「なぜ若手が会社を辞めるのか?」

pikarrr2006-12-09

「成果主義と年功序列の“ねじれ”」


「なぜ若手が会社を辞めるのか?」が語られています。そしてその理由として、「成果主義と年功序列の“ねじれ”」が上げられています。

近年、日本では年功序列制度が崩壊したと言われていますが、厳密に言うとそれは必ずしも正しくありません。年次管理による結果、平等的な年功序列賃金制度は1990年代に導入された「成果主義的賃金制度」により確かに崩れました。しかし、成果主義賃金制度を導入した企業においても、「昇進昇格制度」は今もなお大半の企業で根強く、年功序列制度に基づいているのです。

年功序列制度のねじれ現象的な変化の結果、賃金は成果主義の名の下に容易に上がらず、昇進昇格は若い限り期待できないという二重の出口のない閉塞感に陥るのでしょう。

若者のその気持ちが分からないではありませんが、年さえとれば給与が上がることを期待するのは、今の時代においては、やはり現実的ではありません。

日本企業は90年代のバブル崩壊後、年功序列の賃金体系を維持することは困難となり、成果主義に切り替えたわけです。従って、今の世界経済の競争状況から考えて、日本企業が再度年功序列賃金制度に戻るということは近未来には起こらないでしょう。


なぜ若手が会社を辞めるのか? 七五三問題 http://www.future-planning.net/x/modules/news/article.php?storyid=1879




成果主義のトリック


なぜこのようなねじれが起こるのかは、成果主義賃金制度の本質が、成果主義ではないからです。たとえば平均月給30万円の企業が成果主義を導入し、成果を上げた人の平均給料を35万円、成果を上げなかった人の平均給料を25万円と差をつけたとして、問題はそれぞれの割合です。成果を上げた人と成果を上げなかった人の割合が半々なら、企業全体の給料の平均は30万円で変わりませんが、多くにおいて成果を上げた人の割合を下げることで、企業全体給与の削減が行われています。

この方法では社員給与を引き下げると言わずに、がんばれば賃金が上がるぞ、という成果主義という口実のもとに、人件費を削減することができます。このように成果主義を目指しているわけではありませんから、昇進昇格制度は変える必要はありません。




既存社員を重視する日本社会


しかしこのような方法は社員を騙すひどい企業だと一概に言えません。このような方法は社員との暗黙の了解として行われているからです。

もはやいままでのような幸せな年功序列賃金制度は難しいことは社員もわかっています。そして会社が潰れても転職はできないし、いまさら本当に成果主義にされても困ります。その中でこのような方法は賃金が下がっても、継続して安定した収入を得られるというぬるま湯にいられる方法なのです。

これはすでに企業に居続けた既存社員に配慮した方法であり、とばっちりを受けるのは新入社員です。ここに日本企業のもつ既存社員を保護するという傾向があります。




子がニートになることで家計は守られる


たとえばこのような傾向は、ニートや、フリータの問題のも繋がると思います。日本企業は既得社員を止めさせるよりも、新たな人を雇用しないことで人件費の削減が行われます。それはすでに社員になっている人の方が仕事ができるという成果主義からでなく、既得社員を守るためです。

そして若者は定職に就かずとも、ニート、フリーターとして生きていけます。それは、親に依存するからです。そして親子という家族単位でいえば、親という既存社員の雇用を確保することで、親を通してニートの子へも金銭が分配される構造があるのです。極論ですが、子がニートになることで、家計は守られるのです。これが不況を乗り切るためにとった日本社会の保守的な構造です。




仕事をしていく上で一番大事なことは「自己確立」


さらに、仕事をしていく上で、一番大事なことは「自己確立」であると続けられます。

仕事をしていく上で一番大事なことは、本人が仕事の実力を付け、仕事を通して自らのIdentityを確立することです。3年であれ5年であれ、その間に如何につまらない、あるいはきつい仕事であっても、本人がどれだけ自己を確立して自ら進んで困難に挑戦し、強い自分を作り上げたかということが大事なのです。そのような自己確立ができていれば、自ら課題を見いだし、解決することが出来るようになります。そして転職せずとも自発的にそのサイクルを繰り返し、更に力をつけていくことができます。

「仕事は自分にとっての本質」ではなく「役者の舞台衣装である」ということを認識させ、一番大事な「自己確立」を目標に自分を磨かせる。そして、その努力を一生続けることのできる人が、充実した人生を送ることができるということを絶えず理解させ続ける必要があるといえます。


なぜ若手が会社を辞めるのか? 七五三問題 http://www.future-planning.net/x/modules/news/article.php?storyid=1879




企業という強いコミュニティ


仕事が自己確立となるのは、回りとの関係性に中で「責任」が生まれるからです。私がやらなければ、回りに迷惑がかかるというストレス、これは裏返せば、私の仕事は回りと強い関係にあるという「やりがい」です。

だから高度成長期を経た人々は多かれ少なかれみなワーカーホーリック(仕事人間)です。日本の終身雇用、年功序列というシステムは、企業を単なる仕事仲間以上の強い絆のコミュニティとしています。社宅などの福祉整備など家庭さえも企業関係によって支えられ、頭の先から足の先まで企業関係です。

たとえば阪神大震災において、安否確認や支援が行われたのは企業コミュニティです。企業というコミュニティへの特化が日本の経済成長を支えてきたのであり、企業コミュニティが重視されることで、転勤など人の流動性は活発化し、、隣に住んでいる人を知らないというような地域コミュニティは解体されています。

すなわち年功序列が支えていたのは、賃金制度以上に企業コミュニティであり、そして企業コミュニティへの帰属によって生まれる自己確立なのです。




「幸福な仕事の時代」の終焉


そしてこのようなコミュニティを支えるもっとも重要なことは、たとえば「プロジェクトX」などで示されているような、開拓すべき荒野(フロンティア)が広がっていることです。ものが不足し、やるべきことに溢れている。やることが他者の役に立っているというやりがいがありました。

現代はものが溢れ、商品そのものの魅力も低下しています。そして企業システムは成熟し、誰かがすでにやっていたことの反復であり、形式化しています。それでも仕事に依存して生きてきた上司は、仕事を手放すことができません。根強く年功序列的な企業コミュニティに、そして仕事に固執し続けます。

しかしもはや若い人にとって企業コミュニティは強い帰属意識をもつほどの魅力はありません。終身雇用的に企業が強いコミュニティとして作動し、帰属し一生懸命働くことで自己確立となりえた幸せな時代、「仕事の時代」は終演しつつあります。




企業コミュニティから知識コミュニティへ


今後も働いて賃金を稼がなければ、生活できませんし、国際競争の中で経済大国は成長し続けなければなりません。だから「仕事」が終わることはありません。そして新入社員が会社を辞めることで、今後、少しずつ企業間の流動性が増加していき、それが日本企業の変化となっていくでしょう。

このような企業コミュニティの解体の中で、一つの方向が、ドラッカーが知識労働者(ナレッジ・ワーカー)と呼ぶものです。ある一企業への帰属に依存することなく、専門性を生かして、他の企業へ移ることもできる。一企業よりも大きな、専門性を基本として知識コミュニティとそれを求めるユーザーとのコミュニティを基盤とする人々です。

ピーター・ドラッカー氏が指摘する「ITより重要なもの」


知識労働力(ナレッジ・ワークフォース)へのシフトが急激に進み、製造業における従来のブルーカラー職は消えることになるでしょう。先進諸国においてブルーカラー職の数は急速に減少しております。ただし日本ではいまだに製造業が大量のブルーカラー労働力を雇用しています。

知的労働者(ナレッジ・ワーカー)は自らの仕事をブルーカラーの仕事とは大きく異なると考えています。日本の標準的なナレッジ・ワーカーは、経営管理者(マネジメント)への昇進を望んでいません。彼らはナレッジ・ワーカーとしてあり続けることを望んでいます。・・・経営職に就けば、今よりずっと良い給与をもらえるにも関わらずです。こうした人たちの登場は大きな変化の一つです。

http://itpro.nikkeibp.co.jp/a/biz/shinzui/shinzui1122/shinzui_06_01.shtml




知識コミュニティとしてのネットコミュニティへ


さらにこのような知識に向かう傾向は、それが仕事であることに限りません。若い人は仕事以下に趣味のコミュニティをもち、そこで自己確立の一部を支えています。そしてそのような趣味のコミュニティはネット上に集約されつつあります。ある意味で、ネットには開拓すべき荒野(フロンティア)が広がっているのです。

ネット上のブログや掲示板などを楽しむ人たちはそこで無償の「労働」によって、コミュニティが形成され、自己確立の一部となっています。企業コミュニティの崩壊後、明らかにネットコミュニティは受け皿になっています。

適度に働き、趣味に「自己確立」を見いだす。これもまた今後の大きな流れになるのではないでしょうか。

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*1:画像元 http://blog.goyah.net/navi/2006-03-day.html