Bambu Lab A1 Miniで製作可能なエンクロージャー付き小型CoreXY 3Dプリンターの紹介

TL;DR

ここしばらくの間、小型3Dプリンターの製作を進めていました。現在、製作している「Fraxinus 00cw」は次のような3Dプリンターです。

  • USB-C PD 65W給電で動作する、小型CoreXY 3Dプリンターです。
  • 本体サイズはエンクロージャー込みで186(W)x160(D)x184(H)mm、造型可能サイズは95(X)x69(Y)x69(Z)mmです。
  • 動作の様子はこちらのような感じで、ある程度の高速印刷も可能です 1

造型可能サイズが小さく一見おもちゃのようにも見えますが、私がこれまで印刷してきた造形物の6-7割ぐらいはこのサイズにおさまっており私の用途では案外実用的なサイズ感です。本体が小さいおかげで製作も簡単で、ボディフレームはBambu Lab A1 Miniで印刷しました。ヒートベッドも小さいのでUSB-C PD 65W程度の給電で、A1 Miniが対応していないABSの印刷が可能になります。まだまだ改善を予定していますが、完成を待っていると終わらない気がするので一度記事にまとめることにしました。

製作背景

2024年4月ごろのセールでBambu Lab A1 Miniを購入しました。造形品質が高く、動作音も比較的静か、現在は3万円を切る価格で購入できるなど、総じて2024年現在で最も優れたエントリーモデル 3Dプリンターの1つだと思います。一方で購入前からわかっていたことではありますが、東京都心の賃貸物件に家族と小型犬と暮らしている私は現在も置き場所に苦労しています2

3Dプリンターは一般家庭にも置けるマシンとしてはかなり手軽な部類ですが、それでも結構場所は取りますし、匂いはするし、動作音も気になりますし、健康被害の懸念もあるなど、私だけならともかく同居している家族や小型犬からみると困りものです。購入当初は室外に排気ができるシステムを製作しようとしていましたが、窓際の目立つところにエンクロージャーや換気ダクトを常設するとなるとインテリアの邪魔になってしまい家族からの理解を得るのが難しく断念しました3。そこで、これからも長く自宅で使っていける理想の小型3Dプリンターを求めて製作を開始しました。

Fraxinus 00w2の製作

私が製作している3Dプリンターの紹介に入る前に、「Fraxinus 00w2」という小型3Dプリンターを紹介します。 8月末に https://fraxinus.jp/ という3Dプリンターを製作しているDiscordコミュニティを見つけて参加し、いろいろと教えていただきながら1ヶ月ほどかけて @fukumay1 さんが設計されたFraxinus 00w2という小型3Dプリンターを製作しました。

見ての通り非常にコンパクトで造型可能サイズは約66x70x66mm程度、ヒートベッドもありませんが、USB-C PD給電で動作可能なのでベランダや窓際、換気扇の下に持っていって動かすことも可能など理想の小型3Dプリンターにとても近いものでした。小型3Dプリンターとしては他にもPositron_LTflatpackのような折りたたみ可能な3Dプリンターもありますが、外へ持ち歩くことよりもエンクロージャーをつけて自宅に常設しやすいことが重要だったので折りたたみではなく単に小型化に特化したこちらのプリンターを選びました。

Fraxinus 00w2の設計は非常に面白く、CoreXY構造やワイヤー駆動による小型化、エクストルーダーを本体側に取り付けることでプリントヘッドを軽量化しNEMA 11という小型ステッピングモーターを使用するなど、非常に多くの学びがありました4。一度00w2を製作し理解が深まったこともあり、より理想に近い3Dプリンターの製作を開始しました。

Fraxinus 00w3の紹介 Fraxinus 00w2の設計者である @fukumay1 さんにより00w3という後継モデルが設計されました。さらに小型化された素晴らしいモデルでとてもおすすめです。

Fraxinus 00cw rev1: 横長デザインの採用とヒートベッドの製作

Fraxinus 00cw rev1は最初に設計した3Dプリンターです 5。といっても名前の通り一から設計したわけではなく、00w2をベースにしつつより自分好みのプリンターに変えていくための様々な修正をいれています。基本方針としてはFraxinus 00w2のX方向 (横幅) を広げることで印刷可能サイズを広げつつ、制御ボード類をすべて背面に収めることで本体の高さを抑えました。Fraxinus 00w2とサイズ感を比べると下記のような感じで横幅が+33mm(造形可能サイズ+29mm)、高さが-12mmとなっています。

  • 本体フレームサイズ: 147(W)x152(D)x162(H)mm → 180(W)x152(D)x150(H)mm
  • 造形可能サイズ: 66(X)x70(Y)x66(Z)mm → 95(X)x70(Y)x68(Z)mm

また00w2では造形物をマスキングテープ+スティックのりでベッドに固定します。実用を目指すとマスキングテープの貼り直しがやはり不便に感じてしまいヒートベッドを取り付けることにしました。制御ボードがプリントベッド下部から背面に移動したことはヒートベッド取付時の熱対策の観点でも大きな利点となっています。周りでヒートベッド付き小型3Dプリンターを製作している方と比べるとベッドサイズが結構大型化しているためABSが印刷可能なところまで昇温できるかやや心配でしたが、Discordやオフラインイベントで様々な方にアドバイスをいただきながら試行錯誤を繰り返し65W USB-C PDでも100度まで昇温が可能なことを確認できました。100W USB-C PDを使えば電力には余裕があるのでもう少し大型のベッドでも十分に対応できそうです。

Fraxinus 00cw rev1は最初に設計した3Dプリンターということもあり組み立てると様々な問題に気が付きました。ホーミングなど最低限の動作確認で設計上の問題がないかを洗い出し、一度も印刷をすることなくすぐに次の3Dプリンターの製作に移行しています。小型プリンターはフレームの製作費用が安く、早めに見切りをつけて次の製作を開始できるのも良い点でした。

Fraxinus 00cw rev2: リードスクリューへの変更とエンクロージャーの製作

Fraxinus 00cw rev2は私が現在製作中のモデルです。 積層型の3DプリンターはZ軸方向の精度が重要なことがわかり@Eitokuさんが製作されたElk Micro を参考にZ軸をワイヤーからリードスクリューに変更しました。またエンクロージャーを設計したことでABSの印刷も可能になっています (まだ印刷は試せていませんが...)。エンクロージャー付きで高さ20cmを切る積層式の3Dプリンターは自分が知る限りは他にはなく、Fraxinus 00cwの特徴的な点の1つです。

00cw rev2はまだまだ調整もできておらず印刷品質はそこまで高くありません。最終的にはA1 Miniよりも高い頻度で日常使いできる3Dプリンターを目指しているので、印刷品質の向上、ディスプレイや物理ボタンの取り付け、USB-C差込口の対応、本体のさらなる小型化など改善を続けてみます。Fraxinus 00cw rev2のCADデータはDiscordコミュニティ内で今週あたりに共有できるように準備する予定なので製作にご興味ある方はぜひご参加ください。

おわりに

A1 Miniの置き場所に困り製作を始めたつもりが、どんどん物が増えめちゃくちゃ困りました。以前はインテリアが好きでミニマルに暮らしていたのですが、現在は机の上を散らかして3Dプリンターオタクの部屋になってしまっており見る影もありません。ここまで製作に熱中するのは久しぶりでとても楽しい時間が過ごせています。

当初から半年から1年ぐらいで満足の行く3Dプリンターを設計・製作し、A1 Miniを手放すつもりでした。一方で他の方が製作している小型3Dプリンター (記事内でも紹介させていただいた@EitokuさんのElk MicroやおよさんのPoYon!等)があまりにも素晴らしく、たくさん刺激を受けておりまだまだやりたいことが膨らんでいます。半年では満足できるところまで全然いけそうにありませんが、開始から1年が経過する来年の8月末までまだ時間はあるので今のペースを維持して理想の3Dプリンターの追求を続けようと思います。


  1. 3D Benchyの印刷時間は約30分でしたが、積層ピッチなどの規約があることをそもそも知らず普通にスライスして印刷していました。fukumayさんによるとこの速度なら20分を切れる速度が出ているのではないかとのことです。こちらの記事 によると通常は1時間半から2時間程度で印刷するとのことなのでNEMA 11のトルクの小さいモーターの割にはかなり健闘している結果に思えます。
  2. A1 Miniは名前の通り軽量かつ本体サイズも小さめの機種ではあるのですが、ベッドスリンガー方式 (ヒートベッドが前後する) であることから設置場所にはそれなりの奥行きが必要です。例えば上位モデルでエンクロージャー付きのP1Sはヒートベッドではなくプリントヘッドが前後に移動するため、設置場所に必要な奥行きなどの点ではA1 Miniとそこまで大きくは変わりません。
  3. A1 Miniは公式FAQにて冷却機構が十分でないことからエンクロージャーの取り付けが非推奨とされています。熱対策には気をつけつつ自己責任で製作しようと考えましたがベッドスリンガー方式 (ヒートベッドが前後に動く)であることからエンクロージャーが大型になり、熱対策のため排気を外に出すのであれば窓際に大きめのスペースが必要です。東京都内の賃貸物件に住んでいる身としては結局置き場所に困りそうです。
  4. Fraxinus 00シリーズは、もともとは@Eitokuさんが製作されたElk Micro からインスパイアされているようです。ヒートベッドを使わずUSB-PDで動かす方針や、プリントヘッドの軽量化等のもともとのアイディアはこちらからきていると思います。
  5. 多くの点でFraxinus 00w2の設計をそのまま引き継いでいることもありFraxinusの名前をお借りして00cwと呼んでいます。Fraxinus設計者の @fukumay さんがc-bataの”c”をとって名付けてくださいました。