昭和二十年(1945年)八月十四日にわが国は「ポツダム宣言」の受諾を連合各国に通告し、翌日の玉音放送により日本の降伏が国民に公表されたのだが、「ポツダム宣言」の第六条および第十条にはこう記されていた。
六 われらは、無責任な軍国主義が世界より駆逐されるのでなければ、平和、安全及び司法の新秩序が生じ得ないことを主張しているから、日本国国民を欺瞞して道を誤らせ、世界征服に乗り出させた者の権力及び勢力は、完全に除去されなければならない。 …
十 われらは日本人民族を奴隷化したり、国家を滅亡させる意図は有さないが、われらの俘虜を虐待する者を含む一切の戦争犯罪人は、厳格な司法手続に附されなければならない。日本国政府は、日本国国民の間における民主主義指向の再生及び強化に対する一切の障害を除去しなければならない。言論、宗教及び思想の自由、並びに基本的人権の尊重は確立されなければならない。
ポツダム宣言に戦争犯罪人を裁くことが明記されており、それに基づいてA級戦犯の容疑で逮捕された100人以上のうち28名が起訴され、2年半にわたる東京裁判(極東国際軍事裁判)の真理の結果、7名が死刑、16名が終身刑といった判決が下っている。
「A級戦犯」という言葉は「B級戦犯」「C級戦犯」より重要度が高いと誤解されることが多いのだが、A,B,Cは罪の軽重ではなく罪の分類に過ぎない。「極東国際軍事裁判所条例」によると、「A級」は「平和に対する罪」、「B級」は通例の戦争犯罪、「C級」は「人道に対する罪」を意味しており、BC級戦犯で死刑に処せられた者が千人近くいたことからわかるように、A級の戦犯が一番重い罪を犯したという意味ではないのである。
東京裁判の最大の問題は、当時の国際法で「平和に対する罪」「人道に対する罪」は存在せず、この裁判のために作られた条例に基づき日本人が裁かれた点にある。
事後的に定められた条例に基づき人を裁くことは法の不遡及原則に反しており、東京裁判は罪を裁く根拠となる法律がないまま開かれて日本人が処刑されたということは指摘しておきたい。
以前このブログでGHQの検閲指針のことを書いたが、その指針には三十の項目があって、この指針に違反する内容の論評や出版は許されなかった。その指針の二番目の項目が「極東国際軍事裁判(東京裁判)批判」なのである。
終戦後75年も経ったにもかかわらず、いまだにわが国の大手マスコミなどは、戦勝国に忖度して、この指針を自主規制で守っているようにしかみえないのである。
今回、A級戦犯容疑で逮捕された者、およびA級戦犯として起訴された者の著作を、GHQ焚書の中から集めてみた。その中から、松岡洋右著『東亜全局の動揺――我が国是と日支露の関係・満蒙の現状』の一節を紹介したい。
少しばかり当時の情勢を付記しておくと、日露戦争に勝利したわが国は、ポーツマス条約により長春以南の鉄道と附属の利権を得、その後日露協約を締結し満州・内蒙古の勢力範囲を定め、清国も1905年の満州善後条約や1909年の満州条約でそれを認めたのだが、1912年に成立した漢民族国家の中華民国は1920年代に入ると国権回復運動を推進し日本と対立するようになった。ちなみに満州・内蒙古はもともと満州族・蒙古族と一部朝鮮族が居住した地域で、清の時代には他の民族が移り住むことが出来ないように禁令が敷かれていたのだが、清朝末期以降漢民族も流入するようになっていった。ところが、日本人が利権を得て投資を始めインフラを整備していくと、漢民族が日本人の百倍以上の規模でこの地域に住み着き、人口の九割が漢民族となり、漢民族が他民族を妨害するようになってしまったのである。松岡洋右はこう書いている。
満蒙の門戸を閉鎖せんとして、あらゆる障碍を横たえつつあるものは実は漢民族そのものであるという事実が漸次明らかにされつつある。見よ、恩人たる大和民族に対してすらあらゆる妨害を加えつつあるではないか。満蒙は独り漢民の蟠踞占有に委ぬべき天地では断じてない。第一史実がこれを否認している。否四十年来、漢民族が自ら取り来たった行動そのものが、明白にこれを拒否している。かりに東方諸民族に限ってこれを言えば、現に満蒙に於ける二十万の大和民族が移民であるなら、二千数百万の漢民族もまた同じく移民である。清朝時代の漢民族に対する満州移住の禁令は、やっと二十六年前初めて全部の撤廃を見たのである。一体ある特定の小地域を画しまたは時を限っての除外例はあろうが、およそ一般的に原則的に、自国人の居住往来を許さない自国の領土というものの存在を想像し得るか。今日、満蒙に居住している漢民族の三分の二は、日本が乗り込んで、開発もし治安も維持しまたあらゆる便宜をも提供したために、わずかに居住し得たのではないか。これを歴史に照らして、百万の朝鮮人は満蒙では半ば主人公である。満州人と蒙古人は、素より完全に主人公である。これ等の事実と現前、見るが如き満蒙の状態とに鑑み、私は日本として少なくとも、これら五民族は満蒙の天地に於いて、完全なる自由、平等の立場を与えられなければならぬと主張すべきであって、この主張には、いささかのこじつけもなく、無理もないということを深く信ずるものである。かかる主張が日露戦争直後に於いてわが国にあったか。最近満蒙に於ける事態悪化の直接原因は、もとよりいわゆる幣原外交にあるのであるが、実は少しく限界を広め、時を溯って立っ関すると、今日の満蒙問題行き詰まりの遠因たり最大原因たるものは、実は日露戦直後、わが朝野を通じて満蒙に対する基礎的認識を欠き、従って根底に触れた、かかる主張に目覚めなかったことに存するのである。私を以てこれを見れば、当時の日本は当然この主張を掲げて、満州善後談判に臨まなければならなかったのである。しかるに善後談判なりまたその結果として成立した、日清間の条約や協定にかかる主張の痕が何処に認められるか。
松岡洋右 著『東亜全局の動揺 』先進社 昭和6年刊 p.136~138
松岡洋右は国際連盟を脱退して日本の道を誤らせてA級戦犯になったぐらいのイメージしかなかったのだが、最近興味を持って調べてみると印象がすっかり変わってしまった。松岡は当時中国内政不干渉を方針とする幣原喜重郎外相の弱腰外交を痛烈に批判しているが、今のわが国はそれ以上の軟弱外交であり、政治家もマスコミも戦勝国や中国・韓国に都合の悪い事には口を閉ざしたままである。
その意味で、松岡の指摘している問題は現在にも通じる内容である。わが国が満蒙に投資した金額は半端ではなかったのだが、漢人は排日運動を仕掛けて満蒙から日本人を排除し、わが国の権益や、苦労して整備したインフラを実質的に奪い取ろうとした。
わが国が満蒙に投資した金額は、昭和七年に出版された『満蒙の我権益』に十五億円(内民間投資十一.三六億円)とでており、第二位のロシアの四.六億円を大きく引き離し、シナの投資はゼロである。昭和初期のわが国の年間予算規模は十五~十九億円程度だから、巨額の資金を投入して道路や工場設備や大学などを建築していったのだが、すべてを失ってしまったのである。
こういう史実を知ると、現在の政治家や財界人や官僚の多くが、中国に対する甘い対応をとり続けていることに危惧せざるを得ない。大量移民を受け入れようとする動きが存在するが、警戒しないままに受け入れた場合は、わが国の固有の領土の一部が満蒙やウィグルやチベットと同じようになり、手が付けられないような状態になる危険があるという認識を持つべきではないだろうか。
ちなみに松岡洋右のこの本は、最近になってライズ・アップ・ジャパン(経営科学出版)によって復刻され、送料¥550で入手できる。「国立国会図書館デジタルコレクション」より、はるかに読みやすいのでお勧めしたい。
満州については、以前旧ブログで少しばかり調べて書いたことがあるので、良かったら参考にしていただきたい。
今回はGHQ焚書の内、A級戦犯で起訴された人物、A級戦犯容疑で逮捕された人物の著書を集めてみた。GHQ焚書には、戦勝国にとって都合の悪い史実が満載で、このような史実は戦後の長きにわたりほとんど知らされて来なかったものが殆んどである。戦後に広められた一般的な歴史叙述に疑問を覚えている方は、覗いてみて頂きたいと思う。
【東京裁判にA級戦犯として起訴された人物の著書】
死刑:板垣征四郎、東条英機、土肥原賢二
終身刑: 荒木貞夫、賀屋興信、小磯国昭、白鳥敏夫 、鈴木貞一、橋本欣五郎
判決前死去:松岡洋右
訴追免除:大川周明
GHQ焚書40点の内22点がネット公開
【A級戦犯指名を受けたが東京裁判に起訴されなかった人物の著書】
GHQ焚書69点の内31点がネット公開
タイトル | 著者・編者 | 出版社 | 出版年 | 国立国会図書館デジタルコレクションURL |
大東亜の建設 | 天羽英二 | 毎日新聞社 | ||
事変と農村 | 有馬頼寧 講 | 橘書店 | ||
銃後の農村青年に愬ふ | 有馬頼寧 | 河出書房 | 昭和12 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1270702 |
戦時農村と革新政治 | 有馬頼寧 | 農村研究会 | ||
有声録 | 有馬頼寧 | 多摩書房 | 昭和18 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1123272 |
英国の極東作戦 新嘉坡根拠地 | 池崎忠孝 | 第一出版社 | ||
国防の立場から | 池崎忠孝 | 昭森社 | ||
最新軍事問題論孜 | 池崎忠孝 | 大村書店 | ||
新支那論 | 池崎忠孝 | モダン日本社 | ||
世界は斯くして戦へり | 池崎忠孝 | 駸々堂 | ||
世界を脅威するアメリカニズム | 池崎忠孝 | 天人社 | ||
大英国日既に没す | 池崎忠孝 | 駸々堂書店 | ||
太平洋戦略論 | 池崎忠孝 | 新光社 | 昭和8 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1037202 |
長期戦必勝 | 池崎忠孝 | 新潮社 | 昭和17 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1062727 |
天才帝国日本の飛騰 | 池崎忠孝 | 新光社 | ||
日本最近対外政策論攷 | 池崎忠孝 | 第一出版社 | ||
米国怖るゝに足らず | 池崎忠孝 | 先進社 | 昭和5 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1053669 |
今後日本は何うなるか | 石原広一郎 | 新日本建設青年連盟 | ||
転換日本の進路 | 石原広一郎 | 三省堂 | ||
大東亜共栄圏における 共栄生活体制の構想 | 井野碩哉 | 国策連盟 | ||
生産第一主義 | 大河内正敏 | 科学主義工業社 | ||
統制経済と経済戦 | 大河内正敏 | 科学主義工業社 | 昭和15 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1441623 |
必勝の増産 | 大河内正敏 | 科学主義工業社 | ||
持てる国 日本 | 大河内正敏 | 科学主義工業社 | ||
帝国海軍 沈黙二十年の苦闘史 | 高橋三吉 | 東亜時代協会 | 昭和17 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1455565 |
南方共栄圏を語る | 高橋三吉 | 大日本雄弁会講談社 | 昭和16 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1276418 |
The Inperial Rescript declaring War on United States and Britixh Empire | 徳富猪一郎 | 毎日新聞社 | ||
危機線上の日支 | 徳富蘇峰 他 | 東京日日新聞社 | ||
現代日本と世界の動き | 徳富猪一郎 | 民友社 | 昭和6 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1268736 |
興亜の大義 | 徳富猪一郎 | 明治書院 | 昭和17 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1270071 |
皇国必勝論 | 徳富猪一郎 | 明治書院 | 昭和19 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1267270 |
皇道日本の世界化 | 徳富猪一郎 | 民友社 | 昭和13 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1267993 |
国民小訓 | 徳富猪一郎 | 民友社 | 昭和8 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1188529 |
宣戦の大詔 | 徳富猪一郎 | 東京日日新聞社 | 昭和17 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1460201 |
宣戦の大詔謹解 | 徳富猪一郎 | 毎日新聞社 | ||
日本精神と新島精神 附新島襄小伝 | 徳富猪一郎 | 関屋書店 | ||
日本帝国の一転機 | 徳富猪一郎 | 民友社 | 昭和4 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1272265 |
必勝国民読本 | 徳富猪一郎 | 毎日新聞社 | 昭和19 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1460249 |
奉公 小訓 | 徳富猪一郎 | 民友社 | ||
明治天皇の御盛徳 | 徳富猪一郎 | 民友社 | ||
吾が同胞に訴ふ | 徳富蘇峰 他 | 近代社 | ||
神祇教育と訓練 | 大倉邦彦 | 明世堂書店 | ||
大東亜建設と教育 | 大倉邦彦 | 弘道館 | ||
日本精神の具体性 | 大倉邦彦 | 目黒書店 | ||
経済決戦記 | 太田正孝 | 秀文閣書房 | ||
非常時の足どり | 太田正孝 | 東海出版 | ||
すめらあじあ | 鹿子木員信 | 同文書院 | ||
すめらみくにの理論と信念 | 鹿子木員信 | 維新社 | ||
日本精神の哲学 附・神ながらのやまとごころ | 鹿子木員信 | 国民思想研究所 | 昭和9 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1057097 |
日本戦時経済の進む途 | 岸信介 | 研進社 | 昭和17 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1439267 |
皇道経済論 | 久原房之助 | 千倉書房 | 昭和8 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1025410 |
国民を基礎とする政治機構 改革に関する私見 | 久原房之助 | 中野豊治 | 昭和14 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1097155 |
日韓合邦秘史. 上巻 | 葛生能久 | 黒竜会出版部 | 昭和5 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1225270 |
弾丸下の経済建設 | 郷古 潔 | 東邦書院 | ||
東の日本・西の独逸 | 伍堂卓雄 | 金星堂 | 昭和13 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1268393 |
盟邦独逸に使して : ヒトライズムの成果を語る | 伍堂卓雄 述 | 横浜貿易協会 | 昭和13 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1270555 |
尽忠報国の精神 | 近衛文麿演説 | 第一出版社 | 昭和13 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1268214 |
外交対策 | 小林順一郎 | 湯原惣助 | ||
急迫せる極東の情勢と 日本の立場 | 小林順一郎 | 今日の問題社 | ||
次の世界大戦 | 四王天延孝 述 | 大阪図書 | ||
決戦期の日本 | 下村宏 | 朝日新聞社 | 昭和19 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1271039 |
日本の行くべき道 | 下村宏 | 日本評論社 | ||
非常時国策の提唱 | 長谷川 清 | 護国同志会本部 | 昭和9 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1437487 |
最近のソウエート聯邦 | 秦彦三郎 述 | 朝日新聞社 | 昭和11 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1094461 |
欧洲情勢と支那事変 | 本多熊太郎 | 千倉書房 | 昭和14 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1261509 |
国際連盟軍縮本会議と日本 | 本多熊太郎 | 外交時報社 | 昭和6 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1464688 |
支那事変から大東亜戦争へ | 本多熊太郎 | 千倉書房 | 昭和17 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1439017 |
米国の脱帽 : 米国側の倫敦会議解説 | 本多熊太郎 | 天人社 | 昭和5 | https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1452542 |
時局と青年 | 真崎甚三郎 | 高山書院 |
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ブログ活動10年目の節目に当たり、前ブログ(『しばやんの日々』)で書き溜めてきたテーマをもとに、2019年4月に初めての著書である『大航海時代にわが国が西洋の植民地にならなかったのはなぜか』を出版しています。
通説ではほとんど無視されていますが、キリスト教伝来以降ポルトガルやスペインがわが国を植民地にする意志を持っていたことは当時の記録を読めば明らかです。キリスト教が広められるとともに多くの寺や神社が破壊され、多くの日本人が海外に奴隷に売られ、長崎などの日本の領土がイエズス会などに奪われていったのですが、当時の為政者たちはいかにして西洋の侵略からわが国を守ろうとしたのかという視点で、鉄砲伝来から鎖国に至るまでの約100年の歴史をまとめた内容になっています。
読んで頂ければ通説が何を隠そうとしているのかがお分かりになると思います。興味のある方は是非ご一読ください。
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