人種差別撤廃施策推進法案の定義を曖昧だからと反対するのなら、安倍政権の武力行使新3要件はもっと曖昧だから廃案にすべきだよね

民主党などの野党が提出した「人種差別撤廃施策推進法案」ですが、自民党・公明党の反対により、今国会での成立は不可能になりました。
在特会などのヘイト街宣行為の擁護を望む自民党による実質的な妨害と言っていいでしょう。在特会などの極右排外主義団体は、安倍政権を支える支持団体ですし、自民党ネットサポーターズクラブ(J-NSC)などはネット上でのヘイトスピーチを実践していますからねぇ。
さて、民主党が提出した法案ですが、「人種等を理由とする差別」を以下のように定義しています。

人種等を理由とする差別の撤廃のための施策の推進に関する法律案

(定義)
第二条 この法律において「人種等を理由とする差別」とは、次条の規定に違反する行為をいう。
2 この法律において「人種等」とは、人種、皮膚の色、世系又は民族的若しくは種族的出身をいう。
(人種等を理由とする差別の禁止等の基本原則)
第三条 何人も、次に掲げる行為その他人種等を理由とする不当な差別的行為により、他人の権利利益を侵害してはならない。
一 特定の者に対し、その者の人種等を理由とする不当な差別的取扱いをすること。
二 特定の者について、その者の人種等を理由とする侮辱、嫌がらせその他の不当な差別的言動をすること。
2 何人も、人種等の共通の属性を有する不特定の者について、それらの者に著しく不安若しくは迷惑を覚えさせる目的又はそれらの者に対する当該属性を理由とする不当な差別的取扱いをすることを助長し若しくは誘発する目的で、公然と、当該属性を理由とする不当な差別的言動をしてはならない。

https://www.dpj.or.jp/download/21050.pdf

第3条2項などは、まさに在日コリアンをターゲットにした排外差別街宣・差別煽動行為を抑止する条文になっていますが、こんな法案が成立すれば、自民党ネットサポーターズクラブ(J-NSC)などは事実上活動停止にされてしまいますね。そりゃ、自民党が妨害するのも当然です。
もっとも、この法案は罰則のない理念法ですけどね。ただし一方で罰則がない故にすぐさま警察が介入するようなこともなく、この法案が表現の自由を害する恐れはかなり少ないと言えます。民事訴訟の根拠になる可能性はありますが、その場合、提起された事実が「人種等を理由とする差別」と言えるかどうかは裁判所が判断することになります。

違憲立法審査権が事実上機能しないことにつけこんで憲法違反の法案を通そうとしている安倍政権ですが、二言目には憲法違反かどうかは最高裁が判断する、と言っているくらいなら、表現の自由を害するかどうかは裁判所が決めることになっている「人種差別撤廃施策推進法案」に反対する理由はないはずですけどね。

「人種差別撤廃施策推進法案」に対して「何がヘイトスピーチか、誰が認定するかが難しい」と言い出す与党議員

出席した自民党議員の一人は「何がヘイトスピーチか、誰が認定するかが難しい」と語り、今国会中は与野党合意できず、採決に至らないとの見通しを示した。
(略)
 これに対して公明党は「ある表現が違法かどうかの判断を権力側に委ねるのは危険」として審議会の設置に反対した。(略)
 ところが、自民党は終始、後ろ向きだった。参院法務委員会などで「政治的主張に人種的な内容が含まれる時がある」「禁止する言動が明示されなければ、表現行為を萎縮させ、表現の自由を害する恐れがある」と反論した。

http://digital.asahi.com/articles/ASH8W5GW1H8WUTFK00C.html

安倍政権は、何が存立危機事態か、何が新三要件を満たすのか、を時の政府の判断に丸投げした法案を強行採決で通そうとしています。それに具体的な危機が現実に迫っているわけでもないのにです。それに対して、ヘイトスピーチは在日コリアンらの人権を今現在侵害している現実的な危機であるにもかかわらず、自民党は「何がヘイトスピーチか、誰が認定するかが難しい」と言って事実上、ヘイトスピーチを野放しにするわけです。
公明党は何が存立危機事態か、何が新三要件を満たすのかの判断を権力側に委ねる戦争法案に賛同し強行採決に協力しているくせに、「人種差別撤廃施策推進法案」に対しては「ある表現が違法かどうかの判断を権力側に委ねるのは危険」と言って反対するわけですね。

武力行使の新3要件

安倍内閣が昨年7月に閣議決定した集団的自衛権を使う際の前提条件。(1)密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある〈存立危機事態〉(2)我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がない(3)必要最小限度の実力行使にとどまる――の3点からなる。
(2015-07-15 朝日新聞 朝刊 4総合)

https://kotobank.jp/word/%E6%AD%A6%E5%8A%9B%E8%A1%8C%E4%BD%BF%E3%81%AE%E6%96%B03%E8%A6%81%E4%BB%B6-896928

自民党議員の言う「政治的主張に人種的な内容が含まれる時がある」と言うのは、要するに人種差別を政治的主張として認めろ、と言っているに過ぎませんので論外ですが、「禁止する言動が明示されなければ、表現行為を萎縮させ、表現の自由を害する恐れがある」と言ってヘイトスピーチ撤廃に反対しながら、集団的自衛権行使を容認する具体的な条件については明示せず、極めて曖昧な「武力行使の新3要件」なる呪文だけ、しかも3番目の要件については法律の条文上には全く記載せずに強行採決しようと企んでいるわけです。

「武力行使の新3要件」よりも「人種等を理由とする差別」の定義の方がよほど具体的

それでも、自民党と公明党は定義が曖昧だからと「人種差別撤廃施策推進法案」に反対し、排外差別行為・ヘイトスピーチを野放しにし、一方で「政府が総合的に判断」という答弁だけで武力行使の条件が極めて曖昧な欠陥法案である戦争法案を、厳格に制限されているなどと嘯いて強行採決しようとしているわけです。

自民党も公明党も差別大好き・戦争大好きってことなんでしょうねぇ。