グーグルはニュースを救えるか? by ジェームズ・ファロウ
アトランティック誌6月号にジェームズ・ファロウ氏による、グーグルがニュース業界を救おうとしている、という記事が載っていました。結構面白いかと思い、訳してみましたのでご覧ください。でも、はてブでよく書かれるのであらかじめ言っておきますが、長いっすよ。それから後、訳してて思ったんですが、やっぱりグーグルは検索結果を何らかの意図を持っていじったりするんですね。報道機関の為のそういう操作なので文中で批判などはされてませんし、別に特に驚いたわけじゃないですが、やっぱりかとちょっと嫌な感じはしました。
グーグルはニュースを救えるか? (link)
減少する新聞の発行部数、消える個人広告収入、コンテンツの「アンバンドリング」−−ジャーナリズムを殺しつつあるもののリストは長い。しかしそのリストの上位にあると多くからみなされているのが、最大のアンバンドラーであるグーグルだ。しかし、ニュースビジネスの解体を促進したあと、この企業は助けを申し出ている−−市民として、そして企業利益のゆえに。もし報道組織が優れたジャーナリズムの成果を生むことを止めてしまったなら、サーチエンジンはリンクする対象としての興味深いコンテンツを失うのだ、とグーグルの重役の一人は述べる。そのため、この企業の最良の者たちがこの問題について考えをめぐらし、報道機関と共にジャーナリズムの将来がどのようなものになるのかを考察している。どんな未来と、あなたは考えるだろうか?明るい未来、だというのだ。
By ジェームズ・ファロウ
グーグルがニュースビジネスを殺しつつあることは誰もが知っている。だが、グーグルがその蘇生をどれほど真剣に実現しようとしているか、そしてなぜこの企業がジャーナリズムのサバイバルをその将来の見通しにとってとても重要だと考えているのかを知っている者はほとんどいない。
もちろん、これはグーグルの破壊と創造の力を大げさに述べている。グーグルのチーフ経済学者であるハル・ヴァリアンは、新聞業界の健全性の最も重要な指標である各家計における購読者数は、グーグルが設立された1990年代末以後ではなく、第二次世界大戦以後からずっと低下していることを好んで指摘する。1947年には、アメリカの100家計は平均して140紙ほどの日刊紙を購読していた。それがいまでは50紙未満である。そしてこの数字は止まることなく落ち続けているのだ。もしグーグルが生まれなかったとしても、通勤・通学パターンの変化、テレビの24時間ニュースの到来、新聞に記事が載る前にそれを古臭くしてしまうオンラインの情報サイト、この人生の忙しさ、そしてその他の多くの要因が、新聞にとっての大きな問題となっていただろう。さらに、「グーグル」とは実は、ニュースビジネスにたいするインターネット・ベースのプレッシャー、とくにクレイグズリスト(link)やイーベイといった個人広告の減少要因*1の総称の事なのだ。一方、ニュース業界を盛り立てようとするグーグルの努力もまた広範囲、かつ最近ではとても真剣なものとなっているのだが、しかしその成功は確実なものではない。
このキャンペーンが進行中であるという事それ自体が驚きではあるが、重要な戦略的行動としてグーグル内で強調されているという事もまた驚きだ。ほとんどのインターネットとテクノロジービジネスは、伝統的メディアの哀れな恐竜と彼らがみなすものの苦しみについて無関心であるか、あるいははっきりと見下している。(ニュースビジネスの維持のためのクレイグズリストのヴィジョンは?フェースブックやマイクロソフトのものは?)グーグルのプロジェクトは秘密でもなんでもない。そのほとんどは大手新聞、雑誌、そしてテレビのニュース組織との共同で行なわれているのだから。この4月、グーグルのCEO,エリック・シュミットは大手新聞の編集者達のコンベンションにおいてキーノートの講演をおこない、「我々もこのことに一緒に関わっているのだ」と、そして「ハイクオリティのジャーナリズムの存続は、現代の民主主義の機能にとって本質的なものだと確信している」と彼らに告げた。去年の12月、彼はウォールストリートジャーナルに論説(link)を書き、苦しんでいるニュース組織へもっとお金が直接流れるようなシステムを作り出すことにグーグルが取り組むことを知らせた−−ニュース産業の多くが考えているように、もっと彼ら自身へと流れるようにするのではなく。この告知をジャーナルで行なったことは、ちょっとばかり皮肉の味わいがある。この新聞のオーナーであるルパート・マードックは、ニュース産業へのグーグルの影響を頻繁に非難しているからだ。
しかし、ニュース企業のためのその戦略について語りえただろう事と比べると、グーグルはその努力について声高に叫んではいないし、なんらかの中心となるアイデアに基づいた全体的な計画を語ることもほとんどない。これは部分的にはグーグルにおけるたいていの革新的な取り組みが開発者たちの、週に1労働日は自分自身で選んだプロジェクトに専念することができるという「20パーセント・タイム」においてもっぱら行なわれるという、その高度に分権的な性質のせいであるし、また部分的にはプロジェクトが他の場所においてなら十分に熟成されているとみなされる段階を超えて長くたっても、まだ仮のもの、実験的なものとみなされるというグーグルの「永遠のベータバージョン」の文化のせいでもあるだろう。(グーグルの広く人気あるイーメールシステムであるGmailは、世界中での何千万人による5年間の利用の後、昨年の夏になってようやく公式にベータテストの状態を脱したのだ。)そして、グーグルによる示唆とそのサポートを受けて、実験的アプローチを試してみようとしているニュース産業自身も、口をつぐんでいることを選んでいるのだ。
しかし、グーグルのエンジニア達や戦略家達と去年一年、話をかわし、そしてニュース産業の担当者達を最近インタビューして、グーグルは報道についてのより大きなビジョンを持っていることを私は確信するようになった。これは批判者たちを買収するためのチャリティではないし、グーグルのトップの人たち、とりわけシュミットにより、おそらく世界でもっとも重要なメディア組織の文化の中に組み込まれるのに十分なほど真剣に推し進められてきたことなのだ。グーグルのイニシアティブは、真っ当なジャーナリズムの次の局面のための完全な計画ではないし、容易な計画でもないが、しかし、そこ以外においてこれまで私が見てきたどんなものよりも、とくに垂れ流される「報道の危機」スタイルの記事などよりも、はるかに望みを持てるものだ。グーグルの最終的な目標は、今日の記者、編集者、そして発行者が求めているものに沿うものである。そしてこれはほとんどの市民もまた支持するものでもあるだろう、と私は思う。
そのゴールは、プロフェッショナルなニュースの収集を維持しうる、再発明されたビジネスモデルだ。これは、たとえば昨年の夏のイランでの抗議行動の内部からのビデオのように、ニュース報道をすでに変えてしまっている「クラウドソーシング」(link)と市民ジャーナリズムが、世界の情報の唯一のソースにもしならないのならば、本質的に重要なことである。そういった報道はたしかに価値のあるものだが、政府機関の行動を確認し、危険な地域に入り込み、公的そして私的な権力乱用について調査・分析し、そしてたまたまの観察者ではなく、大体において組織だった行動をするためにお金を支払われている人たちからの報道によって(私が述べているのは、ジャーナリズムが実際に行っていることではなく、行うべきことについてである。)、それらが補強・支持されるなら、さらにより重要なものとなるだろう。
しかしながらこの目的にむけてグーグルがとるであろうルートは、現在のニュースビジネスがもし自ら選べるならおそらく選ぶだろうものとは、大きく、そして時に不愉快な方向で異なっている。そういった違いは当然だろう。大きく成功している、全体的にうぬぼれた感じのある、エンジニア主導の、そして国際的な人員構成の西海岸の技術系スタートアップと、東海岸中心で、人文系の比重が大きく、一般職員もトップも人員構成がずっと非国際的で(テクノロジー産業よりも、英国人とオーストラリア人がずっと多く、インド人、中国人、そしてロシア人はずっと少ない)、はるかな過去に設立された組織によって支配されており、そして現在時点で驚くほどに意気消沈あるいはパニックに陥っている全国規模の報道機関とではすべての点で異なっているのだ。
たとえば次のことはその違いを表す重要な例だろう。報道機関の中の人々は、いまだに、顧客がオンライン上のニュースについてお金を払おうとするかどうか、だから「ペイウォール」*2がいつの日か成功することができるかどうかについての深刻で原則的な(first-principles)議論を机上で闘わせている。しかしグーグルでは、その疑問に興味をもつような人はだれもいなかった。典型的な反応はこうだ。もちろん人々は最終的になんらかのかたちで払う事になる−−なんでわざわざそんな事について話したいんだ?重要な質問は、どのように、そしてどういったタイプのニュースに顧客がお金を払うのかの詳細だ。「特にこれといった特定のモデルを考えているというわけじゃないんですが」と、グーグルでジャーナリズムに関する活動に深く関わっている重役の一人であるクリシュナ・バーラット(Krishna Bharat)は、あるコメントのなかで私に述べた。彼のチームはすでに一部の新聞と共に、その新聞の記事をペイウォールのうしろに隠す計画を練っており、また他の新聞とは記事をタダのままにして有料の新聞のペイウォールにいらつかされている読者を取り込む計画を練り、そしてさらに他の新聞と様々な無料と有料の組み合わせを計画している。バーラットとかれの同僚達にとって、無料と有料の問題は理論的なものではなく、実証の問題なのだ。彼らは何が上手く行くかを見定めようとしている。
より大きな違いは、ニュースビジネスが再び読者を「取り込む」ために、つまり読者達が、その料金がどれほどになるかはともかくとしても、紙、オンライン、あるいは放送のニュースに時間を費やすようにするために、何をしなければならないかについてのグーグルの想定に関してだ。グーグルの匿名を希望したある社員は、ジャーナリズムの将来についてのとあるレポートにふれて、「ユーザーに焦点をおく(Focus on the User)」と題されたセクションを取り上げた。「これって、『ユーザーから金を取れ』ってことですよね」、と彼は述べた。「読者が読みたい、関わりたい、使いたいと思うような何かを作り出すことについては何も言ってません」。現代のユーザーを取り込むというトピックについて、現時点でグーグルは非常に自信をもっており、そしてニュースビジネスは非常に不安がっている。他のことはおいて置いても、この自信の違いだけでもグーグルをニュースの将来にとって重要なものとする。
なぜグーグルがこういった事を行う事にしたのか、そのエンジニア達は何をしようとしているのか、そしてこのすべては一体どこに辿り着こうとしているのかについて述べる前に、情報公開を一つ行なっておく。グーグルのエリック・シュミットはこのドラマにおいて重要な人物であるが、たまたま彼とその妻はアトランテック*3の読者であったので、シュミットが2001年にグーグルに参加してCEOとなるずっと前から、彼の家族は私の家族と友人関係となっていた。そしてこの関係はずっと続いている。だがこの記事に関しては、3月末に私がグーグル本社での調査を終えた後の、記録しながらのインタビュー以外では私は彼と話をしていない。
それではまずグーグルによる診断から始めよう。問題に陥ったニュースの生態系をグーグルの視点から眺めてみてるとして、解決すべき問題とはどのように定義されるだろうか?まず最初から、「歴史的な」、「新時代の」、「破壊的な」、「前例のない」、「抗いようのない」そしてその他の何かがニュースビジネスに起こりつつあるという事はだれもが認めることだろう。こういった言葉すべてを、新聞業界がそしてさらにはより広くジャーナリズムビジネスが直面している挑戦を例えるため使われるのを、私はインタビューの中で耳にした。
「たった一つの原因なんてものはありません」、と元ロイターのウェッブニュースマネージャーで今はグーグルの出版社や放送局との折衝を指揮するジョシュ・コーヘン(Josh Cohen)は、ニューヨークの彼のオフィスで私にそう述べた。「というか、どんな原因でも選んでみてください。どれでもこの問題を説明できるぐらいに大きなものばかりです。問題は、そういうものが一つだけではないってことです」。もっとも明白な原因は、これまで新聞の総収入の30から40パーセントを占めてきた個人広告が、オンラインサイトへと急速に逃げて行っていることだ。「そう遠くない将来に、新聞の収入における個人広告のシェアがゼロになるだろうと考えている人が、業界には大勢います」、とコーヘンは述べた。「それで十分ですね(Stop right there)。どんなビジネスでも、収入の三分の一を失えば、深刻な状態に陥ります」
しかしこれだけではない、とコーヘンは続けて、特に新聞に影響を与える、その他の関連したトレンドのリストを述べていった。それぞれが下降のトレンドを描き、そして他の要素の影響をさらに強めるものなのだ。最初に、販売部数の止めどない低下がある。彼の表現によると、「あなた方の商品を利用している人たちは少なくなっていっています」、となる。そしてその結果、個人広告だけでなく、もうけの大きい「ディスプレイ」カテゴリ−−車、銀行、エアラインなどの大きな広告−−の広告主が離れてきている。典型的な新聞の印刷と配達のコストは、購読者が支払う額よりもずっと大きい。新聞のビジネスとしての存在理由とは、広告を届ける入れ物としてであり、典型的な新聞の収入の80パーセントは広告からきている。これが消えてしまうのだ。この広告モデルをなんとか維持するという望みをかけて、新聞は印刷物においては有料で提供している記事を、オンラインでは無料で配って大衆の興味を惹き続けるという決断をしてきた。しかしこの決断は長期を考えたものであり、今現在は紙の上の記事を読む習慣を止めて、情報はタダであるべきだと考えるように習慣付けられつつある新しい「顧客」の世代を作り出してしまっている。
「三重苦だね」、とエリック・シュミットは私とのインタビューにおいて述べた。「個人広告の喪失、部数の低下、印刷でのディスプレイ広告の価格低下。オンライン広告は成長しているが、まだ追いついてはいない」
これまでのところは、すべて耳馴染みのあることばかりだろう。これからが、治療法の提案のために必要なグーグルの診断の私にとっての興味深い側面だ。
まず第一に、それは驚くほどに教訓的でもなければ*4、見下したものでもない。これは過去10年にわたる技術系のカンファレンスにおいて私が言われ慣れるようになってしまった事、たとえば「死んだ木エディション」といった言葉に表されたトーンとは違っているのみならず、衰退しつつある産業に対するアメリカ人の通常の考えとも違っている。「ビッグ・オート(Big Auto、自動車産業)」や「ラスト・ベルト(北西部の衰退したかつての工業地帯)」といった言葉が言外に暗示すること考えてみてほしい。グーグルの人々が個人的にはどう考えていようとも、彼らはニュースビジネスについてそんな風には語らない。彼らは、報道に起こっている事は、出版社や編集者、そしてオーナー達の短期的視野や後ろ向きの考え方のせいではなく、大規模かつ歴史的な技術要因によって引き起こされているのだと述べるのだ。「これはある産業における、根本的な混乱なんです」と、ニケシャ・アロラ(Nikesh Arora)は語った。彼はグーグルに6年前に加わり、今はそのグローバル・セールス活動のプレジデント*5を努めている。そして、現代のジャーナリズムビジネスモデルのすべての箇所へのあらゆるところからのプレッシャーについて列挙していった。
グーグルの診断の次の要素は、ジャーナリズムの克服できないビジネス上の問題としての「アンバンドリング」の強調だ。「バンドリング」とは、ニュース、スポーツ、マンガ、スーパーのクーポンといったすべての部分が文字通り、新聞として一つにまとまって届けられ、その一部分の為に新聞を買う人は暗黙裡に残りのすべてへの補助を行なっている、というアイデアのことだ。この事は重要なのだが、それはこれが全体的な収入を増やしたからではなく、州議会議事堂やメキシコシティからの記事の読者は、その記事のコストを補うに足るだけいたのかどうかを判断しなくてもよいようにしていたからだ。
「新聞はニュースによってお金を儲けたことはありませんでした」、とハル・ヴァリアンは述べた。「たとえばアフガニスタンからといった真面目な報道は、自前で稼いだ事は単になかったんです。新聞に利益をもたらしてきたのは、自動車セクション、不動産、家や庭関連、旅行、あるいは技術といった、広告主がその広告のターゲットを絞れた分野でした」。インターネットは、そういった相互補助を取り去ってしまう、巨大なシステムであったのだ。Zillow*6でより新しく検索可能な情報を入手可能なのに、なぜ新聞の不動産欄を見なければならないのか?あるいはOrbitz*7でより安い旅行が見つかるのに、それともYahooでもっとずっと多くの映画の上映情報がみつかるのに?グーグルはもっとも強力なアンバンドリングの使者であった。グーグルはユーザーが自分の探している記事だけを見つけ出せるようにした。記者の給料がでるように、新聞すべてを買うのではなく。グーグルは広告主が、その商品を探している個々の顧客に接触できるようにした。その顧客の属する階層全部への広告を打つのではなく。
次に、そしてこの企業の将来へのビジョンにとって非常に重要なことに、グーグルのほぼ誰もが新聞の印刷バージョンの見通しは暗いが、しかしニュース産業全体としては明るいものでありえると強調した。新聞社を含めてだ。これは人為的な区別に思われるかもしれない。しかし、ニュース組織が自身をいかに維持していくかについてのこの企業の見解とって、これは本質的なものなのだ。
「もし今、一から始めるなら、このビジネスモデルはとうてい正当化できないですよね」、とハル・ヴァリアンは述べた。ジャーナリズムの印刷媒体ビジネスに対するテックワールドのありがちな決まり文句の変異種だった。「木を育てて−−そして切り倒し、カナダから大きな紙のロールを運んでくる?そしてむちゃくちゃに高い機械に通して印刷し、何千もの家の玄関に夜中かかって人手をかけて運び、さらにニューズスタンドにも運び込むのに、売れ残りはすぐに古びてしまって、捨てるしかなくなる?そんなのがまともだなんて言う奴なんているの?」オールドテックのプロセスの無駄の多さは明らかだが、しかしヴァリアンはそれほどありがちでないポイントも指摘した。そういった「レガシー」印刷コストを背負った新聞は、典型的にその収入のおよそ15パーセントを、インターネットワールドが新聞の価値ある資産とみなすものに費やしている。つまり、記事を書き、分析し、ニュースを編集する人たちだ。ヴァリアンは産業アナリストのハロルド・ヴォーゲル(Harold Vogel)による、すべての管理とプロモーション関連、そしてその他の「ブランド」関連の支出を加えるとその数字は35パーセントになるという研究を引用した。つまり、典型的な新聞が支出する金の大半は、新聞をあちこちに運ぶというオールドテックの物理的な仕事に使われているのだ。新聞の用紙を買ってそれを使うことに、典型的な新聞は編集スタッフ全体以上の費用を費やしている。(このパターンは二つのエリート全国紙、ニューヨーク・タイムズとウォール・ストリート・ジャーナルには当てはまらない。この二紙は新聞紙よりも編集スタッフにより多くの金を費やしている。これは、彼らのブランドが現在の厳しい時代を生き抜く可能性がもっとも高いとみなされている理由の一部である。)
出版社は、新聞紙を買わずにすむなら大喜びするだろう。もしオンラインエディションで新聞が得ている新しい読者達が、広告主にとって、紙のエディションで彼らの失っている読者達と同じだけの価値があるならば、だが。そこで、グーグルの分析が重要になる。つまり、この読者達は間違いなくそうなる、という分析が。この見解においては、ニュースビジネスは苦しい変化の時をいま過している。酷い状態だが、しかし死につつあるのとは違う。この違いは、読者達がまもなく購読にまたお金を支払うようになり、そしてオンラインディスプレイは価値あるものになるだろうという想定に基づいている。
「私が見る限り、『新聞の死』を宣告しているようなものはないよ」、とエリック・シュミットは語った。問題は、新聞の紙のバージョンの高いコストと低下を続ける人気にあるのだ。「現在のところ、人々は紙の新聞に対して購読をするわけだが」、と彼は述べた、「将来のモデルでは、広告が組み込まれたインフォメーションのソースを購読するようになるだろう。新聞のようなね。単に、紙の部分がなくなるだけだよ。そうなるという事については確信がある」。その詳細についてもすぐに語るが、しかしこの確信の背後にある分析のポイントは強調に値するだろう。「紙の出版部数が低下しているが、オンラインの読者の成長はドラマッチクなものだ」、とシュミットは述べた。「新聞は需要の問題を抱えてはいない。彼らはビジネスモデルの問題を抱えているんだ」。彼の会社の努力の多くは、紙の発行部数が落ち込んでも新聞社が生き残れるようにするために、これを解決しようとする試みだ。
最後に、そして私にとってはもっとも驚くべきことに、ジャーナリズムについてのグーグルの分析は、内部の人間には見えない何かを明かしているのだ。これは、追い詰められたジャーナリズムのエスタブリッシュメントにはもうすでに許されなくなっている非効率性に関してだ。
マイナーな実際的なレベルにおいて、今日のニュース組織は一般的に不器用なものに思われる。少なくとも、インターネット上で新聞のブランドとビジネスを作り直そうとしているグーグルからみればそうだ。「紙の世界は、新聞や雑誌への広告掲載を熟知しています」、とオンライン・ディスプレイ広告を出版社と共に開発する任についているグーグルのニール・モーハン(Neal Mohan)は述べた。テレビやラジオの広告では、広告掲載の人件費と管理費用は広告の価値全体の2から3パーセントになるだろうと述べた。しかし彼が知るオンライン上のニュースサイトでは、修正可能な非効率性がそのコストを25から30パーセントは引き上げているというのだ。彼のチームは出版社とともに、こういった「パラサイトコスト」を減らそうとしている。
さらに重大な非効率性を見つけ出したのは、クリシュナ・バーラットだった。マドラスのインド工科大学(Indian Institute of Technology)の学生であった時、彼はコンピュータ科学の学位を取りつつ、学生新聞に記事を書いていた。「生まれ変わったら(In a second life)、私はジャーナリストになりたいですね」、と彼はかつてインドの新聞に語った。(もしインドの新聞が私に質問したら、生まれ変わったら成功しているグーグルの重役になると私は答えるだろうが。)彼はジョージア工科大学でPh.Dをとり、1999年にグーグルの初期の社員となった。二年後の9/11の攻撃の後、彼はアメリカのメディアから受け取るニュースの視野の狭さを心配するようになった。「世界のニュースに追いつかなければならないと思ったんです」、と彼は語った。「幅広く理解するためには、ヨーロッパやアジアや中東のサイトを訪れなければなりませんでした。世界のニュースの情報を入手可能にするためにグーグルが何か出来るんじゃないかと考えていたんです」
この最後の言葉のようなことを、この会社の多くの人々は非常な真剣さと共に述べる。バラットのケースでは、それは世界中からニュースフィードを集め、瞬時に自動的にそれらを対象とテーマごとにまとめ、世界の異なる場所でどれほど多くのソースが同じテーマについて考察しているかに基づいてその表示のポジション(prominence)を上げ下げするシステムを生み出すことを意味した。数週間後、その自動でニュースをモニターするサイトは立ち上がり、グーグルでの内部デモが行なわれた。2002年9月、それはグーグル・ニュースとして公開され、初期には一日に4000の英語のニュースソースをカバーしていた。いまでは25の言語の2万5000ほどのソースを、世界中で扱われるニュースの中から浮かび上がってくる主なトレンドを完全に自動で評価しつつカバーしている。バンガロールで、バーラットがグーグルのR&Dセンターを立ち上げ運営していた18ヶ月間を除くと、バーラットは以来ずっとグーグルニュースを指揮している。この役割により、彼は事実上、地球上のだれよりも多く日々のニュースを目にしている。私は彼がニュースビジネスについて何を学んだかを尋ねてみた。
彼は1分ほど口ごもった。まるで怒らせたりしないように慎重になっているかのようだった。そして、彼をもっとも驚かせたのは、ほとんどのニュースネタに対して世界のニュース組織の大半が予測可能な、右へならへ式の反応だったことだと彼は述べた。あるいは、よりポジティブに言うならば、異なるアプローチをあえてとろうとする者への可能性がどれほど大きいかを彼は見出したのだった。
グーグルニュースのフロントページは、世界中のメディアでの記事の動きに対する航空管制センターのようなものである。それもリアルタイムの。「大抵、同時に数千の新聞が実質的に同じアプローチを取るんだということがわかりますよ」、と彼は語った。「何かが見出されると、ほとんど全員がだいたい同じことを言うんです」。新聞が他の新聞にリンクをしているとか、共同で記事を報道しているとかいうことを彼は言っているのではない。そうではなく、新聞の慣習やその習性により、皆が同じことを強調するということだ。これは安心させてくれる事でもある。なにが「重要な」ニュースネタなのかについての何らかのコンセンサスがあるという事を示しているからだ。しかしバーラットは、これが報道における流行の存在−−マイケル・ジャクソンが死んだとき、他の事柄は重要ではなくなった−−と重複を示しているとも述べた。ジャーナリズムにはもはや持つ余裕のないたぐいの。「考えさせられませんか?もっとましなやり方はないのかって?」、と彼は尋ねた。「なんで何千人もの人が物事についての大体同じ記事をあげてきたりするんでしょう?なんで5つの異なる記事じゃなく?そしてそのエネルギーを何か他の、同様に重要なのに今のところ無視されてしまっている事件について費やしたりとか」。彼はこれは純粋に理論的なことではないと述べた。「私は、ニュース業界は非常に似た記事を生み出し続ける事はできなくなることを見出しつつあると考えています」
2002年のクリシュナ・バーラットのグーグルニュースのデビューにより、グーグルはニュース組織とのまともな接触を始めて持つようになった。2年後には、グーグルアラートを公開した。これは、休みなくリアルタイムで世界のニュースサイトをインデックスし続けて、グーグルがユーザーの指定したトピックにマッチするものを見つけたときに、そのユーザーにメールか携帯メールで知らせを送るというものだ。そのさらに2年後の2006年秋、多くの主要な出版物の紙面かマイクロフィルムのアーカイブをスキャンし始めた。デジタル時代以前の記事をインデックス化し、検索して読めることができるようにだ。
現代までのところ、この企業はニュースビジネスの為になることをしているのだという態度を取っている。出版社側がどう考えているのであれ。「見聞きするところでは、これら[様々なニュース関連の試み]はユーザーをより良い記事に導いているようです」、とエリック・シュミットは語った。「こういったツールにより、ユーザーがそのウェッブサイトをもっと訪れるようになることを認識している新聞社もあります」 もっと訪れるようになるなら、それにより新聞社のオンラインの読者が増え、オンラインの広告が売りやすくなるわけだ。「我々が彼らのコンテンツを盗んでいるんだと考えている新聞社もまたあります」
盗みだという批判に対するグーグルの反論は、グーグルニュースでは広告を載せていないこと、そして新聞のオリジナルのコンテンツをほとんど見せていないというものだ。実のところ、その行いは、ハフィントン・ポストのような「アグリゲーター」の真逆である。そういったものはしばしば、他者の記事のかなりの部分を「引用」するので、読者はそのソースをわざわざクリックしようとはしない。グーグルニュースはヘッドラインと、記事を最初に載せたニュース組織へとトラフィックを(そしてそれゆえに広告のポテンシャルを)届けるための2行のリンクだけを載せている。
このアプローチに関して、グーグルは興味深い方法で、新聞に対して自身が破壊に手を貸した「バンドル」アプローチを再創造しているのだ。グーグルの(膨大な)収入の実質的にすべてが、その活動のほんの一部からやってきている。そのほとんどは、人々がなにかを買う時におこなう検索からなのだ。そのお金が、この会社が提供しているその他のすべてのサービスを補助しているの。情報を「ググる」こと(購入のための検索ではなく)といった昔ながらのものから、グーグルアース、交通情報、Gmailやグーグルドキュメントの為のオンラインストレージ、いまだにお金を失っているYouTubeのビデオ・ホスティング・サービス。構造的にはこれは、広告が詰め込まれた個人広告欄、スーパーの週ごとの折り込み広告、そしてその他のコマーシャル関連が州議会についての報道や、カブールの記者の費用を賄っていたかつての新聞のやり方にとてもよく似ている。バンドリングにより新聞はうまくいっていた。新聞が人々に、他では得られないものを提供できている間は。バンドリングのグーグルバージョンは、検索やメールといった損失を生んでいるサービスに依存している。これらは現代のオンラインライフのまさに中心といったものなので、人々はより頻度は少ないが利益はずっと大きい商業検索を行なう時もグーグルの世界の中で行なうようになるのだ。そしてこれはまた検索するに足る情報の存在に依存しており、そこで我々は報道の危機的状況に戻ってくるわけだ。
「2年ほど前から、報道機関の衰退の話がどんどん耳に入ってくるようになり」、とシュミットは語った。「[グーグル内の]一部の人間が新聞を助けるために我々が何をできるかを調べ始めだしたんです」。
なぜこの企業がわざわざ気にかけるのだろうか?つい最近までなら、私はそれをPR目的とシュミットの個人的興味からだと考えたことだろう。PRに関して、ある新しい担当者は、2年前にシュミットが、グーグルがジャーナリズムビジネスの問題に責任があろうがなかろうが、「ニュース産業の死体をついばむハゲタカ」とみなされたくはないと述べたことを詳しく説明してくれた。グーグルの二人の設立者、ラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンとは異なり、シュミットはニュース・ビジネスと深いつながりがあり、メディアと気安く接することができた。彼の妻ウェンディはUCバークレーのジャーナリズム大学院からの学位を持っている。かつてのソ連における抑圧とのブリンの家族の経験が、今日の中国の抑圧に対するブリンの非妥協的な態度を生み出したのだと広くみなされている。彼の両親は彼が子供の時に、彼をモスクワからメリーランドへと連れて行ったのだ。だれもが、中国に対するグーグルの政策の最近の変化を推し進めたのはブリンだと語っている。同様に多くのものから、シュミットは報道へのグーグルの取り組みを推し進めているみなされている。だが重要な事は、彼はけっして一人ではないことだ。
今年に入るまで、私がグーグルの社員にニュースビジネスの健康状態について尋ねると、彼らの答えはしばしば公式声明を忠実に述べているだけのようであった。今年に入ってからのインタビューにおいては、人々は本気で答えているように思えるようになった。私が何度も聞いたロジックによると、グーグルに価値があるのは、グーグルによって人々が見つけ出す情報に価値があるからだ。もし情報がつまらなかったり、不正確だったり、それとも時期を逸したものであったりすれば、人々はそんなものを検索しようとはしなくなる。もし道順や道路の名前が間違っていたら、グーグルマップにどんな価値があるだろう?
私が話しをしたほとんど全員が、なんらかの表現でこの点を語った。ニケッシュ・アローラのバージョンは、グーグルは重要な報道機関と「深い共生関係」にあるのだというものだった。「我々は人々がコンテンツを見つける手助けをします」、と彼は語った。「われわれがコンテンツを我々自身で作り出すわけじゃないんです。素晴らしいコンテンツがある限り、人々はそれを見つけようとするでしょう。素晴らしいコンテンツがなくなってしまえば、コンテンツを探すことに人々が興味を持つことはほとんどなくなってしまいます。そして検索こそが我々の生活の糧なんですよ」。かつてのロサンゼルス・タイムズのテクノロジー記者で、昨年、ニュースチームのコミュニケーションマネージャーとしてグーグルに参加したクリス・ガイサー(Chris Gaither)は、こう例えた。「我々は情報を入手可能なものにすることを信念としています。ですがそもそも情報が作られないなら、確実にそれは入手不可能になってしまいます。だからこそ、この産業の問題に関わることが我々の利益に関わるのです」。(「世間は狭い」部門からの情報:ガイサーは1990年代半ばにインターンとしてアトランティック誌で働いており、9年前に私がバークレーのジャーナリズム学校で教えていたクラスの学生であった。)
「過去8年において、我々は主にアルゴリズムをより良くすることに専念してきました」と、グーグルニュースでの検索とランキングのための自動システムについて言及しつつ、クリシュナ・バーラットは述べた。「しかし最近では、私の時間の多くは商品」--ニュース--「が作られるその基礎について考えることに費やされています。我々は、ニュースを持続可能にすることに多くの精力をついやし、専念しているんです」
では、ニュースをどうすれば持続可能にできるのだろうか?グーグルのビジョンにおけるコンセプチュアルな飛躍は、単純に印刷物を無視してしまうことだ。この企業のだれもが「死んだ木」でできた新聞と雑誌が消え去ってしまうとみなしているわけではない。シュミットやその他の者達は、大きな紙面上で記事を、一目で見渡すことが、スクリーン上で全文を読むためにクリックしていくことよりも、どれほど簡単で効率的であるかについて語っている。マイクロソフトのCEOであるスティーブ・バルマーは、2年前にワシントンポストの編集者達に対して、2020年までには「紙のかたちで届けられる新聞や雑誌はなくなっているでしょう」と語った(link)。(バルマーは後に、小さな例外はあるかもしれないと付け加えている。)私がグーグルで話した人間で、そこまで言ったものはいなかった。しかし、ジャーナリズムのビジネスモデル再生のための彼らの計画のすべてが、現在コンピュータ上で利用可能なウェッブベースのニュースサイトと、今日のスマートフォン、iPodやiPad、ヌークやキンドル、そしてその他のモバイルデバイスから進化するなんらかのデバイスへのポータブル情報ストリームへと、お金を流すものとなっている。これはグーグルにとっては自然なアプローチだ。なんといってもこれは、Nexus One の携帯を除けば、厳密にオンラインの企業なのだから。
新しいオンラインビジネスモデルの三本柱であると彼らが異口同音に述べるのが、ディストリビューション、エンゲージメント、そしてマネタイゼーションである。つまり、ニュースをより多くの人々に届け、より多くの人々をニュース専門のサイトに導く。ニュースの表現(presentation)をより興味深く、多様で、そして惹きこませるものにする。そして、その大きな、そしてより強く熱中した読者を、購読料と広告により収入にかえる。都合の良いことに、その一つ一つがグーグルの専門に関わるものだ。「新聞社ほど新聞のビジネスについては知りませんから、その問題を我々が彼らよりもうまく解決できそうにはないですね」、とニケシュ・アロラは語った。しかし、新しいお金の稼ぎかたを見つけるための、「新聞社やジャーナリスト達によるより広範囲な、公式・非公式のどんな努力もサポートするつもりです」。
実際の行動においては、これはこれから私が説明するようないくつかのプロジェクトに関わるものとなる。そういったプロジェクトは、公式にその基礎となる「ディストリビューション、エンゲージメント、マネタイゼーション」以外に、二つの特徴を共有している。一つは、グーグルのコンセプトである、「永遠のベータ」と連続的な実験だ。これは、すべてを試して、何が上手く行くのを見つけていく、というものだ。「我々は、チームは素早く、そしてすぐに失敗できるものでなければならないと考えています」、とジョシュ・コーヘンは語った。(私としては、失敗はゆっくりともったいぶったものが求められるジャーナリズムの世界とのコントラストについてのジョークを飛ばしたいところだが、止めておく。)「どんな新聞もやることができる三つのもっとも重要なことは、実験、実験、そして実験です」、とハル・ヴァリアンは述べた。
実のところ、そういったアドバイスは今日のほとんどのジャーナリストの大半にとって、自然かつ想像もできないしろものである。自然というのは、どんな本も、どんな記事も、どんな調査プロジェクトも、どんな放送も、それ自体が純粋なスタートアップの事業であり、その終わりまで(終わるとして)何の結果も保障されていないからだ。想像もできないのは、そのニュースビジネス自体は、比較的静的なものであるからだ。「新聞ギルド」という名前そのものが、多くのジャーナリストがどれほど伝統に縛られているかと語っている。我々は、言葉の選択や、判断の基準、そして古臭く感じられたりもする公共奉仕の形態すらも守っていることで、自分達自身を誇っている。これがより良いジャーナリズムにつながるのかどうかはともかく、ラディカルな新しい実験の受容を難しくはしている。
暗黙裡にこれらを結び付けているもう一つのテーマは、小さなステップの集積が驚くほどに大きな違いを生み出す、というものだ。ニュース産業に押し寄せている力は巨大なものだ。対照的に、提案された解決策のいくつかは比べてどうにも小さく、しょぼいように思われるかもしれない。しかし、グーグルでは多くの人々がニューヨーク大学のクレイ・シャーキー(Clay Shirky)の、ニュースの将来についての昨年のエッセイからの金言を繰り返した。「どれも上手くいかないが、しかし全てならいくかも知れない」。
よって、グーグルのチームは、AP通信、公共放送サービス、そしてニューヨークタイムズから、各地のテレビ局や新聞までの何百ものニュース機関と共同と取り組んでいる。これから私が述べるもののうち、最後の二つの取り組みは他のものよりスケールとそのポテンシャルにおいて明らかに違っているが、しかしこういった例が「すべてを試す」の意味を明かすものである。
リビングストーリーズ(link). ニュース報道は大抵、逓増的なものだ。カブールで今日、何かが起これば、それは昨日、そこで起こった事に、さらに20年前起こったことに、そしてさらに昔に起こったことに関係している。そしてそれは、いまから一年後に起こることと関係をもつ。高級な報道機関は現実のこの連続性を、今日のニュースのバックグラウンドを(理想としては)知っている記者と編集者を雇うことと、その報道のあり方、大抵の場合はこれまでの知識にいくらか付け加えていくというやり方に反映させている。
議会での次の議決だとか、政治家の候補者達の間での次のディベートだとかの、それほどはやくはない日々のニュースのアップデートは、新聞やテレビのサイクルにとてもよくマッチしている。しかしインターネットには、スピードとその人気のランキングの双方の点でまったくマッチしていない。ファイナンシャルタイムズはおそらく、ヨーロッパの経済問題についてほかのどんな新聞よりも優れた持続的な報道を読者に提供してきただろう。しかしまさにこの新聞の追加的な記事があまりに多いがゆえに、どこかよそでたまに書かれる解説記事を押しのけて、それらの記事のどれかがグーグルのウェッブ・サーチのトップには来るということはない。今現在のオンライン上での収入を生み出す基準においては、より良いジャーナリズムはより悪い結果を生んでしまうのだ。
今年の冬、グーグルニュースチームはニューヨークタイムズとワシントンポストと共同で、リビングニュースの実験を行なった。これは本質的に、グーグルの検索結果が、真面目で継続的な報道を優遇するように細工しようというものだ。アフガンの戦争や医療保険改革といった大きな話題についての全ての記事は、新聞社の報道の全ての側面(歴史や、ビデオ、読者のコメント、関連記事)へのリンクを含んだ一つのページにグループ化された。「情報のレポジトリー、貯蔵庫なんですよ。移ろい消えていく情報ではなく」、とクリシュナ・バーラットは述べて、それは「今日のリンクエコノミー」と彼が呼ぶものの中で繁栄するようにデザインされたレポジトリーなんだと説明した。2月に、グーグルはこのタイムズ−ポストの実験を中止すると、リビングストーリーを自社のサイトに組み込みたい全ての組織が使えるようにそのソースコードをオンライン上で自由に使えるように公開して、この実験が成功だったと宣言した。
「『これが経済面で我々の役に立ったか』*8と訊かれたら、答えはノーです」、とワシントンポストカンパニーのチーフデジタルオフィサーであるディジャイ・ラヴィンドラン(Vijay Ravindran)は、私のその実験についての質問に答えた。「しかし、それは我々のテクノロジーを変更し、ユーザーインターフェースを変更するための多くの様々なアイデアを明らかにしてくれました。[グーグル]が我々と共に一つの製品に取り組み、フィードバックを受け付けるのだというアイデアは非常にポジティブなものでしたね。他ではほとんどないような事なんですよ。『コンテンツクリエーター』を原材料のサプライヤー以外の何者でもないとみなすテクノロジスト達との仕事と比べるとね」。グーグルのエンジニア達と直接働くことが出来るだけでも、彼らがどのようにその製品をつくりだし、そしてユーザーの行動について何を知っているかについての暗黙のレッスンとしてプラスだったと彼は述べた。
調査報道プロジェクトを行なう新しいノンプロフィットのニュース組織であるProPublica(link))のゼネラル・マネージャーであるリチャード・トフェル(Richard Tofel)も、同様の共同作業について語った。ProPublicaのスタッフによる記事が出来上がると、それはProPublicaのサイトだけでなく既存のニュース組織にも掲載される。トフェルは、ニュース企業と働くグーグルの別のマネージャーであるドン・ローブ(Don Loeb)と、昨年のバークレイでのジャーナリズム・カンファレンスにて会い、グーグルニュースとグーグルのウェッブ検索がしばしば、同じ記事を掲載する新聞は取り上げるのにProPublicaは取り上げないことに触れた。「彼はその文句に耳を傾けれくれて、もし検索のアルゴリズムがクリエーターを報わないものであるなら、それは欠陥があるとみなすべきだと言いました」、とトフェルは私に述べた。ローブと彼のグーグルの同僚達は、後にProPublicaの役割を軽視している検索の実例を求めてきた。それ以来、なんらかの調整が行なわれたのかどうかはともかく(グーグルはこういった事柄について一切、公開しない)、ProPublicaは今では検索で上位にくるようになった。
ファストフリップ(Fast Flip)(link) インターネットはニュースを見つける素晴らしい手段だが、それを読むのにはお粗末なものであったりもする。通常、その記事が長ければ長いほど、読む経験は酷くなる。画面一杯程度ならいいが、何千語もクリックして読んでいくのは試練となる。さらに、印刷とオンラインでの読書経験のギャップは、文字以外の要素に多大な知恵と費用を費やすハイエンドの出版物において最大となる。ファッション雑誌の光沢ある写真や、この雑誌のような文字中心の雑誌での情報についてのグラフやプル引用*9といったものについてだ。
昨年の夏にはじまり、いまでは「オフィシャル」のステータスにまでなったこのファストフリップ・プロジェクトは、雑誌をぱらぱらとめくって得られる魅惑的な側面をまねようとする試みだ。それは雑誌を、文章の集積としてではなく、その全体がページの高密度の写真として読み込んで働くものだ。グーグルのシステムにキャッシュされるので、(人間の)読者がページをめくるのとほとんど同じくらい素早く読み込むことができる。「それは、タイトルへのリンク以上のものを記事のプレビューとして提供しようという実験でした」、とクリシュナ・バーラットは述べた。「グラフィックや、強調されていること、クオリティや、どんな感じか、ということが分かります。時間を費やしてもいいと思うようになるかどうかです」。紙であれオンラインであれ、記事に時間を費やすことは、当然ながら「エンゲージメント」の定義であり、そして広告主が捜し求める行動だ。よく知られた消費者雑誌のオンラインマネージャーは、「グーグルは我々の存在にとってあまりに重要だから」と匿名を頼んだ上で、毎日、ファストフリップは彼の雑誌に数万のクリックをもたらしており、それによって彼のサイトの広告収入は増加したと述べた。「我々が知らないのは、一体どれだけ多くの人がグーグルのサイトに留まっているのか、そしてお金はどのように分配されているのか、です。だからその価値*10についてはすこし気になります」
「完全に正しいモデルを作り出したと言っているわけじゃありません」、とクリシュナ・バーラットは私のファストフリップの詳細についての質問に対して述べた。「我々はただ、ニュースがインターネットのあらゆるところで素早く入手できるようにしたいだけなんです」
ユーチューブダイレクト(link) リビングストーリーやファストフリップといったプロジェクトは、そのポテンシャルにおいて戦術的なものである。グーグルの望むのは、ユーチューブのビデオのより広範な利用がニュース組織の顧客を捕らえる長期的な能力を大幅に向上させることだ。ほとんどどんな場所におけるドラマ、悲劇、何かの成果であれ、世界の目撃するところとしてしまうアマチュア撮影のビデオはおそらくジャーナリズムにおけるインターネット時代のもっとも強力なツールである。様々なユーチューブプロジェクトの後ろにあるアイデアは、かつて地元のニュース、スポーツ、犯罪、そして天気についての活字の報道を司っていたその同じ新聞が、ビデオ報道の情報センターとなることで彼らの中心的役割を再び生み出せるのはないか、というものだ。
かつてのABC放送のニューススタッフである(そしてまた、アトランティック誌で一時期インターンをしていた)スティーブ・グローブ(Steve Grove)は、グーグルがユーチューブを買収した3年前以降、グーグルで働いている。彼のチームはユーチューブが独自のニュース報道組織となれるように取り組んでいる。たとえば、1月の地震の後の、ハイチからの映像などのセンターとしてだ。しかし、グローブはまた、新聞やテレビのニュース局と共同で取り組んで、、彼らがそのコミュニティでの役割を再確立できるようにユーチューブのクリップを(グーグルが保存とアップロードのコストを負いつつ)使う事を促進しようとしている。たとえば、グーグルは無料でユーチューブダイレクトのソースコードを提供している。どんな出版社もそのウェッブサイトにそれを載せることができる。読者は彼らのビデオクリップを簡単に送ることができ、出版社はそれを自社のサイトに載せる前に、リビュー、検閲、統合、部分削除を行なうことができる。ブリザードの後には、人々は自分達が見た外の光景を送ることができる。地元のフットボールのゲームもそうだし、あるいは列車事故、それとも市議会でも、とにかくなんであれ誰かが見たもので多くの人が興味をもつものならどんなイベントでもだ。ユーチューブにも地元の新聞にとっても、広告へのポテンシャルは小さいものだろう。だが重要な点は、エンゲージメントである。アル・ジャジーラ*11はこの春のイラクでの選挙の間、イラク中からの映像を見せるのにユーチューブダイレクトを利用した。
もし私が中国に住んでいた時にユーチューブダイレクトがあったなら*12、価値ある何かを目撃した人たちからのビデオを受け取るためにそれを利用していただろう。四川大地震といった大事件の後で、公害の地元への影響について、新しいビルディングが建設され古いものが取り壊された時に、そして現代中国の日々のドラマのなかで。もちろん、一部のサイトはすでにビデオを掲載している。そしてまたもちろん、ユーチューブはしばしば、中国の検閲によりブロックされるので、中国内部の人々がその同国人が挙げたビデオを観ることができなかったりするだろう。そういった要因はともかくとして、それを使って人々が簡単に情報を共有できる新しい方法を実現するツールのポテンシャルは簡単に見分けられる。そういったサイトを立ち上げるのが、私のこれからやる事の予定の次の項目である。
別のツールは、2008年大統領選挙期間中のユーチューブディベートのレッスンを拡張するものだ。その時、グローブは全国のユーチューブユーザーに候補者への簡単な質問のクリップを送ってくれよう頼んだ。CNNのアンダーソン・クーパー(Anderson Cooper)がCNNの選んだ質問のユーチューブクリップを紹介した。真面目なものから馬鹿げたものまで含まれており、バラク・オバマに彼は「十分に黒人」かどうかを尋ねるものもあった*13。ユーチューブはユーザーに訊ねてほしかった質問について投票する機能を追加し、これをその後何度も有効利用した。それには、今年はじめのグローブによるオバマとのインタビューも含まれる。「これは新聞とその顧客とを結びつける潜在的にとても大きなポテンシャルをもったツールだと感じています」、とグローブは語った。「こういったタイプの報道にとっては、巨大な効果があるでしょう」
これらの実験から何が生み出されようと、ほかの二つの広範囲におよぶ取り組みは、疑いようもなく重要である。それらが今日のニュース企業が直面する二つの最大のビジネス上の危機に対応するものだからだ。その二つとは、ディスプレイ広告ではもう十分な利益を得ることができない事、そして読者に金を支払わせることがもうできない事、だ。グーグルの見解によると、これらは深刻な状況ではあるが、しかし一時的なものだ。
ディスプレイ広告 ディスプレイ広告の見通し改善の為のアイデアは、大きな潜在的利益を持つ、些細なことのように思われる調整から始まる。たとえば、グーグルのニール・モーハンは、現在、典型的なニュース組織はそのオンライン広告スペースを、二つの非常に異なった方法で売っていると指摘した。ホームページ上、なんらかの記事や著者に並んでいるプレミアムスペースは、「直接販売」により扱われている。出版社自身の営業スタッフによってだ。それ以外すべての「レムナント(残余)」スペースは、だいたいにおいて、全国規模の営業ネットワークあるいは「交換」システムにフランチャイズとして出されて、とにかくなんであれ見つかった広告主に売られる。出版社はあらかじめスペースの分割を決めておき、そしてその予想が現実と、まあなんとか上手く合ってくれることを願うのだ。
グーグルの新システムの一つは、オンラインの広告スペースについて、航空会社のおぞましき「イールドマネジメント」システムが飛行機の座席について行なっている事を行なう。航空会社は常に各ルートの料金とそれを飛ぶ飛行機のサイズを調整している。飛び立つ前に各飛行機を出来る限り満席にするというゴールを目指してだ。このグーグルのシステムは同じ事を行なうもので、出版社に各秒ごとの高額・低額スペースの分配の調整を行なわせてくれる。「あなたのところのトップセールスマンが最大のクライアントとディナーを共にしたところかもしれません。で、そのクライアントは大きなキャンペーンを行なう事を決めたところなんです」、とモーハンは語った。動的分配システムは出版社が、避けることのできる供給/需要の調整ミスのために潜在的な広告収入を1セントでも失ったりしないようにするものだ。もし広告主が「プレミアム」広告にもっとお金を使いたければ、そのために必要な広告スペースが低価値のセクションから自動的に移される。「出版社はいつでも最大価値を求めてマネタイズするべきだと思います」、モーハンは述べた。私の反応が「え〜!(Duh!)」となることが彼には予測できたので、彼はさらに続けて、「毎日毎日の何十億もの広告を通じて、これはとてつもなく大きな違いを生み出します」。イールドマネジメントは航空会社が生き残れるようにしてきた。モーハンによると、グーグルの新システムによる広告に関してのそれは、「広告スペースを出版社が自分で分割していた時と比べて、出版社に130%の向上をもたらしている」という。
モーハンはその他多くの、小さいがしかし重要な経営上の改善を述べた。それらは合わせると、出版の経済的将来についての悲観的な予測全てに対する挑戦となるほどに非常に革命的な提案となるほどのものだった。彼の述べるところによると、新聞と雑誌の出版社が印刷の死に囚われてしまったように感じているのは、印刷物におけるディスプレイ広告が死活的に重要な収入源であったからだ。オンラインのディスプレイ広告への移行は、印刷物での損失を補えるほどのものとはなっていない。オンライン広告からの「視線一回分」の収入は非常に小さいためだ。(「これはあまりに魅力がないから、なんでしょうか?」私は話しを中断させて尋ねた。そして続けて、「印刷された良い広告は、その隣の記事よりもずっと魅力的に見えますが、オンラインのディスプレイ広告は邪魔なだけです」。「大丈夫です、言われた事で怒ったりしませんよ*14と彼は皮肉っぽく述べた。彼の生涯の仕事は、こういった広告なのだ。)オンラインのディスプレイ広告は今のところそれほど価値のあるものではないだろうが、と彼は述べた。しかしそれは長く続く「移行」期のなかにまだいるからだ、と。遅かれ早かれ、もしかすると2年、そして10年のうちには確実に、ディスプレイ広告は視線一回当たりで、印刷物でそうだった以上の価値をオンラインで持つようになるだろう、と。
どうやってそんなことが起こるのだろうか?部分的には、と彼は述べた。現在の悲しくなる広告の現状は、時間的なラグを単に反映したものだ、と。顧客は印刷物からオンラインへとドラマチックにシフトした。そして、人々が毎日のなかでニュースを読むのに費やす時間の総計もまた。人々がその時間をどこに費やすのであれ、とモーハンは述べた、それは最終的には「マネタイズ」可能だ、と。そしてそれにより、すべての新聞と雑誌(そしてテレビのネットワークが)今日まで存続してきたのだ。「これ[オンラインのディスプレイ広告]の市場はずっと大きくなる可能性を持っています」、と彼は述べた。昨年のアメリカでは、それは80億ドルだった。「オンラインにやってきている顧客や、かれらが費やす時間などを計算をしてみてれば、桁が違ってきますよ」。彼が言っているのは、10倍以上の成長ということだ。
一番のマネタイジングのスキームは勿論、人々に好まれることだ。見て楽しい広告や、人がお金を払いたいと思う製品。オンラインのディスプレイ広告はこの点でも優れたものとならなければならない、とモーハンは述べた。「紙では出来なくとも、オンラインならできるという事があるんですよ」、と彼は述べた。大体において広告は、その時に我々が求めているものについてでなければ「うっとうしい」ものとなる。(私は自分が興味をもつ趣味の分野での出版物の飾りのない小さな印刷広告は穴の開くほど眺めたりするが、女性のファッションといった自分の興味のないものについては、綺麗な写真を見もしない。)「オンラインワールドは、あなたがどんな人で、何に興味があるかにもっと合わせたものになりますよ。そして、これまでは全くなかった感じで、インタラクティブなものになります」。広告は永遠にあり続けるだろう、とモーハンは述べた。「でも、これまでそれは一方的に喋っているだけのものでした。今は、あなたのお客はあなたに返事をすることができるんですよ」。彼の議論の全体は複雑なものだ。しかしその結論はこうだ。いつの日か、報道機関はなぜ印刷物のディスプレイ広告についてあんなにも心配していたのだろう、と考えることになるだろう、それくらいオンラインディスプレイ広告が魅力的なものになるのだ、と。
ハル・ヴァリアンは印刷された新聞を読む人たちは平均して一日に30分ほどを新聞に費やしているが、オンラインユーザーはニュースサイトに出たり入ったりしながら平均70秒ほどを使うだけだと指摘した。いつの日にか、新聞と同じほどにはならなくとも、人々はもっと多くの時間を費やすようになるだろう。その時点では、と彼は述べた。「人々は広告主にとって以前と同じくらい価値あるようになりますよ。いや、それ以上に。広告主はより狙いを絞った広告が出来るでしょうからね」。つまり彼らは、子供達は大学に行っている私にベビーカーやら幼児用の服やらを売り込んできたり、小さな子供がいる家族にレジャークルーズを売り込んできたりはしなくなるということだ。
「私は、パイは大きくなっている派なんですよ」、ニュースサイトに流れている広告の支出の総額に触れながら、モーハンは述べた。(肉体的な見本としては、彼はほどよくこざっぱりしている。)「顧客はそこにいるし、ドルは流れ込んできますよ。出版社は最終的にはデジタルワールドでうまくやっていくと言いたいですね。いまの転換さえ乗り越えられたところは皆、将来は明るいですよ。」
あとで私がエリック・シュミットと話した時に、このパイは大きくなっている論は広く共有された見解なのか尋ねてみた。「私の見解もそれだよ」、と彼は述べた。こんな命題は不正確かもしれないが、しかしソースを考えてみれば、単純すぎるとして却下する事はできない。
ペイウォールをデザインする グーグルが探ってみているもので、また別の大きな結果をもたらすかもしれないのが、「購読契約」、つまり顧客にその受け取る記事に対してお金を払ってもらうという奇妙で古臭いアイデアを復活させようというものだ。私が話したグーグルの人々の大半は、抽象的なものとしてのペイウォールには何の興味も持っていない。顧客がどのように支払うべきかについて、異なる状況下で異なるビジネスモデルをもつ異なる出版社が異なる決断を行なうのはあまりにも自明のことだからのようだ。
「歴史をさかのぼってみれば、コンテンツはいつでも広い範囲でマネタイズされていたんですよ」、とニケシュ・アローラは述べた。購読料$1000で顧客1000人の学術雑誌を買うこともできました。あるいは、地下鉄でただで配られる新聞を手に入れる事もできました。それぞれのマネタイゼーションのかたちにあわせて、コストもまた調整されてきました。ハーヴァードビジネスレビューは広告の損失について心配したりしていません[その収入の大半は購読者から来ているのだ]。ただの地下鉄の新聞は購読料からの収入が低いからと心配したりしていません。それぞれ、違ったビジネスモデルを持っているんです。そして同じ原則がインターネットにも適用されます」。かつては、「印刷」とは情報を紙の束に印字することを意味した。いつの日か、それはウェッブサイト上かモバイルデバイスで情報を伝達することを意味するのだろう。アローラやその他によると、このシフトはニュース企業にビジネス上の狭い選択を強いたりはしないという。どんなものになるのであれ、それはさらに多様な選択を可能にするというのだ。
「コンテンツに課金したり、あるいはしなかったりする事を誰についても促すつもりはありません」、とクリス・ガイサーは述べた。「それは完全に、各自が決めることですから」。しかしマウンテンビューとニューヨークのグーグルチームは、どんなタイプの支払いシステムでも上手く機能させられるように、驚くほど複雑な事柄を色々な新聞や雑誌と共に取り組んでいる。ペイウォールもまた、非常に多様なものが考えられている:購読者ではない者への絶対のバリアー、毎日あるいは毎月当たりで非購読者でもある程度までただの購読を許す計測こみのアプローチ、記事の最初の部分は見れるが全文は購読者にだけとって置かれる「ファースト・クリック・]フリー」スキーム、そしてその他の多くだ。それぞれは、その出版社がグーグル検索とグーグルニュースにどのように現われてくるかについての仕掛けを含んでいる。たとえば、もしあなたがファイナンシャルタイムズの有料購読者なら、あなたの行なうどんなウェッブ検索もファイナンシャルタイムズを含むようになる。そして、購読者というあなたの状態は、あなたがこの新聞の報道に高い価値を置いていることを意味するとして、それらのランクは高いものとされる。もしあなたが購読していないなら、これらファイナンシャルタイムズのリンクは検索結果で下位にくる。そもそもあなたには読めないものだからだ。しかし、それでもそれらも検索結果には現れる。購読しようと思うくらいにあなたはそれを読みたがるかもしれないからだ。しかし、あなたが検索を行なう時に、どうやってグーグルはあなたが購読しているかどうかを知るのだろうか?またグーグルは、あなたがあなたのコンピュータを、それとも友達のものを、あるいはネットカフェのコンピュータを、それともiPhoneを使っていようが、それがあなただという事をどうやって知るのだろうか?そしてそのウェッブクローラーはまずそもそも、ファイナンシャルタイムズの記事をどうやってインデックスするのだろう、それはペイウォールの後ろにあるのに?これらすべての疑問には答えがあるが、それらは必ずしも自明なものではない。
「出版社からは、『このアプローチを考えていて、それについて完全に理解したいんだけど』とよく言われます」、とジョシュ・コーヘンは語った。「『これが思ったとおりに上手くいってくれるのを確実にしたんだけど、ちょっと見てくれる?』と。そして我々は、彼らのアイデアが我々のシステムとどう働くかを伝えるわけです」。そして、新聞の名前やその特定の計画の内実については明かさないまま、グーグルチームは見出したこととアドバイスをそのウェッブサイトで公開するのだ。そして、ユーザーに時間をかけさせたり、また厄介なフォームへの記入などなしに各記事ごとの料金を自動的に請求するという「E−ZPass」アプローチを考えている出版社については、もう一つのグーグルチームがその実用化に取り組んでいる。
有料の購読者というアイデアそのものについてはどうなのだろうか?グーグル主導の細分化された情報の世界のなかで、それには未来ががあるのだろうか?「アンバンドリングにも限界がある、というのはありうる事です」、とエリック・シュミットは述べた。人間の基本的な性分というものは、驚きと、何かの興奮の新しい源泉を求めるものだ。彼が言うところの「あまりにも偏執狂」的で、予め厳密に定められた対象のリストだけに興味を持つような人はほとんどいない。よって、人々はまだまだ情報とエンターテインメントの源泉、つまり「バンドル」と世界でもっとも強力なアンバンドラーのヘッドが述べたものと購読契約を結ぼうとするだろうし、広告主はまだそれらと取引をしたいと思うだろう。次はこれについての彼の例だ。
「5年から10年のうちに、ほとんどのニュースは何らかの電子機器上で消費されるようになることは明白です。モバイルでパーソナルなもの、綺麗なカラーのスクリーンのものにね。iPodかキンドルの賢いバージョンで、昨日あなたが見たニュースを繰り返すのではなく、その続報を見せてくれるようなものを考えてみてほしい。そして、それはあなたの友達が誰かという事も、彼らが読んでいることや、ホットだと思っていることも知っている。そしてそれは綺麗なカラーの、薄気味悪くならない範囲でとてもパーソナルでターゲットを絞った広告をみせるわけです。そして、それはGPSと無線のネットワークを備えていて、あなたの周りで何が起こっているのかを知っている。これについて考えてみれば、購読契約や広告の両方も含めた、面白い答えにすぐにたどり着きますよ」
シュミットがユートピア的なものだとしたこのビジョンは、グーグルが見つけ出せると考えている解決、解決できないと考えている問題、そしてその野望すら越えている別の問題を説明するのに役に立つ。
解決とは単に、解決がありうるというアイデアのことだ。オンライン広告の世界を支配している組織は、さらに多くのオンライン広告のお金がニュース組織に流れこむことは可能だと述べている。消費者への価格の基準がゼロというこの会社は、購読者がニュースにお金を払うことは可能だし、またそうなると述べる。既存のメディアの崩壊のシンボルとなっている名前が、苦しんでいるジャーナリズムビジネスを助ける事に直接的な自己利益をみていると述べるのだ。今日の、打撃をうけたニュースビジネスにおいて、これらは大きくそして勇気づけられる展開であるし、ほかのテクノロジー企業がしようとしていることと比べればさらにそうだ。
グーグルが存在を認識している問題とは、まだまだこれからおこる混乱についてだ。今から10年後には、より頑強で資金的にもより恵まれたニュースビジネスが繁栄していることだろう。だが来年起こることについては、予測がずっと難しい。インタビューしたすべての人に、今から十年後にニュースを提供しているのはどこになるか予測してくれるよう頼んだ。ほとんどは、明日の重要なニュースブランドは今日のものと同じだろうと返答した:ニューヨークタイムズ、ウォールストリートジャーナル、公共と私企業のテレビとラジオネットワーク、AP。それら以外の名は、我々がいまだ知らないものになるだろう。しかしこれは、危機的な変化ではない。ニュースはこれまでもずっとそうだったのだ。15年前には、フォックスニュースは存在していなかった。10年前には、ジョン・スチュアートは政治的な言論に関して認識されてはいなかった。ニュースビジネスは20代や30代初めの人々により、いつでも再発明されてきた。ヘンリー・ルース(Henry Luce)は大学を出た後すぐに、ブリトン・ハッデン(Briton Hadden)とタイム誌を創刊し、ジョン・ハーシー(John Hersey)はヒロシマ(link)を32歳で書いた。ブロガーとビデオグラファーは彼らの現代版だといえる。もし見通しがニュース組織の大量絶滅ではなく継続的な変遷なのなら、これは多くが予想していることよりもずっとましだ。それは、グーグルが説く常時の実験へオープンになることを要求するが、それはジャーナリズムの真の伝統とするものだ。
グーグルが完全には対応できていないと考える挑戦は多くある。これには、広義の意味でのニュースの公的役割が含まれる。この会社は「プレミアムコンテンツ」の存続を自社の利益にとって重要であるとみなしている。しかしシュミットと彼の仲間達は、バクダッドの、さらには州議会での記者にすら給料をどうやって払うかを誰も完全には見つけ出してはいなくとも、現代化されたニュースビジネスは、グーグルの目的にとっては「十分」よいコンテンツをおそらくは生み出すことだろうと理解している。これは次の、そしてとても重要な挑戦だ。再発明されたジャーナリズムの文化の為の。ニュースビジネスの流動的な歴史は、グーグルスタイルの連続的実験という今日の技術的パターンとともに、唯一の大きな解決策はないが、多くの部分的対策はあることを示唆している。グーグルの取り組みは怯えた転換期のニュースビジネスに時間を買ってくれるものになるのかもしれない。ニュースがその未来を見出し、新しい対策と役割を見出し始めるまでの。
*1:アメリカの新聞では、売ります・買いますといった個人の広告が大きな収入となっていた。
*2:日本経済新聞もやっているような、有料の顧客だけが記事を読む事ができるという規制。
*3:この記事が掲載された雑誌。
*4:ひどい目にあったのは悪い事をしていたからだ、という事ではないということ。
*5:役職の日本語訳は良く分かりませんので、カタカナで。
*6:不動産関係サイト。
*7:旅行関係サイト。
*8:原文 "Has this moved the needle for use yet in a financial way?"知らない表現だが、多分こういう意味なんじゃないかと...
*9:本文から飛び出した、本文記事のからの引用 ([http://en.wikipedia.org/wiki/File:Pull-Quote.PNG:title=link])。
*10:原文"the proportional value"
*11:アラブ系の独立ニュース機関。ブッシュ政権が反米と批判していた。
*12:ジェームズ・ファローズは2006年から2009年までの2年半、中国に住んでいた。
*13:バラク・オバマは父親がアフリカからの留学生、母親が白人のシンガーで、アメリカの一般的な黒人のように、(曽)祖父母は奴隷だったというわけではないので、バラク・オバマは黒人ではない、という批判があった。
*14:原文は"No offense taken!"だけ。これを言ったのはモーハンで、オンライン広告で食べているグーグルのモーハンが著者からのオンライン広告への批判に対して、感情的になったりしませんよ、と著者を安心させる為にいっているのだろうと判断しました。