
「トランプ関税は追い風になる」─。こう力を込めるのは、工場の生産ライン構築・変更、人手不足を解消すべく、これからの協働ロボット及びFA(ファクトリーオートメーション)自動化に柔軟に対応できるアルミ構造材を提供するエヌアイシ・オートテック会長兼社長CEOの西川浩司氏。自動車をはじめ、電子部品や家電、製薬や食品など幅広い産業を陰で支える富山を拠点とするものづくりメーカーの同社は「半導体が今後の成長分野」と見る。加えて、中小企業への出資などを視野に入れた協力体制の構築も進める。2027年には創業100年を迎える同社の今後の戦略とは?
トランプ関税は追い風
─ 米トランプ政権の関税や為替変動などで製造業に影響が出始めています。産業用アルミ構造材の影響はありますか。
西川 ほとんどありません。むしろ追い風です。というのも、今回のトランプ関税で日本のものづくりの企業の米国進出はさらに増えるでしょう。
それに伴って米国に設備投資をし、生産拠点を移管することになります。その際、いかに投資負担を軽くしていくかという経営課題に直面します。そのときに当社への注目が集まってくるのです。
その背景にはアルミニウムという素材の特長とその有用性があります。アルミは鉄のように溶接や塗装の必要がなく、重さが鉄より軽いため、輸送コストが少なく済みます。
また、当社の主力製品である「アルファフレーム(商標登録製品名)」は機械要素部品で、あらゆる構造体の製作をボルト結合のみで可能にします。
─ アルミならではの特長があるということですね。
西川 はい。アルファフレームは製造ラインが頻繁に変更される工場などでは短期間での組み立てや解体が可能で、ボルトとナットだけでフレキシブル(柔軟)にラインの変更ができます。
当社のアルミの発注時に世界初の当社独自開発であるマーキンググシステム(アルミに組立情報を直接精密印字するシステム)、更に世界初の当社独自開発である自動設計システム(お客様は設計することなく詳細及び組立図まで自動設計するシステム)を同時活用することにより、設計及び組み立てにかかわる煩雑な手配及び時間が、鉄で組み立てる場合の半分以上の時間に短縮できるばかりでなく、発注、設計及び組み立てミスもなくすことができます。
しかも、トランプ関税は日本から輸出して米国で販売するアルミが対象で、米国内に設備投資し、米国内で製品を製造する企業は対象になりません。
したがって、当社のアルミも対象外になります。ですから、当社にとっては今が大きなチャンスになるというわけです。実際に注文もたくさん来ています。
─ 具体的に、どのような分野で使われているのですか。
西川 自動車分野をはじめ、半導体、電子部品や家電メーカー、製薬や食品など多種多様な業種に納めています。さらに当社はアルミを使った部品の洗浄や検査装置、クリーンルーム(空気洗浄度が確保された部屋)などの事業も手掛けています。
─ 今後、需要は増えていくと見込まれる分野とは。
西川 半導体です。AI(人工知能)時代と言われ、あらゆる産業にAIが活用される時代になりつつあります。それだけ半導体の需要も急増していくわけですが、その半導体を製造する工場がどんどん設備投資をしていくようになります。
そのときに当社が扱うアルミが求められてきます。なぜなら、半導体の製造にはクリーンルームが必要で、空気中の微細な塵や埃をいかに出さないようにするかがポイントになってくるからです。その点、アルミは簡単に組み立てることができますし、溶接も不要です。
しかも、溶接すると、その分、重たくなってしまい、輸送費などもかさんでしまう。つまり、アルミを使えば塵や埃も発生せず、いくらでも自由に生産ラインを増設したり、変更したりすることができる上に輸送費も抑えることができるのです。
半導体製造の現場を支える
─ そもそもアルミに目を付けた経緯を聞かせてください。
西川 当社は私の祖父が1927年に北陸・富山の地でヤスリの製造と加工を事業目的として設立された「西川鑢製作所」が前身ですが、3代目社長の私の父である先代が68年にアルミへとシフトさせました。つまり、55年余にわたってアルミ加工の技術を蓄積させてきたのです。
しかも、アルミ加工の中でもアルファフレームに代表されるような「産業用精密高剛性アルミフレーム」に経営資源を振り向けてきました。この技術が花開いたのがソニーグループのゲーム機「プレイステーション2」でした。
このゲーム機の世界的なヒットを受けて、その製造工程で当社のアルミによって、当時の世界初クリーン度クラス0・1を達成すべく、多くの「局所クリーンルーム」ができ、クリーンルーム仕様である軽量高剛性精密アルミフレームが多く使われて、当社の成長につながっていったのです。
─ そのアルミの次なる成長分野が半導体だと。
西川 ええ。当社はBtoB企業です。しかもお客様の大半は製造業。その中で半導体は将来有望な市場です。
というのも、自動車向けの半導体や電化製品向けのデータ処理やメモリーなどの機器を制御する一般的な半導体等は、コロナ禍では一時的に半導体の不足感がありましたが、コロナ明け以降は不足感もなくなって価格も下落状況にあります。
一方で、これらの領域と異なる半導体があります。それが「チャットGPT」などのAIやデータセンターに不可欠な高度な演算能力が高くて速い「GPU」といった最先端領域で使われている半導体です。
この領域が我々の取り組んでいる領域で、ニーズも年々、幅広く加速度的に増加しています。このGPU開発設計分野においての世界最大企業が、今や時価総額世界一の米エヌビディアです。
─ エヌビディアといえば、ソフンバンクグループが出資して話題になりましたね。
西川 そうですね。CPUは米インテルが手掛け、パソコンやスマートフォンなどに当たり前に搭載されるようになりました。一方でAIなどに使われるのがGPUで、それを開発しているのがエヌビディアです。
半導体のサプライチェーンは何層にも積み重なっており、そのエヌビディアが開発したGPUをファウンドリー(実際に半導体デバイスを生産する工場)である台湾のTSMC(台湾積体電路製造)が生産しています。そしてTSMCが東京エレクトロンなどの大手半導体装置メーカーから装置を仕入れています。
大手半導体装置メーカーは国内に主要企業が10社ほどあります。しかも大半がグローバル企業になります。そして当社はこの半導体装置メーカーにアルミを納める形になります。
世界の時価総額のランキングを見ても、エヌビディアやGPUを使う米マイクロソフトやアップルといったGAFAMが名を連ねているわけです。
自動化に柔軟に対応できるアルミ 協働ロボットとFA
構造材
─ 産業界における主役が半導体になっているわけですね。
西川 はい。ただ、日本の製造業において、これまでは最終製品の競争力を高めるために、サプライチェーンに連なる部品会社のコストをいかに下げるかに主眼が置かれていました。
例えば、鉄を使って自動車を作るような工程では、まさに乾いた雑巾を絞るような努力と取り組みを積み重ねていたわけです。しかし、半導体は違います。サプライチェーンに連なる部品会社の1つでも欠けてしまえば、直ちに半導体はつくれなくなります。
しかも、最先端半導体は付加価値が高いので、乾いた雑巾を絞るような取り組みをすれば、即座に成り立たなくなる。それだけ高度かつ繊細な技術が活用されているわけです。
中小企業を支える協力体制
─ そうすると、サプライチェーンに連なる企業との連携が求められるようになりますね。
西川 その通りです。そこで当社は取引先との協力体制の構築に動いています。当社が中心となって、当社の主幹事である大和証券さんと監査法人の銀河さん、そして証券代行のアイ・アールジャパンさん、親子代々に渡り、お世話になっている銀行さんとワンチームで支援することができる体制をつくる予定です。
─ 協力・支援としては、どのようなことをするのですか。
西川 先ほども申し上げたように、当社は様々な製造業の領域に携わっている中で、半導体にはこれからさらに深く関係していきます。
その半導体の分野でも他業界と同じように、例えば年商3~5億円といった規模の小さい半導体関連企業がたくさんあるのです。しかし、そういった企業は上場もしていませんので、なかなかサプライチェーンの連環の中に入っていけないのです。
これはもったいないと。素晴らしい技術を持っている会社でありながら、信用がないがためにサプライチェーンに入っていけない。しかし、そういった会社が潰れてしまえば、先ほど申し上げたように半導体をつくることができなくなってしまう。そこを上場企業である当社が中心となって支援していくと。
─ すると、エヌアイシ・オートテックがインテグレーターを務めるということですか。
西川 はい。当社は上場しているわけですから、当社が出資したり、経営参画することによって、その会社には技術に集中していただけるようにするということです。
当社が経営をしっかりやりますし、資金面での支援もやりますということです。そういった当社が中心となる協力体制に参加していただくということになります。既に様々な前向きな話も出てきています。
─ 資金調達の機能も持っているということですか?
西川 そうです。当社がそういった企業の代わりに行います。それは当社が上場しているからできるわけです。したがって、同じように資金調達ができるベンチャーキャピタルなどがありますが、彼らとの大きな違いは当社が事業会社であるという点です。
しかも、製造業ですから一緒に事業をつくるというスタンスを貫くことができます。
経営規模が小さくても、せっかく世界に通用するような素晴らしい技術を持っている会社であれば、是非とも頑張って欲しいですよね。そういった企業を当社が中心となってサポートしていくというのが趣旨です。決して投資だけで終わらせないという点に大きな違いがあります。
─ 対象となる企業数は、どのくらいになりそうですか。
西川 正直言って分かりません。海外を含めれば相当な数になるかもしれません。
東京への本社移転も検討
─ それだけ可能性があるわけですね。今後のアルミの展望を聞かせてください。
西川 いかにアルミでシェアを高めていけるかどうかが重要です。実際、直近の10年間でも着実にシェアを高めてきました。そのためには自分たちの技術力を安売りすることなく、スピード感を持って、しっかり高め続けなければなりません。
技術力を高めれば、お客様にとっては使いやすいものになります。その結果、高くても買ってくれます。
実際、足元では半導体関連の受注がたくさんあります。2025年3月期の売上高は約66億円ですが、当社が創業100周年を迎える2027年には100億円を突破したいと思っています。経営統合だけではなく、M&Aで当社のグループに入っていただくということもあり得ると思います。
─ 攻めのときだと。
西川 そうですね。ですから採用にも非常に力を入れていますし、上場時の原点回帰に戻り、今期中に今の有明東京本社に全面的に本社移転を進めています。当社の登記上本社は富山市ですが、やはり優秀な人材は東京に集まって来ているからです。
一方で、ものづくりの頭脳は富山に置き続けます。富山の人材はものづくりに長けているからです。
グローバル市場ではトランプ関税など保護主義的な要素が強まっていますが、日本は虎視眈々と自分たちのできることをしっかり磨き続けていくことが大切です。米国の下請けのように見えても、半導体を支えている企業の8割近くは日本の企業です。
ですから、日本のものづくり企業は慌てず、黙々と自分たちのできることをやっていくことが必要なのです。