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L'art de croire             竹下節子ブログ

同世代哲学者の老後感

もうひと月前になるが、「健康ブログ」に「レクスプレス誌」に載ったアンドレ・コント=スポンヴィルのインタビュー記事について書いた。
同世代哲学者の老後感_c0175451_01563862.jpg
同世代で多くのメッセージを発している人が意外な老後感を披露しているのが驚きだったので、健康ブログと化している「たかが、肩」に載せたのだ。

ひょっとして興味ある人がいるかもしれないのでリンクを貼っておく。





# by mariastella | 2025-03-01 00:05 | 死生観

未来はシニアの手に?

愛読している秋葉忠利(元広島市長)さんのブログでの、核廃絶に向けた、理想論ではない現実的な戦略の検討にはいつも感心させられる。


シニアと言えば、秋葉さんより20歳くらい年上の藤永茂さんの平和と公正の志向が絶対に揺らがない姿勢も尊敬するばかりだ。最近のブログに大橋晴夫氏の原爆についての考察が転載されていた。

これは被爆者の側からというより、日米の政治側から見た加害の様相だ。
これを読んで、たとえば、あらためて「軍票」という言葉の意味をネットで検索した。
この夏は原爆投下80年、いろいろな情報をアップデートするばかりではなく、感性もアップデートしなくては、と思った。


# by mariastella | 2025-02-28 00:05 | 時事

フランス語のジョーク

La maîtresse demande :

--Toto, dans ta rédaction, tu as écrit trois fois le mot savon avec un S majuscule. Pourquoi?

-- Ben, pour moi, c'était forcément un nom propre!

先生がたずねました。

「トト、あなたは作文の中で三度も「石鹸」という言葉のはじめに大文字を使ってますね。どうして?」

「だって、僕にとっては、きれいな言葉だから」

nom propreというのは固有名詞なので、始まりが大文字というのは分かる。
savon(石鹸)はもちろん普通名詞だが、子供にとっては、石鹸は清潔を保つもの、きれいにするもの、なので、「清潔な、きれいな」という意味の「propre」と結びつき、「きれいな言葉」。
「固有名詞は大文字で始める」という意味をTotoはずっと誤解していたというわけだ。
コロナ禍で子供たちが石鹸で手を洗えとしつこく叩き込まれてきたことと関係しているかもしれないと思えば、軽く笑えない。


また、考えてみると、普通は文脈で十分理解できて誤解は生じないのだが、propreは語源的に言っても、パーソナルな、自分の、固有の、という意味で、それがクリーンな、という意味になっていった経緯は興味深い。

育児においてはオムツがとれることをpropreになったというし、子供にとってはしょっちゅう、「あら汚いわね。」「おててはきれいにした?」「あ。それは汚いから触っちゃダメ」のように耳慣れている言葉だから、学校で突然固有名詞だとか、個人の持ち物だとかいう意味に使われて誤解したとしても「笑い話」として成立するわけだ。



# by mariastella | 2025-02-27 00:05 | フランス語

Un autre monde

2022年に公開された社会派映画をArteで視聴した。



コロナ禍後はすっかり新作映画を観に行かなくなったから何でも新鮮で、ヴァンサン・ランドンとステファヌ・ブリゼのコンビは妥協のない映画作りだから興味があった。

今まで労働者側から描いていたものを今度は管理職側から描く。
マルチナショナル企業のフランスのトップ役が、テレビのプレゼンテーターだったマリー・ドリュケルで、美女で冷酷、ネオリベの権化のような完璧な「悪」というのも印象的。
ランドンの役は、地方の工場の管理職で、もとは工員や組合の話もよく聞いていたのに、「効率化」のリストラを上から強要されて板挟みになる。しかも、仕事にかまけて妻との週末は7年間に6回しかないほどの激務で、離婚を提唱される。その妻役が実際に彼の前妻だったサンドリーヌ・キベルランで、苦しむ様子に迫力があるのもやりきれない。

カルロス・ゴーンが日産にやってきて「再建」した時に、日本人経営者ならとてもできないようなリストラを断行したことを思い出した。日本人の知り合いが、「アメリカ人がやるなら分かるけれどフランス人だとは…」と驚いていたのを覚えている。
「労働者の立場を思いやる個人の感情より企業の利益を優先しろ」という原則を堂々と口にする女性上司は、大切なのは労働者ではなく株主だと言い切る。
全体から見ると地方の中間管理職でしかないランドンの役は、それなりの資産を築いたという意味では「成功者」なのだけれど、家庭を顧みなかったつけを払わされて、20世紀末からなりふりかまわなくなった金権主義、コスパ、数字化できる利益至上主義経済の非人間性に押しつぶされる。

ステファヌ・ブリゼとのこれまでの映画のように、このような非人間的世界を告発する映画なのだけれど、そして、最後に提示されるあまりにも巧妙な「餌」を拒絶する「良心」の発露に少しほっとするのだけれど、結局、少数の権力者以外はみんなが「不幸」になるのだから、後味はよくない。

それでも、こういう映画でも時々観ておかないと、この世の不条理、不公平に麻痺してしまいそうだから、貴重な時間だった。

ヴァンサン・ランドンって、見た目は二枚目俳優でも何でもないのに、実生活ではもてまくっているのだけれど、トラウマやら病気やらも抱えていて強烈な存在感のある人だなあとあらためて感心した。


# by mariastella | 2025-02-26 00:05 | 映画

バイル―かベイルーか 再び

以前もどこかに書いたのだけれど、今のフランスの危うい議会で、二度目の首相に指名されたフランソワ・バイルーの読み方について。

日本語表記はバイルかバイルー(フランス語は最後の母音が少し長くなるのでバイルーが近い)だが、フランスのメディアでは相変わらず「バイルー」と「ベイルー」が混在している。「yi+i」だから、教科書的に行くとBai+ilouでベイルー。

友人であるバロックダンサーのChristine Bayle はベイル(最後のeは発音しない曖昧音)だ。固有名詞だから、二通りの読み方があるのだろう。だれもバイルと呼ばない。

レバノンの首都ベイルートはBeyrouthで問題ない。e+i=エだから。


で、日本人としてはバイとベイはまったく違うので以前はカタカナ表記にいつも迷っていたわけだが、今はバイルーとなっているようだ。

今回首相になってから彼の名は毎日メディアで出てくるからか、あるコメンテーターが「ベイルー」と発音したら、別の誰かが「バイル―」だと訂正した。

おお、これで公式にはバイルーなんだと納得したが、すぐにベイルーという発音もあちこちで復活した。

要するに、フランス語しか話さない環境で育った人には、ベイとバイのような二重母音の区別が曖昧で、綴りに引かれてベイルーと発音する人が少なくなくてもスルーされるということだ。

これも前に書いたけれど日本語も、二重母音は音便で長母音になっても表記通りの読み方と併存することがある。たとえば佐藤恵子(さとうけいこ)さんなら、「さとーけーこ」さんと発音するはずなのだけれど「さとうけいこ」さんと発音しても、必ずしも「間違っている」とは認識されない。文字につられてはっきり「けいこ!」と呼んでも、呼ばれた本人も気にしないだろう。

次に来る音にもよる。たとえば「遺影の撮影があります」「衛生上」などという時、いえー、さつえー、えーせーじょー、と必ず「音便」するとは限らない。表記が発音をまとめてしまうのだ。

フランス人にとって「ビル」と「ビール」、「町」と「マッチ」の違いは聴きとるのが難しいけれど、日本人にとっては混同のしようがない。


バイル―が首相になったことで、あらためてその発音を本人に正した人がいて、ベイルーと発音している人を訂正したのだろうが、区別が聞えない人にはもとより意味がなかったということだ。


発音と表記の関係にはいつも迷わされてしまう。


(余談だが、バイルーの特徴の一つは、一見好々爺のような雰囲気なのに、家庭的なものをいっさい表に出さないところだ。マクロンのカップルは好奇の目にさらされてきたし、オランドもサルコジも、カップルの別れや出会いが報じられてきた。

バイルーは、大学で知り合った妻とずっと添い遂げていて、6人の子供、21人の孫がいて、子供たちはいずれも医師、獣医師、大学教授など確かな社会的地位にある。それを表に出さないが、その安定が、彼の隠れた強みになっているのかもしれない。)


# by mariastella | 2025-02-25 00:05 | フランス語



竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/

by mariastella
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