三井不動産グループの中核として、住宅を主軸とした木造建築を手掛けている三井ホーム。同社はデジタルによって顧客接点を変えていくなど、データを活用してビジネスモデルの変革と成果の最大化に取り組んでいる。あわせて、AIの活用も進めている。

こうした取り組みを中心に進めているのがDX推進部だ。同部はグループ全体のシステム戦略や開発計画の考案・構築・管理を担っている。今回、 経営企画本部 DX推進部 部長 田中健一氏に同社が進めているデータ活用、AI活用、DX(デジタルトランスフォーメーション)ビジネス人材育成について聞いた。

  • 三井ホーム 経営企画本部 DX推進部 部長 田中健一氏

    三井ホーム 経営企画本部 DX推進部 部長 田中健一氏

攻めのDX:デジタルで顧客接点を変革

DX推進部は、“攻めのDX”を担うDX推進グループと“守りのDX”を担うシステム運用グループから構成されている。一般的に、ITを扱う部門は最初からITの素養がある人が配属されるが、同社のDX推進部は異なる。

田中氏も営業を振り出しに、経営企画、人事を担当し、現職に至っている。つまり、同社の業務を理解している人がDXに取り組んでいる。「事業部門と連携したシステム構築を重視しているので、事業のスタートが速いです」と田中氏は語る。

攻めのDXの施策の一つが、データを活用した顧客接点の変革だ。2023年、三井ホーム向けに建設資材の国内外からの調達、製造・加工、施工業務などを請け負っていた三井ホームコンポーネントと経営統合を行った。

デジタルによって経営統合の効果を最大化するため、「設計生産DX」プロジェクトが始まった。同プロジェクトでは、設計生産系業務の生産性を向上することで、コストダウンと事業工期の短縮を実現する。

また、セレクト住宅事業の拡大も図っている。昨年、顧客がPCやスマートフォンでプラン、外観、インテリア、設備、仕様を選択することで建物の金額をシミュレーションできるサービス「Mitsuihome Select セルフスタイリング」を開始した。

これまで注文住宅を建てようとしたら、住宅展示場に行く人も多かっただろう。しかし、同サービスを利用したセレクト住宅であれば、住宅展示場に足を運ばなくても住宅のイメージや料金を把握することが可能だ。「デジタルで顧客をいかに発掘できるか。これが課題です。データを使っていかにお客様にメリットをもたらすか。データを使って、改善、チャレンジ、先回りに取り組みたいです」と田中氏は話す。

攻めのDX:7事業のデータ統合で生涯にわたる顧客の住まいのパートナーとなる

三井ホームは、注文・規格(セレクト)住宅、宅地・分譲住宅、賃貸住宅建築、医院建築、施設建築、木材・建材、リフォームと7つの事業を展開しているが、顧客データは各事業で管理していた。

しかし、同社で住宅を購入した顧客がローンを借りたり、リフォームをしたり、賃貸住宅を建築したりする場合、単一のデータで管理すれば、顧客に効果的にアプローチすることが可能になる。

そこで、同社はリフォーム、ローン、メンテナンスの顧客データを統合しており、今年度で完了する予定だ。「顧客のデータを事業横断で活用することで、お客様の住まいのパートナーとして、生涯にわたってお役に立てるように、データ活用に取り組んでいきたい」(田中氏)

データ統合において苦労した点を聞いたところ、「1人のお客様がたくさんの接点を持っているため、正しいデータが何か、データの定義付けが難しいです」という答えが返ってきた。

攻めのDX:AI活用で生産性向上

他社と同様、三井ホームでもAIの活用を進めている。田中氏は、「生成AIはできることが増えています。生産性を向上するために、どうすれば社員が使えるようになるか、ユースケースに落とし込めるかを考えています」と語る。

AIの活用に向けては、データ活用の教育と啓蒙・育成をセットにして取り組んでいるそうだ。例えば、AIを活用するためのナレッジサイトにおいて、ガイドライン、ユースケース、効果的に利用している人などを公開しているほか、プロンプトコンテストを実施している。

田中氏は「AIは業務にいかに組み込むかがカギです。とことん使い倒してもらいたいと考えています」と話す。

田中氏は注目しているツールとして、GoogleのAI搭載のノート支援ツール「NotebookLM」を挙げた。NotebookLMでは、Googleドライブのデータを活用して、LLMによる分析が可能であり、RAGとして使えるという。Salesforceと連携してデータ分析基盤として利用することを考えているとのことだ。

攻めのDX:全社DXに向けてDXビジネス人材を育成

三井ホームでは、一人でも多くの社員が、DXビジネス人材として活躍できるように、育成にも取り組んでいる。現在、デジタルツールの導入は進んでいるが、ITリテラシーの格差があり、十分活用されていないという課題がある。また、勘・経験によるマネジメントから脱却し、正しくデータを蓄積する習慣を根付かせたいという。

データ活用と全社的なDXを進めるため、「デジタル活用人材」「DX企画人材」「草の根人材」をDXビジネス人材として定めている。

デジタル活用人材は全社員が対象で、デジタル活用スキルの底上げで生産性向上を狙う。DX企画人材は部門長・事業推進室・本社グループ長100名前後が対象で、業績向上に向けて、データ活用やデジタル技術活用を企画できるような人材を指す。草の根人材は社内業務を理解していて、業務変革ツールを作成できるような人材を指す。

外部ベンダー依存から脱却するため、IT人材の内製化を目指すという。その一環として、昨年度から、ITパスポート、DS検定、G検定に取り組んでいるそうだ。

最後に、田中氏に今後の展望についてうかがったところ、以下のような答えが返ってきた。

「DX推進部が強くなるのではなく、社員一人一人の力を底上げして会社としての力を上げて事業成長につなげることを後押ししたいと考えています。そのために、データ活用基盤を整え、サービスを使い倒して成果を上げていきます」