読み手にも問題があると思う

この記事です。
「調査レポート 女性読者の皆様、怒らずに最後まで読んでみてください 男たちの思秋期「まさかあの人が痴漢」には理由があった」

全面的に賛同するわけではありません。いくつかの意見には賛同しかねるものもありますし、どうすればいいのかについて何も書かれていませんし、タイトルの付け方は狙いすぎな気もします。それでもなお、記事自体は興味深い内容でしたし、粗いながらも分析として評価できるものだと思います。
一言で言えば、中年男性が痴漢行為に至る精神的なメカニズムを色んな論者の意見から考察するような内容で、だからと言って痴漢行為を擁護しているわけでもなく、痴漢しても仕方ないとも被害者を軽視しているわけでもないと感じました。

もちろん、痴漢被害に遭った被害者や被害に遭うかもしれない女性*1にとっては、そんな記事を読んでも不快に思うことの方が多いでしょう。
なのでブクマにあるこういう意見ももっともと思えなくもありません。

kosigan
訴えるべき読者層を間違えてる。30〜40代の男性に「こうなる可能性があるから、今からうまく対処できるようにしましょう」と訴えるべきで、「事情があるから」って被害者に同情を求めるのは違うでしょ。 2012/12/31

http://b.hatena.ne.jp/entry/gendai.ismedia.jp/articles/-/34399

ただ、この意見もちょっとどうかと思うところがあります。「「事情があるから」って被害者に同情を求める」ような記述は記事中には見当たりません。何人かの論者の意見の中には、そういうニュアンスを感じ取れる箇所もないではないですが、記事全体としてそういうトーンをかなり抑制していると思います。
もう一点、「訴えるべき読者層を間違えてる」というのも、この記事は現代ビジネスの記事ということを失念しているのではないかと思います。
現代ビジネスの想定している読者層は、中年の管理職層で*2多くは男性です。つまり、この記事に出てくる痴漢加害者に年代・環境が近い人たちを主たる読者層としているわけです。

ですから「30〜40代の男性に「こうなる可能性があるから、今からうまく対処できるようにしましょう」と訴えるべき」というのは、まさにそういう記事だと解釈すべきであって、ネット上にあるためにターゲット以外の人たちの目についたに過ぎません。

それを踏まえると「女性読者の皆様、怒らずに最後まで読んでみてください」というタイトルが狙いすぎとは思います*3が、記事としてそれほどおかしな内容とは感じないのではないでしょうか。

もちろん、ウェブにアップすれば想定している読者以外の目にもつく、という批判はありえますが、それって素朴な血液型占いのサイトを読みに行って血液型で人を差別するのか、と喚くようなものじゃないのかなぁ、と個人的には思います。

lisagasu
なんでこんなの怒らずに読めとか女性に言うのばかじゃないの。痴漢メンタルなんかどうであろうと被害者の苦痛に関係ないし知ったところで不快と嫌悪が増すだけだよ。岩崎宏美にあやまれよ18歳女子の歌に重ねるなボケ 2013/01/09

http://b.hatena.ne.jp/entry/gendai.ismedia.jp/articles/-/34399

この意見もそうですね。少なくとも女性向けの雑誌じゃありません。女性向けの雑誌じゃなくても許せない、と言うほどひどい内容ではないと思います。
ただ「痴漢メンタルなんかどうであろうと被害者の苦痛に関係ないし知ったところで不快と嫌悪が増すだけ」という意見は、正論かもしれませんがちょっと怖いです。

これ、痴漢じゃなくて他の犯罪、特に死刑になるような殺人とかならどうでしょうか。
「殺人メンタルなんかどうであろうと被害者の苦痛に関係ないし知ったところで不快と嫌悪が増すだけ」
もちろん、そういう意見もありでしょうが、では犯罪を犯すに至った精神的なメカニズムなどは分析の必要もないのでしょうか?

殺人罪で死刑になった永山則夫氏については、殺人を犯すに至らしめた悲惨な境遇などが知られていますが、だからと言って「被害者の苦痛に関係ないし知ったところで不快と嫌悪が増すだけ」と言って片付けられるべき問題とは言えないでしょう。

tikani_nemuru_M
またずいぶんと手垢にまみれた「男は獣」論ですね。 2013/01/08

http://b.hatena.ne.jp/entry/gendai.ismedia.jp/articles/-/34399

記事を全部読んでそうとしか感じなかったのなら、がっかりなコメントだと思います。


痴漢であれ殺人であれ

犯罪を犯すに至る心理や精神的メカニズム、それを左右するであろう加害者のおかれた環境、これらを考えるのは重要なことであり、被害者保護・支援と両立できることです。

殺人を犯した加害者について「殺人を犯したのだから罰するべき。精神的メカニズムなどどうでもいい。」などと言えば、さすがに眉をひそめる人がまだそれなりに存在すると思います*4が、そういう人たちでさえ「痴漢を犯したのだから罰するべき。精神的メカニズムなどどうでもいい。」という発言には容易に同調しているというのは、何と言うか・・・。

*1:男性被害者もいますが、大多数は女性であろうと思いますので、ここでは女性と書きます。

*2:ad.kodansha.net/mag/062/editor.pdf

*3:もちろん、女性の管理職で現代ビジネスを読む人もいるでしょうから、一概に狙いすぎとまでは言えない気もしますが。

*4:以前よりは減ってるでしょうけどね。吊るせ吊るせの大合唱が平然とされている状況ですから。