マネックスG社長CEO・清明祐子が探る〝独自戦略〟 金融・証券再編の中で

ドコモユーザーに 投資体験を提供する存在に

「この2年、改革すべきものは改革し、成長に向けて投資すべきものには投資をしてきた」と話すのはマネックスグループ社長CEO(最高経営責任者)の清明祐子氏。

 この数年、マネックスグループはポートフォリオ改革を進めてきた。そして2025年4月から「証券事業」、「クリプトアセット事業」、「アセットマネジメント・ウェルスマネジメント事業」、「投資事業」の4つの事業セグメントで構成している。

 24年からの「新NISA」スタート以降、「貯蓄から投資へ」への関心が高まり、投資に触れてこなかった層も資産運用を始めている。その中で、マネックスGの「アセットマネジメント・ウェルスマネジメント事業」も運用資産残高(AUM)、利益ともに伸長している。

 そして、祖業のマネックス証券は2024年1月にNTTドコモが子会社化、マネックスGにとっては持分法適用会社となり、営業収益(売上高に相当)には含まれなくなった。現在のマネックスGの証券セグメントは米ネット証券会社・トレードステーションを指し、同社が営業収益のうち67%を占める。

「私どもの事業体は大きくグローバルになっている」(清明氏)

 さらなる特徴は「暗号資産」(仮想通貨)交換業を手掛けるコインチェックを18年に子会社化していること。AIやブロックチェーン技術が世の中を変えていく可能性を見据えた買収だった。24年12月には中間持ち株会社のコインチェックグループが、分散型金融の暗号資産交換業として日本で初めて、米ナスダックに上場。

 今後は事業、会社間のシナジーをさらに発揮するための「横連携」に力を入れていく考え。

 そして、「日本発の企業で、トラディショナルな金融を持ちながら、DeFiと言われる次の、分散型金融も手掛けられる会社は非常にレアではないかと思っている」(清明氏)として、次のビジョンのキーワードとして「Beyond」を掲げる。

 伝統的金融(TradFi)と、次世代の分散型金融(Defi)を掛け合わせ、人々の生活をよくするような商品、サービスを生み出すことを目指す。

 前述の通り、マネックス証券はマネックスGの持分法適用会社で、利益の取り込みという意味でも引き続き重要な存在。

 マネックス証券は今、ドコモとの連携で、ドコモの決済アプリ「d払い」を利用する約6500万のユーザーの投資促進を図っている。

 主にドコモユーザーなどが持つ「dカード」で投資信託の積立ができる「dカード積立」の他、25年7月からスマートフォンアプリ「d払い」上で、口座開設から投信積立までを可能にするミニアプリ「かんたん資産運用」の提供を開始。「かんたん資産運用」はドコモとマネックス証券が共同開発したもの。

 ドコモとの連携について清明氏は「当初、両社でやろうと決めたことは、ほぼ予定通りできている」と手応えを語る。

 課題はドコモのブランドの一体感。ドコモと提携以前のマネックス証券は、元々投資に興味がある、玄人好みのするネット証券会社というイメージ。今は、新NISAなどもあり、初めて投資をする人の入口にもなっている。それもあり「お客様から見た時のブランド体験が、少し異なっている」(清明氏)

 そこで今、世の中から見たマネックス証券、ドコモやドコモの顧客から見たマネックス証券が一致しているのかを確認し、「必要に応じて進化、アップデートさせていく」としており、新たなブランド戦略を検討中のようだ。

 もう1つの課題は、ドコモが買収した住信SBIネット銀行との関係。この買収にあたり、ドコモの親会社であるNTTがSBIホールディングスに1000億円を出資している。そして、SBIは住信SBIネット銀行の買収を承認する際の条件として、SBI証券とマネックス証券を「公平かつ公正に扱い、利便性を損なわないこと」を示し、合意した経緯がある。

 SBIとしても、ネット銀の株を売却したとはいえ、みすみすマネックス証券に顧客を奪われるわけにもいかない。

 また、住信SBIネット銀は、口座内の預金の一部を自動的にSBI証券の口座に反映できる「SBIハイブリッド預金」など、ネット銀ユーザーの証券投資をサポートする仕組みで好評を得てきた。住信SBIネット銀としてもSBI証券との関係性を維持したいところ。

 そのためドコモ、住信SBIネット銀行とSBI証券とは引き続き重要な関係先として存在し続けるとも見られるが、この見方に対し清明氏は「若干の誤解がある」とした上で「証券ビジネスにおいて、SBI証券さんがドコモさんと何かをされることは認識していない」と強調。

 NTT、ドコモが描く金融像の中に、SBI証券は資本として入っていないこと、前述の「かんたん資産運用」のようにマネックスが共同開発したサービスはドコモのサービスの中に組み入れられていることを挙げ、「そこにSBI証券さんがコミングル(混ざり合う)する形になると、お客様から見て、よくわからなくなる」と語る。

 あくまでも住信SBIネット銀のパートナー企業の1社としてSBI証券があるとの認識で、今後、ドコモとの間でマネックス証券が「銀・証連携サービスを提供できていくのではないか」と期待を語る。

 今後、ブランドも含め、ドコモとの間でいかなる銀・証を含めた連携策を打ち出すことができるかも、清明氏にとって大きな課題と言える。