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メディア上でよく語られる増税反対論には以下の二つがある。

第一には、「増税の前に行政の無駄を削るべきだ」と言う反対論である。しかし1990年代のような、素人目にも採算が取れない大規模な公共事業といった、わかりやすい「無駄」の事例は今はさほど目立たないものになっている。近年は、天下りからタクシー券、公務員の給与水準まで、指摘される問題の規模が明らかに小さなものになっており、また公共部門の縮小がもたらす弊害の可能性については全く考慮されていない。官僚組織の弊害については理解するが、それを解決することと行政規模の縮小はイコールではない。

第二には、「増税は景気を悪化させる」という反対論である。これ自体はその通りかもしれない。しかし増税が必要なのは、かつては高齢者が農家や自営業で年金に頼らない生活が可能であったのに対して、大半が定年サラリーマンである現在の高齢者は年金なしの生活が不可能になっているといったように、公的な社会保障の必要性を増大させている、大きな社会構造の変化に由来するものである。企業や家族のセーフティネットに期待する従来のやり方に限界があることも、もはや明らかである。だから敢えて言えば、景気が少々悪化しても増税はやらなければいけないし、また景気をできるだけ悪化させないような増税策のために、政治家と専門家が懸命に汗を流すだけであろう。

現在、とくに最近話題の地方の首長など、小さな政府で福祉を充実させると言う、ほとんど不可能なことを真面目に語る人が多すぎる。マスメディアではこの矛盾だらけの主張がほとんど垂れ流し状態であり、民主党も選挙のことを考えて、こうした世論に迎合する方向にどんどん流れてしまっている。小さな政府と福祉充実の両立の可能性を全く否定するものではないが、少なくともその論理的な整合性についてもっと真面目に悩むべきである。