P.E.S.

政治、経済、そしてScience Fiction

プレッパーズ、あるいは災厄(の妄想)に備える人々

アメリカ時間で12月14日の午前にコネチカット州ニュータウンのサンディ・フック小学校で起こった銃乱射による虐殺事件では、20人の小学生と6名の職員が殺され、最後に犯人のアダム・ランザが自殺して終わりました。よく知られているようにこのアダム・ランザの最初の犠牲者は、小学校関係者ではなく、彼自身の母親ナンシー・ランザであり、またそもそもこの事件で使われた銃も母親ナンシーのものだったことは日本でも伝えられています。ただ、そのナンシーが銃を、それも拳銃どころではなくアサルトライフルまで持っていたのは、彼女がプレッパー(prepper)と呼ばれるサバイバリストの集団のに属していたからだということはあまり報道されていないようです。
サバイバリストというのは、核戦争なり経済体制の瓦解などで現代の文明が崩壊した後の「無法の荒野で生き抜いてヒャッハー!とか叫びたい人」のことです。勿論、北斗の拳バイアスかかりまくってる説明ですが。ただ一つ、北斗の拳が適切でないのが、サバイバリストは、少なくともアメリカのそれは、銃を溜め込む人たちだということです。勿論、他に食料や医薬品等もため込んでおくわけですが。プレッパーはそのサバイバリストについての新しい分派、あるいは名称のようです(詳しいことはよく分かりません)。ですがアメリカではこのプレッパーズについてのリアリティショーまで放送されるほどの規模になっているようです。
で、そのプレッパーについての記事がアメリカの政治ブログTalking Point Memoにアップされてましたので、訳してみました。
 
 
サンディー・フック乱射事件によってプレッパーズにスポットライトが by ベンジー・サーリン 2012年12月21日

ネバダ州リノのジェリー・ヤングは一年中、真っ白なサンタ髭をつけながら、150以上の大惨事シナリオに備えた緊急時プランを準備している。その完全なリストは印刷するには長すぎるほどだ。リストのAの項には以下のものがある:新しい救世主 (A New Messaiah)、新しいペルシャ帝国(A new Persian Empire)、中毒的なエンターティンメント(Addictive Entertainment)、先端技術による大惨事(Advanced Technology disaster)、飛行機の墜落(Airplane crash)、無政府状態(Anarchy)、抗生物質耐性菌(Antibiotic resistant bacteria)、ハルマゲドン(Armageddon)、自動車事故(Automotive accident)、なだれ(Avalanche)、アズテカ・レコンキスタ蜂起(Aztlan/Reconquista Uprising)。
ヤングはプレッパー、実現しないことを願いながら黙示録的な災厄へ備えて物資を溜め込むサバイバリストの一種だ。もし災厄が起きた時には、彼には準備ができている。そして彼は一人ではない。しかし全米の多くのプレッパー達同様、このところヤングはコネチカット州ニュータウンの小学校での先週の虐殺とその運動には間接的なつながりがあるというニュースによって悩まされている。
銃撃したアダム・ランザや、彼による最初の犠牲者で、サンディ・フック小学校での銃撃に使われた銃の所有者であった彼の母親のナンシー・ランザについては大して知られていない。しかしナンシー・ランザがプレッパーであったという報道は、ポピュラーカルチャーの中に急速に入り込みつつあった、この生まれたばかりの運動への関心を高めることとなった。
ナンシー・ランザのサバイバリスト文化への関心について最初に語ったのは彼女の姉妹であるマーシャ・ランザだった。
「最後に彼女の家を訪れた時、備えておくことについて話し合ったわ。経済が崩壊した時に起こることについて、あなた、備えてるって」と、マーシャ・ランザは地元のリポーターに語った。The Daily Mailによると、マーシャ・ランザは「サバイバリスト哲学」が彼女の姉妹の家に非常に多くの銃があったことの理由だと述べたという。
国中のサバイバリストについてのドキュメンタリーである「ドゥームズディ・プレッパー」というナショナルジオグラフィックのテレビ番組の人気によって、プレッパーのコミュニティへの関心が増してきている。しかしこれはかなり曖昧なラベルであって、統一のとれたグループも哲学もあるわけではない。
大まかに言って、「プレッパー」はあり得る最悪すべてについて備えようとしている人達を指した、なんでも受け入れる言葉だ。支持者は大量の食糧、水、そして緊急物資、それから対人兵器をため込むことを提唱している。すべては大激動を生き延びるという目的のためだ。
どういう大激動に彼らは備えているのか?実のところそれはどうでもいい。プレッパーの世界で最も使われるスラングは"SHTF"で、これは「面倒が起った時 when shit hits the fan」を短くしたものだ。そしてこれはどんな事でも意味しうる:暴動、気候変動、石油価格高騰、人口爆発。特定の何かがないという事が、プレッパーを他のサバイバリストのグループと区別させている。その他のグループは特定の宗教や、極右の愛国運動のような何かの政治的イデオロギーに動機づけられている。すべてのプレッパーには何らかの好みの恐怖があるが、しかしもっとも重要なことは、何かがあるという事だったりする。
「趣味なんかのようなライフスタイルなんだよ」とヤングは今週、TPMとのインタビューの中で語った。「みんな自分たちの面倒を見ようとしている。たいていの場合、ほかの人たちも同じことをしろとは思わずにね」
ヤングにとって、お好みのSHTFシナリオは核攻撃だ。彼は最初、子供時代に彼と彼の父がキューバのミサイル危機を乗り切るために、嵐よけのシェルターへ食糧と水を蓄えた時に極限状態でのサバイバルに興味を持つようになった。それ以来、彼は興味の対象の危機を広げて限定的な事故(沈没)から人類滅亡レベルのものまで(全世界規模の疫病)、すべての危険を含めるようになってきた。趣をそえるため、架空の脅威へのプランも備えるようになってきている。いつでも人気のあるゾンビの大発生や、吸血鬼の襲撃などだ。
ヤングのウェッブサイトは、TEPTWAWKI(「今の世界の終り the end of the world as we know it」)と呼ばれるものを乗り越えようとする新しいプレッパーをアドバイスし、サポートするための何十ものブログ、ポッドキャスト、そしてフォーラムの一つだ。そして、テレビのウォーキングデッドからビデオゲームのフォールアウトシリーズ*1といった黙示録的フィクションによって、カルチャーの状況はこの運動が勢いを増す絶好の時期だった。アイダホのサバイバリストによって始められたフォーラムであるThe American Preppers Networkは、セクションひとつを丸々、メディアやドキュメンタリーについての質問を扱うのに充てている。メンバーたちはこれを興味と疑い半々で受けいれている。
ニュータウン乱射の後、オンライン上のプレッパー・フォーラムは、国全体と同様、銃とメンタルヘルスについていくらかの後悔を経ることになった。メンバーは全般的に保守的で銃支持の傾向があるが、あるスレッドの一部のユーザーは彼らの近所の経験不足の銃オーナーが、新たなアサルトウェポンへの規制を予想して強力なAR-15を購入したことへの不安を表明している。また一部は、誤射や、コネティカット州でのケースのように錯乱した親族によって盗まれる事を避けるためのセーフティートレーニングの強制とランセンシングが必要だと述べていた。
「車を合法的に運転するのにはトレーニングとテストが必要となっている」と、あるユーザーは書いていた。「それに保険なしには車を登録することもできない」。
しかしメンバー達はまた、ニュータウンの乱射が彼らの運動にネガティブイメージを与えるのではないか、プレッパーを銃の溜め込みや暴力と結びつけるのではないかという事を心配してもいる。フォーラムでは、どういった武器が黙示録的災厄が起こった後の食物連鎖において、彼らを確実に頂上につかせてくれるのかについての議論に多大な時間がされている。しかし熱烈な支持者たちはTPMに、それは広いプレッパーのプラットフォームのなかの多くの項目の一つにすぎないと不満を述べた。
「メディアはこれを取り上げて、売れる限りはネタにするんだろう」と、ルイジアナのあるユーザーがニュータウンについてのスレッドの一つに書いていた。ランザの集めた銃は特にそれほど多いようには思えないと付け加えながら。それでも、彼はプレッパーがその仲間のなかの「ランボーのマネ」をするような「バカ連中」に注意しておく必要があると警告している。個人的にもこういった例を見たことがあるというのだ。
あるユーザーはナンシー・ランザの豊富な食料貯蔵についての記事のなかの「溜め込み hoarding」という言葉にたじろいだそうだ。リアリティショーの対象となっているグループとして、”Hoarders”とそのフリークショー的取扱いとつなげられてしまう事にはセンシティブになっている。
たとえば、コミュニティの中で現在進行している議論は、「ドゥームズデイ・プレッパー」の成功がプレッパーの文化を称えることから来ているのか、それともバカにすることからなのかについてだ。このショーは毎週、一家族にフォーカスして、彼らが自分たちの備えているシナリオについて解説し、そしてその危機を乗り越える為に集めた道具、技術、戦術のフェティッシュな集積を公表していく。
ある時は、この選ばれた対象は危険のないエキセントリックな人だったりする。たとえば、古いミサイルサイロの中に住んでいるヒッピーのような。あるいはもっとマズい人が出たりもする。たとえば、オンエア中に屁をしながら、自分の子供に動く標的の撃ち方の訓練をさせる陽気な父親のような。さらに時には話はより暗くなる。とある、今となっては寒気のするエピソードでは、世界的な大恐慌に備えて銃や、ナイフ、そして釘をさしたバットをため込むことに執着する真黒な服装の10代少年をなんとか明るくさせようとその母親が苦闘するのだ。このショーの「エキスパート」が少年のサバイバルの準備に100点中50点をつけた後、落ち込んだ少年はさらなる努力を誓うのだった。
TPMに話をしてくれたプレッパー達は、彼らは大抵、普通の人間で、プレッパーではない家族と一緒に住んでいたり、普通の仕事をしていると主張した。「ドゥームズデイ・プレッパーズ」は特異な例にフォーカスしている、平均的なプレッパーよりもずっと手の込んだ防衛策を作ることができるだけの資産をもった家族をよく紹介していると文句をいった。現実には、普通よりほんの少し災害への準備を整えただけの通常の家の方が多いのに。
「家に消火器を置いてるなら、寒い日の外出にいつもよりも暖かいコートを着てスノーブーツを履いていくなら、それとも冷蔵庫の中に予備の水のボトルが入れているなら、あなたは何かに備えてるってことなんですよ!」メンフィスのプレッパーがTPMへのプライベートフォーラムメッセージに書いてよこした。「あなたもプレッパーと呼ばれてもいいということです」
プレッパー達はまた彼らが、サバイバリストのよくあるステレオタイプのような、孤立した孤独な人間ではないということを強調する。彼らのやっていることはコミュニティにとってもネットでプラスになっていると考えていると述べる。結局、たとえ世界の終りが来なかったとして、火事なり洪水なりの後に助けとなる医療スキルを持ち、物資を備えた隣人を持ちたいと思わないですか?と。
「もしドゥームズデイ・プレッパーズからしか知らないのなら、プレッピングについてのゆがんだ見方しか持てないですよ」と、Tybeという仮名を使い、ヴァージニア州で看護師の教育係として働くフォーラムの常連が、フォーラムメッセージを通してTPMに語った。「我々のほとんどはあまり金もありませんし、マヤ歴の話なんてデタラメだと思ってますよ。それに我々は、誰も彼もと同じように、未来がどうなるか推測しかできません。でも私にとって、あともう一つ余分の豆の缶、種の袋、水1ガロンが安心感と落ち着きと、そして幸せをもたらしてくれるんです」
何度も出てくるのが、この落ち着かせてくれるという感覚だ。あるスレッドでは、ユーザーたちが彼らの考え方を友人や親族へ狂ってるように聞こえることなく説明するにはどうするのが一番かを議論していた。何人かはハリケーン・カトリーナや大型台風サンディのような自然災害を持ち出すことを提案していた。電気も食料も、そして水もない状態に、時にはかなり長い間、捕らわれてしまう状況を。ほかには、疑いの目で見てくる者たちの心をヨーロッパやアフリカなどの急激なハイパーインフレーションや恐慌などの件で勝ち取ることなどが勧められていた。
しかし、ジョージア州アプソン郡からのユーザーは、ほんとうのところ、彼のプレッピングには合理的な理由なんかないと告白していた。彼は経済の混乱や、酷い嵐に対して備えているわけではなかった。彼は社会がこれから崩壊するのだと考えていた。この信念を正当化するような歴史上の前例などないことは彼も認めているのにも関わらず。
「俺にとって、それは本能的なもの、今起こっている事が最高潮に達した状態、そして家族を守る俺の責任を確実に果たしたいという願望なんだ」と、彼は書いている。「われわれの文化の大きな転換が差し迫ってきてるのじゃないかと恐れている。そしてそれが俺がプレップに入れ込む最大の動機なんだ」

*1:この後、原文では”, doing gangbuster business,”と続くのですが、全然意味が分からないので飛ばします。