子への虐待を理由として親が子との面会を停止される場合の手続き

児童虐待の可能性がある場合、それを発見した人は、児童虐待防止法第6条に基づき、公的機関に通告する義務があります。

(児童虐待に係る通告)
第六条  児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者は、速やかに、これを市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所又は児童委員を介して市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所に通告しなければならない。
2  前項の規定による通告は、児童福祉法 (昭和二十二年法律第百六十四号)第二十五条第一項 の規定による通告とみなして、同法 の規定を適用する。

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H12/H12HO082.html

この児童虐待防止法第6条による通告は、児童福祉法第25条1項の規定による通告とみなされます。

児童福祉法

第二十五条  要保護児童を発見した者は、これを市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所又は児童委員を介して市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所に通告しなければならない。ただし、罪を犯した満十四歳以上の児童については、この限りでない。この場合においては、これを家庭裁判所に通告しなければならない。

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S22/S22HO164.html

この通告を受けた児童相談所の長は、児童福祉法第26条に基づき措置を決めることになります。

児童福祉法

第二十六条  児童相談所長は、第二十五条第一項の規定による通告を受けた児童(略)について、必要があると認めたときは、次の各号のいずれかの措置を採らなければならない。
一  次条の措置を要すると認める者は、これを都道府県知事に報告すること。
(二〜七 略)
○2  前項第一号の規定による報告書には、児童の住所、氏名、年齢、履歴、性行、健康状態及び家庭環境、同号に規定する措置についての当該児童及びその保護者の意向その他児童の福祉増進に関し、参考となる事項を記載しなければならない。

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S22/S22HO164.html

その措置の一つに児童福祉法第27条の内容があり、それを行う場合は知事に児童の住所、氏名、年齢、履歴、性行、健康状態及び家庭環境、同号に規定する措置についての当該児童及びその保護者の意向その他児童の福祉増進に関し、参考となる事項を報告する義務が生じます。

その児童福祉法第27条に規定された措置ですが、こんな感じです(第1項のみ)。

児童福祉法

第二十七条  都道府県は、前条第一項第一号の規定による報告又は少年法第十八条第二項 の規定による送致のあつた児童につき、次の各号のいずれかの措置を採らなければならない。
一  児童又はその保護者に訓戒を加え、又は誓約書を提出させること。
二  児童又はその保護者を児童相談所その他の関係機関若しくは関係団体の事業所若しくは事務所に通わせ当該事業所若しくは事務所において、又は当該児童若しくはその保護者の住所若しくは居所において、児童福祉司、知的障害者福祉司、社会福祉主事、児童委員若しくは当該都道府県の設置する児童家庭支援センター若しくは当該都道府県が行う障害者等相談支援事業に係る職員に指導させ、又は市町村、当該都道府県以外の者の設置する児童家庭支援センター、当該都道府県以外の障害者等相談支援事業を行う者若しくは前条第一項第二号に規定する厚生労働省令で定める者に委託して指導させること。
三  児童を小規模住居型児童養育事業を行う者若しくは里親に委託し、又は乳児院、児童養護施設、障害児入所施設、情緒障害児短期治療施設若しくは児童自立支援施設に入所させること。
四  家庭裁判所の審判に付することが適当であると認める児童は、これを家庭裁判所に送致すること。

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S22/S22HO164.html

もう一つ、児童福祉法第26条1項の措置以前に一時保護できる条文が第33条です。

児童福祉法

第三十三条  児童相談所長は、必要があると認めるときは、第二十六条第一項の措置を採るに至るまで、児童の安全を迅速に確保し適切な保護を図るため、又は児童の心身の状況、その置かれている環境その他の状況を把握するため、児童の一時保護を行い、又は適当な者に委託して、当該一時保護を行わせることができる。
○2  都道府県知事は、必要があると認めるときは、第二十七条第一項又は第二項の措置を採るに至るまで、児童の安全を迅速に確保し適切な保護を図るため、又は児童の心身の状況、その置かれている環境その他の状況を把握するため、児童相談所長をして、児童の一時保護を行わせ、又は適当な者に当該一時保護を行うことを委託させることができる。

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S22/S22HO164.html

児童福祉法第27条1項の措置は、1号(訓戒・誓約書)、2号(指導)、3号(施設入所)、4号(家裁送致)なわけですが、4号を除くと親が子との面会を停止される場合となるのは3号(施設入所)です。その3号の施設入所と33条の一時保護を想定して、児童虐待防止法には面会制限の条文があります。

児童虐待防止法

(面会等の制限等)
第十二条  児童虐待を受けた児童について児童福祉法第二十七条第一項第三号 の措置(以下「施設入所等の措置」という。)が採られ、又は同法第三十三条第一項 若しくは第二項 の規定による一時保護が行われた場合において、児童虐待の防止及び児童虐待を受けた児童の保護のため必要があると認めるときは、児童相談所長及び当該児童について施設入所等の措置が採られている場合における当該施設入所等の措置に係る同号 に規定する施設の長は、厚生労働省令で定めるところにより、当該児童虐待を行った保護者について、次に掲げる行為の全部又は一部を制限することができる。
 一  当該児童との面会
 二  当該児童との通信
2  前項の施設の長は、同項の規定による制限を行った場合又は行わなくなった場合は、その旨を児童相談所長に通知するものとする。
3  児童虐待を受けた児童について施設入所等の措置(児童福祉法第二十八条 の規定によるものに限る。)が採られ、又は同法第三十三条第一項 若しくは第二項 の規定による一時保護が行われた場合において、当該児童虐待を行った保護者に対し当該児童の住所又は居所を明らかにしたとすれば、当該保護者が当該児童を連れ戻すおそれがある等再び児童虐待が行われるおそれがあり、又は当該児童の保護に支障をきたすと認めるときは、児童相談所長は、当該保護者に対し、当該児童の住所又は居所を明らかにしないものとする。

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H12/H12HO082.html

児童虐待懸念を理由として親子を引き離し面会すら停止するためには、本来こういった手続きが必要です。児童福祉法27条1項3号による施設入所という引き離しの時点で、知事への報告義務が発生し、その上で親との面会を制限した場合は、その旨を児童相談所長に通知しなければなりません。児童福祉法33条の一時保護であれば、知事への報告義務がないようですが、それでも児童虐待防止法第12条に基づく面会制限実施の通知義務はありますし、一時保護自体は原則2ヶ月を上限としており、それを超える場合は児童福祉審議会への聴聞が必要とされています。

離婚後の子と別居親の面会交流を促進させようとする親子断絶防止法案について子への虐待を懸念するという意見がありますが、本来なら上記に準じた手続きを経るべきです。
すなわち、面会交流で別居親から子への虐待の恐れがある場合、児童虐待防止法6条、児童福祉法25条に基づいて児童相談所に通告し、児童相談所長が同居親家庭を児童福祉法27条1項3号又は33条による施設とみなした後、同居親は児童虐待防止法12条に基づく面会制限を児童相談所長に通知する、という手続きです。

この手続きでは面会交流停止の是非について最低限、児童相談所の判断(児童福祉法第26条による必要性の判定、同27条1項のいずれの措置を採るかの判断)を経た上で、同居親に面会制限の権限を付与することになり、同居親による濫用が回避されます。
また、同居親が面会制限の権限を行使するにあたっても、児童相談所に通知する必要が生じます。同居親への面会制限の権限委譲の根拠が児童福祉法33条に基づく場合は、2ヶ月ごとに児童福祉審議会の聴聞が必要になります。
さらに、同居親が面会制限を行うに当たっては、厚生労働省令に基づき別居親に対し「当該児童との面会又は通信の全部又は一部を制限する旨、制限を行う理由となった事実の内容、当該保護者の氏名、住所及び生年月日、当該児童の氏名及び生年月日その他必要な事項を記載した書面により行う」ことが求められます。

児童虐待の防止等に関する法律施行規則(平成二十年厚生労働省令第三十号)

(面会等の制限)
第二条 児童相談所長及び児童虐待を受けた児童について児童福祉法(昭和二十二年法律第百六十四号)第二十七条第一項第三号の措置(以下「施設入所等の措置」という。)が採られている場合における当該施設入所等の措置に係る同号に規定する施設の長は、当該児童虐待を行った保護者について、法第十二条第一項の規定に基づき当該児童との面会又は通信の全部又は一部を制限しようとするときは、当該保護者に対し、当該児童との面会又は通信の全部又は一部を制限する旨、制限を行う理由となった事実の内容、当該保護者の氏名、住所及び生年月日、当該児童の氏名及び生年月日その他必要な事項を記載した書面により行うものとする。

http://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/dv22/03.html

ここまでの手続きをとった上で子と別居親との面会交流が制限されるのならば、理解はできますし、少なくとも法的手続きに沿った正当な制限ということはできるでしょう。
現状は離婚し親権を失った時点で同居親の許可や面会交流を認める調停合意や審判結果がなければ面会交流はできない状態になってしまうわけですから、やはりおかしいというほかありません。
離婚後も原則として親子は自由に面会できるべきであり、それを制限する理由がある場合は正当で合理的な手続きを経た上で制限されるべきです。
虐待の可能性を挙げて親子断絶防止法に反対している人たちも、上記のような一般的な児童虐待防止法による手続きで親子の面会制限を行うことには同意できるんじゃないかと思いますがどうでしょうか。

ちなみに児童虐待防止法には以下のような条文もあります。

児童虐待防止法

(児童虐待を行った保護者に対する指導等)
第十一条  児童虐待を行った保護者について児童福祉法第二十七条第一項第二号 の規定により行われる指導は、親子の再統合への配慮その他の児童虐待を受けた児童が家庭(家庭における養育環境と同様の養育環境及び良好な家庭的環境を含む。)で生活するために必要な配慮の下に適切に行われなければならない。

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H12/H12HO082.html

仮に別居親による虐待があったとしても「親子の再統合への配慮」が必要で、永続的な面会制限が正当化されるわけではありません。

正直言って現状の離婚後面会交流の問題は、家庭内の児童虐待に対する法的措置と違って、同居親によって恣意的に制限されてしまい、それが容認されていることだと思ってます。
要は、児童虐待を行った親に対して払われている程度の配慮すら別居親には払われていないという二重基準ですね。