2020年 07月 25日
南蛮西南夷列伝を読む0725 |
『後漢書』巻86は南蛮西南夷列伝.前半の南蛮伝と後半の西南夷伝からなる.巻85は東夷列伝,巻87は西羌伝,巻88は西域伝,巻89は南匈奴列伝,巻90は烏桓鮮卑列伝.なぜ巻87と巻88だけは「列伝」ではなく「伝」なのか,は措くとして,
巻85:東夷,伝名はそのまま.
巻86:南蛮,伝名はそのままだが,「西南夷」がくっついた感じ.
巻87と巻88:西戎,これが西羌と西域に二分された.西羌の「西」もこれと関連あるのではないか.思いつき.
巻89と巻90:北狄,これが南匈奴と烏桓・鮮卑に二分された.「北」を示すものはないが,どれもこれも中国王朝と関連が深いためか.
で,後半の西南夷伝だが,南蛮伝にくっついたのは,西南夷ようするに「南」だからなのだろうが,これはさらに,いくつかに分けられる.
夜郎[牂柯郡]
滇王[益州郡]
哀牢夷[永昌郡]
邛都夷[越嶲郡]
筰(正しくは草冠)都夷[蜀郡属国,のち漢嘉郡]
冉駹夷[汶山郡](その西に,三河虜・槃于虜,北に黄石胡・北地胡・盧水胡)
白馬氐[武都郡]
現在の四川省・雲南省を中心に,貴州省や甘粛省にまで及ぶ.武都郡が「西南」とは思えないのだが(盧水胡に至ってはまさに西北),巻87西羌伝には白馬羌や湟中月氏胡が出てくる.とくに後者は西羌伝に附伝されている.月氏胡と盧水胡は同じとする見方もあるようだし,白馬羌も白馬氐と同じ内実だろう.
ようするに西南夷は「その他大勢」的なところがあるのだが,そもそも西南夷とは「在蜀郡徼外」という一点だけで共通しているのである.
柿沼陽平氏は,自著の『中国古代貨幣経済の持続と転換』第六章「三国時代の西南夷社会とその秩序」で,
つまり,「西南夷」というアイデンティティ自体,不変のものとは限らず,西南夷側の自称であるとも限らないのであ
る.むしろ中国古代の他の種族名(たとえば西羌)と同様,「西南夷」は内名ではなく外名の可能性が高い.しかも「西
南夷」の人びとは,同質の地理・環境下で単一の生活様式を共有した集団であったとも限らない.
として(233頁),「西南夷地域の人びとの異種混交性を闡明する」としている.柿沼は慎重に「限らず」とか「限らない」とかいう表現を多用しているが,『後漢書』の西南夷(列)伝の冒頭の記載からそれは明らかではないか.蜀漢に限らず中国王朝の拡大・膨張主義に対して,上の七つの族集団が一致団結することはあるだろう.それは当然である.しかしそのようなことがない限り,生業などもさまざまであった集団が統一を志向することはなかろう.
生業などがさまざまだったというのは,「夜郎国」・「滇国」・「邛都国」は「各立君長,・・・邑聚而居,能耕田」,
「嶲・昆明諸落」(七つの族集団との対応が不詳)は「無君長,・・・随畜遷徙無常」,
「筰都国,・・・冉駹国,或土著,或随畜遷徙,・・・白馬国,氐種是也,此三国亦有君長」である.
by s_sekio
| 2020-07-25 07:34
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