The Spirit in the Bottle

旧「小覇王の徒然はてな別館」です。movie,comics & more…!!!

男の子のための映画! タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密

 今年はスピルバーグの名前が前面に出た作品がたくさんあってスピルバーグブランドが未だ強いことを知らしめた。内容や評価は色々なのだが、やはり本命は監督作品。そしてスピルバーグ初のアニメーション作品でもある「タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密」を公開初日に観てきた。

物語

 少年記者タンタンは街で伝説の帆船ユニコーン号の模型を手に入れる。直後に二人の男から高額で譲ってくれるよう迫られるが拒否。図書館でユニコーン号について調べて変えると模型は盗まれてしまっていた。譲ってくれるよう頼んだ男の一人サッカリンの住むかつてユニコーン号の船長だったアドック卿の屋敷に乗り込んだタンタンは模型が二つあることを知る。家に戻ったタンタンの部屋は荒らされ模型のマストに隠されていた暗号のかかれた羊皮紙を発見する。直後もう一人の男が訪ねてくるがタンタンの目の前で撃たれてしまう。
 実はインターポールの刑事だった男はカラブジャンという単語を残して息絶えるが直後にタンタンも拉致される。気がつくとそこはカラブジャン号という船の中。羊皮紙を狙うサッカリンに閉じ込められてしまう。うまく船室を脱出したタンタンはそこでカラブジャン号の船長で船員に裏切られて酔っ払っているハドックという男と出会う。彼こそかつてのユニコーン号の船長アドック卿の子孫であった!

 原作の「タンタン」シリーズを知ったのはそれほど昔ではなく6〜7年前にCSのヒストリーチャンネルに混じってコミックスのキャラクターベスト10みたいなのをやっていてバットマンスパイダーマンに混じってランキングしていたので知ったのだった*1。その後書店の絵本コーナーで何冊か立ち読みした程度。だから原作については全然知識はないが一応、原作者エルジュはベルギー生まれで「タンタン」シリーズは1929年に始まっているようなので、キャラクターとしてはスーパーマンより古い。個人的には日本で言うなら「のらくろ」や杉浦茂の諸作品を思い出させる。原作は非常にデフォルメの効いた絵柄なので映画になるにあたって比較的リアルなものに変わっているのは少し不安でもあった。とはいえキャラクターの個性は生きているし面白かったと思う。

 物語はどちらかと言うと巻き込まれ型で次から次へと主人公たちに災難が降りかかる。全体としてリアルな描写と漫画ならではの表現のいいとこ取りで、例えばオペラ歌手の歌声でガラスが割れる、とかは漫画ならでは。これを実写でやってもコメディでなければ白ける描写。実写でもない、かと言って平面的なアニメでもない、3DCGアニメならではのうまい描写が盛りだくさん。アクションはインディ・ジョーンズを思わせるものになっており、予告編でも使われているサイドカーに乗った状態でのチェイスや港のクレーンを使った擬似ロボット戦などはさすがスピルバーグと言いたいところ。特にカーチェイスは興奮冷めやらぬ手に汗握る描写。
 
 キャラクターも主人公のタンタンはじめ魅力的。タンタンは日本でいうなら手塚治虫のケンイチ少年や初期のロック・ホーム、横山光輝の「鉄人28号」の金田正太郎少年を思わせるキャラ(と言うか時代的にはこっちが元祖かもしれない)。少年だけど大人びていて、でも世間ずれはしていない。特徴的な髪型(海で泳ぐときこの特徴的なとさかが海面から出てくる描写はスピルバーグ自身の「ジョーズ」のパロディか)と服装はキャラ付け十分。犬のスノーウィーも役立つし可愛い。この手の映画で子役や動物の描写に成功してるかどうかが重要だと思うけどタンタンともども成功している。
 で、パートナーとなるのは酔っぱらい(てかアル中)の海の男ハドック船長。酒と冒険をこよなく愛する男。声はチョーさんでもうアンディ・サーキスのフィックスでいいんじゃないかな?
 刑事役のデュポンとデュボンは双子じゃないのにそっくりというこれまた漫画ならではキャラ。穴を開けた新聞から除く、みたいな馬鹿馬鹿しい描写をもっとやって欲しかった気もする。ちなみにこの二人の声を当てているのは「ショーン・オブ・ザ・デッド」「ホット・ファズ」などのサイモン・ペグとニック・フロストのコンビ。更にエドガー・ライトも脚本で関わっているのでスピルバーグの影響を受けた新世代がスピルバーグを支えているとも言えそうだ。
 悪役のサッカリン慇懃無礼な悪役という感じで森田順平さんの声がよく似合っている(原語ではダニエル・クレイグ)。甘ったるい名前とか言われるけど偽名を名乗るときも「シュガーなんとか」で徹底してる。ハドック船長を裏切った船員たちもどこか憎めないのはエルジェの作風という感じなのか。
 いわゆるヒロイン(女性という意味でも物語上の救出されるキャラと言う意味でも)が登場しないのも大きな特徴だが全然気にならなかった。というか全方位に向けて作る場合ヒロインの存在は必要なのかもしれないけど、一見子供向けの徹頭徹尾アクション娯楽映画ではむしろヒロインの存在は邪魔なんだよね。アクションと冒険に没頭するためにはとてもよかったと思う。

吹き替え

 で、今回は3D吹き替え。吹き替えの予告編を見たときに浪川大輔氏のタンタンの声がぴったり合っていたのとタレント吹き替えが全くない最近の物としては無骨なキャスティングでとてもよかった。特にサッカリン役の森田順平氏とハドック船長のチョーさんのセリフの応酬はこれを劇場で観ないのは損だ!と声を大にして言いたい。また原語の発音、例えば主人公タンタンはどちらかと言うと「ティンティン」が近いわけだけど聞こえてくるのはティンティンなのに字幕はタンタンだとか、デュポンとデュボンも原語ではトムソンとトンプソンだったりするので違和感が残ると思うけど吹き替えなら関係なし。大体原語をネイティヴに理解できる人ならともかく、基本的には字幕は吹き替えに情報量、表現で負け、更に視線を字幕に取られてしまうので良い吹き替えならそちらのほうが良いと思っている(だからこそ逆に安易なタレント吹き替えには大反対なのだが)。特に僕は3D映画は吹き替えでこそ生きる(字幕が飛び出るので邪魔なのよ)と思っているのでこの映画は特に吹き替えをお勧めしたい(あとはそもそもの日本語表記の問題でティンティンやチンチンではなくタンタンと訳した人のセンスを褒めておきたい)。
 一部で話題になった翻訳「びっくりフジツボ」も字幕は分からないが吹き替えで聞いてる限りチョーさんの巧さも相まって全く違和感を感じない。まあ、僕はその昔の「月刊スーパーマン」での翻訳「びっクリプトン!」を思い出してむしろ和んだのだが。

ペーパーバック版 金のはさみのカニ (タンタンの冒険)

ペーパーバック版 金のはさみのカニ (タンタンの冒険)

ペーパーバック版 なぞのユニコーン号 (タンタンの冒険)

ペーパーバック版 なぞのユニコーン号 (タンタンの冒険)

ペーパーバック版 レッド・ラッカムの宝 (タンタンの冒険)

ペーパーバック版 レッド・ラッカムの宝 (タンタンの冒険)

 今回の映画の原作になった3冊だそうです。
 
 今回の映画は「ラブリーボーン」に続くスピルバーグピーター・ジャクソンのコラボ作。ウェタデジタルも頑張っています。
 オープニングも最高です。びっくりフジツボ!アコヤ貝!びっクリプトン!びっくりしたなあ、もう。
 

12月5日、ちょっと長めの追記

 「タンタンの冒険」の名前についてはいろいろな所で言われている。実際ネタではなく「チンチン」表記のアニメなどもかつてはあったらしい。映画でも発音は「ティンティン」に近いがこれは英語だからでオリジナルのベルギー(フランス語)では「タンタン」の発音が一番原語に近いようだ。僕は「トランスフォーマー」などでも必ずしも原語に忠実である必要はなくその国ごとの言語感覚にちなんで名付けられて結構だと思っている。デバステーター=デバスターなどは日本語の感覚に拠った素晴らしい名称だと思うし。
 例えば「怪盗アルセーヌ・ルパン」はLupinでフランス語の発音は「リュパン」が一番近い(実際創元推理文庫はこのタイトル)し、綴りだけ見て安易に付けたら「ルピン」になるだろう。それを踏まえて日本語の語感として「ルパン」とした感覚は見事だと思う(リュパンやルピンではここまで広がらなかった気もする)。
 今回は「ベルギー(フランス語)版」→「日本語版」という順序である原作と「ベルギー版」→「英語版」→「日本語版」と一段階多く経て言えるため齟齬が生じた模様だ。
 ちなみに「デュポンとデュボン」も英語では「トムソンとトンプソン」になっているがこれは英語版の名前でオリジナルはやはり「デュポンとデュボン」が「正しい」ようである。
 やはりネタとして茶化されそうな「チンチン」よりは「タンタン」のほうが児童向けの物語としては適切なのだろう。

*1:ちなみに1位はバットマン。タンタンともう一つアメコミ以外のキャラは「AKIRA」作品と言うより金田か鉄雄のどっちか