切り分けた果実の片方のように-米津玄師 Lemonを解説する

 

 

youtube再生数約9億で日本一位。日本人が最も好きな歌がLemonだ。

何がそこまで日本人に刺さるのだろう。

解剖医のドラマの主題歌として書き下ろされたこの曲は、曲中では死別なのか別離なのか明言されていないが大切な人を失った悲しみを歌い上げていく。米津玄師が近親者を亡くした時期と重なり、非常に死の匂いが濃い。

 

 

夢ならばどれほどよかったでしょう
未だにあなたのことを夢にみる
忘れた物を取りに帰るように
古びた思い出の埃を払う

 

夢という言葉で綴られた二行目までで、時を経ても癒えない本人の辛さと状況を巧く表現しきっている。

その時間は埃が積もるほど。

埃が積もるほど時間がたっても喪失の痛みは消えない。

 

 

戻らない幸せがあることを
最後にあなたが教えてくれた

 

戻らない幸せがあることは誰もが人生どこかで知ることになる。身も蓋もない事実だがこの詩は個人的にはこの歌で一番重い。

 

 

言えずに隠してた昏い過去も
あなたがいなきゃ永遠に昏いまま

 

この歌の情景はただただ暗い。あなたという光を失った世界を表現しているからか、歌詞のどこを切り取っても色味のない世界が広がっている。大切な人を失った人間には世界から色味が消える。

 

 

きっともうこれ以上 傷つくことなど
ありはしないとわかっている

 

 

あの日の悲しみさえ あの日の苦しみさえ
そのすべてを愛してた あなたとともに
胸に残り離れない 苦いレモンの匂い
雨が降り止むまでは帰れない
今でもあなたはわたしの光

 

 

これまで感情が抑えられ淡々と進んできたメロディーはサビでは一気にエモーショナルになり、音程の上げ下げがヒステリックなほど。

ただ、この部分で歌っている悲しみと苦しみは、戻らない幸せの頃を指している。これ以上ないほどの傷を負った今の激情ではない。

この歌で唯一痛みのないフラットで空洞な詩。

この空白に日本人は自分の感情を埋めるのだろう。

 

そしてこの時に登場するレモンは匂いなのだ。

レモンの香りを苦いと表現しているが普通は使用しない。だが、あの日の悲しみさえ苦しみさえと歌ったあとでは、スッと入ってくる。

よくわからないがわかる。この普通では掬いきれないニュアンスの機微が米津玄師のすごさなのだと思う。

 

雨が降りやむまでは帰れない様子は心象風景として涙を表していると考えられるが、

この歌では匂いや、苦さや埃を払う触感など五感に訴えかけてくる。

情景として、うすぐらい場所で雨宿りをしているイメージ、

例えばレモン畑で雨に降られてしまって待ちぼうけになっているような質感が感じられる。

 

 

暗闇であなたの背をなぞった
その輪郭を鮮明に覚えている
受け止めきれないものと出会うたび
溢れてやまないのは涙だけ

 

残された人ができることは思い出をなぞることだけ。

思い出をなぞることで喪失したものの輪郭がはっきりと浮かびだす。

ここで初めてあなたが登場した。

思い出の中のあなたは笑顔ではなくぼんやりとした背中だ。

あなたはとても近くにいたのに遠い距離をも感じさせる。

 

 

何をしていたの 何を見ていたの
わたしの知らない横顔で

 

近くて遠かったあなた

私はあなたのすべてを知っているわけではない。

それでも

 

 

どこかであなたが今 わたしと同じ様な
涙にくれ 淋しさの中にいるなら
わたしのことなどどうか 忘れてください
そんなことを心から願うほどに
今でもあなたはわたしの光

 

あなたは私と同じ気持ちに違いない

私と同じくらい辛いならば私のことなど忘れてほしい

 

 

自分が思うより
恋をしていたあなたに
あれから思うように
息ができない
あんなに側にいたのに
まるで嘘みたい
とても忘れられない
それだけが確か

 

私は決して忘れることはできないけれど

そんなことを心から願ってしまうほど

あなたは私にとっての光なのだ

 

 

あの日の悲しみさえ あの日の苦しみさえ
そのすべてを愛してた あなたとともに
胸に残り離れない 苦いレモンの匂い
雨が降り止むまでは帰れない
切り分けた果実の片方の様に
今でもあなたはわたしの光

 

最後に繰り返す一番のサビに一行追加されている

 

切り分けた果実の片方の様に

 

これは、切断された果実は切断面が合うものはもう片方しかない

他に替えが聞かない唯一のものであり、二つで一つという意味だ。

だからあなたもどこかで私と同じ気持ちに違いないと感じている。

少しエゴイスティックにも感じる先述の歌詞はこの気持ちからきている。

 

そしてこれまで匂いだったレモンが最後に実体化する。切り分けられた片方のレモンはみずみずしく色鮮やかに登場し聞き手にも光が見える。

これまでの暗闇との比較でとてもまぶしく光が満ちていく

アウトロでは光が満ちていく様をギターリフの残響のように表現している。

光は音ではないから残響しないのだが、よくわからないけれどわかる。

これが米津玄師。

 

 

絶望を歌ったあとに残るのは少しの清涼感。

きっとこの曲は、絶望に寄り添う優しい鎮痛剤なのだろう。

 

 

 

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