分の服を隠すところとか)。

 この映画では象徴的に出てくるのが蜘蛛である。冒頭の秘密クラブと思わしき場所では裸の女性がトレイを開けるとそこから大きな蜘蛛が一匹。そして中盤都会の街の全景が映るが何かの建物かと思いやそれが超巨大な蜘蛛であったり、そして最後は…これらが実際のものか幻かは判然としない。冒頭の秘密クラブなんて存在そのものが一番確実と思われるのに途中まですっかり忘れていたしそれ故第3者が証言しても存在があやふや。ラストではその直前の事故った車の窓ガラスの割れ方が蜘蛛の巣の形になっている徹底ぶり。
 この蜘蛛の表現に関してはなんとなく「裸のランチ」あたりを彷彿とさせます。
 
 これはカナダを舞台にしたカナダ映画だが、それゆえに見慣れたアメリカ映画の風景と違ってどこかコンクリートジャングルっぽい荒涼とした雰囲気がある。アメリカだと郊外の同じような形の一軒家が軒並みを連ねる風景だったりあるいは都会でももっとレンガ造り風になっていて色味があるイメージ。それに比べるとこの映画では都会で寒色のコンクリートの日本風に言うなら団地が多く映る。実際のカナダの事情は分からないが、この辺は例えば「LIFE!」の冒頭だったりあるいは「チャイルドコール 呼声」の団地だったり、心象風景として団地を描写したのと同様だと思う。
 
 ギレンホールの相手を務めるヒロインは2人、一人はメラニー・ロラン。出てるの知らなかったのでちょっと嬉しかった。彼女はアダムの方の恋人でちょっと冴えない恋人に対して洗練された女性、というふうに見える。アンソニーの方の妻がサラ・ガドン。互いに好みも似るのか、どちらも金髪の細身の美人。

複製された男 (ポルトガル文学叢書)

複製された男 (ポルトガル文学叢書)

 原作はともかく映画の方はもう観客が自分のほうで色々と解釈をして補完していかなければわけがわからない作品。ただ小品ながらこちらの想像力が掻き立てられることもまた確かなのだ。

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 監督の(日本での公開順的には)前作。こっちも見た時は物語としてはともかく解釈的には色々難しい作品だなあ、と思ったけれど、「複製された男」に比べると全然分かりやすいですね。

 蜘蛛つながり…というわけでもないんですがサラ・ガドンさんは「アメイジングスパイダーマン2」に出演していたみたいです。どこか分からないけれど。

*1:すでに1回見たけどもう一回観てそれから感想書きます