
新政権との間合い、 米景気の先行きに不透明感
日銀総裁の植田和男氏が5年間の任期の折り返し点を迎えた。9月には異次元緩和で大量に買い入れた上場投資信託(ETF)・不動産投資信託(REIT)の売却方針を決定。マイナス金利解除や国債保有の圧縮に続き、金融政策の正常化に向けた足場を整えた。今後は年内にも追加利上げを行い、「金利のある世界」への移行をさらに進める構え。
トランプ関税を巡る交渉が決着し、日本企業の業績への深刻な打撃が回避される見通しとなり、市場は年内の追加利上げを織り込む。一部では「次回10月29、30日の会合での利上げ決定もあり得る」との声も出ている。
ただ、追加利上げにはハードルも残る。一つは国内政局の行方だ。10月4日には自民党新総裁が決まっているが、国会で首相に選出され、安定政権を発足させるためには、日本維新の会や国民民主党などいずれかの野党を取り込んで連立を組み換える必要がある。新首相や新たな連立政権のパートナーとの間合いを詰めた上でなければ、ハレーションが起こり、市場の不安を招くことになりかねない。
懸念されるのは、トランプ政権の高関税政策の影響など、米経済の先行きが読み切れないこと。FRBは9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で政策金利を0.25%引き下げた。だが、パウエル議長はなおインフレ再燃を警戒。万が一、米国でインフレと景気悪化が同時進行するスタグフレーションリスクが高まれば、日本経済にも悪影響が及ぶのは必至。日銀も追加利上げどころではなくなる。
FRBが利下げ路線を進める場合も、日銀は利上げに当たって為替動向を注視しなければならない。FRBを後追いした過去の利上げ局面と異なり、今回は日米の金融政策の方向性が真逆。FRBの大幅な利下げや連続利下げと日銀の追加利上げが重なれば、為替相場が急激に円高方向に振れる恐れがある。
足元1ドル=150円近くで推移する円安は輸入物価を押し上げ庶民の生活を圧迫する半面、日本の輸出企業にとってトランプ関税のコストを一定程度吸収する業績下支え要因ともなっているだけに状況は複雑。金融政策運営の難易度はますます高まっている。