ネットの音楽オタクが選んだ2014年の日本のアルバム ベスト50→1

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毎回同じことを書いて申し訳ないのですが、このランキングは記録用です。つまり5年後10年後に「2014年の音楽はこうだったのか」ということを残しておくために作っています。順位はその時の結果を示すものにすぎず、作品の優劣を示すものでもありません。それは聴く人それぞれが決めればいいことです。

なぜそんなことをくどくど書いているのかというと、やっぱり怖いからです。自分の大好きなものが貶されるって本当に嫌なこと。だからそういう意味でランキングを作るなんて本当は罪深いことなのです。しかもデータを集計して自分の責任の所在を覆い隠すなんてなおさら卑劣なのは自覚しています。

ですが、それでも新しい音楽と出会うことができる場としての恩恵の方が大きいと思い、この場所を作りました。有志を募り、一部の作品だけどレビューをつけました。あなたが新しい音楽を見つける道具になればうれしいです。(ぴっち)

 

細かいルール、参考、ノミネート一覧はこちら

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50. ゆるめるモ!×箱庭の室内楽『箱めるモ!』

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→「虎よ」

 

49. KIRINJI『11』

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→「進水式」 Apple Music

 

長年ペアでやっていた堀込兄弟だけど、弟の泰行が去ったかわりに5名の新メンバーが加入。高樹兄貴が残った結果変態成分が濃密に。

  • 3曲目「雲呑ガール」《だけど猫ちゃんは絶対食べないんだってさ》
  • 4曲目「fugitive」《刑事さん 私に似てる人ばかりのこの街に私はいない 探さないでね》
  • 5曲目「ONNA DARAKE !」《歌舞伎座のまわりは OBAさまばっかりさ》

など今まで以上にトリッキーで感覚的なリリックが増加。

サウンドの方はバンドという形になったゆえにメンバー各々の演奏にスポットを当てた楽曲が増えた様子。しかし9曲目の「ジャメヴ デジャヴ」イントロだけ聴くと「どこのギャングスタラップだよ」とつっこみたくなるような怪しげなピアノループで構成させている。その多様さは変わらず。また新メンバーによる女性コーラスも高樹兄貴の怪しい楽曲に非常にマッチしている。

怪しい怪しい言っておりますが、1曲目「進水式」、ラストの「心晴れ晴れ」は歌詞からサウンドからひっくるめて純度100%に爽やかでビックリ。「新体制でやっていくんだ」という強い意志がしっかり伝わってきました。

「キリンジ」としての1番の有名曲は泰行氏の「エイリアンズ」ということになるんでしょうが、このアルバムはエイリアンズしかキリンジを知らない層にもしっかりオススメできる最高の盤となっています。やはりこの兄弟は天才だ。

KT(@k_t0921)

 

48. スカート『サイダーの庭』

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→「すみか」

 

彼の歌詞には少しわかりにくいところがある。なんとなく程度に匂わせるというか、あまりに場面転換が急すぎてついていけない。にも関わらず、これが澤部渡のボーカルとバンドの演奏と交わることで、字面だけ追ってもよくわからない言葉に様々なイメージが付与され、そこに説得力が生まれる。多分、このアルバムを聴いている人みんなが頭の中で空想している世界は異なる。しかし逆に言えば、この音楽を聴いた人みんながどこか別の世界に連れて行かれるのだ。それはなんて豊かなことだろうか。解釈がそれぞれに委ねられる世界。「サイダーの庭」とは、現実には形を成していないけど、でもやっぱり何かがあって、でも捉えようとする消えてしまう幻のようなものだと思う。

ぴっち(@pitti2210)

 

47. クリープハイプ『一つになれないなら、せめて二つだけでいよう』

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→「本当」 Apple Music

 

僕はこのバンドを完全に誤解していた。「少しメンヘラっぽい女性に好まれそうなルックスだし、ファンも痛そうだし」と、そもそも彼らの「音楽」には関係のないところで勝手に自分の枠内から追いやってしまっていたのだ。気付けばクリープハイプは随分と人気のあるバンドの位置へと登り詰めていた。それでも僕は相変わらず斜に構えたままバンドと距離を置いていた。

そんなある日なんとなく「百八円の恋」を試聴する。驚く。「ドロドロぐちゃぐちゃ」の感情をそのまま剥き出しで歌っていた。そしてそれと反比例するかのような耳に残るメロディー。間違った感想かもしれないけれど「これ完全に銀杏BOYZじゃん!」と思った。そして少しの期待を胸に膨らませこのアルバムに手を出してみた。さらに驚いた。全てに共通して「曲が良い」バンドなのだ。つまり僕の大好きなバンドだったのだ。それに気付けたことがとても嬉しい。

うめもと(@takkaaaan)

 

46. Homecomings『Somehow,Somewhere』

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→「GREAT ESCAPE」 Apple Music

 

ベッドから出るのがつらいけれどそろそろ起きないといけない時間だ。今日は平日だし仕事なのだ。まだ気持ちよさそうに眠っている彼女の寝顔を尻目に支度を済ます。あと、少し恥ずかしさを感じながらも緑の袋に赤のテープで包まれたプレゼントを置いておく。珍しくメッセージカードも書いてしまった。喜んでくれるといいが冷静に考えるとかなり気持ち悪い。けれど今日くらいはそれでもいいのだ。些細な日常に彩りが加えられたって良いはずである。今日はクリスマスイブなのだ。眠っている彼女に「行ってきます」を告げ、僕は雪の降る道を歩き出した。

うめもと(@takkaaaan)

 

とてもキラキラした音楽。でもそれははじける様なものとは違い、冬の寒い日に、ストーブを炊いて温まり始めた時の安堵感に包まれるような感覚に近い。囁くように歌われる、初々しい歌声と綺麗なコーラスワークには聞き手を安心させ、笑顔にしてくれるような包容力がある。眠れない夜のお供にぜひ。

のすペン(@nosupen)

 

45. キセル『明るい幻』

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→teaser

 

44. GREAT3『愛の関係』

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→「愛の関係」 Apple Music

 

43. ストレイテナー『Behind The Scene』

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→「冬の太陽」 Apple Music

 

やりたいこと、求められているもの、自分たちの経験、シーンの情勢。どこに偏るでもない絶妙なバランス感覚を保ったまま、今までの経験があってこそ成せるこの色艶と余裕。それは1枚通してにじみ出る「これが俺たちの本物の音楽だ」とでも言いたげな、自信に満ちた大人の余裕だ。おうおうそこの坊ちゃんよぅ。ストレイテナー、まだまだいけるんだぜ。

かんぞう(@canzou)

 

42. 吉田ヨウヘイGroup『Smart Citizen』

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→「ブールヴァード」 Apple Music

 

41. 花澤香菜『25』

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→「25 Hours a Day」 Apple Music

 

40. bonobos『HYPER FOLK』

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→「グッドモーニング・マイ・ユニコーン」 Apple Music

 

「生きるとは?」誰もが一度は考えた事があり、宗教、哲学、文学、様々な世界で考えられてきたテーマである。ドイツの詩人ゲーテはこのテーマを一生かけて考え「ファウスト」という戯曲を完成させた。そして、2014年bonobosはこの問いを音楽と言う形で答えた。それがこの『HYPER FOLK』である。

管楽器と弦楽器を取りいれた前作からの流れを周到しつつ、よりシンフォニックに、よりポップに仕上がった本作。楽曲の構成や管楽器等の音の配置、盛り上げるタイミング、そして耳にわからない程度に加速していくテンポ設計など、楽曲ごとに緻密に計算されており、聴くたびに高揚感、多幸感あふれるサウンドが体感できる。特に冒頭の「グッドモーニング・マイ・ユニコーン」から眩いくらいキラキラと光る音の粒が体全体を駆け抜けていき、生きる喜びや明日へ進む活力を私たちに与えてくれる。

思えばbonobosは今まで光を求め、音楽を作り続けてきたバンドであった。「THANK YOU FOR THE MUSIC」では“音楽”に光をみいだし、「GOLD」では“過去”に光を見出してきた。そして本作では“生きる事”に光を見出したのだ。ゲーテは死ぬ直前「もっと光を!」と言葉を残してこの世を去ったが、仮にこの作品をゲーテが聴いていたら安らかに最期を迎えられたかもしれない。

ゴリさん(@toyoki123)

 

39. ROTH BART BARON『ロットバルトバロンの氷河期』

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→「氷河期#2(Monster)」 Apple Music

 

38. ART-SCHOOL『YOU』

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→「革命家は夢を観る」 Apple Music

 

37. 昆虫キッズ『BLUE GHOST』

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→Trailer Apple Music

 

36. TK from 凛として時雨『Fantastic Magic』

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→「Fantastic Magic」

 

35. レキシ『レシキ』

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→「年貢 for you feat. 旗本ひろし、足軽先生」

 

34. 踊ってばかりの国『踊ってばかりの国』

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→「東京」

 

33. UNISON SQUARE GARDEN『Catcher In The Spy』

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→「天国と地獄」

 

ほとばしる情熱と圧倒的な興奮。ひとたびアルバムを聴くと、大勢の聴衆と最高なパフォーマンスを披露する3人のロックバンドの姿が広がる。今回で6枚目となる本作はまさに彼らUNISON SQUARE GARDENのライヴを体現させたようなアルバムである。

冒頭から切れ目なく3曲を立て続けに演奏する所や「サイレンインザスパイ」や「天国と地獄」といった凄まじい勢いと熱量の楽曲の数々。まるで、60分新曲中心ライヴをそのまま真空パックにしてリスナーに届けてくれているかのごとく、聴けば心と体が動き出すそんな体験の連続である。過去作を振り返ると作りこんだポップミュージックも作ってきたバンドではあるが、アグレッシブさやライヴ感の高さは個人的には過去作の中でも『Catcher In The Spy』が図抜けている。

この作品に対してバンドメンバーは「最強だと思ってるこのバンドを、生々しく感じて欲しい/肩肘を張ってるような作品が続くよりも、肩の力を抜いて見せたほうがいい」と言っており、作りこんだ楽曲だけではなくライヴではここまで熱く攻撃的に演奏をするという姿勢を楽曲だけでしか彼らを聴いた事のないリスナーにCDで体験してもらおうと考えたのではないだろうか。ライヴに行ったことのないあなたへ贈る『Catcher In The Spy』という名のライヴ。目を閉じると彼らが演奏する姿。こぶしを振り上げて盛り上がる観客が瞼の裏に広がる、そんな1枚だ。

ゴリさん(@toyoki123)

 

32. 王舟『Wang』

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→「Thailand」 Apple Music

 

「どういう時に聴きたいのか」を書くのが一番このアルバムの魅力をわかりやすく説明できる気がする。休みの日いつもより少し早起きをして散歩に出かけてみる。できれば川沿いを歩いてみてほしい。犬の散歩とかだとさらに良い。途中で川辺に座って朝の澄んだ空気の匂いを吸う。帰ってきたら朝食を作る。なんでも良いけどできればベーコンエッグがおすすめだ。そして出来上がって一緒に温かいコーヒーを飲みながら『Wang』を聴き始める。どうかな、素敵な休日が始まった気がしない?

うめもと(@takkaaaan)

 

31. LOSTAGE『Guitar』

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→「Flowers/路傍の花」 Apple Music

 

30. Especia『GUSTO』

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→「No1 Sweeper」 Apple Music

 

29. ゲスの極み乙女。『魅力がすごいよ』

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→「デジタルモグラ」 Apple Music

 

ゲスの極み乙女。初のフルアルバム。約40分という短い収録時間とは思えないほどの濃さ。自ら『魅力がすごいよ』と名付けてしまうほどの自信作である。

まずこのアルバムの魅力としてあげられるのは、構成が優れていること。勢いや奇抜さといったパブリックイメージとしてのゲスの極み乙女。の世界観を進化させた1~4曲目。インタールード的な役割を果たす、5曲目の「列車クラシックさん」と、ポップかつシンプルな6曲目の「猟奇的なキスを私にして」。この2曲が、濃い目の味付けになった前半の箸休めとして効いてくる。7~10曲目は、各々の技術力の高さを示す楽曲や、複雑な構造のそれが並んでおり、サウンドの面白さを追求している印象を受ける。そして、11曲目の「bye-bye 999」は、ストリングスを導入したこれまでに無いアレンジのバラード曲である。

『魅力がすごいよ』は、サウンド面で随分と幅のある曲の集合体だ。今までの彼らは、フロア対応の四つ打ちに幻想即興曲のフレーズを挟む「キラーボール」や途中にスキャットを挟む「ぶらっくパレード」といった、奇抜で読めない展開の楽曲を前面に打ち出してくることが多かった。しかし、シングル「猟奇的なキスを私にして」以降、ポップさも彼らの1つの武器となった。良く練られた構成は、同一の盤上で既存のイメージを崩さぬまま新たな挑戦を提示するのを可能にした。

もう1点の魅力として挙げたいのは、歌詞が内省的になったこと。以前より後悔や懺悔、弱さ、嘆きといった感情の描写が増えた。これまでのアルバムでもそれぞれ1曲ほど、後悔を歌った楽曲をおさめていたが、冒頭の「ラスカ」から《今日もまた嫌なことばっかり》と歌い、シングル曲の「猟奇的なキスを私にして」では《「私やっぱ一人で生きてくわ」って冗談だろ?》と嘆く。これまでの彼らの歌詞は、冷めた視点で世の中を皮肉ったものが多かった。ゲスの極み乙女。と名付けた屋号に背かぬ世界観を提示するために、あえて作っていた部分もあると思う。

ゲスの極み乙女。は、才能とテクニックを兼ね備えていて、おまけにルックスも良くて、話も面白くて、マルチタレントの揃ったなんだかすごい集団という見方もできる。でも、歌詞の中ではいつだって悩んでいて、時には自分のことばかり考えてしまう、どこにでもいる20代の姿も垣間見える。そういう姿を曝け出す歌詞が増えたことは、以前より聴き手にとってリアリティのある歌を歌う親近感を持ちやすい存在となったのではないかと思う。 多面的な魅力を持つこのアルバムは、人それぞれ異なる嗜好のどこかにひっかかりやすいアルバムだ。

ところで、「ドレスを脱げ」が出たのは2012年末だし、「キラーボール」が出たのは2013年の年末だし、「パラレルスペック」が出たのは、2014年の春だ。驚異的なペースで、心を掴む楽曲をリリースしている。先日開催されたCOUNTDOWN JAPAN 14/15では、16000人収容できるステージに入場規制をかけた。かねてから川谷絵音(Vo/Gt)はこのバンドで東京ドームをやれたら面白いと発言しているが、少し先の彼らならきっと絵空事ではない。

rinko(@b1uesinkingreen)

 

28. the fin.『Days With Uncertainty』

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→「Night Time」

 

27. THE NOVEMBERS『Rhapsody in beauty』

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→「Romancé」 Apple Music

 

26. KOHH『MONOCHROME』

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→「貧乏なんて気にしない」

 

「日本語でラップなんて無理だ」っていまだに言ってる人がいれば、とりあえずこれを聴かせればいい。何か難しい言葉を使ってるわけでもなく、日本語の文法を崩してるわけでもなく、はっきりした発音で日本語でのラップ。もちろんそれもKOHHの革新的な部分ではありますが、特にこのアルバムで注目して欲しいのはそのリリックの中身。

《ラップってのはアメリカの黒人みたいな貧困層がやるもんだ、日本人みたいに恵まれてる奴がやっても値打ちない》そうでしょうか?このアルバムでKOHHが歌う世界は決して恵まれていない。父は他界、母はドラッグ中毒でKOHH自身も母に大麻を吸わされた過去がある。東京の隅田川沿いの団地で暮らす、その団地からは入居者が飛び降り自殺をはかる。「KOHH君は悪い子だから遊んだらダメ」なんて他の子の親に言われる。自分で買えないから遊戯王のカードを友達から盗んで遊ぶ。

日本には日本の貧困がある。悲劇がある。KOHHのリリックはそれをまざまざとリスナーに突きつける。しかしその上で彼が素晴らしいのはそこに"ドヤ"感がないこと。ある種ステータスとも言えなくないその出自を、同情されようとするでもなく、それを己の誇りとするでもなく、ただ淡々とラップする。音楽として吐き出す。確かに完全にこの作品は"暗いアルバム"である。にもかかわらずKOHHのあっぴろげなラップがそれを重苦しいものにせずに、スルッと頭の中に入ってくる。何故か何度もリピートして聴いてしまう。

語り出すと長くなるのでこのアルバムに関しては別の機会に単体でレビューさせていただきたいと思います……。日本語ラップというよりも日本の音楽史に残る革新的な名盤です。

KT(@k_t0921)

 

25. Yogee New Waves『PARAISO』

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→「Hello Ethiopia」 Apple Music

 

24. BUMP OF CHICKEN『RAY』

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→「ray」

 

ぼそぼそと喋っているような平坦なメロディーラインが特徴だったバンプの曲だが、このアルバムはまるで藤原基央が明るい感情のドアをついに解放したような、起伏に富んだメロディーの宝庫になっている。それどころか、アルバム曲がことごとく風通しが良く元気がよいことが、シンプルな印象の強かったシングル曲たちそれぞれのキャラクターを輝かせることに繋がっている。全曲を通しても、これまでのアルバムの中で最も躍動する生命を感じる。生きた人間の姿がそこにあると、感じることができる。

『RAY』には、閉鎖的な世界で孤独を強がる少年はもういない。その代わり、悩みも痛みも忘却も、開き直りとさえ見える明るさも、すべて人生の一部とひっくるめて受け入れた青年がいる。生きてさえいればいつかこんな日が来るのだ。人生は愛しい。

やや(@mewmewl7)

 

23. Gotch『Can't Be Forever Young』

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→「The Long Goodbye」

 

この10年の中で、邦楽におけるロックバンドの最もわかりやすい姿はアジカンであり続けたと思う。アジカンのフロントマン後藤正文はこの1stソロアルバムでその"邦楽ロック"という概念から自らを引き剥がし、後藤正文として自分が求める音像を手にしている。歌われるメロディはアジカンのアンセム級のダイナミズムは無いが、それでも確かに彼の作った歌だと分かる手触りの"節"ばかりだ。その"節"がアジカンのようなシンプルなバンドサウンドでなく、打ち込みのビートやループ中心のギターフレーズであったり、アコースティックギターの音色で装飾されることで全く違う種類の音楽となって放たれている。また、平熱な目線で自らの生活者としての言葉を綴った歌詞も目を引く。後藤正文の表現の引き出しがアジカン10年目にして別の形で更新された奇跡的な一枚だ。

月の人(@ShapeMoon)

 

22. YUKI『FLY』

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→「波乗り500マイル(feat.KAKATO)」 Apple Music

 

このアルバムをじっくり、じっくり堪能してみましょう。そうすると自ずとあなたはYUKIちゃんと一緒に物語の世界で飛ぶ事が可能になります。つまりここでもYUKIちゃん=天使という図式が成立してしまうのです。

うめもと(@takkaaaan)

と、上の人は書いていますが、YUKIちゃんは天使なんてかわいらしいものではありません。だってさ、このアルバムジャケットを見て、YUKIちゃんが天使だと思える要素ある?バイクに寝そべってるんだよ?これ誘ってる?だとしたら堕天使もいいとこじゃん。

そうなのです、YUKIちゃんは基本的に「踊らせたい/踊ってもらいたい」の人ではなく、自分が「踊りたい」側の人なのです。踊りたいというよりも身体が動いてしまうような、衝動に身を任せたような野性味あふれるお方なのです。さすがジュディマリ出身。でもさ、自分さえもノレない音楽で他の人を踊らせるなんてもってのほかじゃない?自分が気持ちよくなることで、見ているこっちも気持ちよくなる。ウィンウィン。いいことだらけ。ただ、オナニーにとどまらず、僕らが楽しむことを喜ぶ一面もあるのがYUKIちゃんの偉大なところです。誰よりも自分で楽しむドMな前半、楽しませることでますます楽しくなるドSな後半。僕はどっちのYUKIちゃんも好きなのです。天使とか堕天使とか、そういう二元論に超越する、それ故にYUKIちゃんは偉大なのであります。

ぴっち(@pitti2210)

 

21. the HIATUS『Keeper Of The Flame』

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→「Thirst」

 

毎回毎回どんな作品を届けてくれるのか、とっても楽しみ。今回は前作以上に、音はすごく豊かだ。でも、the HIATUSでやりたかったのは、本当にこれなのかな?もっといけるんじゃない?まだまだ先を見せておくれ、細美武士。これらも楽しみにしています。

かんぞう(@canzou)

 

20. ミツメ『ささやき』

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→「ささやき」 Apple Music

 

19. Shiggy Jr.『LISTEN TO THE MUSIC』

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→「LISTEN TO THE MUSIC」

 

ポップとキュートさが頭からつま先まで隙間無く詰まってるのは勿論のこと、池田さんの声と原田さんのメロディーの相性の良さはもう完全無欠になってる気さえもするし、彼らの音楽にはいつも「楽しい」がぴったり寄り添ってる。そして彼らの「楽しい」はこっちにも伝染してくる。ワクワクドキドキが止まらなくて困っちゃうよ。

うめもと(@takkaaaan)

 

18. Lamp『ゆめ』

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→「さち子」

 

美しい。歌詞・メロディ・サウンド・コーラス どこをとっても息を飲むほど美しい。一曲目「シンフォニー」のイントロから最終曲「さち子」のアウトロまでずっと恍惚だ。いや、その恍惚はCDをかけるずっと前、CDを手にしジャケットを目にしたとき、もっと言えば『ゆめ』というタイトルを聞いたときからすでに始まってるかもしれない。それほどまでに全てが全て、美しさを演出するために寄与している。

「A都市の秋」の複雑さと洗練され方は何だ。掃いて捨てるほどいるシティポップバンドをまとめて正面から打ちのめすような凄みさえ感じるぞ。しかし、一番は何と言ってもラストの「さち子」。まるで誰もが心象風景として持っているノスタルジックで淡いワンシーンのような曲。このアルバムの終わりを飾るに相応しい、夢心地な気分と消えいるような儚さを味わえる至福の瞬間。

AORもブラジリアンもシティポップも折衷的にとりこんだ、どこか気取った現実感の無さも、ここまで美しさが完璧なら文句ないだろ?

yuki(@yuki_gc)

 

17. Base Ball Bear『二十九歳』

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→「そんなに好きじゃなかった」 Apple Music

 

「『Base Ball Bearイコール青春。』それは、誤った解釈だ。タイアップを多く受けていた時期に、青春性をモチーフにした楽曲を多く制作していたからそのようなイメージをもたれがちだけど、自分たちは進化するバンドで、その時々を反映するバンドだ。」

昨年11/29に行われたツアー『二十九歳』の追加公演のMCで、小出祐介はこのような趣旨の発言をした。彼らと言えば、四つ打ちロックのクラシック「ELECTRIC SUMMER」、CMにタイアップされていた「BREEEEZE GIRL」など、清純で甘酸っぱい爽やかなギターロックの楽曲の印象が未だに強い。本アルバム『二十九歳』はそんな既存のイメージを崩すのにぴったりな作品だ。

まず、音のバリエーションが広がった。ファンク色の強い「アンビバレントダンサー」、RHYMESTERとコラボレートした「THE CUT」、ツービートの「カナリア」、パンクに振り切れた「ERAい人」。リズムの引き出しが増えているし、演奏スキルも格段に上がった。このアルバムで様相を全く変えてしまったのではなく、「ファンファーレがきこえる」や「PERFECT BLUE」のように、今までの彼ららしいフレッシュで速いビートの楽曲もある。また、小出の歌い方のバリエーションも増えた。緩急の付け方が以前より明確になり、声質も以前より色気を帯びた。

なお、歌詞も今の彼らを反映している。比較対象として、年齢を冠したもう1つの作品『十七歳』(2007年リリース)を挙げたい。これは当時二十代前半であった彼らが、青春の代名詞ともいえる17歳を振り返るというテーマで作ったアルバムだ。彼らは、このアルバムの最後に収録された「気づいてほしい」という楽曲で、孤独な自分に気づいてくれる人を信じてSOSを出している。しかし、『二十九歳』のクライマックスに収録された「光蘚」で、必死の思いで出したSOSに反応してくれる存在を否定する。大人になった僕は、あの頃喉から手が出るほど欲しかった救世主は存在しないことを知っているし、時を経ても変わることのできない自分を嫌悪し続けている。 しかし、ただ世知辛い現実を伝えて絶望に突き落とすのではない。続く「魔王」で、憧れの誰かになれなくても、自分と折り合いをつけながら、自分のやり方でしなやかにタフに生きていけることを示している。『二十九歳』は、『十七歳』のもがきつづける甘ったれた僕に1つの答えを出すと同時に、17歳の僕を抱きしめてあげる温もりのあるアルバムだ。

もし、青春時代の目線で様々な曲を作り続けているなら、このようなアルバムは完成しなかったであろう。進化し続けるバンド、Base Ball Bearのこれからに期待したい。

rinko(@b1uesinkingreen)

 

Base Ball Bearを今も「夏」「青春」「爽やかなロキノン系」という言葉で括っている人にこそ聴いてほしい。このアルバムで描かれるのは、日々を生きる中で生まれる「最高潮」と「最底辺」の感情のその「間」。つまり僕たちがほとんどの日々を共に過ごしているフラットな感情だ。誰も歌おうとしなかった、そもそも当たり前すぎて歌いようがなかったこの感情を極めて冷静な視点で切り取り、17曲72分というボリュームを費やし「アルバム」という形で作り上げている。僕たちの日々や人生と照らし合わせることでそこに自分だけにしか見えないこのアルバムの価値が生まれる。『二十九歳』は正真正銘「自分だけのアルバム」になり得る性質を持っているのだ。また、歌詞やサウンドに仕掛けられた様々なオマージュ、音楽以外にも参照点を幅広く持つことで生まれた独自のセンスが存分に味わえるという点においても、アルバムという媒体を最大限に生かした完璧な作品と言える。

月の人(@ShapeMoon)

 

16. 大森靖子『洗脳』

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→「絶対絶望絶好調」 Apple Music

 

大森靖子の作品をまともに聴いたのは今回が初。これまでは彼女の過剰なライブパフォーマンスの噂を聞いていたものの、パフォーマンス重点というイメージを持ってしまい、肝心の音源には興味が湧かなかった。そんな自分が「ノスタルジックJ-POP」のPVに惹かれ、そしてアルバムを聴いた。あらゆる音がゴージャスに詰まった、何でもかんでも飲み込んだ、でもとてもポップなアルバム。でもエネルギーが膨張しすぎてはちきれてしまいそうな繊細さもある。この間隔、前にも感じたことがあるような…思い出した。ミスチルの「Atomic Heart」だ。安直すぎる考えだと言われるかな。自分でもそう思う。ミスチルはその後「深海」で一時的にだがひび割れてしまった。彼女はどうなっていくんだろう。これからどんな音楽を生み出すのか、とても気になる。

のすペン(@nosupen)

 

今、最も心を揺さぶってくるシンガーは間違いなく大森靖子だ。選び取る言葉の鋭さとスピード感、彼女に見えている世界の真実を無理矢理引きずり出してきたような生々しさは唯一無二。緩急自在に迫ってくる歌声も、表層的ではない心の底からの思いを体現している。本作は、そのタイトル通り脳を洗い出したかのように大森靖子自信の思想、とりわけ歌手としての信念が鮮明に刻まれている。曲ごとに様変わりするその歌声も、分かりやすく大森靖子のシンガーとしての強みを提示しているように感じた。その一方で、メジャーというフィールドを無邪気に乗りこなしている多彩なJ-POPアレンジが耳に楽しい。間違いなく異物感はあるが、これはまぎれもなく良質なポップスアルバムだ。

月の人(@ShapeMoon)

 

15. 米津玄師『YANKEE』

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→「アイネクライネ」

 

前作「diorama」はボーカロイドに全く疎かった僕としては、これほどのミュージシャンが畑を超えてこちらにやってきてくれたことに歓喜できる一枚だった。本作は、さらにこの畑を踏み進み、自らの表現をよりリスナーと密なものにする挑戦に満ちている。基盤は前作に引き続き、驚異的な言葉数を中毒性のあるメロディーでつらつらと歌い上げる楽曲だが、「アイネクライネ」や「サンタマリア」といった、歌の力を全開にした優しい楽曲も増えた。歌詞の点でも、架空世界の群像劇だった前作から一気に現実世界へと飛び込んだものが目立つ。心の内の「孤独」や「空虚さ」を引き連れて生きていくという極めて現代的な思いがアルバム全体を貫いている。歌詞に深刻なメッセージを込めるバンドが減った昨今のシーンおいて、これほどまで言葉の意味を読み取りたいと思わせるミュージシャンも非常に稀な存在だろう。放たれるメッセージの点でも、サウンドの情報量の点でも、「YANKEE」は2014年という時代の匂いを閉じ込めた標のようなアルバムだ。

月の人(@ShapeMoon)

 

《私あなたに会えて、本当に嬉しいのに〜》去る2014年。この作品と出会えたことに、本当にありがとう。でも名盤過ぎて、「アイネクライネ」の歌詞のように、この一枚に会えてとっても嬉しいはずのに、なかなか上手く言葉にできない。そのくらい、この作品は良いんだ。力強くとても優しい、大好きな作品になりました。

かんぞう(@canzou)

 

14. tofubeats『First Album』

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→「衣替え feat. BONNIE PINK」 Apple Music

 

アルバムの曲の多さといい(18曲!)詰め込みすぎというかサービス精神が良すぎるというか、リリースまでの展開しかりtofubeatsは自己プロデュース力にかなり秀でた人だと思う。そして「ディスコの神様」「Don't Stop The Music」「朝が来るまで終わることのないダンスを」という名曲と言っても差し支えない曲まで存分に含まれている。(個人的にはここに「衣替え」も入れておきたい)欲を言えば今度は一つの方向に振り切った作品を聴いてみたい、と欲張りを言ってみる。まだまだ底が知れない恐ろしい人だ。

うめもと(@takkaaaan)

 

13. syrup16g『Hurt』

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→「生きているよりマシさ」

 

12. 森は生きている『グッド・ナイト』

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→「煙夜の夢」 Apple Music

 

そもそもインディという単語の語源は"independent"であり、独立性の高いものを示す用語として使われていた。しかし昨今、インディが指し示す音楽は山のように存在し、独立性が高い音楽が希少性を失いというあり意味倒錯した状況が生まれている。そのような中、僕はインディと呼ばれる音楽は「わりとルーツに忠実で」「メジャーなシーンとは一線を画し」「新しいことを追求している」音楽だと思っている。

しかし森は生きているの2ndアルバムは、前作におけるはっぴぃえんど的な日本語ロック、それからFleet Foxes、Bon IverといったUSインディー・フォーク的なカテゴライズを叩き潰すような迫力感がある。安易に生産し続けられているインディと呼ばれる音楽たちと歩調を合わせることを一切考えず、自分たちがどこへ行くのかさえもあやふやなまま、それでも力強く次の一歩を踏み出す。その結果、形容することさえままならない境地に辿り着いた。形骸化しつつあるインディを殺しうる、強烈な一枚だ。

ぴっち(@pitti2210)

 

11. 赤い公園『猛烈リトミック』

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→「NOW ON AIR」 Apple Music

 

一曲目「NOW ON AIR」はイントロからして、名曲が始まる予感しかしなかった。そして実際、どんな邪魔も受け付けないような、ただただ音楽への愛をしたためた特大級のアンセムだった。「猛烈リトミック」はジャンルも何もかもが無法地帯とも言えるほどにとっ散らかっているが、それを何とかアルバムとして一つに束ねているのは赤い公園が音楽に抱いている深い愛だろう。津野米咲という非凡なソングライターは、体調を崩し休養していた頃ですら音楽だけは作り続けていたという。その音楽への執着心が、バンド全体、そしてタッグを組んだプロデューサーへまでも伝播していき、産み落とされた強靭な12曲。これからのバンドの動向も気になるような、未知への期待が膨らむ一枚だ。

月の人(@ShapeMoon)

 

津野米咲の「音楽だいすき!」が爆発した一作。それを支える一番の影の功労者はボーカルの佐藤千明だと僕は思っている。過去とは比較にならないくらい一曲ごとの声の振り幅が広い。なんなら一曲の中だけでも彼女の声は自由自在に色んな世界を見せてくれている。「可愛いらしさ・女性らしさ・おどろおどろしさ」本当に目まぐるしくコロコロ歌声が変わっていく。素晴らしい表現の歌い手に素晴らしい曲を書くソングライター。バックを支える布陣。もしかすると近い将来、いやもう既に赤い公園は無敵のポップメイカーなバンドになりつつあるのかもしれない。

うめもと(@takkaaaan)

 

10. パスピエ『幕の内ISM』

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→「YES/NO」 Apple Music

 

前作『演出家出演』はフェス全盛のロックシーンを乗りこなすための「キャッチーで踊れる」を合言葉にしたような様相を呈していたが、本作ではその音楽を向ける対象も、音楽そのもののカラーも大幅に拡張されている。バンドの首謀者・成田ハネダによる現行のシーンへの批評性と多彩な音楽知識からもたらされるアイデアがついに全方位に大爆発しているのだ。ミュージカルのような編曲にワクワクさせられる「YES/NO」を皮切りに、青春を真っ直ぐに活写した瑞々しいギターロック「七色の少年」、ダンスロックと日本的節回しを配合した「MATATABISTEP」「とおりゃんせ」、「演出家出演」までのパスピエ像を更新する「アジアン」など、癖は強いが絶対的なポップなナンバーが揃っている。そして、静謐なサウンドに切迫したメッセージを込めた「わすれもの」と、漂うような荘厳さを持った「瞑想」という大団円ではないエンディングを用意しているのもおもしろい。このバンドのこれからを信頼できる一枚。

月の人(@ShapeMoon)

 

9. 蓮沼執太フィル『時が奏でる』

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→「ZERO CONCERTO」

 

蓮沼執太率いる総勢15名のフィルハーモニックオーケストラ。どこかとっつきづらそうな印象を受けるが、なかなかどうしてこれがポップだ。木下美紗都と蓮沼執太の男女ヴォーカル、そして環ROYのラップのアクセントとしての見事さがあるのはもちろんだが、音が鳴っているだけで不思議なポップさがある。

たくさんの音が有機的に絡まりあって広大さを見せる気持ちよさ。その音の広がりは自然と湧き上がるかのようなたわやかさ、豊かさを讃えている。これだけポップで自然な壮大さにはなかなか出会えない。

yuki(@yuki_gc)

 

8. BABYMETAL『BABYMETAL』

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→「ギミチョコ!!」

 

「完成度の高いものの中に、生身の女の子のほつれって言うかさ、そういうのがあるからそれがすごくいいわけでしょ。僕はそこに一番美しいものをみいだすんですよ。」

これは以前、ライムスター宇多丸氏と小西康晴氏の対談*1の中でアイドルソングの良さについて話をする小西氏の発言である。いつの世もアイドルソングと言うのは「いかに歌を上手く見せるか」のではなく「いかに可愛く見せるか」と言う事を軸に作られてきたように感じる。そして、2014年に発明と言うべきアルバムが出た。それがBABYMETALの『BABYMETAL』である。

かわいく見せる方法とは例えば「間奏にアイドルが語りを入れる」「あえて声の修正を行わない事」など様々あるが2010年までにはほぼやり尽くされたと思われていた。また、2010年に入り様々なアイドルが誕生したこともあり、様々な音楽ジャンルの、そしてクオリティの高いアイドルソングが次々と現れた。さて、そのような状況で、アイドルソングが唯一無二の個性を持ち、可愛らしさを最大限に発揮するにはどうすればいいのか。BABYMETALはその解決策を可愛らしさの隙間が入らない音楽、すなわち今までアイドルソングとは一番縁遠かったヘビーメタルやハードロックのなかに生身の女の子のほつれを取り込む事に見出したのだ。この方法は以前、ももいろクローバーでもやっていた事ではあるが、ここまで徹底してやったのはBABYMETALが初ではないだろうか。

重厚なサウンドに荒々しい男の声やデスヴォイスでなく、まだ大人になりきれていない少女の声がのる。そして、このほつれを最大限に生かすために “Vocal” と“Scream”、つまりは“歌”と“可愛さ”の担当を分ける事により、ほつれだけでなく歌としても高いクオリティを実現させた。レッドツェッペリンやメタリカを思い起こすサウンドにSU-METALがエモーショナルに歌い、MOAMETALとYUIMETALが無邪気な声で囃したてる。完成された楽曲の中で見せるほつれの魅力。それが最大限に詰まったアルバムこそ『BABYMETAL』ではないだろうか。

ゴリさん(@toyoki123)

 

7. OGRE YOU ASSHOLE『ペーパークラフト』

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→「ムダがないって素晴らしい」 Apple Music

 

紙の街、紙の家、紙の人。確かにそれらはぺらぺらで、虚構で、厚みというものを感じるにはほど遠いかも知れない。それでもなお、豊かな質感のものを手に取り、絶妙な配置を練り上げるのならば見事な世界が浮かび上がるのだということを忘れてはならない。ミニマルメロウという合い言葉は引き算を思わせるかもしれないが、今作はヴィンテージ機材に触れながら組み上げていく足し算で作られたという。薄明のごとく差し込むサウンドは、正に紙一重のバランスの上で成立しており、サイケの高揚感が満ち満ちて行く感覚を通し、あたかも虹のドームに備え付けられた階を一歩一歩上っているようなイメージさえ斜影する。

KV(@FUTURESODAPOP)

 

6. シャムキャッツ『AFTER HOURS』

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→「AFTER HOURS」 Apple Music

 

荒々しい不安定なグルーヴで一人称的な楽曲を鳴らしてきた彼らが、神の視点で綴る爽やかな10の日常風景。あの日以来普通では無くなってしまった当たり前の生活や普通すぎる幸せを優しくしっかりとおさめるように描いている。

そしてそんな日常風景の描写の中にあくまでさりげなく潜ませたメッセージ。流れていく時間の中で終わって行くもの変わって行くこと、それでも自分たちの生活を続けて行くこと。それは僕たちが今一番大切にしなければならないことかもしれない。

夏目知幸はインタビューでこのように答えている。「MODELSみたいな団地に住んでる少年少女の恋の歌を歌うだけでも勝手に社会性が出るから、わざわざ入れようとしない。それくらいの濃さでいいかなっていう」。意味を放棄することはせず、かといって決して観念的にはならない。これこそ僕が求めていたバランスだ。メッセージがどうこう言ってきたが、結局どこをメッセージと取るかは受け手次第。見ようによっては、その全てがメッセージ。それぞれが生きる日常の風景には沢山のメッセージが詰まっている。「目にうつる全てのことはメッセージ」このアルバムを聴くと、ふとそんな言葉が思い浮かぶ。

そんな彼らの日常的描写が、程よい広がりを持つサウンドととんでもないグッドメロディに絡まると、それはもう単純に耳触りがよく普遍的だ。シャムキャッツにはライト層とマニア層との橋渡しにもなれるような希望を感じる。長年スピッツやくるりがやってきたような、そんな存在に彼らはなれるはず。

とにかく僕は2014年の春に、10の短編集の中に住む愛すべき主人公たちと、彼らに慈しむような目線を送る優しげな佇まいのバンドに出会えて幸せだった。春一番が吹いた日にこのアルバムが発売されるという素敵すぎる出来事を僕は忘れないだろう。

yuki(@yuki_gc)

 

5. 坂本慎太郎『ナマで踊ろう』

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→「スーパーカルト誕生 (Birth of The Super Cult) 」

 

実はものすごく不気味で悪趣味なアルバムなのね。「何をいまさら」と言われそうだけど、歌詞の意味を追わず、映像もジャケットも見ず、純粋に音楽だけを聴いたら穏やかなアルバムだと錯覚するのではないか。僕はこのアルバムを買った時、土手で散歩するのに最適なアルバムだと思った。ところがかもめ児童合唱団と共演した「あなたもロボットになれる」の別テイクを聴いた瞬間、露骨なまでのカルトへの違和感が爆発し、このアルバムさえ聴くのが怖くなってしまった。子供の声が訴えかける力がすごいとも言えるんだけど、それ以上に現実感がなさすぎる坂本慎太郎の歌声も凄い。上質な音楽があればカルト支配下の社会でも気持ちよく過ごせるんじゃない?そう思っていた矢先の「そんなわけないよ」的な別解答。大好きなアルバムなのに怖すぎて聴けないよ。

ぴっち(@pitti2210)

 

4. 椎名林檎『日出処』

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→「ありきたりな女」

 

一寸先は闇状態の日本の現状に一筋とは言わず何筋も光を当てまくったのが『日出処』というアルバムだ。このアルバムから感じるありあまる「生」へのエネルギー、「なにかやらかしてみたい」と思ってしまう大人になり切れない私たちを高らかに椎名林檎は背中を蹴っ飛ばして応援してくれている。さあやるなら今しかない。

うめもと(@takkaaaan)

 

3. 銀杏BOYZ『光のなかに立っていてね』

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→「ぽあだむ」

 

ロックは生きていたと思った。戦うべき相手を見失い、フォーマットさえ使い古され、ただフェスで盛り上がるための装置と化していたロックに再び命を吹き込んだ作品だ。僕らはなぜロックを聴いて身体を動かしたくなるのか。それはその音楽に込められた魂に心を動かされていてもたってもいられなくなるからだ。決してリズムに操られているからではない。峯田和伸が叫ぶのは、目の前の人たちを踊らせたいからではなく、叫ばなければいけないから叫び、それに僕らが呼応するのである。『DOOR』『君と僕の第三次世界大戦的恋愛革命』から9年経過しながら、それとまったく同じことをはるかに高い次元で実現させ、それと引き換えにバンドはぶっ壊れた。ただその結果完成したアルバムは、少々大げさだけど、これから10年20年にわたって僕ら人類の未来を照らし続けるはずだ。彼らの犠牲と引き換えに、僕らは光の中に立っていられるのだと思う。

ぴっち(@pitti2210)

 

2. きのこ帝国『フェイクワールドワンダーランド』

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→「東京」

 

リードトラック「東京」で多くの人が予感した通り、このアルバムできのこ帝国は大きな変化を遂げた。以前の情念たっぷりな様相から一転、あくまで今までのきのこ帝国と比べてだが、驚くくらい曲がキャッチーだ。薄暗い闇の中にぼんやり光が差し込んだような印象。

それでもそこに変わらずある、喪失感。しかしこのアルバムにあるのは喪失感やそれに伴う焦燥だけではない。既に儚くも失われた世界、これから失われていくであろう世界を優しく抱きしめるように愛おしむ気持ちがある。そしてたとえそれがすぐに失われようとも、一瞬の世界の美しさに騙されて生きていくことを歌う。これはポップミュージックの本質だと思う。

yuki(@yuki_gc)

 

冒頭からの「東京」「クロノスタシス」と、名曲連打から始まるアルバム。他にも「you outside my window」、ギターノイズがかかりながらもメロディーはポップで重すぎず聴きやすい。また、表題曲はアコギ、ハーモニカ、リズムのみのシンプルな構成で聴かせる優しい響きの曲もあり、聴いていて口ずさんでしまいたくなるようなグッドメロディーの詰まったアルバム。これらの曲が、いつか野外フェスの一番大きいステージで演奏されてシンガロングする光景を見てみたい。

のすペン(@nosupen)

 

1. くるり『THE PIER』

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→「There is(always light) 」

 

批判的な意味として捉えてほしくないけど、僕はこのアルバムはくるりが本格的にセルアウトしたアルバムだと思っている。セルアウトとは「売り上げのために魂を売る」といった意味で使われることが多いけど、まさに今のくるりは売れることにこだわっている。そう見えるのは前作『坩堝の電圧』から、くるりは過去のアルバムで用いたジャンルを復活させているから。前作以降、くるりはフォーク、クラシック、UKロック、テクノといった明解な切り口を用いていない。今作に置いてその傾向はますます強まり、『THE WORLD IS MINE』期を思わせる打ち込み、『ワルツを踊れ』を思わせるクラシックっぽさが違和感なくくるりという土台の上で溶け込んでいる。

つまり今のくるりは、過去の自分達のいいとこ取りをしているんだけど、それが焼き直しで終わっていないことが凄いのだ。世間に対して最も魅力を持つくるりの泣きのメロディを持つ「Remember Me」、そしてクリスマスソングである「最後のメリークリスマス」が入れながら「売る気がない」という言い訳は通用しないし、岸田繁だってそんなことを言う気は毛頭ないはず。世間に対して自信を持って自分たちの歌を提示しながら、同時に重度のファンを納得させるだけの奥深さを両立している。そういう次元にくるりは立った。

ぴっち(@pitti2210)

 

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ネットの音楽オタクが選んだ2014年の日本のアルバム ベスト50→1

1. くるり『THE PIER』
2. きのこ帝国『フェイクワールドワンダーランド』
3. 銀杏BOYZ『光のなかに立っていてね』
4. 椎名林檎『日出処』
5. 坂本慎太郎『ナマで踊ろう』
6. シャムキャッツ『AFTER HOURS』
7. OGRE YOU ASSHOLE『ペーパークラフト』
8. BABYMETAL『BABYMETAL』
9. 蓮沼執太フィル『時が奏でる』
10. パスピエ『幕の内ISM』
11. 赤い公園『猛烈リトミック』
12. 森は生きている『グッド・ナイト』
13. syrup16g『Hurt』
14. tofubeats『First Album』
15. 米津玄師『YANKEE』
16. 大森靖子『洗脳』
17. Base Ball Bear『二十九歳』
18. Lamp『ゆめ』
19. Shiggy Jr.『LISTEN TO THE MUSIC』
20. ミツメ『ささやき』
21. the HIATUS『Keeper Of The Flame』
22. YUKI『FLY』
23. Gotch『Can't Be Forever Young』
24. BUMP OF CHICKEN『RAY』
25. Yogee New Waves『PARAISO』
26. KOHH『MONOCHROME』
27. THE NOVEMBERS『Rhapsody in beauty』
28. the fin.『Days With Uncertainty』
29. ゲスの極み乙女。『魅力がすごいよ』
30. Especia『GUSTO』
31. LOSTAGE『Guitar』
32. 王舟『Wang』
33. UNISON SQUARE GARDEN『Catcher In The Spy』
34. 踊ってばかりの国『踊ってばかりの国』
35. レキシ『レシキ』
36. TK from 凛として時雨『Fantastic Magic』
37. 昆虫キッズ『BLUE GHOST』
38. ART-SCHOOL『YOU』
39. ROTH BART BARON『ロットバルトバロンの氷河期』
40. bonobos『HYPER FOLK』
41. 花澤香菜『25』
42. 吉田ヨウヘイGroup『Smart Citizen』
43. ストレイテナー『Behind The Scene』
44. GREAT3『愛の関係』
45. キセル『明るい幻』
46. Homecomings『Somehow,Somewhere』
47. クリープハイプ『一つになれないなら、せめて二つだけでいよう』
48. スカート『サイダーの庭』
49. KIRINJI『11』
50. ゆるめるモ!×箱庭の室内楽『箱めるモ!』

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視聴にはこちらがお薦め(iTunes Storeにある作品のみ)

iLis

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今までの「ネットの音楽オタクが選んだベスト」一覧

2014年 国内 150→101 100→51 50→1

2013年 国内(別ブログ) 150→101 100→51 50→1

2012年 国内(別ブログ) 200→151 150→101 100→51 50→1

2011年 国内(別ブログ) 200→151 150→101 100→51 50→1

2010年 国内(別ブログ) 200→151 150→101 100→51 50→1

2010年代上半期 ベストトラック 国内 150→101 100→51 50→1

2010年代上半期 ベストトラック 海外 100→51 50→1

*1:ライムスター宇多丸の「マブ論 CLASSICS」 アイドルソング時評 2000~2008