popoのブログ

超短編(ショートショート)

ヒーロー

幼い頃、私は父親をヒーローだと思っていた。 父はいつも優しく、力強く、どんな問題でも解決してくれた。 私は、父親のような人になりたいと夢見ていた。 ある日、父親が仕事で怪我をしてしまった。 父はしばらくの間入院し、歩くこともままならない状態だ…

いちごと彼女

いつものように週末の午後、 俺は一人、静かなカフェに足を運んだ。 窓際の一席に座り、本を開こうとしたその時、 メニューの一角に「いちごのパフェ」の文字が目に入った。 ふと思い出したのは、彼女が「いちごのパフェ、大好きなの!」 と目を輝かせて話し…

極寒の出会い

吹雪が荒れ狂う、一面銀世界の大陸。 そこへ一人、男が辿り着いた。 彼は探検隊の隊員として、この未知の大陸を調査するため、 長旅の末にこの地へやってきたのだ。 男は極寒の地で、体力を消耗し、意識がもうろうとしていた。 最後の力を振り絞り、雪洞の中…

成人の日

大好きなお父さん、お母さんへ いつもありがとう。 この手紙を書いている今、私は少しだけ大人になったような気がしています。 子供の頃、私が抱いていた夢は、少し形を変え、もっと大きなものになっていました。 それは、きっと、お父さんやお母さんの愛情…

知恵比べ

ある村に、とても評判の良いお殿様がいました。 そのお殿様は武芸だけでなく、 知恵も人一倍で、村人から慕われていました。 ある日、お殿様は暇を持て余し、 村人たちにクイズを出そうと思い立ちました。 「さて、村人諸君。私が今、持っているのは何か当て…

勝負のとき

一攫千金を夢見るフリーターの青年、大介は、 世界規模のオンラインゲーム大会 「ワールドチャンピオンシップ」への出場を決意する。 優勝すれば、賞金1億円が手に入り、人生が一変する。 しかし、強豪揃いの大会で、大介のゲームスキルは果たして通用するの…

七草粥

春の息吹、七つの彩 大地の恵み、心ゆくまで 小さな芽が、力強く 希望を乗せ、未来へ歩む 一年の始まり、七つの誓い 健やかな体、澄み切った心 感謝を込めて、いただきます 新しい一年、笑顔で歩む 七草粥を囲み、家族の輪 それぞれの想いを、言葉に 小さな…

初めての光

生まれたときから、世界は白黒だった。 茜色の夕焼けも、エメラルドグリーンの海も、 鮮やかな花々も、すべては陰影の濃淡でしか捉えられなかった。 彩色の世界は、私にとって永遠に手の届かない、 どこか遠い夢のようなものだった。 名前は、葵。 周りの人…

ショートケーキと過去と未来

午後の陽光が差し込むカフェ。 窓際の小テーブルには、淡いピンク色の 苺のショートケーキが置かれていた。 瑞々しい苺の赤色が、白くてふわふわの クリームの上でひときわ輝いている。 このケーキを見るたびに、 彼女はあの日のことを思い出してしまう。 彼…

澄み渡る空のような瞳

静かな午後の光が、窓辺で本を読んでいた少女の髪を金色に染めていた。 母親は、そんな娘の姿をリビングからじっと見つめていた。 娘の瞳は、まるで夏の空のように澄み渡っていた。 どこまでも続く青い空に、白い雲が ぽっかりと浮かんでいるような、そんな…

初日の出のキス

静まりかえった部屋に、柔らかな朝日が差し込む。 カーテンの隙間からこぼれ落ちる光が、眠る二人の顔を照らしていた。 「あ、もうこんな時間…」 女性が目を覚まし、横になっている男性の顔を優しく見つめる。 眠そうな目をこすりながら、男性もゆっくりと起…

最後の日の贈り物

静かに年が明ける準備が整う頃、 街は煌めくイルミネーションに包まれていた。 大晦日の夜、私はいつものように窓辺に佇み、 街の景色を眺めていた。 一年が駆け足のように過ぎ去り、残すところあとわずか。 今年一年を振り返ると、喜びもあれば悲しみもあっ…

年末の帰省

今年もまた、年末がやってきた。都会の喧騒から離れ、 実家へ戻る汽車の窓の外には、雪化粧した山々が連なり、 子供の頃の冬景色を思い出させた。 「あ、駅に着いたよ。」 母の優しい声が、私の意識を呼び戻す。 改札を出ると、父親がいつものように大きな笑…

同じ映画を、同じ場所で。

薄暗い部屋に、期待に満ちたざわめきが響き渡る。 大小様々なスクリーンが壁一面に埋め尽くされ、 その中央には、人々の視線を釘付けにする巨大なスクリーンが鎮座している。 今日は、この特別な場所で、 みんなが大好きなあの映画を、一斉に鑑賞する日だ。 …

ネバーランドに迷い込んだ少年

永遠の夜が輝く、夢見る島、ネバーランド。 そこには、大人になることを拒み、 少年の姿のまま永遠の冒険を続けるピーター・パンがいました。 ある日、ネバーランドに迷い込んだのは、 いたずら好きで心ない少年、トーマスでした。 トーマスは、現実世界で友…

おっちょこサンタ☆

今年もクリスマスがやってきた。 イブのサンタクロースは、世界中の子供たちに プレゼントを配るため、そりの準備で大忙し。 「よし、これで完璧だな!」 サンタクロースは、プレゼントの山を確認し、満足げに頷いた。 ところが、そりを走らせる時、 なんと…

テレホンカード

彼が初めてテレホンカードを手にしてから、 もう20年以上の月日が流れていた。 子供の頃は、新しいカードが出るたびにワクワクし、 コレクションケースに並べるのが何よりの楽しみだった。 デザインの凝ったもの、キャラクターもののカードを手に入れると、 …

残り1分

buzzer beater(ブザービーター)という言葉が、体育館中に響き渡った。 試合終了まであと1分。スコアは89対91。僅か2点の差でリードされている。地元チームの応援席からは、諦めきれないような、そしてわずかな期待を込めたような声が漏れる。 「お前ならで…

果ての二十日

かつて「果ての二十日」と呼ばれる日には、 人々は罪を恐れ、静かに過ごしたという。 しかし、その風習は薄れ、多くの人々が その日をただの1日として過ごしていた。 俺は、古書店で働きながら、古い書物に魅せられていた。 ある日、蔵書整理中に見つけた古…

こころの架け橋

神奈川県川崎市に住む、明るく元気な姉と、 千葉県木更津市で穏やかに暮らす妹。 二人は、生い立ちこそ違うものの、 血のつながりを超えた深い絆で結ばれていた。 しかし、二人が住む街は海を挟んで遠く離れており、 なかなか頻繁に会うことができずにいた。…

子猫の冒険

稲妻が光り、轟く雷鳴が夜空を切り裂く嵐の夜、 一匹の子猫が生まれた。 真っ黒な毛並みと、宝石のように輝く琥珀色の瞳が特徴の、 その子猫は「クロ」と名付けられた。 クロは、優しい飼い主の女の子と、二匹の兄妹猫たちと、 のびのびと幸せな日々を送って…

新しい手帳

春の息吹が心地よいある日、 栞はいつものようにスマートフォンで日記をつけていた。 今日の出来事、感じたこと、そして何より、彼のことを。 彼の笑顔、優しい声、一緒に過ごした時間… デジタルの画面に映し出される文字は、 栞の心の奥底に眠る感情を映し…

記憶の貯金

静かな夜、明かりを落とした部屋で、 老婦人は編み物をする指を止め、遠い日の思い出に浸っていた。 編み針が奏でるリズムは、まるで心拍数のようにゆっくりと、 そして確実に時を刻んでいた。 若い頃の彼女は、絵を描くことが大好きだった。 色とりどりの絵…

ビタミン万歳!

都内の高校に通う私は、最近少し元気がない。 大好きなバスケ部の練習も、以前のような勢いがなくなってしまった。 理由は簡単、受験勉強のストレスと、夜食の誘惑に負けてしまうからだ。 そんな私のところに、栄養士の叔母が現れた。 「最近疲れているみた…

ふたりを紡ぐ花

今日も街はパステルカラーに彩られていた。 しかし、彼の心は、その色鮮やかさとは裏腹に曇っていた。 数日前、大好きな彼女と大きな喧嘩をしてしまい、 そのまま気まずい状態が続いている。 「きちんと謝りたいな…」 彼は、何度も彼女に電話をかけようと思…

凍りついた現金

12月10日の朝、東京・府中の街は、冬の息吹を肌で感じていた。 いつものように現金輸送車が府中工場に向かう。 その車内に積まれたのは、従業員たちの給料、3億円。 だが、その現金は、まもなく歴史に残る出来事の舞台となる。 白バイ警官を装った男が現れ、…

光をつかむ

生まれつき右腕の動かない僕は、 青い空を見上げるのが好きだった。 僕は、自分のことを「普通じゃない」とどこか思っていた。 友達と手をつなぐことも、ボールを投げることも、できない。 いつもどこか置いていかれているような、 そんな感覚にさいなまれて…

平凡な日々に 世界は静かに目を覚ます

ある平凡な日の朝、世界は静かに息を潜めていた。 小鳥のさえずりがいつもより騒がしく感じられた。 少年は窓を開け、深呼吸をした。 爽やかな朝の空気の中に、どこか不穏な香りが混ざっているような気がした。 いつものように朝食を食べ、学校へと向かう。 …

ロマンスの神様

結婚して数年が経ち、日常に追われる日々を送るようになったふたり。 互いの愛情は変わっていないはずなのに、どこか心に距離を感じていた。 そんなある日、2人は偶然、初めてデートをした場所を訪れる。 そこで、過去の自分たちと重ね合わせ、今の自分たち…

靴下の中

地方都市に住むシングルマザーのメメは、 二人の娘を育てるため、夜な夜なスナックで働いていた。 経済的に苦しい状況の中、 メメは娘たちの将来を案じ、心を痛めていた。 「娘たちには苦労をかけさせたくない…」 そんなメメの姿を見ていたのは、近所に住む…