「愛なんていらねえよ、国」
「祖国愛なんてやめておけ」*1
ハンナおばさんの言葉をメモしておく。
「イエルサレムのアイヒマン ゲルショーム・ショーレム/ハンナ・アーレント往復書簡」(矢野久美子訳)『現代思想』25-8、1997、pp.64-77.
ショーレムはいう、
アレント、応えて曰く、
ユダヤ人の伝統のなかには、わたしたちには「ユダヤ人への愛」Ahabath Israelとして知られている、定義しにくいけれど充分に具体的意味をもつ概念があります。親愛なるハンナ。あなたには、ドイツ左翼出身の知識人の場合と同様に、この愛がほとんど見受けられないのです(p.66)。
あなたはまったく正しいのです――わたしはこの種類の「愛」によっては心を動かされません。それには、ふたつの理由があります。第一に、わたしはいままでの人生において、ただの一度も、何らかの民族あるいは集団を愛したことはありません。ドイツ人、フランス人、アメリカ人、労働階級など、その類の集団を愛したことはないのです。わたしはただ自分の友人「だけ」を愛するのであり、わたしが知っており、信じてもいる唯一の愛は個人への愛です。第二に、この「ユダヤ人への愛」は、わたし自身がユダヤ人であるからこそ、わたしにはむしろ何か疑わしいものと見えるのです。わたしは自分自身、あるいは自分という人間の一部であるものを愛することはできないのです(p.77)。