千住宗臣の全く異なる趣のドラムを堪能できる2作品
COMBOPIANO / Combopiano
渡邊琢磨、内橋和久、千住宗臣のトリオ編成となって初のアルバム! 昨年のフジロックでも異常な盛り上がりを見せた話題騒然のパフォーマンスがついに作品となって登場!
【Track List】
1. White Heat / 2. Fucking Die / 3. Halloween Blues / 4. Overdose Santa / 5. 犬と電圧 / 6. Twinkle Twinkle Psychopath (Dedicated to M.Y) / 7. Summer Camp / 8. She's My Problem / 9. GG Top Allin / 10. Go Fuck You Self / 11. I Couldn't Say It to Your Face / 12. Fuck Should I Know
山本精一 / PLAYGROUND
凶器なる奇才=山本精一の約6 年ぶりとなる「歌」世界。 山本精一が今ただ歌いたい唄と出したい音をなんの衒いも無く、純度を保ったまま送り出す。いつもと変わらぬ山本精一の歌世界を本人のギター/ベース、そして千住宗臣(ドラム/パーカッション)が巧みに支える。稀代なるシンガー/アーティスト山本精一の何も隠さぬ歌、優しさの中に潜む麻薬を聴け。紛れもなく羅針盤が指した世界がここにある。
【Track List】
1. Days / 2. 待ち合わせ / 3. Playground / 4. 飛ぶ人(w:PHEW) / 5. 宝石の海 / 6. めざめのバラッド / 7. 日蝕 / 8. 水 / 9. ふたつの木のうた
INTERVIEW
もしも、”今一番気になるドラマー・ランキング”なんてものがあったとしたら、この男がトップ争いをすることは間違いないだろう。過去にはボアダムスに所属、現在は山本精一率いるPARAや、ウリチパン郡のメンバーとして活動しながら、NATSUMENの山本達久と2人でドラムのセッションをしたり、そこに石橋英子を加えて3ドラムのユニットを組むなど、幅広い活動をみせる若手ドラマー千住宗臣。さわやかで好青年といった見た目や、PARAやウリチパン郡などで叩くドラム・スタイルからは想像が出来ないが、メタルやハードコアを好んで聴いてきたという。それは、取材後にCOMBOPIANOのライヴを観た瞬間に納得がいった。激しく、力強く、そしてタイト。それでいて、主張性が強すぎず空間にすっと収まる音がとても印象的だった。彼がベテランのミュージシャンに好まれ、なおかつ同世代のバンドからも引っ張りだこだというのは、その空間を創出できる能力に秘訣があるのだろう。
今回、千住がドラムで参加している2つのバンドの作品が、ほとんど同時期に発表される。1つは、世界的に高い評価を受けているピアニスト渡邊琢磨と鬼才ギタリスト内橋和久をメンバーに擁するCOMBOPIANOの『Combopiano』。もう1つは、PARAでも活動を共にする山本精一が描く歌世界『PLAYGROUND』。一聴すると全く異なるアプローチであるが、千住にとってはごく自然にそれぞれの音空間を創出しているようだ。作品に対するアプローチ方法だけでなく、千住の内面にまで迫った。
インタビュー&文 : 西澤 裕郎
超殺伐とした瞬間が、すごい音に
——以前、山本達久さんとの共演を、”絵画的”なスタイルだったと表現されていましたが、COMBOPIANOのスタイルを表すと、どのような感じなのでしょう?
COMBOPIANOは、絵画的ではないですね。確か、1日で14曲録ったんですよ。だから絵画的とか考えている暇もなくて、超殺伐とした雰囲気だったんです。それに、ほとんどハードコアの曲だから、めちゃくちゃしんどいんですよ。4、5曲目でハアハアなって、その上注文も色々くる。まともに聞いていられないくらいしんどいし。ただ逆に、そのヤバさがすごい音になった。その日録らなかったら次はないっていう状況下でやったのが、いい結果に繋がった。僕もそういうの嫌いじゃないですしね(笑)。
——確かに、すごい疾走感が伝わってきます(笑)。3人とも活動が多忙で、全員が集まることは難しいと思うのですが、曲は個々で練習してスタジオで合わせたんですか?
いやいやいや。曲は3日前くらいに送られてきたんですよ(笑)。それで、スタジオに入って「いっせいのーせ」で合わせた。だから録って聴き直す暇もなく、ただただ録り続けたんです。そこがいいとこでもあるんですけどね。瞬間に音をパックするっていう。
——曲は、渡邊琢磨さんが作ってらっしゃるんですよね?
そう。ややこしい変拍子だらけなんですけど、エンジニアの人が「すごすぎる! 」って感激してたんですよ。僕らは考える余地もなく演奏してたから、第三者の人からそう言ってもらえたことが一番嬉しかったな。
——内橋さんは即興で有名ですが、COMBOPIANOでもやっぱり即興なんですか?
一応、譜面は決まってますよ。でも、そう聞こえないですよね? 一応、譜面は全部決まっているし、ドラム譜もあります。
——その中で、千住さんのプレーの自由度はどれくらいあったんですか?
聴いていると、ピアノと打点がちょっとズレルようにわざと作っていたりとか、16分休符がズレに聴こえてフレキシブルに感じられたりっていうのも計算でやってて… っていうことにしておきます(笑)。
——(笑)。譜面は3日前に送られてきたから、じっくり練る暇もないですもんね。
だから行きの新幹線の中でコピーですよ、ほとんど。
——一方で、山本精一さんの『PLAYGROUND』はどうでしたか?
山本さんのほうが、どちらかと言うと音楽的な感じではありますね。とは言っても、いつもライヴでやっている曲を録っただけなので、普段とあまり変わらない気もしますけど。
——千住さんは、世代的に一回り上の人とやることが多いですよね。
そうですね。高校生の頃から年上の人とばっかりやっていたから、年下と初めてやったのが達久かもしれないですね。貫禄ありすぎて、年下に見えないけど(笑)。最初年上だと思って敬語で話してましたからね。
——(笑)。年下の達久さんとやって、何か違うものを感じたりしました?
普段思ってることとかバック・ボーンとか、シンパシーを感じる部分って年齢関係ないですよ。達久とやっている時も山本さんとやっている時も感覚は全然変わらないですね。
デモを聴いて「何やこれ! ? 」って愕然とした(笑)
——千住さんの音楽体験について訊かせてください。色々な楽器がある中で、なぜドラムを選ばれたんですか?
小5の時に1回転校して、音楽室にたまたまドラム・セットがあったんです。木琴とか色々あるんですけど、ドラム・セットが人気で、音楽の時間にやりたい楽器の後ろに並ぶんですね。僕も並んでたんですけど、1つ前に並んでいた同級生が、生意気にもドラムを習っていたんです。そいつが演奏したら、やっぱりみんな注目して、それでやられたなと思った。その後、僕の番が来て叩いたんですけど、何の知識もないし、めちゃくちゃだったんですよ。それで、そいつが「あ〜あ、やると思った」って言ったから、カチンと来て、そっから毎日放課後残って練習したんです。最初に叩いた感触とかは今でも覚えてますよ。
——ドラムを叩いた爽快感というか感動みたいなものですか?
うん。言葉に出来ない衝撃を受けた感じはありましたね。それでドラムをやろうかなと思った。でも、小6でまた転校したんで、そこから高1まで身近にドラム・セットがなかった。雑誌とかを使ってドラム・セットを組み立てて、家で叩いたりしていましたね。本当にそのころは何の情報もなかった。初めてメタルを聴いたとき、2バスの存在を知らなかったんですよ。だから、そこで1回辞めようと思ったんですね。足1個であんなドカドカやるのは無理だと思って(笑)。
——あははは。バンドを組んだりしなかったんですか?
全然やってませんでしたね。ラジオに合わせて叩いたりしてましたけど。
——特定の曲をコピーしたり叩きたいというよりも、ドラムそのものに興味があったんですね。
そうかもしれないですね。ただ、中1くらいから、メタルとかハードコアに興味を持って聴き始めて、高校の間も好きで聴いていましたよ。だから最近、高校の感覚に戻ってきている部分はありますね。
——それを聞くと腑に落ちるんですけど、COMBOPIANOのハード・コア・パンク色の強さが本当に意外でした。
僕が一番意外でしたよ(笑)。ほんまに。僕も、昔のストリングスが入っているCOMBOPIANOのイメージがあったから、話が来た時、あんなテクニックないしヤバイなと思ったんだけど、デモが送られてきて聴いてみたら、ドカドカドカ鳴ってるから、「何やこれ!? 」って愕然としたんです(笑)。
——あははは。そもそもCOMBOPIANOにはどのように加入することになったんですか?
最初は、PARAと対バンで琢磨さんに会ったんです。その2、3日後に、「一緒にやりたいんですけど」って連絡がきたので、「じゃあお願いします」って言いました。奇を衒わずにできる場として、すごい貴重だなと思っていて、何の思考もなしにただ音をぶつける場があるのはとても大切なことだと思います。
——以前、ドラびでおこと一楽義光さんに取材したとき、「無意識に叩いていても、自分のドラム色が出てしまう」という話を聞いたんですが、千住さんにもどうしても出てしまうリズムってありますか?
僕は高校とかの時、メタルとかハードコアばっかりを聴いていたんですけど、その後ファンクとかグルーヴの世界に行ったんです。さらにその後、NO WAVEとかテクノにガチッとハマった時期があって、そこの引き出しが自分の中で一番あると思います。
——NO WAVEからの変拍子への筋道はわかりますが、テクノの引き出しというのは意外ですね。
技法っていうより、無機質のかっこよさみたいな部分ですね。自分がドラムで出そうとしているのは、極力無駄なものを省いて、聴いている人の意識を変容させていくようなビートとかそういう部分なんです。リズムの観点から見たかっこよさと、聴いてる聴覚上の作用するパターンって別だと思っていて、人間的なすごくあったかいアプローチももちろん好きなんですけど、そういうものをかなぐり捨てて、音だけを観た時のリズム・パターンを求めているんです。僕はそういうのを聴いていた時に、自分の意識が変わっていくような体験をしているので、それが一番出てくると思います。
——高校までハードコアを聴いていたのに、何がきっかけで無機質な音へ意識が向かっていったんでしょう?
それは高校2年生の頃に、JBを聴いたときですね。そこからファンカデリックとかファンクの方を掘るようになって、さらに民族音楽とか現代音楽を聴くようになっていった。無機質っぽい演奏するようになったのはクラブで叩くようになってからかな。
——クラブで叩いていたんですね。それはまたどういうきっかけで?
大学でバンドはやっていなくて、1人で色々と試したりしていたんです。そんな時、楽器屋さんの張り紙で、「ウッド・ベース弾きます」って書いてあるのをみつけた(笑)。そこに書いてある音楽性がめちゃめちゃかっこよくて、例えば現代音楽のミュージシャンとかの名前が書いてあって、「何やこいつ! 」と思ったんで、連絡してみたんです。そしたらめちゃめちゃ気があって、タイム感もすごい似ていた。そいつがクラブとか出入りしていて、夜中のDJイベントで合間にセッションをやらせてもらったりしてたんです。その時に交友関係も出来て、山本さんとも交流が出来たんです。だから、その時受けた音楽的影響ってすごい大きいと思います。
偶発的なものがあって、有機的な部分を活かす
——千住さんは、自分中心のメインのバンドを持つというより、色々なバンドでドラムを叩かれていますよね。
うん、僕はわりとそのタイプですね。バンドをやっていても、例えば他のこともしたい。そこで色々経験したあとでバンドでやると、別の視点が出来て相互作用で全部が生き生きしてくる。だから1個だけで何かをしちゃうと煮詰まるというか、外の風をどのバンドに対しても入れながら、相互作用で良くしていくって方法が僕には合っているんです。
——そういう面で言えば、今回のCOMBOPIANOと山本精一さんでのプレーは、結構色が違うと思います。
僕は全部好きっていう部分もあって、歌のあるポップスも好きだし、ハードコアも機械音楽も好き。だから雑多といえば雑多なんですよ。だから、ロックだけやっていたとしたら、それ以外のこともしたいっていう意識がどうしても出てくるんですよ。例えそれが好きでもね。だからそういう意識がある以上、1個のバンドに絞る ってことは考えられないかな。
——その感覚はすごくよくわかります。僕は千住さんより2歳くらい下なんですけど、僕らの世代って、ジャンルよりも好きな音楽だったら何でも聴いちゃえって聴き方してきた人が多いと思うんです。そういう意味で言えば、ウリチパン郡って僕らの世代にとってのジェネレーション・ミュージックというか、すごくしっくり来る音楽だと思うんです。雑多性がすごく自然に混ざり合った音楽になっている。
タイチ君もすごく音楽が雑多な人ですからね。彼とも趣味がすごく合うんですよ。
——山本さんはもっと雑多な方なんじゃないですか?
山本さんはそういう意味では雑多な人ですね。未だに分からないことが多いですもん。わかったようで、わからない。
——PARAのバンド・コンセプトは本当に面白いですよね。ループやユニゾンなど、制限を敢えて取り入れることで生まれる即興演奏を目指すっていう。
そうですね。でもあそこに行くまで色々やったんですよ。即興から始まって、あのコンセプトも偶発的に出来たというか。山本さんの中にそういうコンセプトはあったんですけど、それが顕在化してきたのは、出しながらというか、1stアルバムに「cube」という曲があって、その曲のフレーズを持ってきた時に、みんながああいうフレーズをあまりに弾いたことがなかったから、ちょっと練習しようってことになったんです。それで、4パターンのフレーズをひとつずつ上から練習することになって、ユニゾンで練習したんですよ。そしたら「何これ? すごくかっこいい」ってことになった。ユニゾンでただ何回も練習するんで、反復する。全員で同じフレーズをユニゾンするってあんまりないじゃないですか。あれだけ楽器がいて、普通組み合わせて考えるじゃないですか。その感じがすごくよくて、そこからユニゾンが1つのテーマになっていった。PARAは、そこから始まったバンドですね。1stアルバムを録ったときは、1回も曲を通せたことのないままスタジオで録ったんですよ。絶対に間違えるっていうか、曲通りいかないままライヴにも臨んだし、あのアルバムで初めて通せて、そこから固まっていきました。
——ある程度余白を残して、セッションやライヴの中で変化しながら固まっていくことが多いんですね。
特にバンドに関しては、そういう部分がありますね。それに作り込み過ぎても面白くないですしね。
——ただ、テクノとかに関して言えば、構築された部分が大きいですよね。
そっちも全然好きですけど、テクノの場合は1人で作り込む人が多いじゃないですか。バンドの場合5人も集まるから、それなりに偶発的なものがあって、その人がその日に考えていることとかは毎回集まる時で違うし、そういう有機的な部分を活かすのがバンドの特徴の1つというか。もちろん、まとまらない時はまとまらないですけどね。でも、それがよさじゃないかなと思いますね。