怪異の構造『妖怪の宴 妖怪の匣』
「化ける」とは何か。
「幽霊」とは何なのか。
ふだんなにげに用いている言の葉の一つ一つには、これほどまでに複雑な縛りがひそんでいるのだという驚きを体験してみて欲しい。
おのが言葉に敏感であれ。
現代において<幽霊>は「死後何らかの形をとって現出した死者の総称」として理解されることが多いようです。そしてそれは概ね生前の姿をとって現出すると(通俗的には)理解されています。
これには、生前と同様の姿をとっていなくては、それが死者だと判じられない、という事情があります。
ろくろ首は伸びても伸びても「頸の太さ」がほとんど変わりません。太さをキープしたまま伸びるというのは変です。質量が増えていることになるからです。実は、頸の太さがキープされるようになったのは、近代以降のことなのです。
首の内部の空洞が大きくなっている可能性も検討せねばなるまい。
— Bernardo Domorno (@Dominique_Domon) 2018年8月9日
「狸」という字は、本来は山猫を示す文字でした。日本に伝来した段階でタヌキに振り当てられ、同時にその霊性も多くタヌキに譲られてしまったようです。
化けるとは即ち、フォルムが変わること、なのです。形が変わらないのなら、化けて出るとはいわないはずです。それでは、なぜ<幽霊>は「化けて出る」といわれるのでしょうか。
能楽「鉄輪」で使われる「なりかかり」という能面は、有名な般若(はんにゃ)の面の角を短くしたような面です。額にある隆起は、角ではなく瘤(こぶ)のようにも見えるのですが、これは角が生えかけている状態を表しています。
この面は一名「生成 なまなり」とも呼ばれます。その名の通り、「鬼に成りかけた」面なのです。
能面/生成。生成(なまなり)また(なりかかり)とも言うらしい。般若になる前の状態を表したもので、怨霊の面、これに対し、般若を中成、蛇を本成とも言う。能楽では「金輪」のシテにだけ使われる。 pic.twitter.com/RvuDsotQKM
— 矢野靖人 Yasuhito YANO (@YasuhitoYANO) 2013年8月7日
<妖怪>は、形而下には存在し得ないと諒解されつつ、様々な形に仮託されることで日常世界に「具体物」として姿を現しています。
<幽霊>は実在しないと証明できないということを根拠として、「実在するかもしれない」という形で日常的に諒解されているわけです。
京極夏彦先生の妖怪の匣妖怪の宴読んでるけどすごくためになります。まだ序盤ですが現代にかけての化け物妖怪の世間体の移り変わりがとてもわかりやすい
— 西木田まこと (@Daiyasosaku) 2018年1月11日
京極夏彦『妖怪の宴 妖怪の匣』読了。『妖怪の理 妖怪の檻』に続き、語意の変遷を見ながらぐるぐると。「化ける」から、当初はなかったヒトの「お化け」が派生。その上「霊」とヘンにくっついたために道を誤ったのだ……とこれは完全にオカルト批判の書。妖怪をきちんと推進するために必要な雪かき。
— hiroyuki_takahashi (@hiropopopopon) 2016年6月4日
京極夏彦『妖怪の宴 妖怪の匣』実体のない妖怪について考えることは言葉について考えることそのものでもある。不思議な状況・現象もそれにより揺さぶられる感情も言葉が無ければ逃げ水のようにどこにも留まらない。絵としての妖怪もイメージの絵画化というよりは言語の絵画化であるのだろう。
— イチ (@crying4moon) 2016年3月21日
よ〜〜うやく落語心中新刊読んで開始20ページでまた号泣 そしてさー読もう、と思って手に取った京極先生の「妖怪の宴妖怪の匣」ラスト、水木先生の訃報で締められており追い打ち。……すごいタイミングだったのだろうなー。
— 恵鳥 (@e_tori616) 2016年2月19日
好評につき、文庫版が出ています。↓
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『妖怪の宴 妖怪の匣』
京極夏彦
怪BOOKS KADOKAWA
絡新婦の網を切り解きまくってきた構造探偵の真骨頂ここにあり。
京極夏彦「妖怪の宴 妖怪の匣」(怪BOOKS)
— AKI (@akiwolf) 2016年9月29日
読了しました。
化ける、化かす、化けた……言葉がゲシュタルト崩壊していきそう。
微に入り細を穿つ凄い論考でした。
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『ミニ特集:民俗学の本:妖怪と小松和彦本』
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『ミニ特集:妖怪・怪異のビジュアル本』
『ミニ特集:民俗学の妖怪本』